ハイスミスの「キャロル」のことは、映画化のニュースを聞くまで知らず、初めて読んだら、素晴らしい小説で、映画を見たら、根っこに同じものが流れていても、描写の仕方が色々違っており、そのことに気を取られて、話に入り込めなかった。ただ、二人が見上げる何かが映る度、私も実際にそれを見上げているような、妙な感覚に陥った。 キャロル(ケイト・ブランシェット)がカウンターに置く革の手袋が大写しになることから、二人の関係の始まりは「物事に偶然は無い」と言う彼女が仕組んだものだと分かる(原作では彼女は手袋を持ち帰り、テレーズがクリスマスカードを送ったことから連絡を取り合うようになる)誘うのはいつもキャロル。昼食での「日曜にうちに来てもいいのよ」は向かい合ってまともに顔を見ながら(私にも顔がはっきり見える)自宅での「私を招待してちょうだい」はすぐ向こうを向いてしまう(私にはどんな顔だか分からない)旅に誘う時には