たいていの人は「旅行」とか「映画鑑賞」とか言う。 それを聞きながら僕は、静かに笑っている。 凡人だな、と。 僕の番が来る。 深呼吸して、ピアノの旋律のような声音で言葉を口にする。 「趣味は……死ぬまでに読むべき小説の名作を、原書で読むこと…ですかね」 ざわ……。 食いついた。 さっきまでスマホをいじっていた女性が顔を上げる。 司会者も一瞬、ペンを止めた。 「えっ、すごいですね!」 「原書って、英語のですか?」 「まぁ、英語が多いですけど、フランス語も少し。バルトとか、フォークナーとか。 最近はドストエフスキーを“英語版”で読んでいて…… 彼の文体のリズムって、翻訳じゃどうしても再現できないんですよね」 そう言うと、ふむふむ、と頷く声。 中には「難しそう……」と呟く人もいた。 その“理解できなさ”を感じるのが、気持ちいい。 もちろん、心の中でだけ笑っている。 「あ、あと『1001 Books