最初に気づいたのは、うちの部署の古株である田村さんだった。昼休みにコンビニで弁当を買って戻ってくるなり、「あの子、なんか売ってるよ」と言う。何を売っているのかと訊ねると、「糠漬けらしい」とのことだった。
昼休みが終わる頃、俺も喫煙所の帰りに覗いてみた。給湯室の前で、鈴木がタッパーを手にして立っている。タッパーの中には、瑞々しい緑色のきゅうりが綺麗に並んでいた。「1袋500円です」と書かれた手書きのメモが、デスクの端に置かれている。
正直、意味がわからなかった。新入社員が、自作の漬物を会社で売る。そんな話、聞いたことがない。
「鈴木、それ何?」
「糠漬けです。私、家で漬けてるんですけど、たくさんできるので……」
「それを、売ってるの?」
「はい。無農薬のきゅうりを使っていて、無添加です。市販のものより美味しいと思います」
彼女は営業部の新人で、今年の春に入社したばかり。目立つタイプではなく、普段はおとなしくしている。そんな彼女が、自家製の糠漬けを売り出しているという事実が、どうにも俺の理解を超えていた。
「へえ……売れてるの?」
「ええ、おかげさまで」
信じがたいことに、昼休みが終わる頃には、タッパーの中は空になっていた。
***
翌日、俺は試しに一袋買ってみた。家に帰り、晩酌のつまみにしてみると、これが意外と旨い。浅漬けで、ほどよく塩気が効いている。糠の香ばしさも強すぎず、歯応えもいい。コンビニの漬物とは比べものにならないほど美味かった。
翌週には、彼女の糠漬けは社内でちょっとした評判になっていた。「あの糠漬け、結構いけるぞ」「500円なら、まあありかな」「最近、スーパーの漬物も高いしな」などと話しているのを耳にする。
そう言い出したのは、人事の課長だった。ある日、昼休みが終わる直前に、彼が給湯室の前で鈴木に声をかけているのを見かけた。「ここで個人的な売買をするのは、職場の秩序を乱す行為じゃないか」と、そんな趣旨のことを言っているようだった。
俺は内心ヒヤヒヤしたが、鈴木は意外にも動じなかった。
「社内販売は禁止されていないと認識しています。それに、上司の皆さんも買ってくださっていますし、問題があるようなら正式に許可を取ります」
課長は少し驚いたような顔をしていたが、それ以上は何も言わなかった。
***
それからしばらくして、鈴木の糠漬けはさらに進化した。新たに「ニンジン」と「ナス」のバリエーションが加わり、まとめ買い割引まで導入されたのだ。「3袋で1200円」というシステムらしい。俺も試しにニンジンを買ってみたが、これがまた絶妙だった。
「最近、あれがないと寂しいんだよな」
「うちの嫁がハマっちゃってさ、毎週頼まれるんだよ」
と、社内の中年男性陣からも支持を集めていた。もはや彼女の漬物は社内文化の一部になりつつあった。
だが、それは長くは続かなかった。
***
「けど、なんか妙じゃないか?」
俺は気になって鈴木に聞いてみた。「どうして辞めたのか」と。すると、彼女は少し苦笑いしながら言った。
「は?」
「毎週3袋、家まで届けてほしいって言われて。でも、奥さんの要求がどんどんエスカレートして……それで、なんだか怖くなって」
俺は思わず笑いそうになったが、鈴木の顔を見ると、あまり冗談ではなさそうだった。
「それで、販売中止?」
「はい……これ以上、仕事と関係ないことで問題を起こすのも嫌なので」
それ以来、鈴木の糠漬けは社内から姿を消した。しかし、俺の舌は未だにあの味を覚えている。会社帰りにスーパーの漬物を手に取ってみるが、どれも物足りなく感じる。
結局、俺は自分で糠床を買い、漬物を作り始めた。鈴木の糠漬けには及ばないが、それでも、あの味を思い出しながら、今日も俺は糠を混ぜる。
鈴木と結婚して自宅で作ってもらえばええやん
AIのある話
「エーアイだろっ、エーアイっ」
3回くらい錬成?させて手で改行とか直した感じやね
今日の嘘松
俺もAIで増田ネタ書いたりするからか、AIって分かってしまうよね… やたら鍵かっこがあったり、穏便なオチになったりしがちだよね まだまだAIで嘘松作るのは難しいと思う
ただの同僚の料理なんて簡単に金出してまで食いたくはねぇな…
でもOLの染みパンは金出して買うんですよね?
何言ってんだこいつ あたりまえだろ
ちょっと同僚のは無理かも
一昔前のSFショートみたいで嫌いじゃない。
この後、起業して年商5000兆円のNUKAZUKEホールディングス会長となるのは、もう少し後の話である
https://www.chosyu-journal.jp/shakai/29257 今は手作り漬物販売は違法。
絶妙に読ませる内容。 もしこれがAIなら(このレベルの話をAIが創作出来るなら)凄い世界になったもんだ。
嘘松!
逆張りですね。わかります
個人的に今まで食った漬物で最強は和幸(かつ工房のほう)のおかわり自由の漬物 食感とか味付けとか全てが神がかってる
『沼地のある森を抜けて』(梨木香歩)みたいだ。
500円は高すぎ
課長が狙ってつぶしたならすごいな
別の掲示板で糖漬けにこだわって一日に何度も投稿してたやつがおったけどそいつかと思った でもそいつならここまでの長文を書く才能もなかったし必ず糖漬けとマンコの匂いがどうこ...
鈴木さんから糠を分けて貰わないと、同じ味を出せないと思うぞ。
タッパーに綺麗に並べてるってことは袋入りじゃなさそうなのに、1本いくらじゃなくて1袋いくらで売ってるところで「雑な創作」と判定しますた
同じことを思った。袋入りのきゅうりが複数入るタッパーは相当大きくなるはずだから変だなと。でも面白く最後まで読めた。続きがありそうな終わり方だな
袋に詰めれるだけ詰めてでいくらの商売なのかもしれない
500円は高いし、500円のぬか漬けがどんどん売れる(買える)給与を出す会社で、会社内で同僚相手に商売する公私混同が問題にならないのはおかしい。 これは嘘松だと思う