2024-12-19

お母さん

小学生の頃、自転車で行ける距離のところに児童養護施設があった。自分はそのすぐ隣、というかその敷地内にある建物で、こども工作だかなんだか忘れたけど、紙とか粘土とか木の板とかを使って色々作る夏休み限定教室に通っていた。

ある時、親戚が来るとかなんかで親が車で送迎してくれた。粘土で鳥を作ったあと、後片付けをして、親が来るのを待っていた。車の音がして、向こうから母親が歩いてくるのが見えて、来た来た、と駆け寄ろうとしたら、間に知らない子供が割り入ってきた。

の子母親の手を取って、お母さん!と叫んだ。

お母さん、お母さんでしょう、お母さんだよね、俺のお母さんだよね。みたいなことをずっと話しながら、まとわりつく男の子。年は自分より下だったと思う。小さくて、痩せてた。

母親あらあらまぁまぁと困ったように笑っていた。

その時そこだけがものすごく時間ゆっくり流れていた。

お察しの通り、隣の施設から脱走した子供だった。あっという間におじさんの職員に抱え上げられて、回収されていた。その間もあの子は聞き取れない声でわぁわぁ騒いでいた。おじさんは母親に何か言って、ぺこぺこ頭を下げたあと、施設入り口があるフェンスの向こうに行ってしまった。

自分はその間、何も動けなかった。ここは親のいない子供が行くところだと小学生の間でも有名だったけど、本当だったのか。という驚きもあった。それ以上に、自分母親が「お母さん」と呼ばれて満更でもなさそうだったのが驚いた。


自分は、両親のことを「お父様」「お母様」と呼ばなければいけなかった。そう呼ばなければ(特に母は)不機嫌になった。

お母さんとかママとか、どこのお母さんかママなのかわかんないでしょ。お母様って呼んだら、すぐにわかるんだから。と、言い聞かされていた。お母さん、と呼んでみても、ん〜?それって誰のことかな〜?わかんないな〜??と惚けられて無視された。言っておくと、別にごく普通一般家庭だ。

そんな人が、知らないよその子から「お母さん」と呼ばれて、「お母様」でしょうが!と怒鳴ることも無視することもなく、満更でもなさそうにニヤニヤしていたのが、ものすごく気分が悪くなった。

車の中で、可哀想にねぇあの子、私はお母様なんだから。それにしても、あなたもあの施設に行くことにならないと良いね?と、笑う母が怖かった。





結局数年後自分も違う養護施設に預けられることになって、私はいまだに家族との関わり方がよくわからない。

実家に立ち寄った時、あの時作った鳥の置き物が玄関に置かれているのを見ると思い出す。

  • それはごく普通の一般家庭ではない気がした

  • 解離性人格障害的な幻想文学 ただ商業化はしないでほしい

  • 良い感じのホラーだった

  • 母親NTRモノ

  • 増田の代わりにそのガキを引き取って帰るのかと思った

  • 私はその時の「お母さん」に駆け寄った子供です。私はその頃しょっちゅう脱走しては、そんな調子でした。

  • 私も育児してるけど、親のいない子供に「お母さんでしょ!」と言われて手を掴まれたり抱きつかれたりしたらすぐに拒絶できないと思う。 小学校低学年くらいまでの子供にそんなこと...

  • 「やさしいお父さん」を思い出した。 http://www.2monkeys.jp/archives/48343797.html

  • みんなが何か書きたくなるオチ😅 (首が飛んで自我が残ってる闇アンパンマンの元ネタのオーソンスコットカードのやつだ!😮)

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