植物の有性生殖
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/03 03:29 UTC 版)
植物では、いくつかの緑藻類のように卵や精子の分化が見られない同形配偶子によるものから、大配偶子と小配偶子という異形配偶子によるもの、陸上植物で見られる卵生殖によるものまで様々な様式が見られる。 コケ植物やシダ植物、種子植物を含む陸上植物では、生活環の中に単相世代と複相世代の2つの植物体が現れるのが特徴である。単相世代は体細胞分裂によって配偶子を形成するので配偶体とも呼ばれる。配偶子が接合、発芽すると複相世代になる。複相世代は減数分裂によって胞子を形成するので、胞子体と呼ばれる。胞子は単独で発芽し、配偶体を生じる。 従って、有性生殖は配偶体の作る配偶子の接合に当たるが、胞子形成も減数分裂によるもので、有性生殖環の一部と考えるべきであろう。 コケ植物では、通常の植物体は配偶体であり、その表面に造精器、生卵器を作り、水に浸ったときに精子が卵のところへたどり着き、受精する。受精卵はその場で成長し、胞子のうのみの胞子体が形成される。 シダの場合、配偶体は前葉体と呼ばれる小型の構造で、その上に生卵器と造精器が作られる。生卵器内で受精した卵は、そのまま成長し、シダ本体となる。 種子植物の本体は、シダと同様に胞子体であり、花の中に作られる生殖細胞(花粉細胞と胚嚢細胞)は胞子に相当する。胚嚢細胞はめしべの中の、胚珠の中で成長して胚嚢(前葉体に相当)となり、卵細胞を作る。花粉はめしべについて成長し、花粉管(前葉体に相当)を作り、その中に精細胞を生じる。花粉管の接触により受精が行われると、胚嚢内の受精卵は発生を始め、種子内で幼植物に成長、種子の形で放出される。 したがって、種子植物において、花粉がめしべについて受粉が行われることそのものは、生殖ではなく胞子が成長する場にたどり着いただけのことある。しかしながら、種子植物では単相世代(花粉管と胚嚢)が複相世代に寄生生活し、それぞれが雄性配偶体と雌性配偶体を形成するように固定し、双方の単相世代胞子産生器官が複相世代において分離分化した。そのため、見かけ上は複相世代において雌雄が分化し、受粉時に有性生殖(受精=配偶子接合)が起こったように見える。実際に雌雄分化しているのは複相世代に寄生している単相世代(花粉管と胚嚢)であり、有性生殖(受精)が起こるのは花粉管と胚嚢が成長し性成熟し配偶子を形成したあとである。イチョウやマツなどの裸子植物では複相世代に寄生した単相世代の成長と配偶子形成にシダ類と同じく長期間かかることになる。 植物が受粉を行う場合、おもに媒介者となるのは風と動物であり、風が媒介するものは風媒花と呼ばれる。動物が媒介するものはその媒介者によって虫媒・鳥媒・コウモリ媒などに分かれる。動物媒の中では特に虫による媒介が多い。最も古い媒介方式は風媒であるが、のちにより確実性の高まる動物媒が発展した。しかしながら冷帯地域においては単一樹種による樹林が多いことや媒介者となる動物の不足から、再び風媒に戻るものが多く、かなりの樹木が風媒花となっている。逆に媒介動物の多い熱帯地域においては動物媒が圧倒的で、熱帯樹木の95%を占める。こうした動物媒の場合、花に動物を引き寄せる必要があるため、多くの花は蜜腺から蜜を分泌し、動物に花を訪れるようにさせる。
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