成長と増殖
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/25 04:07 UTC 版)
多細胞生物とは異なり、単細胞生物では細胞サイズの増加(細胞増殖)と細胞分裂は密接に関連している。細菌細胞は一定のサイズに成長し、その後、無性生殖の一形態である二分裂によって細胞数を増加させる。最適な条件下では細菌は非常に急速に分裂増殖し、ある種の細菌では17分ごとに2倍のスピードで増殖することが知られている。細胞分裂では、2つの同一のクローン娘細胞が生成される。一部の細菌はより複雑な生殖構造を形成し、新しく形成された娘細胞を分散させる。例えば、粘液細菌による子実体の形成や、ストレプトマイセス種による気中菌糸の形成、または出芽などが挙げられる。出芽には、細胞が突起を形成し、それが壊れて娘細胞を生成する形態も知られている。また、同時に3つ以上に分裂する場合や、出芽によって増えるもの、接合してDNAの一部を交換するもの、芽胞などを形成するものが存在する[要出典]。 増殖に際してはDNA複製が行われる。DNA複製は真核生物、細菌で異なる点がある(古細菌ではよく分かっていないが真核生物に類似すると考えられている[要出典])。細菌では大腸菌で最もDNA複製機構の研究が進んでいる[要出典]。複製はDNA上に一箇所存在する複製開始点から開始され、双方向へ複製が進んでいく。 実験室では、細菌は通常、固体または液体の培地を利用して培養する。寒天プレートなどの固体培地は、細菌株の純粋な培養物を分離するために使用される。一方で液体培地は、大量の細胞が必要となる場合に利用される。液体培地での培養では細菌細胞が均一に懸濁されるため、その中から単一の細菌種を分離することは困難である、培養物を簡単に分割したり移動させることができます。選択培地(特定の栄養素を追加したり不足させたりしている培地や、抗生物質などが添加されている培地)を使用すると、特定の機能を持つ生物種だけを選択的に培養させることができる。 実験室においては多くの場合、非常に富栄養な培地を利用して大量の細胞を安価かつ迅速に生産するように培養することが一般的である。しかしながら本来の自然環境では栄養素は限られており、細菌が無期限に繁殖し続けることができない。この栄養制限は、さまざまな成長戦略の進化をもたらしてきており、例えばR-K選択説などが有名である。夏期に湖で頻繁に発生する藻類(およびシアノバクテリア)の異常発生などに見られるように、環境中で利用可能な栄養素が増加することで、一部の生物は非常に急速に成長することがある。また別の戦略として、放線菌などに見られるように複数の抗生物質を生産などして、競合する微生物の成長を阻害する戦略で過酷な環境に適応するものもいる。自然界では多くの微生物は、栄養素の供給を増やし環境ストレスから保護することができるようなコミュニティ(バイオフィルムなど)に生息している。このような関係は、特定の細菌系統において生育に不可欠な要素であることがあり、栄養共生(syntrophy)と呼ばれる。 細菌の増殖は4つの段階をたどる。細菌集団が最初に高栄養環境に晒されると、細胞はその新しい環境に適応する必要がある。そのため、成長の最初の段階は遅滞期であり、これは細胞が高栄養環境に適応し、急速な成長の準備をしているときのゆっくりとした成長期間であるとみなせる。遅滞期は、急速な成長に必要なタンパク質が生成されるため、生合成速度が高まる。成長の第2段階は対数増殖段階であり、指数増殖段階とも呼ばれる。対数期は急速な指数関数的成長によって特徴づけられる。この段階で細胞が成長する速度は成長速度(k)と呼ばれ、細胞が2倍になるのにかかる時間は生成時間(g)と呼ばれる。対数期の間、栄養素が枯渇し成長に制限がかかり始めるまで、栄養素は最大速度で代謝され続ける。成長の第3段階は定常期であり、栄養素の枯渇によって引き起こされる。細胞は代謝活性を低下させ、必須ではない細胞タンパク質を消費してゆく。定常期は急速な成長からストレス反応への状態移行であり、DNA修復、抗酸化代謝、栄養素輸送に関与する遺伝子の発現が増加する。最終段階は、細菌が全ての栄養素を使い果たして死ぬ段階である。
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