五蘊とは? わかりやすく解説

ご‐うん【五×蘊】

読み方:ごうん

《「蘊」は、梵skandhaの訳。五つの積集の意》仏語存在構成する五つの要素。すなわち、物質的身体的なものとしての色蘊(しきうん)、感覚作用としての受蘊、表象作用としての想蘊、意志欲求などの心作用としての行蘊(ぎょううん)、対象識別する作用としての識蘊。五陰(ごおん)。


五蘊

読み方:ゴウン(goun)

物質精神分類した五種


ごうん 【五蘊】

仏教用語五陰とも。人間身心、およびその環境のすべてを形成する物質的精神的な要素(蘊)五つをいう。1色(身体的または物質的要素)、2受(感受作用)、3想(表象作用)、4行(意志作用)、5識(認識作用)の五つ。すべては、これらが仮に集まって出来ているとして五蘊仮和合といい、これらに執着するための苦を五取蘊苦(五陰盛苦)という。→ 蘊

五蘊

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/10/10 21:21 UTC 版)

仏教用語
蘊, スカンダ
五取蘊とは「私とは何者か」に対する釈迦の答えである[1]
パーリ語 खन्ध (khandha)
サンスクリット語 स्कन्ध (skandha)
チベット語 ཕུང་པོ་ལྔ་
(phung po)
ベンガル語 স্কন্ধ (skandha)
ビルマ語 ခန္ဓာ (ငါးပါး)။
(IPA: [kʰàɴdà])
中国語 (T) / (S)
(拼音yùn)
日本語
(ローマ字: un)
朝鮮語
(RR: on)
英語 aggregate, mass, heap
クメール語 បញ្ចក្ខន្ធ
シャン語 ၶၼ်ႇထႃႇ
([khan2 thaa2])
タイ語 ขันธ์
ベトナム語 Ngũ uẩn
テンプレートを表示

五蘊(ごうん、: pañca-kkhandha[2](パンチャッカンダ)、: पञ्च स्कन्ध, pañca-skandha[3](パンチャ・スカンダ))とは、原義では「5つの集合体・グループ・コレクション」[4]をさす。蘊(: skandha[5][スカンダ]、: khandha[6] [カンダ])とは集まり[7]、同類のものの集積[8]を意味する。

仏教においては五取蘊(Pañcupādāna-kkhandhā)として蘊・蘊・蘊・蘊・蘊の総称[7][9]。物質界と精神界との両面にわたる一切の有為法を示す[7]であり、省略して五蘊とする[10]五陰(ごおん)とも書く[7][注釈 1]。 人間の肉体と精神を5つの集まりに分けて示したもの[9](upādāna)とは、それに執着するということ[10]

なお、五蘊と、十二処十八界を並べて三科と称する[11]煩悩(ぼんのう)に伴われた有漏である五蘊を五取蘊[3](ごしゅうん、pañcopādāna skandha[3])または五受陰(ごじゅおん)という[7]。。

個々の事物は因縁によって五蘊が仮に集まってできたものであるということを五蘊仮和合(ごうんけわごう)という[7]五分法身中国語版無漏の五蘊という[7]。 五蘊仮和合は、特に有情の個体については、として執着するような実体がないことを表す[7][注釈 2]

内容

Pañcime bhikkhave, upādānakkhandhā, katame pañca: seyyathīdaṃ: rūpūpādānakkhandho, vedanūpādākkhandho, saññūpādānakkhandho, saṃkhārūpādānakkhandho, viññāṇūpādānakkhandho

比丘たちよ、これらの五つの取蘊がある。それはいかなる五か?
色取蘊、受取蘊、想取蘊、行取蘊、識取蘊である。

パーリ仏典, 経蔵 相応部蘊相応,取転経(Upādāna parivatta suttaṃ), Sri Lanka Tripitaka Project

五蘊は次の5種である。「色」は物質的存在を示し[13]、「受」「想」「行」「識」は精神作用を示す[13][7]。人間の心身の機構を羅列的に挙げ、それによって人間の生存およびその環境の全てを表そうとしたものである[14] 。他の心作用(心所)はみな蘊の中におさめられているのに、だけが別個な一蘊として立てられているのは、が争論のもとを生む主因であることや、輪廻に堕す主因であることによる[8]

  • 蘊(しきうん、: : rūpa) - いろ、形あるもの[15]。認識の対象となる物質的存在の総称[15]。一定の空間を占めて他の存在と相容れないが、絶えず変化し、やがて消滅するもの[15]。体[16]
  • 蘊(じゅうん、: : vedanā) - 感受作用[17]。肉体的、生理的な感覚[17]。根(六根)と境(六境)と識(六識)の接触和合から生じる苦・楽・不苦不楽などの印象、感覚[18]阿毘達磨倶舎論においては、内なる心が外界と接触してそこに楽、苦、不苦不楽を受け入れること[19]
  • 蘊(そううん、: saññā, : saṃjñā) - 表象作用[17]。概念的な事柄の認識[17]。イメージ[16]。事物の形象を心の中に思い浮かべること[20]阿毘達磨倶舎論においては、対象のあり方を心の中に把握すること、表象すること[19]
  • 蘊(ぎょううん、: saṅkhāra, : saṃskāra) - 意識を生じる意志作用[21]。意志形成力[17]。心がある方向に働くこと[17]。深層意識[16]阿毘達磨倶舎論においては、色、受、想、識の四蘊以外[19]
  • 蘊(しきうん、: viññāṇa, : vijñāna) - 認識作用[17]。対象を得て、区別して知るもの[15]。知り分けること[19]。判断[16]

五蘊の最初が蘊で最後が蘊となるのは、粗雑なものから精細なものへの順序、悪に染められた心を起因として諸が生じる次第を逆にさかのぼる順序などに従うのであるとされる [8]

上座部仏教

五蘊(パンチャッカンダ)[22]
 
 
色(ルーパ)
物質的存在
  四大(マハーブータ)
元素
 
 
 
 
 
 
触 (パッサ)
接触
 
 
 
     
 
識(ヴィンニャーナ)
認識作用
 
 
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
  心所(チェータシカ)
精神的要素
 
 
受(ヴェーダナー)
感受作用
 
 
 
想(サンニャー)
概念
 
 
 
行(サンカーラ)
志向作用
 
 
 
 

五蘊を自己()とみなす見解を有身見(sakkāya-diṭṭhi)といい[23]、仏教における悪見三結のひとつである。釈迦は「私」の観察によって、変化し続ける五蘊以外には発見できないこと、すなわち無我の発見に至っている[1]。世間の人々は五蘊を自己とみなすために、限りない苦に囚われ続けるのである[1][10]

釈迦は五比丘らに初転法輪を説き、預流果に至らせた[23]。次に五蘊の無我と説き、五比丘らを阿羅漢に至らせている[23]

象跡喩大経においては苦の原因を、五取蘊に対する(chando)、執着(ālayo)、親愛(anunayo)、固執(ajjhosānaṃ)であると説いている[24]

相応部ナクラピタル経においては、凡夫は「五蘊が我である(=我見)」「五蘊は私のものである(=我執)」を持つが、これらは変化するものであるため、その者には愁・悲・苦・憂・悩が生じると説いている[25]

Tassa 'ahaṃ rūpaṃ, mama rūpa'nti pariyuṭṭhaṭṭhāyino taṃ rūpaṃ vipariṇamati, aññathā hoti. Tassa rūpavipariṇāmaññathābhāvā uppajjanti sokaparidevadukkhadomanassupāyāsā.

(凡夫は)「私が色(rūpa)である」「私が色を所有している」との考えを抱くが、その色は変化し変容する。
その者には、色が変化し変容するために、愁(soka)・悲(parideva)・(dukkha)・憂(domanassa)・悩(upāyāsā)が生じる。
...(受,想,行,識について同様に説く)...

五蘊盛苦

五蘊盛苦(ごうんじょうく)、五蘊苦(ごうんく)とは、自分自身が生きている(心身の活動をしている)だけで苦しみが次から次へと湧き上がってくることである。仏教の説く四苦八苦の一つ。元のパーリ語は、パンチャ・ウパーダーナ・カンダ・ドゥッカ(pañcupādānakkhandhā dukkha)[10]。釈迦は初転法輪にて五比丘に五蘊苦を説いた[10]

Saṅkhittena pañcupādānakkhandhā dukkhā.
略説するに五取蘊は苦なり。

パーリ語の組み合わせは、「パンチャ」は「五つ」、「ウパーダーナ」は「執着する、固執する」、「カンダ」は「要素()」、「ドゥッカ」は「苦」という意味なので、 「五つの要素に執着する苦しみ」というのが原文の意味である。 日本仏教においては五蘊盛苦を漢訳の訳語から解説する場合が多いが、漢訳の五蘊盛苦では「ウパーダーナ(取)」、つまり「執着する」という意味が入っておらず、原文のニュアンスが伝わりにくい訳となっている。

脚注

注釈

  1. ^ 旧訳では五陰(ごおん)五衆(ごしゅ)という[要出典]
  2. ^ 古くは阿含経の中に言及されている[12]

出典

  1. ^ a b c アルボムッレ・スマナサーラ『テーラワーダ仏教「自ら確かめる」ブッダの教え (スマナサーラ長老クラシックス)』Evolving、2018年、Chapt.17。ISBN 978-4804613574 
  2. ^ "pañcakkhandha : [m.] the five aggregates, viz: material qualities, feeling, perception, coefficients of tconsciousness, and consciousness. "(Concise Pali-English Dictionary by A.P. Buddhadatta Mahathera)
  3. ^ a b c 岩波仏教辞典 1989, p. 261.
  4. ^ Thomas William Rhys Davids; William Stede (1921). Pali-English Dictionary. Motilal Banarsidass. pp. 232–234. ISBN 978-81-208-1144-7. https://books.google.com/books?id=0Guw2CnxiucC 
  5. ^ 櫻部・上山 2006, p. 仏教基本語彙(2).
  6. ^ 水野弘元「増補改訂 パーリ語辞典」、春秋社、pp112-113、2013年3月(増補改訂版第4刷)。
  7. ^ a b c d e f g h i 総合仏教大辞典 1988, p. 392.
  8. ^ a b c 櫻部 1981, p. 69.
  9. ^ a b 田中典彦「縁起思想における人間 (私)」『心身医学』第63巻第3号、2023年、202-207頁、doi:10.15064/jjpm.63.3_202 
  10. ^ a b c d e アルボムッレ・スマナサーラ『苦の見方』サンガ (出版社)、2015年、Chapt.5。ISBN 978-4865640199 
  11. ^ 岩波仏教辞典 1989, p. 396.
  12. ^ 山田巌雄 文・箕田源二郎 画「阿含の詩 詩画でふれる仏の教え」鈴木出版 1988年 P.105 ISBN 978-4790210221
  13. ^ a b 頼富本宏他「図解雑学 般若心経」ナツメ社 2003年 P.76 ISBN 978-4816335440
  14. ^ 櫻部建上山春平「存在の分析<アビダルマ>―仏教の思想〈2〉」 角川書店角川ソフィア文庫〉、2006年 P.60 ISBN 978-4041985021(初出:塚本善隆編『仏教の思想』第2巻  角川書店、1969年)
  15. ^ a b c d 岩波仏教辞典 1989, p. 342.
  16. ^ a b c d 「我が身は五蘊」「それらはすべて空である」と見極めた【般若心経】”. 宮坂宥洪. 2023年5月1日閲覧。
  17. ^ a b c d e f g 頼富・今井・那須 2003, p. 77.
  18. ^ 岩波仏教辞典 1989, p. 388.
  19. ^ a b c d 櫻部 1981, p. 63.
  20. ^ 岩波仏教辞典 1989, p. 508.
  21. ^ 岩波仏教辞典 1989, p. 169.
  22. ^ パーリ仏典, 中部 満月大経, Sri Lanka Tripitaka Project
  23. ^ a b c 藤本晃「我とは何か パーリ聖典の範囲で」『パーリ学仏教文化学』第34巻第29-59号、2021年、doi:10.20769/jpbs.34.0_29 
  24. ^ パーリ仏典, 中部 28.象跡喩大経, Sri Lanka Tripitaka Project
  25. ^ 羽矢辰夫「ターラ樹の譬え」『創価大学人文論集』2020年、NAID 120006824202 
  26. ^ パーリ仏典, 律蔵犍度, 大犍度, Sri Lanka Tripitaka Project

参考文献

関連項目


五蘊

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/01 04:28 UTC 版)

三科」の記事における「五蘊」の解説

五陰(ごおん、旧訳)とも。人間肉体精神五つ集まり分けて示したもの。

※この「五蘊」の解説は、「三科」の解説の一部です。
「五蘊」を含む「三科」の記事については、「三科」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「五蘊」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ

五蘊

出典:『Wiktionary』 (2021/08/16 08:21 UTC 版)

名詞

 (ごうん)

  1. 仏教人間成り立たせている五つ要素シキギョウ
  2. 目の前世界地球宇宙時間空間物質エネルギー変化
  3. 固定化現象停滞現象

発音(?)

ご↘うん


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

','','','','','','','','','','','','','','','','','',''];function getDictCodeItems(a){return dictCodeList[a]};

すべての辞書の索引

「五蘊」の関連用語

1
五陰 デジタル大辞泉
76% |||||



4
52% |||||


6
五衆 デジタル大辞泉
38% |||||

7
人法 デジタル大辞泉
38% |||||

8
仮我 デジタル大辞泉
38% |||||

9
デジタル大辞泉
38% |||||

10
四魔 デジタル大辞泉
38% |||||

五蘊のお隣キーワード
検索ランキング
';function getSideRankTable(){return sideRankTable};

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



五蘊のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
デジタル大辞泉デジタル大辞泉
(C)Shogakukan Inc.
株式会社 小学館
日外アソシエーツ株式会社日外アソシエーツ株式会社
Copyright (C) 1994- Nichigai Associates, Inc., All rights reserved.
中経出版中経出版
Copyright (C) 2025 Chukei Publishing Company. All Rights Reserved.
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの五蘊 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaの三科 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。
Text is available under Creative Commons Attribution-ShareAlike (CC-BY-SA) and/or GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblioに掲載されている「Wiktionary日本語版(日本語カテゴリ)」の記事は、Wiktionaryの五蘊 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、Creative Commons Attribution-ShareAlike (CC-BY-SA)もしくはGNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS