「遠近法がわかれば絵画がわかる」(その4)

81I93ACp3VL_SL1500_.jpg 布施英利「遠近法(パース)がわかれば絵画がわかる」
の4回目。

4回目は、線遠近法を完成させたといわれるレオナルド・ダ・ヴィンチ。
「最後の晩餐」は誰が見てもわかる線遠近法を完璧に使った名作である。

私も実物を見たことがある。壁画のある部屋への入場は一度に30人ぐらいに制限されていて、人気美術展のようにおしあいへしあいということにはならない。また鑑賞時間も15分の制限があるが、他の絵があるわけではないので、この壁画の前でじっくりと見ることができた。人によっては違う感想かもしれないが、私は想像していたより明るい絵だと思った。


さてこの壁画、線遠近法作品として有名なわけだが、著者によるとそれだけではないという。
 この放射線のような広がりは、1人の弟子の人物群の配置とも呼応しています。キリストの左右、それぞれ3人を、重なりの遠近法でわかる前後の位置関係で見ると、ちょうどキリストを中心とした円形の波紋(室内を真上の四点から見たときの)のように、キリストを取り巻いていることがわかります。さらにその周りには、各3人ずつがいて、あたかもこの部屋が水面だとしたら、そこに一つの石が投げ込まれ(ちょうどキリストの位置に)、そこから波紋が広がるように(人物群を真上から見ると)配されています。
 つまり一見すると、12人の弟子たちはテーブルに沿ってまっすぐ横に並んでいるように見えますが、それは、テーブルにつられて見えているだけで、じつは真上から見ると、広がる波紋のように配されているのです。「この中に私を裏切った者がいる」というキリストの言葉に動揺するさまが、あたかも水面に同心円の波紋が広がるように配されているのです。

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Ⅰ 四つの遠近法
(1)「重なり」の遠近法
(2)「陰影」の遠近法
(3)「色彩」の遠近法
(4)「縮小」の遠近法
 
Ⅱ 三点遠近法
(1)一点遠近法Ⅰ 「奥行き」の表現
(2)一点遠近法Ⅱ 「線遠近法」は、こう描く
(3)三点遠近法 さらなる「広がり」への奥行き
(4)消失点とは何か?
 
Ⅲ 二次元
(1)ヒトは「二つの目」で何を見ているのか
(2)「二次元」の絵画という謎
(3)アルヴァ・アールトへの旅
 
Ⅳ 一つ
(1)パノフスキーを読む
(2)セザンヌを見る
(3)ダ・ヴィンチを見る
 
おわりに
考えてみれば、13人が長テーブルに一列に並んで食事をするのは不自然、丸テーブルとか、ロの字に並べたテーブルで輪になって食事をとるのが自然だろう。だがそれでは一人一人を描くのは難しい。
整然とした遠近法で描かれているにもかからず、情景はキリストを囲む輪を切って拡げたものということになる。
このほか、弟子たちの腕の向き(回内、回外)の統一など、詳細な観察を加えている。

著者は遠近法を感性したダ・ヴィンチと、それを破壊した(?)セザンヌを並べて言う。
 ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』は、線遠近法の完成を告げる記念碑的な絵画ですが、このように見てくると、決して線遠近法だけで空間の奥行きが描かれているのではなく、重なり遠近法、色彩の遠近法、陰影の遠近法、そして線遠近法と、すべての遠近法があることがわかります。それはセザンヌの絵と同じです。セザンヌの絵と、何のちがいもないのです。
『最後の晩餐』には、遠近法のすべてがあります。同じくセザンヌの、たとえば『キューピッドの石膏像のある静物』にも、遠近法のすべてがあります。遠近法という視点で見ると、両者の手法に大きなちがいはないのです。そう知ると、絵画の真実は一つ、というようなことを言いたくもなってきます。
 もし、線遠近法の絵画が、それがセザンヌによって「乗り越えられる」べき、悪の元凶のようなものであったと考えられたなら、乗り越えられるべきだったのはダ・ヴィンチの『最後の晩餐』ではなくて、線遠近法に教条主義的にとらわれた、ダ・ヴィンチの周囲の、他の二流以下の絵画のせいなのでしょう。少なくとも、セザンヌが登場しても、それ以後も、ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』が傑作であるという評価は、決して揺らぐことはないのです。
 一流の絵画というのは、どれにも共通したものがあって、その美の秘密は同じなのです。

「遠近法がわかれば絵画がわかる」という書名だけれど、「遠近法の奥深さがわかれば」と書き直したい。

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