「早すぎた発見、忘られし論文」

大江秀房「早すぎた発見、忘られし論文 常識を覆す大発見に秘められた真実」をとりあげるのだが、この本の書評を書いてもよいものだろうか?

というのは、
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 講談社ブルーバックス『科学史から消された女性たち』『早すぎた発見、忘られし論文』(いずれも大江秀房著)の2冊に関し、著作権上の問題があることが判明いたしました。そのため、この両書について回収・絶版の措置をとることに決定いたしました。著作権者の方、そして読者の皆様にお詫び申し上げます。

講談社ブルーバックス出版部

ということで、2006年3月に回収・絶版となっている。Amazonでは中古品だけが40円で売られている。

私は1年ぐらい前に図書館で借りたのだが、書評を書くほどのこともないと思っていたのだけれど、ブログのネタになるかと残しておいたメモがあったので、あらためて記事にしようとして、検索すると、上の引用のような記事が見つかった次第。
もう少しネットをあたると、とくに『科学史から消された女性たち』の方について、パクリ疑惑がかなり具体的な個所を指摘している激越な書き込みもあった(あえてリンクを張らないので関心のあるかたはネットで検索を)。

回収・絶版は2006年に行われているけれど、図書館ではそのことを問題視して貸出禁止にするなどはしなかったようだ。社会問題となった「ちびくろサンボ」や「はだしのゲン」とは扱いが違うわけだ。

第1章 初めて原子と分子を区別したアボガドロ
第2章 遺伝の法則を発見したメンデル
第3章 蘇った孤高の天才実験家キャベンディッシュ
第4章 決闘に散った数学者ガロアと群論
第5章 カオスの生みの親ポアンカレ
第6章 大陸移動説に命をかけたウェゲナー
第7章 イオンの存在証明に苦闘したアレニウス
第8章 宇宙を夢みた独学の天才ツィオルコフスキー
第9章 一〇〇年後に花開いたギブズの熱力学
第10章 流浪の天才数学者アーベルの悲劇
というようないわくつきの本なのだけれど、一応紹介する。
書名は仰々しいが、「忘れられし論文」というような発掘があるわけではない。現代人には正当に評価されている、歴史的業績である。
本書では10人の科学者の主たる業績とともに、人となりを紹介しており、類書はたくさんあるから、そう目新しいものはない。
初めて目にしたのはギブスぐらいかもしれない。ギブス自体については熱力学の教科書ではいやというほど出てくるから、業績はもちろん知っていた。(「いた」というのは昔の話だからで、今ではすっかり忘れている。)

もう一人紹介すると、ポアンカレは本書ではカオスの先駆者として取り上げられているが、かなり幅広い研究をした人だから、読みようによっては、あれもやった、これもやった式の偉人になりがちである。

それが後世の先駆けになるから歴史に残るわけで、ニュートンのように錬金術をやっていても、そちらはむしろ歴史的評価は受けない。

ただ、ポアンカレについては、その創造・発見の秘密について、ポアンカレ自身の言葉が紹介されている。著作権に触れない範囲だと思うので引用しておこう。
……彼が一九○八年にパリの心理学総合研究所で行った「数学上の発見」と題する講義で、これは著書「科学と方法』の第三章にもおさめられている。彼によれば、独創は事実、データ、論理などといった、“既存の要素” の新しい組み合わせであり、時系列でみると意識的段階、無意識的段階、そして意識的活動の段階の三つからなるという。
 第一番目の意識的段階では、問題に関係のありそうな要素をできるだけ多く集め、それらのさまざまな組み合わせをつくり、それぞれが実を結びうるかどうかを調べる。これはまさに暗中模索の状態であり、それがやがて睡眠中、食事中、散歩中などといった第二番目の無意識的段階でも行われるようになる。この段階でインスピレーションがひらめいて、豊かに実を結ぶであろう“既存の要素”の組み合わせ――ポアンカレのいう仮説――が天から舞い降りてくる。この仮説の誕生から第三番目の意識的活動の段階、すなわち仮説の正しさを実証するために行動する時期が始まる。
この部分は、私にはとても納得できるもの。
全く科学の進歩に寄与しなかった私でも、目の前の課題を解決するとき、同じようなことをやっていると思う。

数学というのは、説明されても解らないことも多いという限定つきではあるけれど、解るときにはそんな説明が良く思いついたなぁと驚くことが多い。

代数学では、数式の変形で答えが出るというものがちょくちょくあるけれど、目の前でやられるとなるほどと納得するけれど、どうしてそんなことを思いつくのかという気にもなるものだ。
教育実習で、高校生相手に授業をしたときには、生徒たちはキョトンとして、もう一回やってくださいと言われたりした。
ちなみにもっとひどいのは、数式をぐっと睨んだらこうなるでしょう、というのもある。


ということで、著作権問題は措いて、読んで無駄なものではなかった。

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