2011/10/09
シリーズ記事 【2011年秋: フランシュ・コンテ地方の旅行】
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その17
気になったもの (3)
前回の日記で、街の歩道に埋め込まれている観光周遊コースを示すプレートのお話しを書きました。
プレートに描かれている絵は街のシンボルとして納得できるものが使われているのですが、今回の旅行で立ち寄ったドール市では、首をかしげてしまいました。
◆ ドール市の歩道には可愛い猫マークがあった
ドールの街が誇れるものといえば、パスツールの生家があります。でも、ワクチンとか細菌のマークというのは使えないでしょうね…。注射器マークでも良かったと思うけれど、病気を連想させてしまうので暗い。
… などと、シンボルのデザインを考えた人たちもいたでしょうね。
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なぜ、猫?
ドールは中世から栄えていた街です。
前回の日記で書いたように、ディジョン市では、中世の教会の外壁に刻まれたフクロウが街のシンボルになっています。
ドールにも、どこかに名物猫がいたのだろうか?…
猫が好きなので、よけいに気になってしまいました。
猫好きな方だったら欲しくなるようなデザインではありませんか?
こういう標識プレートは、たいていツーリストオフィスで同じものを売っています(けっこう高価ですが)。
どうして猫がドール市のシンボルにされたのでしょう?
… などというのはクイズにしません。
というのは、この街にあるパスツール博物館の受け付けの人から理由を教えてもらったのですが、やはり「どうして?」という疑問が残ってしまったので。
◆ ドール市とマルセル・エメの関係
猫がドール市の観光シンボルになった理由は、こういうことでした。
ドール市と関わりが深い作家マルセル・エメ(Marcel Aymé)の『Les Contes du chat perché』という作品にちなんでいる。
『Les Contes du chat perché』は、そのまま訳せば、「chat perché(高いところに登っている猫)のコント」。
木の上にのぼった猫のお話しかと思ったのですが、実は「chat perché(シャ・ペルシェ)」とは鬼ごっこのような遊びの名前なのだそうです。
フランス式では鬼の役は猫なのです。日本で出版された本も『おにごっこ物語』となっていました。
フランスでは人気のある物語らしくて、表紙の絵も違えた色々なバージョンが出版されていました。
日本の招き猫の表紙まであった
物語から作ったらしいアニメ:
Les contes du chat perché Episode 2 L'éléphant... par caline-08
マルセル・エメはブルゴーニュ地方のジョワニー市で生まれたのですが、間もなく母親が死亡してからはフランシュ・コンテ地方ジュラ県に住む母方の親戚の家で育てられています。
ドール市で洗礼を受けており、ドール市に住む叔母の家で中学と高校政治代を過ごしました。パリで出てからも、病気になると叔母のとろこに戻って療養しています。
マルセル・エメにとって、ドールが大切な街だったのは確かのようです。
◆ 高鬼
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猫にタッチされたネズミは猫になって、ネズミを追いかける役になる。猫に触られないための唯一の手段は、イスでも木でも何でも良いから高いところに登ること。… ということなのだそう。
鬼ごっこのバリエーションは幾つもあって、鬼が猫の代わりにオオカミだったり、Colin-maillard(戦場で両眼を失っても戦い続けた戦士の名前)と呼ばれる目隠しされた鬼だったり…。
調べながら、日本にも「高鬼(たかおに)」という遊びがあるのを知りました(忘れていただけかな?)。「高鬼の遊び方 ルール」のページを見ると、フランスの猫とネズミの鬼ごっこ遊びのルールと全く同じようですね。
でも、猫とネズミのフランス流の鬼ごっこ、私にはよく理解できません。
猫は木にも登れるし、高いところにジャンプもできるのです。なぜ、ネズミが高いところに登ったらセーフなのでしょう? 逆ではないですか?… ネズミも木に登れば猫になれる、ということなのかな?...
それから、みんなから「鬼」とは呼ばれたくはないですが、「ネコ」と呼ばれたらそんなに嫌な役ではないと思うのです。追っかけられるより、追いかける方が楽しくはないですか? 猫 = 鬼の子は、ひとりで孤独だからネズミになりたいのかな?…
◆ 街の散策コースのシンボルを選ぶのは難しいはず
街のシンボルを描く観光散策コースをつくるのは、あちこちの街でやっています。ですので、後から始める街は他のところと同じデザインにならないように気をつけなければならないはず。
ドール市では最近になってからプレートを埋め込んだ観光散策コースを作ったようです。今年の7月に取り付け完成セレモニーが行われたのだそう。
猫のデザインのプレートだと聞いて、それが街を愛したはずのマルセル・エメの小説からとったというのは良いのです。
でも、少しこじつけではないかなと思ってしまいました。
その話しを聞いたとき、マルセル・エメが住んでいた家が街の中にあるということなので、もらった街の観光地図で場所を確認しました。マルセル・エメ通り3番地、と書いてありました。
その場所に行ってみたのですが、それらしき家が見つからない!
幸いにも、その界隈に住んでいるらしい人がいたので聞いてみました。すると、即座に「あそこ」と教えてくれました。マルセル・エメの家だと分かる表示は何もついていないのだそうなので、観光客が探したって見つからないのは当然なのでした。
普通、フランスの古い家屋には誰々が生まれたとか、住んだとか、死んだとか、年号つきでプレートが埋め込まれています。詳しい説明をした説明看板を市が立てていることもあります。これがあると、中を見学できなくても、標識や建物の写真をとって満足できます。
ところが、ここには何もない!
彼の作品から観光シンボルにしてしまったのですよ。何かしら表示をしていても良いと思うのだけれど…。住んでいる人が家を覗きこまれたりするのが嫌だから拒否したのかな?…
◆ 街の観光散策ルートに悪魔の絵があったら?...
今回の旅行について書きながら(シリーズ記事の目次)、2回も「悪魔」について書いたので思ってしまいました。
フランスの鬼ごっこが日本のように「鬼(仏語だと « 悪魔 »か »魔王 »になる)」という文字がついていたとして、マルセル・エメが「悪魔ごっこのコント」と題した本を書いていたとしたら、ドール市はそれを選ばなかったでしょうね…。
![]() |
こんな風になっていたら、矢印に従って街を散歩するなんて楽しくないでしょうね。
あるいは、変わっていて面白い♪ と人気を呼ぶでしょうか?
ひょっとして、もうどこかの街にあるかも知れない。
ところで、マルセル・エメの「Les Contes du chat perché(おにごっこ物語)』の初めてのシリーズが出版されたのは1934年。
それよりも早く、彼は『Les Jumeaux du diable(1928年)』と題された作品も書いていました。題名を訳すと「悪魔の双子」!
ブログ内の関連記事:
★ モンマルトルで出会った彫刻 2005/04/11
★『にんじん』の作者ルナールの家。そして、赤毛とは? 2008/02/08
★ このシリーズ記事の目次: 2011年秋 フランシュ・コンテ地方の旅行
★ 目次: 旅行したときに書いたシリーズ日記のピックアップ
情報リンク(仏語サイト):
☆ ドール市の観光コース地図(PDF)
☆ Mairie de Dole: Le circuit du Chat perché c'est parti !
☆ 猫にまつわる遊び : JEUX DE CHAT
☆ マルセル・エメの経歴
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この記事へのコメント
プレートの猫は 向こうを向いてますから、、
たぶん 先導して道案内するつもりなのでしょうね。。。
ドール市 猫 道案内 で検索していたら
こんな映像がありました。
https://www.youtube.com/watch?v=R_V8TrzqEgc
でも
ドール市に 道案内する猫が過去に
存在したのか 否かは 結局分からなかったのだ(涙)
たぶん 先導して道案内するつもりなのでしょうね。。。
ドール市 猫 道案内 で検索していたら
こんな映像がありました。
https://www.youtube.com/watch?v=R_V8TrzqEgc
でも
ドール市に 道案内する猫が過去に
存在したのか 否かは 結局分からなかったのだ(涙)
2015/10/23 | URL | たかゆき [ 編集 ]
たかゆきさんへ
>プレートの猫は 向こうを向いてますから、、 たぶん 先導して道案内するつもりなのでしょうね。。。
⇒ なるほどと思って他の町のプレートの絵を眺めたら、道案内の方向は三角形で示しているだけに見えました。
http://otium.blog96.fc2.com/blog-entry-1451.html
そう思って眺めると、この猫のプレートも座り込んでしまっているような...。大きなプレートがあるところは、「ここに見るべきものがありますよ」というサインなので、立ち止まってくれていて良いのですけど。
町のシンボルを入れた道案内のプレートを初めに作って流行らせたのはブルゴーニュ地方のディジョン市だったと聞きました。こういうのがあちこちにできてきたのは最近ですね。
ドール市が猫のプレートをつけたオープニングのお祝いは2011年7月にしているので、私はその3カ月もたたない頃に見つけたことになったようです:
http://www.doledujura.fr/c/document_library/get_file?uuid=e52fa54f-28ad-4718-bd92-faa4c79f1d7f&groupId=10136
偶然見つけられた動画。こういうホロリとさせられるお話しに弱い私なので、同じ作者の作品をもう1つ見てみました。泣ける話しを色々作っていらっしゃる方なのですね。実話だと素直に涙を流せるのだけどな...。
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