Arret:共通義務確認訴訟では過失相殺が問題になる事案でも支配性に欠けるものではないとされた事例
消費者裁判手続特例法2条4号所定の共通義務確認の訴えについて同法3条4項にいう「簡易確定手続において対象債権の存否及び内容を適切かつ迅速に判断することが困難であると認めるとき」に該当するとした原審の判断に違法があるとされた事例
事案は、仮想通貨で儲かるという触れ込みの情報商材をネットで販売していたワンメッセージという会社と、その代表者が、(1)仮想通貨バイブルというDVDと(2)VIPクラスという商品を付加したもの、そして(3)パルテノンコースを数千人もの人々に売りつけたというもので、それらは「虚偽又は実際とは著しくかけ離れた誇大な効果を強調した説明」で売却されたのであるから不法行為に該当すると主張し、特定適格消費者団体の消費者機構日本(COJ)が多数の購入者たる消費者に共通する損害賠償義務の存在を確認するよう求める訴えを提起した。
これに対して第一審は、購入した消費者の中には仮想通貨取引に経験のあるものなど投資経験が様々であるので、本件のような虚偽または誇大な効果を強調した説明を信じて金銭を支払うということについて過失がありうるし、その過失の程度は被害者間で様々であるから、簡易確定手続で一律に決めることはできないし、またそもそも説明によって誤信したという因果関係についても様々であって一律に判断できない以上、消費者裁判手続特例法3条4項の要件を満たさないのであり、訴えは不適法であるとした。この判断は控訴審でも支持され、控訴棄却となった。
これに対してCOJが上告受理申立てを行い、受理されて先日弁論が開かれ、本日3/12に判決が言い渡された。
結論は、原判決を破棄し、第一審判決を取り消して事件を一審に差し戻すとの判決である。以下小見出しと改行は町村が施した。
(支配性の要件に関する一般論)
法は、消費者契約に関して相当多数の消費者に生じた財産的被害を集団的に回復するため、共通義務確認訴訟において、事業者がこれらの消費者に対して共通の原因に基づき金銭の支払義務を負うべきことが確認された場合に、当該訴訟の結果を前提として、簡易確定手続において、対象債権の存否及び内容に関し、個々の消費者の個別の事情について審理判断をすることを予定している(2条4号、7号参照)。そうすると、法3条4項により簡易確定手続において対象債権の存否及び内容を適切かつ迅速に判断することが困難であるとして共通義務確認の訴えを却下することができるのは、個々の消費者の対象債権の存否及び内容に関して審理判断をすることが予想される争点の多寡及び内容、当該争点に関する個々の消費者の個別の事情の共通性及び重要性、想定される審理内容等に照らして、消費者ごとに相当程度の審理を要する場合であると解される。
(本件事案における評価)
(1) 過失相殺に関する審理判断について
これを本件についてみると、上告人が主張する被上告人らの不法行為の内容は、被上告人らが本件対象消費者に対して仮想通貨に関し誰でも確実に稼ぐことができる簡単な方法があるなどとして、本件各商品につき虚偽又は実際とは著しくかけ離れた誇大な効果を強調した説明をしてこれらを販売するなどしたというものであるところ、前記事実関係によれば、被上告人らの説明は本件ウェブサイトに掲載された文言や本件動画によって行われたものであるから、本件対象消費者が上記説明を受けて本件各商品を購入したという主要な経緯は共通しているということができる上、その説明から生じ得る誤信の内容も共通しているということができる。
(1-1)そして、本件各商品は、投資対象である仮想通貨の内容等を解説し、又は取引のためのシステム等を提供するものにすぎず、仮想通貨への投資そのものではないことからすれば、過失相殺の審理において、本件対象消費者ごとに仮想通貨への投資を含む投資の知識や経験の有無及び程度を考慮する必要性が高いとはいえない。
(1-2)また、本件対象消費者につき、過失相殺をするかどうか及び仮に過失相殺をするとした場合のその過失の割合が争われたときには、簡易確定手続を行うこととなる裁判所において、適切な審理運営上の工夫を講ずることも考えられる。
これらの事情に照らせば、過失相殺に関して本件対象消費者ごとに相当程度の審理を要するとはいえない。
(2) 因果関係も多様になるという原審判断について
さらに、上記のとおり、本件対象消費者が上記説明を受けて本件各商品を購入したという主要な経緯は共通しているところ、上記説明から生じた誤信に基づき本件対象消費者が本件各商品を購入したと考えることには合理性があることに鑑みれば、本件対象消費者ごとに因果関係の存否に関する事情が様々であるとはいえないから、因果関係に関して本件対象消費者ごとに相当程度の審理を要するとはいえない。
(結論)
以上によれば、過失相殺及び因果関係に関する審理判断を理由として、本件について、法3条4項にいう「簡易確定手続において対象債権の存否及び内容を適切かつ迅速に判断することが困難であると認めるとき」に該当するとした原審の判断には、同項の解釈適用を誤った違法がある。そして、他に予想される当事者の主張等を考慮し、個々の消費者の対象債権の存否及び内容に関して審理判断をすることが予想される争点の多寡及び内容等に照らしても、本件対象消費者ごとに相当程度の審理を要するとはいえない。(以下略)
これに対して林道晴裁判官が補足意見を書いており、その補足意見に宇賀克也裁判官も同調している。この補足意見は、特に上記(1-2)の審理運営上の工夫について補足するものである。
(支配性を判断するには、簡易確定手続のあり方を考慮すべきこと)
同項は、直接的には、簡易確定手続における審理判断の困難性に着目した規定ぶりとなっていることに照らせば、本要件に該当するか否かを判断するに当たっては、簡易確定手続の審理を担当する裁判所が講じ得る審理運営上の工夫を十分考慮に入れる必要がある。
(本件での個別事情審理の工夫-陳述書などの活用)
通常、共通義務確認訴訟の段階では、個々の消費者の個別の事情についてはいまだ明らかでないことが少なくないと思われるものの、本件のように、消費者契約に至る主要な経緯等が客観的な状況等からみて共通しているということができるような場合には、上記経緯等についての個々の消費者の個別の事情に係る争点に関しては、陳述書等の記載内容を工夫することなどにより、簡易確定手続の審理を合理的に行うことができるのではないかと思われる。
(集団訴訟における従来の実務の応用)
また、当事者多数の訴訟において、仮に過失相殺をするとした場合には、当事者(被害者)ごとに存する事情を分析、整理し、一定の範囲で類型化した上で、これに応じて過失の割合を定めるなどの工夫が行われているところであり、同様の工夫は、簡易確定手続においてもなし得るものと考えられる。
(立法趣旨を踏まえろとの指摘)
民事裁判の実務において培われてきたこのような種々の審理運営上の工夫を考慮し、相当多数の消費者に生じた財産的被害を集団的に回復するという法の立法趣旨をも踏まえて、本要件の該当性を判断することが相当であろう。
以上の林裁判官の指摘は、全く同感であり、新しい制度の解釈適用にあたってあるべき姿を指し示したものである。
特に、この過失相殺の可能性が支配性を損なうという指摘は、消費者庁が立法直後に出したQ&Aにも書かれていたものであり、それに引きづられて裁判官も、それから特定適格消費者団体のメンバーさえも、慎重に、というかむしろ萎縮気味に提訴事案選定に当たっていた感じがするし、それが施行後何年も経つのに提訴件数がそれほど伸びず、多数の消費者被害が救済されないままとなっている大きな要因だったのではないかと考えられるので、この判決の波及効は極めて大きいものがあるのではないかと期待することができる。
最高裁にとっては、「勧誘」要件についての杓子定規な解釈を改めさせたことに続く、消費者の権利救済の可能性を大きく広げるものとして高く評価できる判決である。
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