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2024/01/17

Arret:欧州人権裁判所がフランスに対し、破毀院判事3名の利益相反で公正な裁判を受ける権利を侵害したと有責判決

欧州人権裁判所2023年12月14日判決(ジャーナリスト組合連合対フランス)n° 41236/18
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Dalloz Etudiant, Actualitéの2024年1月15日の記事によると、フランス破毀院(最高裁)の判事3名が、長年報酬を得て研修など行ってきた出版社を当事者とする労働紛争について判決に加わったことで、公正な司法の原則を損なったと判断された。

 

 

 発端は、Le Canard Enchaînéが、法律出版社の利益分配に関する紛争で出版社と労働組合とが対立している訴訟の破毀申立審に関与していた破毀院裁判官のうち3名が、その当事者たる法律出版社に定期的に協力を行い、報酬を得て法律関係者向けの研修を実施するなどしていたことを報じた。
 #日本で言えば、文春砲といったところだろう。

 そこで高等法曹評議会CSMに提訴が行われ、CSMはその出版社の主催する研修コースに当該裁判官3人が定期的に報酬を得て関与していたことから、自ら回避すべきであったと結論づけた。

 欧州人権裁判所も、このCSMの検討に同意している。

「裁判官がこの種の行事に参加するだけでは利益相反を構成するのに十分ではなく、裁判官と当事者との間に維持される職務上の関係の規則性、近接性、報酬の性質という3つの累積的な基準を満たす必要がある。」


 欧州人権裁判所は、「特に科学的なイベント、教育活動、出版物を通じて、法律の普及に裁判官が貢献することは、通常の職務の一部であることは認めるが、本件では、特定の裁判官と訴訟当事者の1人との職務上の関係が定期的、緊密であり、報酬を得ていたこと」から、回避すべきことは当然であるとしたのである。
 ちなみに裁判官たちが出版社と協力関係にあったのは13年間に及び、一日1000ユーロ、半日では500から600ユーロの報酬を得ていたとされている。

 かくして、CSMによれば懲戒事由には当たらないとされたが、欧州人権裁判所は回避すべきであったのにしなかったことが公正な裁判を受ける権利の侵害になると判断したわけである。

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日本で問題となってきたケースは、寺西事件では政治的争いとなった通信傍受法の賛否について、反対の立場からのシンポジウムにフロア参加したことが積極的政治活動となるかどうかであり、岡口事件では自ら担当していない事件についての、しかも確定判決を知らしめた裁判所サイトや報道記事についてSNSで多少扇情的な表現で紹介したというものであり、いずれも利益相反、特に報酬を得た関係を一方当事者ともっていたというような問題ではない。

しかし、特に寺西事件では、裁判官が法律専門家として法的意見を明らかにすることが(当該事案では)中立公平に反するとされたわけで、欧州人権裁判所が強調しているように裁判官が学問的な集まりに参加することまでも禁止してしまうのではないかという懸念が生じやすいという点で、ここで紹介したケースと共通するものがある。

報酬を得た参加という点では、日本の裁判所も裁判官も厳格すぎるほどのストイックさを発揮しており、一般的に同じようなことが起きる気遣いはないが、弾劾裁判の過去の歴史を紐解くと、欲に負ける裁判官がいないわけではないし、多少ルーズな裁判官もでてこないとも限らない。それに、例えば判例雑誌のコメントの報酬などは、少なくともかつては結構なお小遣いになると言われていたので、そういう点では微妙な部分も絶無とはいえない。

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