Book:水野浩二『葛藤する法廷---ハイカラ民事訴訟と近代日本』
今年読んだ65冊目は、前から読みたい読みたいと思っていた前任校の同僚の『葛藤する法廷』
明治民訴と大正民訴を法制史的に描いたもので、ドイツ風の明治民訴の「不干渉主義」(処分権主義と弁論主義で釈明権行使は消極的な訴訟指揮)に対する反発の大きさと、さりとて干渉すればそのやり方にはまた不平不満や酷評が来るという姿を法律新聞の記事から浮き彫りにし、その上で大正民訴の立法過程を明らかにするというもの。
私、修論で大正民訴の立法過程から旧民訴法の文書提出命令の立法趣旨を説明したことがあったが、所詮修士課程の学生のやることで、なんとも底の浅い調査と分析であったかと、この本を読んで改めて37年前の自分に赤面する。
明治民訴の条文に、弁論主義(特に第一テーゼ)が書かれていない背景は、本書の206頁以下に、テヒョー草案の初期の案文に明記されていたところ、その後のテヒョー訴訟法規則修正案で消滅していて、その理由を深野達が「これは裁判官の心得というべきもので、日本の裁判官でも今日こういうことは分かっているし、知らない者がいるとしても司法卿の訓示で十分である、ドイツ民訴法でもこのような規定は存在しないので削除した」と説明していることが紹介されている。
この説明者の認識は随分と的を外したものだと思うが、それでも不文の原理として今日まで当然として前提とされ、上記のように不干渉主義に強い反発があってもなお基本としては弁論主義が維持されているのであるから、非常に興味深い。
具体的な問題を左右するポイントは、むしろ釈明権・釈明義務の可能性の範囲なのであろう。
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