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2022/10/28

jugement:コンサート出入り禁止措置の無効確認訴訟

コンサートのいわゆる出禁を言い渡されたのに対して、その無効確認の訴えを提起したという事例があった。

東京地判令和3年10月12日WLJ(令和元年(ワ)33942号)

当然ながら、訴えの利益が問題となる。確認訴訟だけに、原告と被告との間に法的な紛争があり、原告が確認対象とする訴訟物について既判力をもって判断することが原告被告間の紛争の抜本的な解決に有効適切であることと言えるかどうかが問題である。

コンサートの出禁というのが、この事例では、被告がマネージするグループの行うもので、反復継続して行われ、そのグループのファンが比較的小規模な会場でリピーター的に入場しているものであるから、そのファンであれば今後来てくれるなというのはかなりのダメージであろう。

Twitterの中毒患者がアカウント凍結されるようなものかもしれない。

それで、その措置の無効確認訴訟を提起したというのだが、果たして確認の利益は認められるのか? 裁判所は取り上げてくれるのか?

上記の裁判所(金田健児裁判官)は、以下のように判示して、訴えの利益を認めた。

ア 本件措置は、被告が、今後のライブにつき原告の入場を拒否する旨の方針を採用し、これを原告に事前に伝達したというものであって、直接的に法律効果の発生に向けられた行為ではないと解される。
 しかしながら、①原告は、本件グループのライブに従前から継続的に参加していたと認められ、今後も参加又は何らかの形で関与することについて、少なくとも主観的には相当強い意向を有していたことは、前記前提事実及び認定事実に照らし明らかである。②そして、被告が本件措置を原告に通知しただけでなく、ツイッターアカウントで公表したこと(前提事実(2)、認定事実(3))及び被告の開催するライブ等の通常の参加人数及び参加者らが顔の見える関係にあること(前提事実(1)ア)に照らせば、本件措置によって、原告の入場は実際に困難となると解される。
 そうすると、①原告による従前のライブへの参加状況等の被告との関係に照らし、原告の利益・期待につき一定の法的保護を検討する余地があると解され(関連して、比較的小規模なライブへの参加という事柄の性質上、当該ライブへの参加以外の手段検討や他の契約相手方の探索等といった方法により原告の利益・期待が保護されることは考え難い。)、②そして本件措置により原告の入場は現実に事実上困難になり、仮に上記の法的保護が認められる場合にはこれを継続的に侵害する結果になると解される。
 このような点に照らし、本件措置は、原告と被告との間の現在の法律関係と密接に関連し、その前提となるものであって、確認の対象の適格性を認めることのできる法的行為に当たることを肯定し得ると言うべきである。
 イ そして、原告と被告との間では、本件措置の後にも具体的な紛争が生じる状況にあるところ(認定事実(5))、本件措置の効力が確定すれば、少なくとも原告のライブへの入場に関連する紛争については当事者間の法的地位が安定するものと解され、即時確定の利益を認めることができる。
 ウ 以上から、本件の事実関係の下においては、本件措置が無効であるか否かを確定することは、原告と被告との間の紛争を抜本的に解決するために有効かつ適切であって、確認の利益が認められると言うべきである。

 結構な驚きと、よくぞ認めたという感想を持たれるかもしれない。

 もっとも、ライブへの入場というのは、例えば年間通し券みたいなのを購入することで一年間の入場が約束されるという場合でなければ、個々のライブイベントごとに入場契約を締結するのだろうし、その契約を締結するという地位は、会員制サロンでもない限り法的地位と言いうるものではない。

 この判決は、この小規模なライブへの入場が特定のメンバーに限られていたかのようなイメージでとらえているが、初めての一見さんお断りというものだったという認定はないので、事実上そのような事になっていたとしても、その常連さんの地位を法的地位として捉えることも、まして法的保護に値する地位と捉えることも、かなりの無理がある。

 結局、出禁とは、予め特定人について、あなたとは今後、契約しませんと告げる行為に過ぎないのであり、それを法的に無効と言ってみてももともと法的効力は備わっていない行為であり、改めて契約を申し込んだときに承諾が必ずされるということにもならないのであるから、そのような確認判決を求める利益は原告にないというべきなのであろう。

 判決は続けて、出禁無効により契約は強制されないとしても契約上の地位の移転はありうるとか、不法行為責任の問題は生じうると書いているが、確かに親が契約して死んだら子がその地位を承継することはありうる。しかし、出禁が法的効力を有さない事実上の意思表明に過ぎないのであれば、無効と宣言しなくてもそのようにして契約上の地位が移転することは妨げられない。相続ではなく契約上の地位の約定による移転であれば、少なくとも契約相手方の承諾が必要であろう。そして不法行為責任は別途生ずるというのも、出禁が無効と宣言されなくとも同じである。

 なお、この判決は、訴えの利益を認めつつ、結論として請求を棄却している。原告としては、「何だったんだ? ひょっとしてより悪い?」という感じであろう。

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