イタリアの町並みを愛する方、古代ローマ遺跡の一部を普通に部屋の壁に利用していたりすることに憧れる方、その他もろもろ、ある種の人達には、絶対にお薦めするイタリア建築関係の良書です。
すみません、私はただ安かったので購入し、たまたま手元に本がない時に電車で読んだのですが(じゃなきゃ、数年積読コースだったかも?)、正直結構、感動しちゃいましたよ!
つ~か、改めて自分がなんにも知らずにイタリアの街中を歩いていたこと。感性・注意力の無さ、うかつさに赤面する想いです。西欧によくある古き物を尊び、小さな町故に周囲との調和(主に美観)を大切にして古い時代のものと新しい時代のものとを並存させている、その程度の薄っぺらな認識をしていたのですが・・・自分、愚かでしたね、ハイ。
著者は、フィレンツェの設計事務所で実際に古い建物をレスタウロ(再生)する実務に携わりながら、自らの経験したことを踏まえ、自らの気付きと学んだ事を紹介しています。
古ければ古代ローマ時代以来、現代へと連綿として続く歴史を経てきた建物。当然、建てられた当初や途中の時代時代で改修された設計図などがあるはずもなく、まずは、自らの目で確かめて、その建物が経験してきた各時代の『層』を見出していくことから始るそうです。
そして、その層の積み重なりを認識したうえで、更にそのうえに新しい層を重ねていく作業こそが、レスタウロに他ならないんですねぇ~。
日本で新しい建物を立てる時や改修する際の、一定の基準をクリアしていれば、すぐに下りるような許可とは異なり、イタリアでは、その建物の歴史的な位置付けを把握したうえで、更に街区や町として、周囲との調和を考慮して総合的に判断されるそうで、そりゃ許可下りるのに膨大なエネルギーと時間を費やさねばならず、いやあ~ちょっとやそっとの覚悟では、マネできないですね。
もっともだからこそ、あの町並みが偶然ではなく、あるべくして存在していることを初めて痛感致しました!
広場や街区のことなども、町歩きをしていた時に漠然とは気になっていたのですが、本書を読んで改めてその必然性と存在意義を理解しました。もう、本当に勉強になります!
そうそう、ヨーロッパ建築と言えば、ファサードなんですが、本書でもフィレンツェ駅の裏(?)のサンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂とか採り上げられています。
私も初めてアレを観た時に立派で思わず写真を撮った後に、なんか建物と比較していささか浮いてるなあ~って感じたことを思い出しました。見た目が映えることを認めつつも、建物を立派に見せるだけの、いささか陳腐なこけおどし的な感想さえ抱いたものでした。
あ~、モノを知らないとはいえ、恥ずかしいです私。
本書を読んでファサードの有する本来の意味を、これも初めて知りました。そもそもファサードは、建築的に建物とは全く別物として考慮され、設計・建築されるというのも驚きでした。
原義は「顔(face)」から来ているのは、なるほどと思いましたが、ファサードは聖堂に属しているだけではなく、そこが前面の広場に所属し、まさに都市空間における顔として機能しているなんて・・・・。
ファサードが広場の良し悪しを決定づける要因なんて、思いもよりませんでした。うかつだ!
広場に向いたすべての建物の顔のうち、最も美しく威厳のある顔が望まれるのが聖堂なんだって。う~む。
あとローマのスペイン階段。
私はパニーニかじりながら、コークで流し込みつつ、信号無視してたのを思い出しましたが・・・どんなジャポネだ(苦笑)。
空間認識や人々の視点を意識さえしてなかったもんなあ~。まあ、あれは初めてのローマだったし、余裕無かったので仕方なかったこともあるのだけれど・・・。もったいなかったかな?
他にも本書で目を開かされる知見が多かったのですが、別荘についての考え方も非常に感銘を受けました!! 先日、中古マンションを購入してリフォーム、なんて本を読んだこともあるのだけれど・・・ね。
崩れかけたような廃屋を非常に安く借り、自分で材料と労働力を提供してそれを修復して別荘にする。貸主もただ朽ち果てるよりは、タダ同然に安い値で貸して、まともに住めるぐらいにしてもらえるなら、願ったり&叶ったり。まさにWIN&WINの関係って奴です。
幼少の頃に「大草原の小さな家」とか「コロボックル」とかの本を読んで育った私と致しましては、人が設計し、作った家をそのまま受容するのは、やっぱりいささか腑に落ちない点もあったんですよ。実際。
本書を読んで改めて強烈に自分で作りたい!と思っちゃいましたよ。実際にできるかどうかは分かりませんが、やっぱり自分の手で家を作りたいですね。土地があれば、まずは物置とか小物を作って、経験値を積み上げたいところです。
建築の本、読んで勉強しようかな?
つまらん資格試験の勉強よりは、はるかに面白そうだしね。友人で大学院の建築学科出た奴に、聞いてみよっと。ウィルトルウィルスの本で、建築学の基礎を基礎を学ぶ、とか・・・楽しそう♪(笑)
上記以外にも、中世都市としての発展等、本書は実に盛りだくさんで刺激と知見に満ちています。定価でも惜しくないです。興味あるなら、読むべきでしょう♪
「JT○」とか「地球の歩き○」とか、あんなレベルの観光ガイド本では絶対に味わえない、本当の旅行の楽しみ、街歩きの楽しみを学べます。(もっとも私も観光ガイド本、よく読むんだけれどね)
いやあ~これだから、本との出合いはワクワクしますね。
滅多にないけど、こうした凄い価値観の変革を迫るような本と出合えることもあるんですから。
ディープなイタリア(建築、街並み)好きには、お薦めです。本書を読んで世界遺産を巡れば、得られるところは無限大かと(笑顔)。
【目次】
第一章 イタリア都市の連続性と持続性
1. ロンドンからフィレンツェへ
2. 連続する空間の形成
3. 視覚化された時間の形成
4. 歴史に建築を組み込む職能
5. 再生の理念と実践
第二章 舞台としてのイタリア都市
1. 劇場空間と都市空間
2. 表層の自立
3. 建築と都市の床面
4. 虚構と現実の階段
5. ヴィラとランドスケープ
第三章 イタリアの都市と田園の生活
1. 世帯境界と街路
2. 都市住宅の現実
3. 歴史的都市に住む
4. 田園に潜める
5. 別荘と田園生活
第四章 イタリア中世都市というテクスト
1. 中世都市の起源と形成
2. 中世都市の形態学
3. 中世都市フィレンツェの形成
4. 中世都市ピサの形成
5. 中世都市シエナの形成
第五章 トスカーナ小都市という鏡
1. 歴史的風景と丘上都市
2. 中世都市へのルネサンスの介入
3. メディチ家が落とす影
4. 小都市の類型化
5. 小都市と地域の形成
あとがき
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