2008年06月02日

「悪魔の霊酒」上・下 エルンスト・テーオドール・アマデーウス ホフマン 筑摩書房

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聖遺物がきっかけで、人としての道を踏み外した修道士の巡る数奇な運命。悪魔による様々な誘惑にそそのかされた後に改悛し、元の修道士になった人物が、その人生を手記として残したものを元にしたという形式でつづられる小説です。

主人公は、幼くして父の罪業を消滅させんとしてカプチン会に入り、優れた美徳と天与の才から、将来の修道院長とまで期待される修道士であり、卓越した説教師でもあったのだが、信頼される人物として任された仕事の聖遺物の管理があったのが最初のつまずきの元となった。

その修道院は多数の聖遺物を所有するが、中でも一番本物らしく、それでいて危険なものに、あの聖アントニウスを誘惑せんと悪魔がもたらした霊酒(エリクサー)があった。

主人公は、なんとも芳しい香りと悪魔ならではの誘惑(?)に負けてつい、その液体を飲んでしまう。彼は、そうして先祖伝来の『業』とでもいうべきものを残らず引継ぎ、更に血によっていよいよ濃厚となる悪徳や涜神行為に染まっていくのであった。

聖遺物がきっかけとなるものの、複雑な自我や宗教観がなんとも惹き付けられる! また、俗世の欲望にこれ以上ないくらい素直なくせに、人一倍神をものともしない自己の行為に絶望感覚えるところなど、とてもではないが合理性では割り切れない、しかし、人間らしい感情に強い共感を覚えて止まない。

現代もてはやされる合理的思考やら、ロジカル・シンキングなんて子供の戯言とは一線を画し、より強烈な人間の思考(つ~か想い)をいやってほど、表現しています。

これこそ、まさに『浪漫』チックな作品ではないだろうか? 血縁関係のドロドロ具合も横溝正史に負けません! 思わず「マンク」をイメージしていたが、後書きを見ると、やはり本作品に影響を与えているらしい。さもありなん。

また、しばし見られる道化の髪結いがこれまた、哲学的で我知らず考えさせられてしまうんですよ~。熱情と理性の狭間。是非是非、本書で味わってみるのも素敵だと思います。

でも、今風の小説に慣れた人だとこの面白さを感じ取れないかも? 自分が自分が・・・的な発想しかできない人には、伝わらない可能性がある作品です。

でも、心ある人ならば、本書は読むに値する小説だと思います。私は大好きな作品でした(満面の笑み)。

悪魔の霊酒〈上〉 (ちくま文庫)(amazonリンク)
悪魔の霊酒〈下〉 (ちくま文庫)(amazonリンク)
ラベル:小説 書評 聖遺物
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2008年05月15日

「怪奇礼讃」E・F・ベンスン他  東京創元社

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しかし、この手の怪奇小説っていうのは、短編ながらも大概、読み応えがあって、独特の感慨を抱かせる素敵な読み物なのだが・・・本書はこのジャンルにしては、珍しくつまらない。

創元推理は、このジャンルでは定評があり、良質の作品が多いのだが、よくもまあ、これほど何にも印象に残らない作品ばかりを集めたものだと別な意味で感心してしまうほど、ヒドイ!

「まえがき」でさも上等な選ばれしセンスのある読者、な~んて感じで持ち上げながら、こんな作品を読ませるとは編者のセンスに大いなる疑問(?)を禁じ得ない。

平井呈一氏の爪の垢でも、マジ飲んで出直して欲しい!! 別に正統派の古めかしいのに飽きたとか、ひぬくれてみたとかいう編者の戯言も結構。ただ、「読者が面白いと思えば」というのが最低の条件。それをクリアできないうちに、身の程知らずのことは慎むべきでしょう。

とにかく怖いとも思わないし、不思議な感覚に陥る事も全く無いです。あまりにも普通の文章を、どうでも良い訳で読まされてもなめんなよとしか言えません。これを小説というのはおこがましい感じすらします。現在全体の4分の3まで我慢して読んだけど、いい加減勘弁して欲しい。

好きだった作家が、こんなにつまらない作品書いてたの?って、かえって嫌いになりそうです。ブラックウッドやダンセイニって、こんな駄目駄目じゃないはずなんですけど・・・・。

全ての怪奇小説好きに、間違ってもお薦めしない本です。残りの作品も気になるんだけど時間の方が惜しいので読むのをやめるべきか悩んでいます。
【目次】
塔(マーガニタ・ラスキ)
失われた子供たちの谷(ウィリアム・ホープ・ホジスン)
よそ者(ヒュー・マクダーミッド)
跫音(E.F.ベンスン)
ばあやの話(H.R.ウェイクフィールド)
祖父さんの家で(ダイラン・トマス)
メアリー・アンセル(マーティン・アームストロング)
「悪魔の館」奇譚(ローザ・マルホランド)
谷間の幽霊(ロード・ダンセイニ)
囁く者(アルジャナン・ブラックウッド)
地獄への旅(ジェイムズ・ホッグ)
二時半ちょうどに(マージョリー・ボウエン)
今日と明日のはざまで(A.M.バレイジ)
髪(A.J.アラン)
溺れた婦人(エイドリアン・アリントン)
「ジョン・グラドウィンが言うには」(オリヴァー・オニオンズ)
死は素敵な別れ(S.ベアリング=グールド)
昔馴染みの島(メアリ・エリザベス・ブラッドン)
オリヴァー・カーマイクル氏(エイミアス・ノースコート)
死は共に在り(メアリ・コルモンダリー)
ある幽霊の回顧録(G.W.ストーニア)
のど斬り農場(J.D.ベリスフォード)
怪奇礼讃 (創元推理文庫)(amazonリンク)

ブログ内関連記事
「魔法使いの弟子」ロード ダンセイニ 早川書房
「妖怪博士ジョン・サイレンス」アルジャノン ブラックウッド 角川書店
ラベル:小説 怪談 書評 怪奇
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2008年04月09日

「ガルガンチュア―ガルガンチュアとパンタグリュエル」フランソワ ラブレー 筑摩書房

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書名はかなりの人が知っていても、読んだことがあるという人を滅多に聞かない古典。本書もまさにそういうものの一つではないかと思います。

私も知ってはいてもあまり読む気がなかったのですが、先日読んだ本「チャップ・ブックの世界」などで出てきていたので、気になってしまい、ついつい手に取った次第です。

amazonの書評を見ると、新旧の訳の違いが好対照で興味深い感じですが、私はこの訳でしか読んだことがないので普通に気付いた点などを挙げていきますね。

とにかく読み易い。表面的な字面で見る限り、児童文学並みの読み易さ&口語体、というか卑俗で猥雑な文章です。一言でいうと、下品な言葉がポンポン出てきます。

訳者が意図して原文の味わいを出そうとしているのでしょうが、人によっては嫌いな人がいるかもしれませんね。私的には、全然OKです。

基本、ジャックと豆の木みたいなノリの昔話みたいなもんです。最初は私全然面白くなかったんですが、読み進めていくうちに痛烈な社会批判ありの、冒険活劇ありので結構楽しめました。

戦闘シーンは、なかなか豪快で映画化したら、ほぼ間違いなくスプラッター映画になりかねないほど、エグくて残酷ですが、まあ、大衆の読み物なんてそういったモノでしょう。陳腐でどぎつくて刺激的でないと受けませんから。

とはいうものの、一見すると低俗なだけだと思ってしまいますが、どうして&どうして、文章のあちらこちらでパロディーや掛詞のようになっている台詞を見ると、実はかなりの教養が無いと完全には楽しめないのではないかと思います。

そもそも著者が修道士から医者になったインテリですし、それが散々世相を皮肉って、諧謔趣味に満ち満ちた文章を書いているのですから、当然と言えば当然ですね。

当時の常識を差っ引いても、ギリシアやローマ古典を踏まえた記述やスコラ哲学などをさりげなく踏まえてのパロディーとかは、ハードルが高いです。本書の中では訳注で解説してくれているので少しは分かるのですが、説明されても知らないことが実に多いです。

でも分かる範囲で「注」も実に面白く、むしろそちらを徹底的に調べたくなりますね。さすがにそこまでの情熱が無い私ですが・・・(口先だけのヤツです)。

確かに、教会やパリ大学の神学部をあれだけこき下ろしたら、大衆受けはするものの、異端の書として神学部から目を付けられるのも納得です。

いつの時代でも面白いものは、お上から睨まれてしまうものですから!

いきなり本書だけ読んで面白いと言えるほど、私は教養がありませんが、少しだけでも当時の社会や時代背景などを理解できる人ならば、楽しめるかもしれません。単純な物語以上に、奥が深い作品でした。

さて、続きも読もうかな。

ガルガンチュア―ガルガンチュアとパンタグリュエル(amazonリンク)

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「チャップ・ブックの世界」小林 章夫 講談社
ラベル:古典 小説 書評
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2008年04月06日

「ジョン・ランプリエールの辞書」ローレンス・ノーフォーク 東京創元社

読破するのに、思いっきり時間がかかります。ほぼ2週間かかりました。読んでいると、面白くなりそうな予感というか、予兆がちらほら垣間見えてきっと面白くなるのでは? そんな期待感だけに励まされて最後まで読破してしまいました。

しかし、結論から言えば、全然面白くなかったです。

最後に基本部分の謎解きはしっかりとされるのですが、その部分は大して面白くもないです。そこにいたる部分まで、東インド会社の大株主とか、その富の9分の1とか、カバラやら、さんざん思わせぶりに振っておきながら、アレレ?! っていうのが私の感想です。

また、相当予備知識がないととりとめもないような(意味があるような?)描写が全く理解できません。私は、恥ずかしながら教養が無いせいか意味不明部分が頻出しました。そして、その描写が小説としてどのような効果があるのかも不明です。

というか・・・それらの予備知識を十分に持っている人なら、原書で読むべきでしょう! また、原書でそれらの本を読んで理解できるレベルでないと日本語訳になっててもとうてい太刀打ちできないような気がします。

そそる雰囲気はあるのですが、どうしてもそれにふさわしい中身のある小説だと思えません。『辞書』の本当の意味もくだらなかったし・・・、もったいつけ過ぎでしょう。西洋の古典知識を知っていると楽しめるのでしょうか? 

おそらく日本人の9割9分くらいは、読者対象外だと思いますけど・・・。いくらアメリカ版でも全然分からないんですが・・・???

すっごい不毛な時間を費やしてしまった気がしてなりません。歴史小説とか、バロック小説とかコメントがついていたような気がしますが、私的には、どうやったらそんな風に捉えられるのか非常に疑問です。

これを文庫本で出す創元社もすごいですが、絶対に売れないと思うんですけど・・・訳者はともかく編集者は会社をつぶす気なのだろうか、英断というよりは暴挙としか思えないのですけど。

ジョン・ランプリエールの辞書 (上) (amazonリンク)
ジョン・ランプリエールの辞書 (下) (amazonリンク)
ラベル:小説 歴史
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2008年01月20日

「災いの古書」ジョン・ダニング 早川書房

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古書を巡るミステリー小説で人気のシリーズ物、第四作目に当たる作品です。

これまでのシリーズ物で披露された古書にまつわる知識は、本書に限っていうならば、その役割を大幅に縮小している感じです。単純にいうとその部分はあまり面白いとは言えない。

でも、「著者サイン本」という形でメインストーリーにはきっちり組み込まれてはいますので、本に関するミステリー小説としては、体裁を保っていると思います。

小説として面白いかと言われれば、ちょっとためらいがあるものの、確かに面白いし、事実、読書中は夢中になって頁を追っていたし、最後の最後まで話の展開を引っ張って飽きるどころか、きっちり盛り上げていく手腕は素晴らしいと思います。

その一方で、本書で描かれる世界はアメリカに普通にありそうなのは分かるのですが、正直反吐(へど)が出るほど、嫌な日常世界です。私は大嫌い!!

映画ランボーの第一作目のような偏狭で傲慢でしかも自らを「正義」と勘違いしている小役人や、本当に罪の無い子供たちが虐待する大人なんて速攻、抹殺でいいのではと強く思います。

本書を読んでいて、前半はほとんど憤りと嫌悪感を通り越した不快感でいっぱいになりながら、読み進めてました。それでも、読書を放棄させず読み続けさせるのが作家の類い稀な力量なのかもしれません。

不満はあっても、実際読書をやめずに続けさせたんですからネ。

さて、内容はというと。
恋人の依頼で、かつての警官としての経験を買われ、事件に巻き込まれていく古書店主である主人公。恋人のかつての女友達が殺人事件の容疑者になっており、何故か殺されたその人の夫は、微妙に価値のあるサイン本を大量に所有していたりする。

余所者を嫌う保安官代理。協力的でない容疑者である女友達。

あまりの閉塞感にここは自由の国アメリカの話とは、嘘でも信じたくなくなるような世界です。まるでCBSニュースの事件報道のようで気持ちが鬱になります。

そういうところでの裁判が中心になります。一部法廷劇っぽいが、あくまでも一部でむしろハードボイルドっぽいかもしれません。



【※ 以下、直接的なネタバレはありませんが、微妙にかすっていくので読了後に読むことをお薦めします。】













最後の方は、だんだんミステリーらしく盛り上げていき、途中伏線も無しで「そういうのアリ?」とか思うのもあったのですが、正統派っぽい感じでそれなりに納得させて終わります。

きちんと結末をつけて収束させているのでOKですが、前半部というかストーリーのほとんどをいらだたせつつ、読者を引っ張る(=注意を集める)のもまあ最後につながるところではあるのですが、う~ん、好きとは言えないです、私には。

アメリカ社会へのいらだち面へと関心がいってしって、素直にフィクションと楽しめなくなりそうだったんです。なんだかなあ~、確かにヒーローっぽくいささか偏った形での正義感の発露は、いいような悪いような、複雑な感情を残します。

決してミステリーとして悪いなんてことはなく、面白いと言えば面白いのですが、後に残った不快感が辛いなあ~。個人的には、お薦めしたくない本です。これは人によって個人差があるので、読もうか否かを悩まれているなら、他の方の書評も読まれた方がいいかも?

災いの古書(amazonリンク)

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「死の蔵書」ジョン ダニング 早川書房
「封印された数字」ジョン ダニング 早川書房
「幻の特装本」ジョン ダニング 早川書房
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2007年12月08日

「魔法使いの弟子」ロード ダンセイニ 早川書房

確か、荒俣氏によるダンセイニの翻訳は、相当昔に読んだことがあり、本書もおそらく読んだような気がします。でも、漠然とした記憶ではそんなに面白くなかったはずなんですけど・・・。

文庫は段ボールの奥にしまわれていて、所有しているかどうか、とても開けて調べる気にならなかったのですが、古書店で見かけたら面白そうでつい買ってしまいました。(重複して持ってる可能性大)

で、読んでみると、面白いです! こんなに面白いとは思ってもみなかった。いやあ~なんか思惑と違って騙されたかと思うぐらい、魅力的なファンタジーとなっています。

タニス・リーにも十分匹敵するんじゃないでしょうか? 

ストーリー的には定番中の定番であり、魔法使い有り、妖精有り、錬金術有り、恋愛有り、騎士道有り、で、影無し。

当ブログの筆名たる alice-room には、まさにうってつけのファンタジーでしょう(笑顔)。

とある地方領主の息子がお家存続の為、卑しいながらも必要な『黄金』を得る為、父に頼まれて魔法使いへ弟子入りします。そこで錬金術を学んでくるように言われているのですが、そうは問屋が卸さないということになります。

若者は様々な経験をし、冒険を経て・・・めでたし&めでたしとなります。

こう書くと単純ですが、あの荒俣氏が最近のようにTVに出るのに慣れてしまい、すっかりお茶間御用達の文化人になる以前の真面目な英米文学翻訳家だった頃の作品ですので、いい意味で情熱がこもっていてお薦めです。

クリスマス・プレゼント向きかも? この本にお金かけて(or 手間かけて)オリジナルの装丁とかしたら、絶対に素敵なプレゼントですよ~♪

今年読んだファンタジーの中では、一番良かったです。

なお、現在、早川書房の方は絶版みたいで代わりにちくま文庫で出ているようです。

魔法使いの弟子 (ちくま文庫)(amazonリンク)

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「闇の公子」タニス・リー 早川書房
「エンデュミオン・スプリング」マシュー・スケルトン 新潮社
「奇術師」クリストファー・プリースト 早川書房 
「バーティミアスII ゴーレムの眼」理論社
「幻魔の虜囚」タニス・リー 早川書房
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2007年11月28日

「マギの聖骨」ジェームズ・ロリンズ 竹書房

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いやあ~「ダ・ヴィンチ・コード」を読んで以来、この手のものはそれこそ山のように読んできましたが、大概のものは期待外れでした。しかし、本書だけは、久しぶりに心の底から面白かったです!! コレ、本年最後の一押し(たぶん・・・)。

「ダ・ヴィンチ・コード」を読んで面白いと思った方には、是非&是非薦めたい一冊。

いやあ~、これぞアメリカの小説って感じで、いろんなものを吹っ飛ばして爆破しちゃうのが凄いです。ゴジラが東京タワー壊したり、キングコングがエンパイアーステートビルに登るなんてメじゃないです。ランボーよか凶暴つ~か、極悪非道のモノを壊しちゃいます。ラングドンも真っ青でしょう♪

私もビックリしましたよ~、あれ爆破すんのかよ~って!

しかも次から次へと出てくるほとんどSFのノリには、かなり異様なというか・・・空想科学小説入ってません?(イイ意味で)

とにかく、いろんな知識がこれでもかというぐらいに詰め込まれていて、それがきちんと有機的に関連してストーリーを作っているのは、一読に値します。

お約束の暗号解読なども、ベタであっても基本がしっかりしているのでそれがやっぱり楽しいかったりしますしね。

でもね、全米で100万部突破とかというけど、日本人にこれって理解できるのか正直微妙・・・。勿論、ダ・ヴィンチ・コードのようにそれなりに解説をしながら、謎解きが進んではいくのですが、かなり読者に求められる要求水準が高い(!)感じがします。

それに本書は、キリスト教や錬金術等々の知識だけではなく、最新の科学知識がふんだんに盛り込まれていて、実は私の場合、科学(&化学)関係の説明が本当にどれくらい正しいのか全然分かりませんでした。う~ん、勉強不足だあ(涙)。

まあ、キリスト教や歴史、グノーシス系の話などはだいたい知っていたし、元ネタ分かるんで問題無いですが、私の知っている範囲では結構、調べたうえで著者書いてるなあ~というのが感じられました。恐らく科学関係の記述もそうだと思います。

冒頭の「事実どうとか、実在の~」というくだりは、まんま「ダ・ヴィンチ・コード」とパクリかよ~とか思ってしまいますし、最初の部分はあんまり面白そうでなかったりするのですが、少し読めば、きっとこの面白さを実感できると思います。まずは我慢して少し読んでみて下さいね!

書くとネタバレになってしまうことが、たくさんあり過ぎて書きたいことの10分の1も書けませんが、とにかくこれは読む価値のある小説だと思います。

ざっと粗筋だけ述べると。
ケルン大聖堂で大事件が起こります。その事件で狙われたのは東方の三博士で有名な『マギの遺骨』(聖遺物)。それを巡って、バチカンとアメリカ機密組織の合同チームが、歴史の闇に隠れてきた秘密結社との間で死闘を繰り広げます。その過程で明らかになっていく、世界の命運を握る『秘密』とは・・・?

文章の上手さでは、どうしても「ダ・ヴィンチ・コード」に負けますが、情報量というか知識水準ではこちらが確実に勝ってます。あとアクションかな?

きっと物知りな方なら、きっと本書内の何気ない文章にも「ああっ、あれのことね」とか「あの本の話ね」と大いに共感を持って読めると思います。そうなると、楽しくってしょうがなくなること間違い無しです。逆に説明を読んですぐピンとこないと面白さが半減するかもしれません?

とにかく膨大なネタが詰まってますので、是非それらを堪能して下さい。うちのブログでも本書に関する関連書だけで数十冊以上ありそうですが、書いたらネタバレになるのであえて挙げません。う~書きたい・・・けど。

とにかく小説読むなら、最近では本書が一番のお薦めです!! 久しぶりに本当に楽しかった♪

マギの聖骨 (上)(amazonリンク)
マギの聖骨(下)(amazonリンク)
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2007年11月25日

「聖ペテロの遺言」A.M. カバル サンケイ出版

え~っと、またまたベタなキリスト教絡みの海外小説です。謎解き要素は一切ありません。ただひたすらアクションシーン&残虐シーンの連続で登場人物がバタバタ死んでいく、そういう小説です。

冒頭すぐに明らかになるので書きますが、今回争いの元になるのは、コプト教の寺院に伝わる古写本で、それは聖ペテロの最後の言葉でそうです。それによって、聖ペテロの遺体がある場所がローマでなくなくってしまい、バチカンの権威が失墜するので、それを防ぐ為にバチカン側が無かったことにしようと画策します。

と同時に、発見されたのがそれぞれの政治勢力が陰謀を巡らす複雑な政治環境のエジプト。ここが舞台となり、CIAや政府関係者、大富豪、地元の有力者が入り乱れて、発見物を奪い合い、写本の発見者であるイギリス人考古学者が巻き込まれていきます。

写本自体は、単なるネタでほとんど何の意味もない、ただゲームの賞品の位置付けですのでどちらかと言うと、中東の政治情勢とキリスト教に関する知識がないとそもそもこの環境が理解できないし、関心も湧かないかも?

もっとも環境は面白そうだけど、写本取りゲーム以上のストーリー展開はありません。登場人物の登場意義が分からないまま死んでくし・・・かなり痛々しい主人公がちょっとパス。

私はお薦めしませんね。

著者はインド生まれのインド人だが、子供の頃からイギリスで暮らしていてオックスフォードのトリニティー・カレッジの出身。だからかな?この陰謀好きなところは。主人公自体はスパイじゃないんだけど、ノリはほとんどスパイ系小説ですね。

中近東だけでなく、アジアもそうだし、中南米なんかも本書で描かれるようなノリですね。正義はお金で買えるものでしょう、って。

聖ペテロの遺言(amazonリンク)
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2007年11月20日

「死者の季節」上下 デヴィッド・ヒューソン ランダムハウス講談社

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バチカン図書館内での殺人事件。人の生皮が剥ぎ取られ、「聖バルトロメオ」を象徴した猟奇事件。そりゃ、誰だって「ダ・ヴィンチ・コード」を連想し、あの手の小説を想像するでしょう。実際、私もそれを期待しつつ読んだクチです。

結論から言うと、本書はそういった類いの小説とは全く異なり、一切ダ・ヴィンチ・コード系とは無縁の小説です。訳者か著者だったかな?どちらかの言葉を借りると、純然たる警察小説だそうです。

うん、私もそう思います。バチカンは舞台として使われていますが、本書のポイントは、むしろ人間の「情愛」というか人間性に関わる心情を描いた小説でしょう。推理小説的な面白みや、薀蓄的な面白さはあまり期待できません。

その一方で、上巻についてはバチカンにまつわる事実を知っているとそれだけで惹き込まれるだけの魅力があります。例えば、ロベルト・カルビやマルチンスク枢機卿、こういった固有名詞が頭に浮かぶ人ならば、ニヤリとしながら読んでいけるでしょう。本書に出てくる登場人物は、明らかに現実の人物がモデルになっています。

しかし、そういったことがすぐ頭に浮かぶ人でなく、単純な小説として読もうとするとちょっとつまんないかも? 上巻の時点で。登場人物のの女性についても、いささかの嫌悪感を抱かずには読んでいけないだろうし・・・。

下巻に入ると、状況は様変わりしていきます。いつのまにか、人間関係の複雑さを描く人間ドラマになったりする。上巻で覚えていた不快感は下巻では消えて別なものになり、アイデアは面白いんだけど、結末はかなり微妙。

私的には、人の心に関する読み物として面白かったけど、通常の小説とはちょっと違う感じですね。たぶん、あまり受けない作品かもしれません。歪んではいてもそれなりに巧みに人の心の揺れ動きを描写していて、うまいんだけどね。

普通の小説(推理小説など)を期待するならば、読むべきではない小説かと思います。

死者の季節 上巻(amazonリンク)
死者の季節 下巻(amazonリンク)

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2007年11月14日

「殉教者聖ペテロの会」ジョン ソール 東京創元社

読み始めるまで本書がホラーだとは思いませんでした。解説にはモダン・ホラーというのですけど、読了後もホラーという感じではないかも?

ただ、非常に不可思議などよ~んとくすぶった重々しい感じが最初から最後まで全編を通して一貫して漂っています。なんか、異様な感じに囚われることだけは間違い無しです。

これはこれで強烈なスタイル(文体)を持った作家さんであることが分かります。少女達が次々と死んでいくのですが、謎解きはあるものの、どうにも私にはよく分かりませんでした。決して悪い意味ではないです。むしろ、不可思議な感覚が永劫に続いていくようで、かえってじわりじわりと響いてくる違和感というか、恐怖感があります。

すっきりと納得がいかないままに本は終わるのですが、どうにも生理的に異様な感覚が読後感として後引くカンジですね。

確かにそういう意味では現代的かもしれませんが、基本がしっかりしているのでうわべだけで全然怖くない最近のものとは違うから、読むだけの価値はあるように感じます。

設定としては、田舎の閉鎖された空間である地方が舞台。住民が未だにカトリック的な慣習に支配されている地域。そんな場所にあるカトリック系の学校に聖職者になることをやめて心理学の教師になった人物が赴任してくる。それから次々と連続自殺事件が起こり始める。

当然、疑われる余所者(よそもの)とそもそも彼をここに招聘した修道院長(兼、学校のトップ)の複雑で微妙な関係。修道院長が開く集会「殉教者聖ペテロの会」なるものとは?

分量が相当あるので秋の夜長に読むのもいいかも? 気になって眠れなくなりそうですけどね。途中でも、読み終わっても・・・。

殉教者聖ペテロの会(amazonリンク)
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2007年11月09日

「封印された数字」ジョン ダニング 早川書房

これは、本来翻訳すべき小説ではなかったんだろうと思います。著者のジョン・ダニングの人気が高まっていたのでとにかくこの作家の本なら、読者が内容も考えずに買うだろう・・・そういう狙いで翻訳されて出版されたのでは?と私はあえて下種の勘繰りをしたい気分です。

古書を主題にした他の作品とテイストが全く異なるのは別に問題ではないのですが、端的につまらないのです。グダグダした個人の家庭内の出来事が書かれている時点で、かなり切れそうになりつつ我慢してみましたが、どんどんつまらなさが増してきてついに私のリミッターを切ったので、読書途中で止めました。

私的には完全に時間の無駄という判断です。中止したのは40頁に達する前だし、最後までざっと内容を拾ってもみましたが、やっぱりもう読む気にはなれません。そういう意味で内容を読んだうえでの書評ではありません。ご注意下さい。

あえて、私的なメモとすると、著書の最初の本であったこの本が売れないのは、まさにその事実こそが内容を物語っています。そもそも何について語り本なのかがまず分かりませんし、文体も嫌い。

不幸中の幸いは、私がこの著者の作品のうち、本書を最初に読まなかったことかな。もし、そうだったら、一生この作者の本は手に取らなかったことでしょう。

以上。

封印された数字(amazonリンク)

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2007年11月07日

「エンデュミオン・スプリング」マシュー・スケルトン 新潮社

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世界の全ての叡智が書かれていて、世界を危険に晒す力を持った謎めいたいにしえの書『最後の書』を巡る物語。これがジュブナイル作品だとは、私には信じられません。大人が読んでも十分に鑑賞に耐え得る内容を持った作品だと思います。

最近読んだ本に関する小説としては、これが一番だと思います。ジョン・ダニングの作品よりは、私はこちらを高く評価しますね。

だって、ここに描かれる英国(オックスフォード)の図書館がなんとも魅力的。貴重な写本やインキュナブラ、稀稿本に囲まれた中世以来の『知』の殿堂。これは、本好きにはたまりません! そういったものに囲まれた至福の空間を是非味わいたいものです。普通に描かれている舞台の図書館や蔵書票協会などがいちいち羨まし過ぎ。

また、現代と並行して描かれるグーテンベルクの世界。私も何冊かグーテンベルク関係の本は読んでいて知っているだけに、より一層の興味をそそられます。

確かに主人公が少年であり、ジュブナイルらしいところも多々ありますが、本質的な意味でそんなこと気にならないくらい面白いです。まあ、ネバーエンディングストーリーみたいな部分もありますが、あれと比べたら、こちらははるかに硬派です。

ジャンル分けするとファンタジーになるかもしれませんが、極上のファンタジーだと思います。とにかく本好きの人にはお薦めしたい小説です。しっかし、いいなあ~。やっぱり本に囲まれて勉強するなら、アメリカではなく、イギリスだよね。うっ、お金に余裕があれば、永遠に図書館に籠もっていたいかも?

最近、書庫に入ったことないなあ~。あの独特の感覚って、経験しないと分からないけど、くせになりますよね。書庫で本を探していると、時間の感覚が一切無くなってくるし、ある種の異界ですねぇ~。本書ではそういったものも含めて描かれていて、ドキドキしてしまいます(ウットリ)。

あ~、印刷博物館にまた行きたくなってきた。

【追記】
ワーナー・ブラザースで映画化が決定しているそうです。よし!これは映画館で見ようっと♪

新潮社の関連情報サイト
【新潮社サイトより転載】
過去、現在、未来、全ての知識が詰まった本『最後の書(ラスト・ブック)』をめぐり、オックスフォードの図書館で始まる大冒険。全世界17カ国で翻訳される話題のファンタジーがついに登場! 全世界の〈本と活字と図書館〉で育った人たちへ──。
ワーナー・ブラザースで映画化決定!

過去、現在、未来のすべての知識が詰まった全知の本『最後の書(ラスト・ブック)』をめぐる物語。この本を手にした者は全世界を支配できる。もし悪人の手に渡ったら、世界は破滅への道をたどることだろう。ただし、その本のページは、空白でなにも書いてなく、選ばれし者しか読むことができない。──グーテンベルクをはじめ、歴史上の人物も登場させ、印刷術の話などもおりこみ、主人公の現代の少年が追跡者の影に怯えながらも、本の謎を解明していく。──『エンデュミオン・スプリング』は1450年代のドイツと現代のオックスフォードを舞台にした歴史サスペンスタッチになっています。
エンデュミオン・スプリング(amazonリンク)

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「コーデックス」レヴ グロスマン ソニーマガジンズ
「謎の蔵書票」ロス キング 早川書房
「呪のデュマ倶楽部」アルトゥーロ ペレス・レベルテ 集英社
「グーテンベルクの時代」ジョン マン 原書房
「グーテンベルクの謎」高宮利行 岩波書店
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2007年11月04日

「幻の特装本」ジョン ダニング 早川書房

古書を巡る殺人事件を描いたシリーズ物の二巻目に当たります。前回のような暴力シーンは減ったものの、やっぱりアメリカのベストセラー小説なんでしょうね。SEXとバイオレンスは必須みたいです。

私的には、そういったしょうもない付け足しが無かったら、大いに楽しめる娯楽小説として評価するんだけど、毎回、興をそぐそれらのお約束シーンにげんなりします。陳腐。

その為、評価もどうやっても並の上ぐらいにしかならないけど、面白いのは事実です。本に関心のある人なら、心惹かれる要素があります。でも、本を安易に金・金・金で評価しているのはどうなんですかねぇ~。

今回稀稿本として出てくるのは、限定出版された装丁や活字に凝った特装本。勿論、素晴らしいものもあるのでしょうが、私的には一番興味あるのは本の内容なんだけどねぇ~。

全てをお金に換算して評価するアメリカっぽいと言えば、アメリカっぽいのだけれど、どうしても違和感が残る。イギリスとかだったら、こういう話にはならないんだけどねぇ~おそらく。

でも、本の世界の話としてはそれなりに面白いと思います。但し、アメリカでいい本が作られたなんて話は聞いたこともないし、私には信じられないんだけどなあ~。お金で購入する事はあっても、決して生み出さない国というのが、私のイメージだったりする。偏見だとは思うのだけど、アメリカで印刷した本(出版社がアメリカなのはOK)を購入したいと思ったものないしなあ~。

実は、数日前に読めもしないフランス語の本を買おうとして、入手できず、いささか不機嫌な私です。ちっ、惜しかったなあ~。別なところの洋書のバーゲンフェアでも掘り出し物が見つからず、今週は全然ついていない私です。

くじけずに古書展を回るかな・・・本書の主人公とは違い、掘り出し物は手元に置いて眺め、一人悦に入るアイテムにしちゃう私です。気に入ったら本を売るなんて死んでも嫌ですね。逆に要らない本は、頻繁に売ってしまうけど。

古書店は利用したいものの、自分がなりたいとは一度も思ったことがない私でした。従って、本が好きで古書店主になるという主人公にも共感できないんだけどね。むしろ、本好きが一番なってはいけないのが古書店主のような気がするんだけどなあ~。

単純に宝探しをするだけなら、割安な株買って、株価の化けるを待った方がよほど興奮するけど、本探しは違うような気がする。

本としては面白いんだけど、どうしても素直に喜べない部分が残るシリーズです。正直、微妙。

幻の特装本(amazonリンク)

関連ブログ
「死の蔵書」ジョン ダニング 早川書房
ラベル:書評 小説 古書 古本
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2007年11月02日

「食人国旅行記」澁澤龍彦 河出書房新社

本書は四巻から成る「アリーヌとヴァルクール」の物語中、第二巻だけを採り上げて独立した物語としたものだそうです。最初は桃源社から出たものが、現在、河出書房から文庫で出ています。

私は確か桃源社で持っていてはるか昔に読んだと思いますが、たまたま文庫で見つけて改めて購入して読みました。

全然、時代的な古さを感じません。というか、その鮮烈な開明的(啓蒙的)思想性に久しぶりに感動しました!!

最初は、恋する二人の愛の逃避行で始まるため、ロミオとジュリエットのラブロマンスかよ~と思いますが、どうして&どうして、二人の運命は暗転直下、激動の渦中に投げ込まれます。

運命に翻弄される二人。主人公は本来有り得べからざる(ような特異な習俗・慣習・文化を持つ)国々を訪れます。

そして、そこでおよそ当時の良識人且つ理想に盲目な若者が到底許容できない価値観にさらされるのですが、彼はそれまでの自らの価値観を根底から揺さぶるような状況に置かれます。

あまりにも残虐で無慈悲且つ階級を是する国もあれば、あまりにも聡明且つ人道主義的で徹底的な平等を是とする国もあり、それらの両極端性が著しく際立って描写されています。

前者においては、家庭では女性を完全に家畜以下と看做し、人民対国家では人民を牛馬以下の奴隷と看做す描写は、怖気や嫌悪感を催すほどですが、後者において余りにも理想的な幸福の中で無邪気に生きる市民も憧れてやまない理想郷ではあるものの俗物たる私にはまさに有り得ない楽園幻想としか思えない。(でも、私はこの国に憧れてしまう)

ただ、誤解してはいけないのはこれは、あくまでも合理的思考を突き詰めていったうえで提示された一つのモデルであり、著者が置かれていた時代的・個人的状況と無関係ではないことです。

トマス・モアの「ユートピア」論とは異なるものの、現状への不満が思索の下で昇華されたものと言えるだろう。まして、現代の矮小な『常識』レベルから、判断すべき作品では決してない。その点だけは力説できるだろう。

柔軟で、理性的な思考能力を持ち、(サドについても予備知識があれば、更にOK)常に政治的な視点を欠かさない人物なら、本書で物語のスタイルをとって示される、あまりに進歩的というか超絶的な『合理性』の姿にある種の神々しさを覚えるかもしれない。少なくとも、私の胸を強く打ったことは事実である。

ただ、TVや新聞記事読んで、ふう~んと納得してしまう人には絶対に合わない本です。これだけは間違いないでしょう! まかり間違えば、反体制的な思想の持ち主と誤解されかねない危うさと不穏当性があります。

実際、普通の人には毒が強過ぎる文章であり、思想です。でも、これこそがサド文学のサドたる所以と私は思いっきり肯定しちゃいますけどね。普通の人と話すと、逆に言うと一番理解されない点ですね。特に、日本の人はこの手の話が苦手みたいだし。

勿論、本書で出てくる考え方でも個々の部分は、おかしいと思うし、私的には正反対のものも多数あるのですが、そんな枝葉末節などどうでもいいほど、本質的に『来るモノ』があります。

タフな思考能力と精神力のある方にお薦めしめす。言葉は悪いけど、『ゆとり教育』で育った世代には辛いと思います。安保とか周りに流されてるだけで主体性のない世代にも合わないような気がしますねぇ~。
(どんな世代だ、私?っという話もあるが・・・)

そうですね、いわゆる『ユートピア』論から別次元に行ってしまった感のある世界です。しかし、この作品に着目した澁澤氏はやっぱり改めて凄いなあ~と今になって思いました。残念ながら、最初に読んだ時には全然理解できていなかった自分に気付きました。こんなもんです。

少しだけ以下に文章を引用してみましたが、万人向きではないでしょう。
土人の隊長は、あわれな捕虜たちを点検し、六人だけ前に出させて、隊長みずから棍棒をふるって、一撃のものに彼らを殴り殺してしまいました。すると、部下の四人が、殺された人間の身体を切りこまざき、血のしたたる肉片を、隊員一同に分配するのでした。どんな肉屋だって、これほどすばやく牛の肉を切りこまざくことはできなかろうと、思われました。

 それから土人たちは、わたしのよじのぼっている木の隣の木を根元から引っこ抜くと、枝を取り除き、これに人をつけて、今切りこまざいたばかりの人間の肉片を、その炭火の上でこんがり焼くのでした。ぱっと焔が燃えあがると、さっそく土人たちは、肉片をうまそうにがつがつ食ってしまいました。
ここまでは普通の物語で済むのですが・・・。
「人肉食の習慣を品性の堕落だなとど考えては困るな。人間を食うことは、牛を食うことと同様に単純なことだよ。いったいきみは、種の破壊の原因というべき生存競争を、けしからぬ悪だなどと思っているのかね。それに、この破壊ということが一旦行われてしまった以上、解体した物質を土の中に埋めて葬ろうと、あるいはおれたちの胃の中におさめてしまおうと、まったくどちらでもよいことではなかろうかな?」
段々と、世論の反発が高まってくる雰囲気が漂ってきます。特に、西欧キリスト教文化にとっては、タブーに触れる内容です。
悪徳の数が減れば、法律がたくさんあることは無駄になります。法律を必要とするのは罪悪です。罪悪の量を減らし、みんなが罪悪だと思っているものが、実は自然のものにすぎないということを認めれば、法律はたちまち無用のものになります。

 ところで、どんな気紛れな行為でも、どんな卑賤な行為でも、それが社会に対して何らかの侵害をもたらすということは絶対にありえません。賢明な立法者によって正しく評価されるならば、それらは全て、危険なものと見なされるわけにはいかなくなるのです。ましてや、罪悪だなどと見なす事は不可能になります。

 われわれはもっと法律を廃止すべきであるましょう。法律などというものは、暴君が自分の権威を証明するためにに、人民どもを彼らの気紛れに服従させるために作ったものにすぎないからです。ひとたび法律を廃止するならば、われわれを縛っている多くの束縛はなくなって、その結果、この束縛の重圧に苦しんでいた人間は、ほっと息がつけるようになるはずです。
法家の思想を高く評価する私とは正反対ではあるものの、論理的な思考の進め方でこの手の文章が延々と続きます。面白いんだけどなあ~。私は好き。

新・サド選集〈第5〉食人国旅行記(amazonリンク)

食人国旅行記 (河出文庫―マルキ・ド・サド選集)(amazonリンク)

関連ブログ
「神聖受胎」澁澤龍彦 現代思潮社
「黒魔術の手帖」澁澤 龍彦 河出書房新社
企画展「澁澤龍彦 カマクラノ日々」鎌倉文学館
「澁澤龍彦ー幻想美術館ー」展、埼玉県立近代美術館
「図説 地獄絵を読む」澁澤龍彦、宮次男 河出書房
澁澤龍彦氏の書斎を紹介するサイト
「澁澤龍彦」河出書房新社
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2007年10月22日

「死の蔵書」ジョン ダニング 早川書房

本職はだしの本好き&目利きの刑事が主人公。その日暮しの古書掘り出し人(日本でいうところのセドリ)が殺された事件をきっかけに、謎を追う過程で主人公が巻き込まれるていく出来事。

稀稿本をめぐる(?)殺人が本書の中核になっていて、本好きの人なら大いに関心をそそられ、また思わず共感してしまう『書痴』的描写は面白いのだが、必要以上に無駄な暴力的サブストーリーが全体を安っぽく、安易なアメリカの読み物にしてしまっていて、実にもったいない。

また、ここで描かれる値段の高い本だが、書名を見ると個人的には苦笑してしまう水準の本が多い。確かに初版本を求める心理は、私にも分かるし、澁澤さんの本の初版を集めようとお金も無いのに買い漁っていた頃があったので他人事とも思えないが、ただ飾っておく為だけで、読みもしない本を集める人の気がしれない・・・。

無駄に帯にこだわるよりは内容にこだわれよ~とか、保存用に同じ本を2冊、3冊買うなんて馬鹿ジャン!と思いながら読んでいたのだが、ある事に気付いて愕然とした。同じ内容の本を、全集名が違うからと持っていたり、わざわざ海外から時祷書を購入して気に入ってしまい、初版は保存用にしてもう一つ通常閲覧用に同じものを購入した馬鹿な自分がいたことに気付いた!(欝だ)

すべからく本好きは変人で、狂人なのか・・・。ビブリオマニアなんて、元祖オタクだしなあ~。読めない本を集めている病気は重症だし、人の事なら笑い飛ばせるものの、チェコ語の本を買ったしまった私は何? 

まあ、自己反省しつつ、今週末の神田の古書祭りを楽しみにしているんだから、しょうがない奴です。

最後に、本書の感想まとめ。
古書マニアをくすぐるノリは良いものの、肝心の古書自体はどうでも良い雑本ばかりで興味は湧かない。それと古書とはおよそ不釣合いな暴力要素が多過ぎで、単純なアメリカの小説の域を出ない。「呪のデュマ倶楽部」や「謎の蔵書票」と比べるに値しない水準。

でも、個人的には続き読むかもしれない? 人にはお薦めしない本です。

死の蔵書(amazonリンク)

関連ブログ
「古書ワンダーランド1」横田順弥 平凡社
「ある愛書狂の告白」ジョン・バクスター 晶文社
「呪のデュマ倶楽部」アルトゥーロ ペレス・レベルテ 集英社
「謎の蔵書票」ロス キング 早川書房
「書物の敵」ウィリアム ブレイズ 八坂書房
「古書店めぐりは夫婦で」ローレンス ゴールドストーン, ナンシー ゴールドストーン 早川書房
「古書街を歩く」紀田 順一郎  新潮社
「われ巷にて殺されん」紀田順一郎 双葉社
「古本屋さんの謎」岡崎 武志 同朋舎
「古書法楽」出久根 達郎 中公文庫
「関西赤貧古本道」山本 善行 新潮社
「本の国の王様」リチャード ブース 創元社
「世界古本探しの旅」朝日新聞社
「古本道場」角田 光代、岡崎 武志 ポプラ社
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2007年09月19日

「フランス世紀末文学叢書1 パルジファルの復活祭」ジョゼファン・ペラダン 国書刊行会

短編集。フランス文学で世紀末と言われれば、何も考えずに買ってしまうでしょう。若き頃の私も、気がつくと購入していたようです。恐らく・・・ユイスマンスの「腐乱の華」とか読んだ後だったような気がします?

それ以来、この本は読まれぬまま積読本に。数ヶ月前に、部屋から発掘し、「責苦の庭」で感銘を受けた勢いで読んでのですが、またまた挫折。

短編集なんで、たま~に一編づつ読んだりしてましたが、結局三分の一ぐらいしか読んでません。そのまま、二ヶ月以上が過ぎたので認めざるを得ませんネ。これ、永久積読本決定!買ってから、死蔵してたので紙が妙に綺麗で心苦しいです。

だって、いくら読んでも盛り上がらないんだもん。詩的断片のような単語が重なり合っても、私のような無骨な詩的センスの無いものには、ちっとも心に響きません。散文的にして欲しかった。

時には、ちょっと興味を惹かれるものもありましたが、一瞬かすって終わってしまうカンジ。タイトルが全然生きてないようなんですが・・・? タイトル倒れの内容のように思えました。

そうそう選ばれている短編はバラバラの作者ですが、翻訳を担当しているのもバラバラの異なる翻訳者です。企画としては失敗してるんでしょう。「責苦の庭」は良かったんだけどねぇ~。同じシリーズなのにね。残念でした。

余談ですが、amazonで検索するとタイトルは「フランス世紀末文学叢書1 」となっていて、本来のタイトル「パルジファルの復活祭」が出てきません。amazonって何気に間違いが結構ありますね。以前も似たようなことが何回もありましたけど。残念ですね。

フランス世紀末文学叢書1(amazonリンク)

関連サイト
「責苦の庭」オクターヴ・ミルボー 国書刊行会
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2007年09月17日

「フーコーの振り子」(上)ウンベルト エーコ 文藝春秋

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正直言って私には、本書の面白さが理解できない。確かに衒学的な装いに目を惹かれるところはあるものの、オカルト関係の本を自費出版させてお金を稼ぐ素敵な出版社が舞台の一つになっているだけに、個々の事項については、意図的だと思うが、かなり胡散臭い眉唾のものの説明が随所に見られる。

下巻を読む前に書評を書くのもどうかと思うが、下巻を読むか否かを悩んでいるので現時点での感想や気付きについて書いておく。

メインテーマの一つであるテンプル騎士団関係の情報は、全然物足りないし、類書の専門的な本と比べると、甚だしく興醒めだった。エジプト関係の話なら、グラハム・ハンコックの本の方がはるかに楽しい♪ ケルヒャーとかなら、荒俣さんの図鑑とかに頻出してるし、今更なあ~ってカンジ。

勿論、私の知らない話もたくさんあるのですが、如何せん料理の仕方が悪い! 全然、話が広がらずにただ列挙してるだけのように感じてしまうのですが・・・? 下巻でそれらが全て有機的に結び付き、伏線として効果的な役割を果たすのならば、凄い傑作だと思うのですが、『期待薄』な感じがしてなりません。

ただ、極め付けに読む気を失せさせるのが本書の妙に『こなれた』訳。というか、強烈な違和感を感じさせる訳があちらこちらに頻出し、読んでいて気分がそがれてイライラしてしまう。

この手の本でよくこんな訳をするものだと翻訳者の良識を疑う一方、それを認めて出版させる担当者と文芸春秋にがっかりさせられる。ここまでくると、呆れてしまうし、情けない(涙)。

少なくとも翻訳者が別な人なら、本書は上下巻を読み通す自信があるが、今の訳で下巻もと思うとかなり憂鬱な気分になる。さて、どうしょうか?

読んでいて決してつまらないわけではないし、話には引っ張られるところもあるんですが(オカルトネタ満載だし、ブラジル出てくるし・・・)。でも、いかにも結社やセクト的なごちゃごちゃした関係の話は、ちょっとパスしたい。そして女性関係の話もどうかなあ~、必要? 話を膨らませる為に要るのかな? 個人的には、もっと本質的な内容に踏み込んだものを期待したいのですが・・・。

やっぱり下巻も読むべきなんでしょうね。しかし、この訳は嫌い。つーか、大嫌い! 「太夫(たいふ)」なんて単語がどうやったら、この本の文脈で出てくるんだ。いわゆる高級娼婦のことだろうけど、センスのかけらもない。いちいち挙げてたらキリがないのですが、もっと劣悪な訳があちこちで出てきます。う~イライラ・・・。

決して本書はお薦めしません。ちゃんとした翻訳のできる方が訳した新訳版が出たら、買ってもいいかも。

そういえばamazonのレビューを見たら、訳の酷さは折り紙付きですね。もっとも英語版でも読むの大変みたいだから、私もそちらを買って読み直そうかと思ったが、あえなく挫折しそうなんでやめときます。

現時点でまとめると、オカルトネタとしてくすぐるものはあるものの、あくまでもネタになっている感じで、もっと生真面目にオカルトを楽しむ気になれないなあ~。雑誌の「ムー」と同レベルに水準を落とし過ぎている感じがします。あのエーコですから、意図的なのでしょうけど、私には不満だし、つまらないです。

フーコーの振り子〈上〉 (文春文庫)(amazonリンク)

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薔薇の名前(映画)
「前日島」ウンベルト エーコ 文藝春秋
「テンプル騎士団 」レジーヌ・ペルヌー 白水社
「テンプル騎士団とフリーメーソン」三交社 感想1
「テンプル騎士団の謎」レジーヌ ペルヌー創元社
「十字軍」橋口 倫介  教育社
神秘的なテンプルマウントの人工物がダ・ヴィンチ・コードを惹起させる
「イエスの血統」ティム ウォレス=マーフィー, マリリン ホプキンス 青土社
「トリノの聖骸布―最後の奇蹟」イアン・ウィルソン 文芸春秋
「世界を支配する秘密結社 謎と真相」 新人物往来社
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2007年08月26日

「妖怪博士ジョン・サイレンス」アルジャノン ブラックウッド 角川書店

この本を読み返すのは何度目だろう。ずいぶん前に購入してから既に4回ぐらいにはなっているだろうか? いかにも(!)と誰もが思うに違いない英国怪奇作家ブラックウッドの面目躍如たる作品集である。

本書で共通するのは、ロンドンの変わりものの医師ジョン・サイレンスが出てくることであり、彼は合理的な西洋教育(とりわけ医学)を修めただけに留まらず、東洋を含めて世界各所に散在する叡智をことごとく修めた傑出した人物として描かれています。

そんな彼が、あくまでも既存の医療や常識的手段では解決できない不可思議な事件に対し、善良なる奉仕の精神と個人的な学究的関心から解決していくのです。

背景にあるのは、英国心霊主義がブームであった時代ではないでしょうか? 迷信や禁忌を安易に信ずることなく、かといって表面的な近代的解釈で拒否することもなく、同時代の科学では解明できない事柄が明確に存在し、それに対しては密かに知られている神秘的手法が有効な場合もあることを認めようとするある種、アンビバレンツな精神をあるがままに肯定しています。

科学では説明できない一方で、それ以外の人類に知られた『叡智』に照らせば、十分に説明がつき、対処も可能というのが本書の根底に流れており、その一方で安っぽいオカルトに走らずに、どこかそれと一線を画しつつ、なんとか理性で判断できる余地を残している感じがイイ♪

京極氏の小説のように、不思議な事象を無理に現代的に説明がつくようにしてしまうような、現代という時代の「論理や知性」礼賛的な姿勢がないのが、何よりも好き。

説明は欲しいが、全てに説明がつくというのも、私の理性は『拒絶』しちゃうんですよ。「そんなのありえな~い」って! 逆に嘘っぽく感じてしまうんです。

だからね、こういう怪奇路線って大・大・大好き!!

残暑厳しい折ではありますが、夏は怪談とかホラー読みたいですもんね。短編集ですが、何気に読み応えあります。人間心理の描写もなかなかのもんです。まだ、読んだことのない方はチェックしておいて損はないでしょう。一度、読んでもふと読み返したくなるそれだけの魅力を持った作品だと思います。

紀田順一郎氏が翻訳と解説してる、というだけで読むべき作品であることが分かるでしょう。怪奇小説好きなら、チェックしてないとモグリ?って、感じの作品です。
【目次】
いにしえの魔術
霊魂の侵略者
炎魔
邪悪なる祈り
犬のキャンプ
四次元空間の囚
妖怪博士ジョン・サイレンス(amazonリンク)
ラベル:怪奇小説 書評
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2007年08月09日

「影のオンブリア」パトリシア・A・マキリップ 早川書房

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2003年の世界幻想文学大賞を受賞したファンタジイ、それだけにつられて購入した本です。だって、過去に同じくこの賞を受賞したタニス・リーの「死の王」とかって、すっごくお気に入りだったので・・・。

で、この本はどうかというと、予想に違わず、きっちりファンタジイしてるのですが、どこぞの子供向けのつまらないおとぎ話ではなく、良質のファンタジイだけが持つ虚構の世界なのに、妙にリアリティがあってしかも哲学的な本質を備えている、そんな作品だったりします。

結構、好きなタイプ!!

でもね、読了して謎が説明されても、私全然理解できていなかったりする。とにかく不思議な感じが薄~い膜のように、あるいは霞のように頭にかかった感じ。子供の頃、読んだ「コロボックル」とか「飛ぶ教室」とか、なんか分からないんだけど心に残る、そういった感じの物語です。

舞台は世界でもっとも古く、もっとも豊かで、もっとも美しい都であるオンブリア。この都は、現在の都であるオンブリアのすぐ下に、いにしえのオンブリアが多層構造のように重なっており、そのいにしえのオンブリアへは分かる人ならば、相互に行き交うことのできる不思議な空間になっている。

同時に現在のオンブリアで歳若い少年を大公として擁立し、傀儡政権を牛じる悪玉「黒真珠」に対し、地下のいにしえの都で世界創造と共に生きてきたかのような魔女「フェイ」。魔女の下で働く蝋人形と自分を信じていた少女「マグ」。歳若い大公を黒真珠から守ろうとする若き貴族「デュコン」。暗殺された元の大公の愛妾であり、元酒屋の娘である「リディア」。

これらの登場人物を中心に、政治的な陰謀が渦巻く宮中で数々の事件が湧き上がる。シンプルな構成なのですが、実に味わい深い世界観がじわじわと現在と過去の互いの侵食の中で描かれていきます。

とにかく、巷で有名な某ファンタジイよりかは、はるかに私の好み。洗練されて、いろいろなものが削り落とされた架空世界は、なんとも素敵で魅力的です。

現実逃避したい方にはお薦めですね! タニス・リーとかその系好きな方にはお薦めです。ベタなファンタジイファンにはお薦めしませんけどね。

影のオンブリア(amazonリンク)
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2007年08月04日

「真紅の呪縛」トム ホランド 早川書房

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正真正銘、吸血鬼が主人公の小説です。昨今のなんちゃってバンパイア物が横行する中で、ある意味古くからの正統派的な系譜に位置づけられる存在かもしれません。

怖い小説というよりも、詩人のランボーとかが出てくるディレッタント向けの小説、いや退廃文学とかそういうテイストですね。詩人バイロン卿が主役のデカダンス文学だったりして・・・。

個人的には、かなり大好物の系統。選ばれし者、特別な存在故の苦悩。露悪的な行動の反面、非常に繊細で脆いがタフな精神。既存の道徳観を超越しつつもそれに拘泥し、捨てきれないヒューマニズム。

実に&実に面白いです。吸血鬼物としては、おそらく『初』のアイデアなども盛り込み、怪しげな夢幻感が素敵ですね。やっぱ、英国人にこういうの書かせると秀逸ですね! 

アン・ライスのヴァンパイア物や菊池さんの吸血鬼ハンターDとかも良いのですが、まさに正統派的手法に則りながら、ここまで新しい吸血鬼像は一読の価値有りでしょう。

吸血鬼好きなら、押さえてべき作品かと思いました。

真紅の呪縛―ヴァンパイア奇譚(amazonリンク)

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「吸血鬼伝説」ジャン・アリニー 創元社
「アンダーワールド」スコット・スピードマン監督
「ドラキュリア2 鮮血の狩人」パトリック・ルシエ監督
ヴァン・ヘルシング(2004年)スティーヴン・ソマーズ監督
「ヒストリアン」Ⅰ&Ⅱエリザベス・コストヴァ 日本放送出版協会
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2007年07月26日

「キリストの遺骸」(上・下)リチャード・ベン サピア 扶桑社

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タイトルだけ見ると、キャメロン監督により映画化で話題になった「キリストの墓、発見」ニュースの関連かと思ってしまいますが、こちらは完全なる独立した小説です。

著者は1980年代に亡くなっていますから、そういう意味ではずいぶんと先見の明があったんでしょうね。キリスト教をネタにした小説を他にも書いていて「謎の聖杯」ってのもあります(読了してから気付いたけど)。

粗筋は、エルサレムで地下室を作っている途中で古い遺跡が出てくる。当然発掘調査が始まるのですが、大きな石でふさがれた中から一人の人骨が出てくる。鉄の釘で打ち付けられた痕、槍で刺された傷、なによりも文字が書かれた粘土板が決め手となって「キリストの遺体」である可能性が浮かび上がり、即座にイスラエル政府からバチカンに極秘連絡がなされた。

バチカンからの使者として、あくまでも厳正なる事実を確認しようとする神父に、宗教家をすべからく毛嫌いするかのような第一発見の責任者たる女性考古学者。世界各国の思惑と政治や宗教感情が入り乱れる中、数々の科学的調査の下でその遺体が証明する事実が明らかになっていく。

キリスト教における根幹に関わる『イエスの復活』そのものを根底から揺るがす事件であるが、その調査過程で出てくるキリスト教関連の雑学的内容は、そこそこ楽しめます。イエスの復活自体を掘り下げたり、新しい解釈をしたりといった点はないので、あくまでも小説として読む分には悪くないかと思います。

ただ、女性考古学者の嫌味な性格には、辟易しますけどね。その後の神父との展開もありがちなワンパターン。ただ、ラストはアレレ?って感じですけどね。私の好きな終わり方ではなかったですが・・・。

ネタバレになってしまうので、これ以上書けませんが、肝心の『イエスの復活』そのものについては、薄っぺらな記述で深くはないのでそこは期待しないで小説として読みましょう。

読みやすいし、テンポも普通以上。さらっと読めます。

キリストの遺骸〈上〉(amazonリンク)
キリストの遺骸〈下〉(amazonリンク)

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エルサレムで発見された「イエスの墓」
キリストの「本当の墓」発見? 米で映画化へ 教会反発
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2007年07月22日

「日本の面影」ラフカディオ ハーン、(訳)田代三千稔 角川書店

日本名、小泉八雲。「怪談」等で有名な作家であり、私も子供時分に読んであの奇妙、且つ独特な風情を有する日本情緒を感じたものであるが、本書は読んだことがなかった。

本書は、一冊の本の翻訳ではなく、複数の本から翻訳者の視点で選んだ幾つかの小編を訳してまとめたものという構成をとっている。日本という異国に来て記した紀行文であり、随筆であり、文化論であり、単なる覚書でもある。

ラフカディオ・ハーンが残した雑多なメモであるかもしれないが、本書の中に描かれる『日本』は私達の郷愁をそそる在りし日の幻影としての『日本』であり、どこか実際とは異なる、御伽噺に出てくるような噂や想像上にしか有り得ないような『日本』でもある。

全く自分の慣れ親しんだ価値観や常識が通用しない『異国』。そこに迷い込んだ異邦人である自分を強烈に自覚しながらも、自分の知っているのとは全然違っているにも関わらず、冷静に観察することで気付くこの国独自のルール《日本の常識》。

あまりにも他人を思いやり、表面的には控え目ながら、己が美学(or 道徳)を貫く為には、自らの命さえ賭してしまう強い自負心。等々、異国にいるという異様に高揚した精神のみが生み出し得たある種、架空の『古き良き日本』が表現されています。

ハーン自身の過剰なまでに繊細さと、異国での精神的高揚の相互作用で描かれる『日本』の姿は、実に、実に美しい。夢幻的ですら有り得るでしょう。日本人が百万言の言葉を費やしても描けないその姿に、私はすっかり魅惑されてしまいました。

例えば、こおろぎや鈴虫に関しての日本の習慣&自らの飼育経験をここまで書いている本は過分にして見たことがありません。私も鈴虫は幼少時飼っていたことがあり、近所のおばさんがツボに入れて何世代にもわたり生育していた一級品を分けて頂いたことがありましたが、冬を越す事ができませんでした。

あれって、数日おきに押入れから出して霧吹きで土を湿らせたりと細かな世話が必要んですよねぇ~。本書を読んで鮮烈なイメージと共に過去の記憶を呼び起こされたりしました。

勿論、それ以外にも地方それぞれに伝わる盆踊りや夏祭り。経験しても文章としてここまでのものは私には書けません。外人故の新鮮な視点という以外の何かをハーン自身が持っていなければ、絶対に生まれない文章です。まさに文体(スタイル)が傑出している作品でしょう。

あまりにも文章が素敵なので、ふと疑問が浮かんだのですが、これって翻訳者が異様にうまいということもあるのでしょうか? 訳者は田代三千稔という方です。その辺をはっきりさせる為にも一度、原書を読んでみてみたいと強く思いました。だって、あまりにも日本語の文章が素敵なんで。

先日読んだ「東京の下層社会」と描かれているのは、ほぼ同時期ではないかと思うのですが、とても両者が同じ時代だとは信じられません。もっともそれがえてして真実の実像なのでしょうが・・・。

とにかく「美しい日本」に触れたい方にはお薦めです。是非、本書の中で描かれた日本に行ってみたいと願わずにはいられません!!

【注】本書はいろんな翻訳者によって訳されています。翻訳者が変われば、全然違った感じの文章になることはよくあることです。従って他の翻訳者の本については、その本を読まれた方の書評を参考にされることをお薦めします。老婆心ながら。
ちなみに私が読んだのは角川の復刊文庫の奴です。
【目次】
東洋の第1日
盆おどり
子供の霊の洞窟―潜戸
石の美しさ
英語教師の日記から
日本海のほとりにて
日本人の微笑
夏の日の夢
生と死の断片
停車場にて
門つけ
生神
人形の墓
虫の楽師
占の話
焼津にて
橋の上
漂流
乙吉の達磨
露のひとしずく
病理上のこと
草ひばり
蓬莱
日本の面影(amazonリンク)
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2007年07月18日

「闇の奥」コンラッド 岩波書店

yaminooku.jpg

海洋小説で有名なコンラッドの作品です。私の知人は、当然著者の事を知っていて有名なのに知らないで読んでるの?・・・と怪訝そうにきかれたのですが、う~ん、自分の無教養ぶりをさらけ出すばかりでした。

まあ、それくらい有名な作家さんだそうです。実際に著者は数奇な人生を生きた方で、生まれはポーランド人なのですが、国を失ったポーランドで親が独立運動に関わった関係で流刑地に送られた後、21歳で船に乗り込んで世界中を巡ることになったそうです。

その後、アフリカ奥地のコンゴに行き、そこで実際に見聞した内容を元に記したのが本書であり、著者に深い衝撃を与えたその時以来、著者は船を下りて作家になったといういわくつきでもあります。

端的に言うと、アフリカ奥地での航海記というか、白人による土人(本書内での表現)から収奪記録、といったものになるのかもしれませんが、単なる記録以上に、人間の尊厳とか人間性とかの根幹に絡んでくるような一個の人間の心情の吐露が表現されている感じです。

確かに心に訴えてきそうなものがあるのですが、私の場合、結果的には心に響きませんでした。いささか露悪的(つ~か俗悪?)なものを嗜好とする私は、本書よりもはるかに救いようのない実話を多々知っていますし、今、この瞬間にも人の命なんて紙切れ以上に軽く扱われる世界も知っているので本書を読んでも格別な感慨を抱けません。

また、見知らぬ異国の探検記としてみるならば、定期航路があるぐらい整備されてからの話だし、ちょっとねぇ~。大唐西域記とか三大陸周遊記とかの方がはるかに異国情緒があり、楽しめるし・・・。

人間性の本質的な側面から、語ろうとするのはこういってはなんですが、この時代の英国の小説なんかには実によくあるタイプのものだし、ブラックウッドやミラーとかの方がずっと私は面白かったもん。

全体評価としては、私はかなり低いです。もうちょっと何か飛び抜けているものがあるといいんだけど・・・。同じ異国の探検物なら、新青年とかに書かれていた山田風太郎の作品とかの方が、はるかに上だと思うんだけどなあ~。ゾクゾクするエキゾシズムに、隠された人間の本質がちらりと輝く危うさ、などなど絶対にあちらが私は好きなんだけどなあ~。

さて、今度また読み直してみよっと。

闇の奥(amazonリンク)
ラベル:書評 小説 探検
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2007年06月22日

「シャリマール」甲斐大策 トレヴィル

私が持っているのはトレヴィル刊のもので、現在はトレヴィルがなくなったので他の出版社から出ているようですが、装丁等が同一か否かは確認していません。ご注意下さい。

というのは、本書の魅力は内容にではなく、あくまでも装丁にあるからだと思います。小説としては、おそらく読むの時間の無駄かも・・・と思うぐらいですが、最近見た本の中では一番美しい装丁だと思いました。

私が購入したのは古書だったので、カバーは無かったのですが、表紙はアラビア文字が描かれており、地の部分はマーブル紙のようなデザインになっています。表紙の見返しには、草花のデザインがあしらわれていていかにもイスラム風。

各章の扉頁も凝っていて、アラビア文字と幾何学的デザインがうまく配されていて、こういうの大好き!! なんかコーランのような美しさです(勿論、本物のコーラン写本等の美しさにはかないませんが)。

本文でも、文章を囲むように上がアラビア文字、下が日本語で配されており、心憎いほどの粋な気遣いです。さりげないんだけど、こういった装丁は今では珍しいんじゃないでしょうか? 最近は、装丁に凝った本がいろいろあるのですが、どうしても私の目には奇をてらっただけで美しいと思えたり、センスの冴えを感じたりするほどのものがなかったので、本書は実に珍しいと思います。

装丁だけで本書は持っている価値があると思っています。

一応、内容について触れておくと。千夜一夜物語のような幻想的なアラブ譚を期待していると、痛い目にあいます。私のように。舞台はあくまでも現代で、個人的には全く面白いと思えないタイプ(=現実的なお話)の短編集になっています。

ただ、イスラム圏の文化に相当詳しい方が書かれているのだろうと思うですが、知識の生かし方が違うような気がしてなりません。こういったリアルさなら、ネット上で散乱しているアルカイダのリクルート動画とか、ラップでの広報動画の方が私にははるかに面白いです。(←すみません、かなり俗悪な関心があります)

とにかく本書については、内容は一切期待せず、トレヴィルの現物を見る機会があれば、是非装丁を見て欲しいなあ~。この装丁で何か他のものを作ってくれたら、私、迷わず買うのになあ~。

シャリマール―シルクロードをめぐる愛の物語(amazonリンク)
ラベル:書評 小説
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2007年06月13日

「責苦の庭」オクターヴ・ミルボー 国書刊行会

【注意!】
これは現代的な常識から判断すると、反社会的で近代社会の成果たる民主主義によってたつ『政治』を愚弄するものであり、社会的に有害であると共に、徹底した人権の無価値論に基づく個人的欲望の肯定といった側面があります。

だから、良い子は読んではいけません!

精神が病んでいて、善悪の彼岸を超越した特殊な方のみ読むべき本です。強烈な自制心と傲岸不遜な自尊心の塊のような方以外は、手に負えません。該当しない方が読まれて、不快感を覚えられても当方は一切の責を追いかねますのでご注意下さい。

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いやあ~傑作です。そうそう、これぞフランス文学、まさに世紀末文学叢書の名に恥じない素晴らしい作品です。昨今の安っぽくてお手軽な残酷趣味や無知のみにしか行えないような下劣な暴力事件とは一味も二味も違います。

『人』という生き物を本性をさらけ出し、文化や道徳といった上っ面な社会常識など一切の虚飾を剥ぎ取ってうえで、最後の最後に残った純真無垢なる本能。ただひたすら、人間の内面から湧き上がる欲望を魂のみに忠実に、しかも選ばれし者のみが有する名人技的な洗練さと厳しい職業的倫理観(一般人が意味するところのものとは到底乖離してしまっている)の類まれなる『アート』として為されるところの処刑・拷問。

どうしょうもなく病んでいるのですが、精神のギリギリのところで闇夜の燐光のように怜悧に輝く一瞬の情熱、そして狂気。PTAのおえらいご婦人方が読んだら、即刻悪書指定されるような、まさに熱帯の毒々しくも鮮やかな色彩に富んだ花々のようなめくるめく世界です。

勿論、普通の人が読むと気持ちが悪くなり、吐き気を及ぼすであろう内容ではありますが、私これ読んでいて異様な精神の高揚を覚えました。頭の中でイメージしていたのは、本書の舞台である中国ではなく、タイ。甘い果実が腐敗したが故の毒まみれの甘美且つ誘惑的な芳香を放つ様。スコールで一瞬にして湿度100%を超える気候。手足を失い這いずり廻る人々。そんなイメージが本書の文章を読んでいると、勝手にオーバーラップしてしまう。実に毒々しい限りだ。

もっとも確かに職人的な技術の冴えとそれを突き詰めていく善悪を超えた熱心さは、纏足でも有名な中国そのものではあるんですけどね。その点で私が妄想したタイとは異なるのだが、まあ、それは置いといて。

以下、ストーリーを紹介する。いささか詳しい書いたので興醒めになりそうだと思う方は読まないで飛ばして下さい。もっとも本書の一番の凄さは、ストーリーなんて二の次なのですが・・・。



本書の主人公は、友人である実力派大臣が政界をのし上がっていく過程で行った数々の暗黒部分の仕事を手伝ってきた政治ゴロつ~か、取り巻きで世間の裏側を酸いも甘いもかみ分けてきた人物。ある程度までは、良心の呵責無しに酷い事をできるものの、その一方で自らを冷ややかに眺めるところがあり、悪に徹しきれない優柔不断を持つ、ありがちな人でもある。

主人公は、その友人との会話の中で民主主義政治の無知蒙昧さと虚飾を慨嘆しつつも、反面、現代政治にもそのまま通じるような政治腐敗をこれ以上ないってくらい悪辣にあげつらう。そこで指摘される内容は、ニュースで連日指摘されている社会保険庁の年金問題と同質のものである。

その一方、最終的には政治家の手先で食いつないできた主人公がまともな仕事をできるはずもなく、友人の手引きで立った選挙にも落選して目も当てられない状態になる。ていのいい厄介払いとして、彼はいつのまにか政府の行う調査団の責任者に任命され、法外なほどたっぷり与えられた調査費名目の資金と共に、彼は調査の旅に出ることになった。

その旅の途中に出会う怪しげな美女。その美女と割無い仲になる主人公。二人はヨーロッパ的な重々しい束縛の無い中国という理想郷で生きていく。その地、中国において美女が何よりも好んだ嗜好が、通常では考えられないような処刑を公開の場で行う見世物だった。その場こそ、『責苦の庭』という場所に他ならない。


一番美味しいであろう、責苦の庭については一切書きません。文章を読んでいるうちに恍惚として我を忘れてしまう私がいたとだけ、書いておきましょう。これぞ真の『耽美』。低俗な同性愛とかの耽美など片腹痛いと笑い飛ばしてしまうほどの衝撃です。弱い方、悪夢を見ますよ。

しかし、この本は先日蔵書整理でつまらない本を2箱ほど売りに出した時、部屋で見つけた本なのですが、既読だとずっと思っていました。ユイスマンスの「腐乱の華」と同時に買ったもの。いやあ~、思いっきり古いけど、中は最近買ったばかりのように新品で綺麗。改めて読んでみて更に驚愕しています。

私が読まずにいる本で、こんな本があったとは・・・。しかも持っていて読んでいないなんて!! いやあ~、また若かりし頃のようにフランス文学読みまくっちゃうかと真剣に考えますね。とにかく凄いの一言です。

なお、本書の月報には澁澤龍彦や井村君江などがコメントを書いている。井村さんは以外だけど、澁澤さんは納得ですね。まさに本書は思慮分別のある大人が、いささかの冷笑家資質を抱いて読むのにうってつけです。但し、くれぐれもノーマルを自負する方は読まれませんように。

私の場合は、歓喜にたえませんでしたけど・・・まあ、私変わっていると人様から言われますのでね。

責苦の庭(amazonリンク)
ラベル:書評 小説
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2007年06月11日

「半身」サラ ウォーターズ 東京創元社

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表紙を飾るカルロ・クリヴェッリの絵が気になっていて、ついつい購入してしまったのですが・・・、やっぱり完全なる駄作でしょう。読み始めるや否や、なんかこれつまらなそう・・・でも、万が一ということもあるし・・・。

いやいやながら読了して断言できることは、最初から最後まで箸にも棒にもかからない小説だったなあ~という感想です。

基本的なストーリーは、英国心霊主義が流行していた時代を舞台に、いかにもありがちな交霊会やそこで活躍して貴族などを食い物にしていた自称・霊能力者が出てきます。真相は不明ながらも、降霊の際に貴族の女性が死んだ責任を問われ、監獄に入れられている女囚人と、精神を病んだ救いようのないわがままな主人公が監獄の慰問という形で接触することで特別な関係が生まれ、とある事件へと繋がっていきます。

本書は、慰問に訪れた女性(主人公)の日記という形で語られるのですが、私的にみると自己主張はするものの、大人としての分別や社会性に著しく欠けた問題児で、異常に感受性だけが発達した、ありがちなタイプの人物像に相当な嫌悪感を覚えました。巷によくいるタイプです。

その主人公が最初から最後まで、自己欺瞞と自己嫌悪を勝手に繰り返しながら、身内や周囲に迷惑をかけ続け、最後の最後まで自分の正当性を信じるあたりが救いようがなくて、周囲の方が可哀想でなりません。率直にいうと、主人公の最初の試みが成功していれば、一時の迷惑だけで周囲の人に更なる迷惑をかけなくて済んだのに・・・と意地悪いことを考えずにいられませんでした。

それっくらい、主人公のこと私は嫌い! と、同時にわざわざ心霊主義が蔓延していた英国のこの時代を選んで、こんなどうしょうもない小説を書く作者にも、かなりの反感を覚えずにいられませんでした。こんなどうしょうもない小説を書くなら、著者には同時代を扱ったブラック・ウッドの爪の垢でも飲んで欲しい!! ひど過ぎです(号泣)。

英国には、もっと&もっと素晴らしい怪奇小説の伝統があるのですから、これを読むなら、絶対に別な作者のものをお薦めします。私的に絶対に受け入れられない小説でした。だって、最後のオチはギャグですか?! 三流小説にありそうでまさかと思いつつ、最悪の事態を想定していたら、そのまんまジャン。文体から何から全てにおいて、私のタイプではありませんでした。

最後に一言、クリヴェッリを冒瀆しちゃいけません。

半身(amazonリンク)
ラベル:書評 小説
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2007年05月26日

「ザーヒル」パウロ コエーリョ 角川書店

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基本的なパウロ コエーリョ路線、人間なら誰にでも当てはまる普遍的な事柄を扱い、それを精神的観点から、世界を、人生を、見つめ直し、再認識していく、この流れは本作品においても継承されています。

『日常』という変化のない、否、実際はそれを生きる人が変化を嫌う時間の流れの中で、あえて自らが変わることで、日常を全く違った見方で捉えることができる、という主張は本作品でも普遍です。

ですが、著者のこれまでの作品を読んだ者としては、以前の作品の方がよりシンプルでいて、より衝撃的であり、より印象的でいてより感動的であったと思えてしまいます。本書も悪くはないのですが、従来の作品よりも長文になっただけ、冗長さが増してしまい、本質的な要素が希薄になった感じがしてなりません。

タイトルの「ザーヒル」とはイスラム的な伝統に由来するもので、「目に見える、そこにある、気付かずにすますことができない」という意味だそうだ。このザーヒルにとりつかれてしまうと人は一切の他の事に意識を向けられなくなるらしい。

ストーリーは著名な作家が、従軍記者で通訳と共に失踪した妻を捜すところから始まる。妻と共に姿を消したはずの通訳がやがて現れ、作家は妻と会いたいと思い、通訳について行動するようになる。

その過程で、全てにおいて(世間的には)何不自由のない生活を送りながらも、夫婦の間で時間と共に微妙なスレ違いが増加していった事、妻が生の充実感を求めた理由などが、自らの変容を通して理解できるようになっていく。

ただ単に自分が変わることで世界が変わる、コエーリョらしい人生哲学だが不思議と違和感なく、共感してしまいます。この辺りは、やっぱりうまいです。日常に押しつぶされて自らを失っている現代人には、普遍的に訴えるものがあるでしょう。間違いなく!

他の作品を読んだことなければねぇ~。ずいぶんと印象も変わるのかもしれませんが、どうせ読むなら、著者の別な作品を押しますね。私なら。

ちょっと感動するパワーが弱い作品です。勿論、人それぞれで訳者は、他の作品よりもこちらを買っているようですが、私には疑問ですね。

以上。

ザーヒル(amazonリンク)

関連ブログ
「アルケミスト」愛蔵版 パウロ コエーリョ 角川書店
「星の巡礼」パウロ・コエーリョ 角川書店
「ベロニカは死ぬことにした」パウロ コエーリョ 角川書店
「第五の山」パウロ コエーリョ 角川書店
「悪魔とプリン嬢」パウロ コエーリョ 角川書店
「ピエドラ川のほとりで私は泣いた」パウロ・コエーリョ 角川書店
ラベル:書評 小説
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2007年05月21日

「フロイトの函」デヴィッド マドセン 角川書店

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あの「グノーシスの薔薇」の著者による作品。前回とは全く異なるものの、実に不可思議な魅力ある作品です。私にとっては。

読み始めた最初は、サドの近代的個人主義に基づく『自由』とかの主張に重なるのかと思いましたが、どうやら別種の『自由』概念に基づく作品のようです。

「夢」の中の「夢」という平行世界の認識から、一見、ラディカルな世界観、空間を築き挙げているのですが、その認識さえも確定的なものとは捉えず、絶え間ない揺らぎの中で、物語が進んでいきます。ドグラマグラ的な世界観と言い換えても良いのかもしれません。

表面的にはお上品どころか、下劣で猥褻的な表現が頻出するのですが、どちらかというとそれは、普段隠された真実をさらけ出して、冷静に分析の対象としようとする側面がある感じです。実際、読んでいても猥褻な感じは全くしません。

また、心理学者が出てくるのでより一層分析の為の視点が強調され、その傾向が顕著です。もっとも、心理学的な説明ですが、これは別に心理学を詳しく知らなくても内容理解に問題ないと思います。用語そのものは知らなくても、どういった事を指しているのかは、ちょっと常識があって人間関係について臆病な観察眼があれば、自明な範囲です。

シンプルに理解しようとすれば、それなりにできなくはないですが、著者がそんなことを期待しているとも思えません。読む人によって、いかようにも多様な理解の仕方ができる作品だと思います。

決して万人向きの本ではありませんし、むしろ一般受けしない作品だと思います。私も知人にだったら、絶対に薦めない本です。ですが、頭の柔軟な人には、大変刺激的で示唆に富む本かもしれません。個人的には、こういうの結構スキ! 

少なくとも、こういう本があるっていうのは知って欲しい本ですね。そうそう、哲学好きな人とか筒井康隆系の本が好きな人には面白いかもしれません。

フロイトの函(amazonリンク)

関連ブログ
「グノーシスの薔薇」デヴィッド マドセン 角川書店
ラベル:小説 書評
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2007年05月18日

「待ち望まれし者」上・下 キャスリン・マゴーワン ソフトバンク クリエイティブ

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単刀直入に言うと、ダ・ヴィンチ・コードという柳の下の10匹目、否、20匹目のドジョウくらいの出来だと私は思いました。

まずはネタバレしない範囲内で。
著者自身が実際に幻視を経験して、その体験を生かして・・・という記述があるが、翻訳者の後書きも含めてまあ、論外でしょう。それはとりあえず、つっこないでおくとして。

う~ん、サブタイトルに「マグダラのマリアによる福音書」ときっちり書いてあるのだが・・・。

本書内で訳者も書かれているように、巷間される「あのマグダラのマリアの福音書」とは全く関係のない別物です。著者が勝手に作り出した(著者はあると信じてる?)架空と思しき福音書を中心にして話が進みます。

ダ・ヴィンチ・コードもキリスト教の解釈としては、あまりにも無理があるし、著者ははっきりフィクションであることを意識したうえで、それなりにもしかしたら、あるかも?って思わせるところが何よりも面白かったんだけど・・・。

本書に限って言えば、最初から最後まであまりにも「嘘でぇ~す」状態なので、パラレルワールドの話? ああっ、これっとSFだっけ?と思ってしまいそうになる。要は、著者の説明があまりにも強引過ぎて、フィクションとしてもノリノリで楽しめない。

しかも文中を読んでると、ダ・ヴィンチ・コードが既読であることを明らかに前提としている感じだし、無理に根拠も伝承もない著者個人が作り出した解説を続けていかれるのが辛い。著者が一つ解説するたびにどんなトンデモ解釈してもそれだけは無理というのが、連チャンするのだけは勘弁して下さい。

更に、ダ・ヴィンチ・コードを読んでから、私自身がだいぶ勉強したので、ダ・ヴィンチ・コードを読んでる時点よりも確実にシビアに評価しているのは、事実だと思う。

でもね、楽しませてナンボでしょう。小説なんだから。私はキリスト教徒でもないので、宗教的な解釈は資料や根拠がない仮説でも、それなりに論理的で可能であったら、十分に楽しめるつもりですが、著者の歪められた解釈には不自然さ以外の何物も感じない。

ダ・ヴィンチ・コードと再三比較することを許して欲しいが、本書があの本を読んで面白いと思った読者の一部をターゲットとして、明らかに狙って書かれている作品である以上、しかたがない。騙しはうまければ、作家としての才能だと思うが、騙せない詐欺師による本書は、読んでいてストレスが溜まる。

つ~か、いろいろな意味でひどいなあ~と思うのが私の心の声。宗教的にどうとかではなくて、自分の好きな絵画作品が曲解されて、貶められている感じがして、つい拒否反応を覚えてしまう。具体的な作品名を挙げるのは、未読の読者に対してアンフェアなので書かないが、何故、美術への侮辱だと感じるのかは、ご推察下さい。読めばすぐ分かります。私の好きな絵を、ことごとく台無しにしてくれるんだから、本書は。

ただ、本書は曲がりなりにも(どんなに納得いかない解釈だとしても)とりあえずは、きちんと結論まで達しています。これは、やっぱりすごいと思います。全然予備知識なしに、そもそもキリスト教のこともよく知らないままに読んだら、どう感じるのかな? 

あまりにも多くのことを前提にして書いているうえに、ダ・ヴィンチ・コードのように非キリスト教徒でも分かるように適切な説明をするという部分を欠いたままで、絶対に有り得ない解釈だけを思い付きと感性だけで説明していくので、私の理性は負荷に耐えられなかったけどね。

どうなんだろう? そりゃ、学者が進める論理と違う論理で、私は書くのよ~と著者が言ってますけど。「ダ・ヴィンチ・コード」と「レンヌ・ル・シャトーの謎」、その他、ダ・ヴィンチ・コード絡みで出てくる本が元ネタなのは、本書もダ・ヴィンチ・コードも一緒だけど、それらを読んでないと辛い気がする。その反面、逆に知っていると、引用の仕方自体にクレームつけたくなるし、ああ~、私には合わない本ですコレ。

それといささか過剰なフェミニズム観も、不愉快。カトリックを批判する道具として、女性蔑視を批判するのは分かるけど、それも行き過ぎれば、かえって不快。

でも一番不快なのは、いささか媚を売っているような上向き加減の著者の写真が・・・イヤ。私の偏見であることを否定はしないが、あの写真はちょっとなあ~。それで幻視が見えて、マグダラのマリアの子孫だとか言われては・・・ね。

そういった諸々の点を加味せずとも読み物としても盛り上がりに欠け、
面白いとは言い難いです。知的な好奇心をそそる要素もないです。表紙までパクって実質「ボッティチェリ・コード」だもんね。さすがにタイトルをそうしないでくれた良かったけど。

余談ですが、本書の中に出てくるキーワードの幾つかをgoogle(日本語版)で検索するとうちのブログが1頁目でだいたい出てきます。何のキーワードで検索されてるのか、調べていて気付きましたが、おそらく本書絡みで検索されて来られる方が、結構いるようです。

待ち望まれし者(上)(amazonリンク)
待ち望まれし者(下)(amazonリンク)

関連ブログ(本書内で挙げられていた参照本)
「マグダラのマリア」 岡田温司 中公新書
「イエスが愛した聖女 マグダラのマリア」マービン・マイヤー 日経ナショナル ジオグラフィック社
「レンヌ=ル=シャトーの謎」 柏書房 感想1
「マグダラのマリアと聖杯」マーガレット・スターバード 感想1
「マグダラとヨハネのミステリー」三交社 感想1
「異端カタリ派」フェルナン・ニール 白水社
「原典 ユダの福音書」日経ナショナルジオグラフィック社
「イエスの王朝」ジェイムズ・D・テイバー  ソフトバンククリエイティブ

う~ん、翻訳者さんが挙げた資料全部うちのブログにあるなあ~。もしかして、うちのブログ見てたりして(笑)。

上記以外の資料としては
マグダラのマリア 黄金伝説より直訳
「マグダラのマリア―マリア・ワルトルタの著作による」あかし書房
「マグダラの古文書」バーバラ・ウッド サンリオ
マグダラのマリアの福音書(訳)
マグダラのマリア~「中世の巡礼者たち」より抜粋
美の巨人たち ラ・トゥール『常夜灯のあるマグダラのマリア』
ニューズウィーク「マグダラのマリアの謎 ダ・ヴィンチ・コードを超えて」
「中世の奇蹟と幻想」渡辺 昌美 岩波書店
イエスを偽預言者、嘘つきとみなす「マンダ教徒」
「イエスのミステリー」バーバラ・シィーリング著 感想1
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2007年05月01日

フローリアの「告白」 ヨースタイン ゴルデル 日本放送出版協会

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「告白」で有名な聖人アウグスティヌスに宛てた愛人からの手紙という体裁を取った架空(?)の物語。作者は私が読むのを挫折している有名な「ソフィーの世界」の著者でもあり、ブエノスアイレスの古書店で偶然見つけたコーデックスをラテン語から翻訳したものということになっている。

また翻訳したものをバチカンに送ったが、そんなものは受け取っていないと言われているそうだ。全体として本の装丁も趣味がいいし、ストーリーもいかにもありえそうって感じの架空話であり、品のいい虚構に惹き付けられます。

徹底した極度の禁欲でも有名なアウグスティヌスの「告白」内の文章を引用しながら、彼が分かれたであろう相手の女性の立場から、決して知られることのなかった人間としての(男としての)アウグスティヌス像というのを提示します。

体裁はあくまでも一信者たる女性、兼かつての愛人(=正式に婚姻関係を結んでいなかったらしい)からの私信という形をとりながら、実に巧妙な文章でキリスト教が内在する『誘惑する存在としての』女性観を描き出します。

キリスト教の説く「愛」の本来の姿は?という問いかけも、何気にちょっと考えさせられます。キリスト教にまつわる論理矛盾(と著者が考える?or 人が考える?)をあざとくないように指摘してるのも知的好奇心を刺激します。

どちらかというと、女性の私信という体裁上、基本的に女性の方がより多く共感できる作品かもしれません。近頃、あまり見なくなったタイプの小説ですが、上品なのに毒がありますね。

私には、かなり面白かったです。ずいぶん前に図書館で読んだ気がしますが、今回安かったので改めて購入しました。この本を読むとアウグスティヌスの著作「神の国」や「告白」も是非、読みたくなってしまいます。逆にそれらの本を読んだことがある人なら、もっと興味深く読めるのでは?と思います。

なお、念の為に申し上げると、著者も訳者も建前上(形式上)、本当の作者は不明とする姿勢は崩していません。私は勿論、創作だと信じていますが、これが本物の写本なら、それこそ『ユダの福音書』や『マグダラのマリアの福音書』並みの話題になるでしょうね♪(笑顔) 

そういえば、「イエスの墓」とかいかにも川口博の探検隊みたいな眉唾モンのあの話題はどうなったんでしょうか? あまりにもチャチでその後の海外の記事フォローしてないんだけれど・・・???

フローリアの「告白」(amazonリンク)
ラベル:書評 キリスト教
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2007年03月28日

「The legend of the Golem」Ivana Pecháčková

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ゴーレムという名前だけは誰でも聞いたことがあるかもしれません。土塊から作られた人形で命令された通りに動くのですが、暴走して破壊を起こす危険から、魔法の呪文を削られて土塊に戻される、そうあのゴーレム伝説についての本です。

共産圏から脱してまだ数年目で、プラハに初めてマクドナルドが出来て人気だった頃に旅行してプラハ城のお土産物店で購入した本です。2000年にプラハで出版。後で読もうと思っていて、今まで読まない私もヒドイ奴ですがこないだ部屋を整理していて発掘したので頑張って読んでみました。

いやあ~童話っぽい世界を想像していたのですが、どうしてどうして、これがなかなか奥深い。英語だから読むスピードが遅いのですが、面白いので珍しく読了できました(エッヘン!)。

誰も読まないと思うのでサマリー書いちゃうと・・・。

【要約】
どっかの大学で哲学とカバラを学んでいた学生が主人公。頭も切れるし、イケメンなうえ、類稀な野心を持つこの青年が古書店で、ゴーレムに命を吹き込む呪文を書かれた写本を獲得することで話が始まります。

本の価値など知らない店主から、ただ同然でせしめたその写本の知識を元にゴーレム復活の野望を抱きます。あの伝説のゴーレムを操ることができれば、この世のものは全て俺様の物。俺が世界を獲ったるぜい~という訳です。

そこでゴーレムがかつていた場所であり、錬金術やゴーレム狂いの皇帝ルドルフ2世がいるプラハを目指します。金のない学生の為、たまたま旅の途中に宿屋で知り合った旅の一座と同行し、彼は役者を演じながらプラハへと辿り着きました。

彼はとあるルートで仕入れた皇帝への紹介状を持って、ゴーレム復活企画を売り込みますが、宮廷の職員に却下されてしまうのです。「既にゴーレムは見つかって、世界中から集められた錬金術師がいよいよ復活させるところだから、タイミングが遅過ぎだよと。」

さて諦めきれない青年は再度プラハ城に赴き、再交渉。どうやら、錬金術師達も復活に失敗したらしく、青年に試させるチャンスが与えられるのです。しかし、あえなく失敗!ゴーレムは動かず、青年はその責任を取らされて切り刻まれてしまうのです。

幸運なことに、彼は元ユダヤ教徒の現クリスチャンに助けられて九死に一生を得ます。そこで傷を癒すうちに、彼が寝言で言ったカバラの呪文をきっかけに、実は先ほどのゴーレムが偽物であったことが分かります。偽物だから、呪文は効かなくたって当然ということでした。

彼は旅の一座の安否が気になり、まずはそこに戻りました。しかし、既に役者を続ける気のない彼を置いて、一座は旅立って行きました。後に残ったのは彼を愛する少女だけでした。

彼は少女を連れて、シナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)へ忍び込んでかつてゴーレムだったものを発見します。今度は見事に呪文が成功してゴーレムが生き返るのですが、何故かゴーレムは彼の言うことを聞かず、どんどんと大きくなっていくのです。彼はどうにか、ゴレームから呪文を奪って、元の土塊に戻すのですが、彼自身もその過程で死んでしまうのです。

本来、ユダヤ人達を外部の敵から守る純粋な心によって初めて動くゴーレムを自らの野心の為に利用した為に生じた悲劇ということでした。
まあ、細かいところは、はしょっていますが、面白そうだと思うでしょう♪ ゴーレムについて詳しい話を知らなかったので余計に面白かったです。

プラハに行かれた時には是非この本もお薦めです。日本語版はなかったので、英語版が無難かも? そこそこ読み易いです。

ゴーレムのいるシナゴーグ

シナゴーグの入口にあるソロモンの紋章

余談:
しかし、錬金術師と稀稿本とくると、必ずプラハが出てくるよね。どんなに怪しい街なんだって、確かに怪しいけど、深夜徘徊しても治安はすごく良かったけどなあ~。ちなみに・・・上の写真は実際にゴーレムが隠されたいたシナゴーグと言われているところです。勿論、実在しています。私は本書の主人公のように深夜に忍び込むような勇気はありませんでしたが。

で、もう一つはあの有名なシナゴーグの入口にあるソロモンの紋章(ダビデの星)です。

amazonでの取り扱いはないようです。ISBN: 80-86283-02-X
参考までにここにありましたが、チェコ語かな? 

【追加】
これ覚えておかないと、ゴーレム作れなくなっちゃうからね(笑)。

ゴーレムに生命を吹き込む呪文:JHWH ELOHIM EMETH
(聖書の創世記から)

ゴーレムから生命を奪う呪文:JHWH ELOHIM METH

関連ブログ
魔女と錬金術師の街、プラハ
「THE GOLD 2004年3月号」JCB会員誌~プラハ迷宮都市伝説~
「バーティミアスII ゴーレムの眼」理論社
「謎の蔵書票」ロス キング 早川書房
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2007年03月25日

「洞窟」ジェイムズ スターツ 早川書房

いやあ~、箸にも棒にもかからない本当にどうしょうもない小説です。最初から最後まで思わせぶりに引っ張ることはあっても、ストーリーの本筋に関係ないことばかりが、適当に且つ散発的に導入されるだけで、全然意味を成していない。

この小説全体が頭のおかしい人の妄想かと思ってしまいます。もしもそれを意図して書かれているなら、それはそれとして別な読み方もできるでしょうし、新たな意義付けができるでしょうが、そういうのでない為にますます小説としての価値を損なっているように思えてなりません。

たま~にこういうのにあうと泣きたくなりますね。よりにもよってSFやミステリで定評のあるあの早川書房で、こんな本の翻訳権を押さえたりすんなよ~と言いたくなります、実際。

粗筋。
はるか昔に修道士達が人との交わりを避け、ひたすら瞑想と聖書のみを求めて、岩をくりぬいて作られたイタリアの田舎の洞窟が舞台。洞窟内には、彼らが残したとおぼしき壁画(宗教画)が見つかり、それを調査するために成功を何よりも欲する研究者達がアメリカ等からやってくる。

一方、その土地には今もその洞窟で暮らす人々がいて、彼ら土地の者達は不思議なことに洞窟から採った岩のかけらを食事にふりかけて普通に食べていたりする。そして、その洞窟内で起きた原因の分からないティーンエイジャーの死亡事件。若い少年少女は、性行為の後で大量の土を食べて死んでいた。

やがて犬が殺される事件などもおきたりするが、元から外部の人間を拒む土地柄でもあり、地元の保守的な人々は次第次第に態度を硬化させていく。意味のない途中参加の人物があったり、無用にストーリーは紆余曲折するが、一応は解決する。但し、謎解きもどきが事態の説明や解決になっているかは、甚だ疑問に思える。

最後に至って、私には何がこの小説の意図であったのかが分からないうえに、ストーリーに無関係の人々に費やされた人物・背心理描写が無駄でしょうがなく思えてならない。

これってまともな小説ともよべないし、怖くもないのでホラーなんて呼ぶのも的外れだ。ましてSFでもないし、正規のジャンル分けには当てはまらない感じがする。というか、人様に見せる文章じゃあないでしょう。気持ち悪いしね。エロくもない。

私はこれだけはお薦めしません。私の個人的感想ですが、単純に時間の無駄で不快です。

洞窟(amazonリンク)
ラベル:小説 書評
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2007年03月18日

「謎の蔵書票」ロス キング 早川書房

libris.jpg

普通に紹介されている粗筋を読んだ限りでは、それほど面白そうとは思えなかったのですが・・・やっぱり本は読んでみないと分からないものですね。本書は私が読んだ中でも歴代ベスト10に余裕で入るぐらい面白い本でした。まだまだ、私の知らない素敵に面白く、魅力的な本ってたくさんあるんでしょうね! 最近、出たばかりで新しい本なのにこの本知らなかったもんなあ~。頑張って、もっといろんな素晴らしい本を是非とも探したいもんです、ハイ!

できれば、原書で読みたくなったので手元の積読本がいくらか消化できた時点で洋書で読まなければって強く思うほどの本です。こういう本でしょうね、自分の愛読書としてオリジナルの装丁をして本棚に飾っておきたくなる、そんな素晴らしい小説です(うっとり・・・)。

さて、粗筋。
舞台は17世紀、清教徒革命後に王政復古に至ったロンドン。そこで稀稿本などを商う古書店主が、いかにも訳有りで零落しつつある貴族から、奇妙な書籍探求の依頼を受ける。

次第次第に明らかになる依頼主の貴族の素性。錬金術師と魔術師の街、プラハにおいてルドルフ2世の下、世界中の稀稿本(とりわけ錬金術などのオカルト文献の収集で有名)を集める仕事などもしていたらしい。その貴族が残した世にも稀な蔵書の一つを探す途中で古書店主は次々と事件に巻き込まれる。

全読書家垂涎の的となるような、珍書稀書が続々と登場する魅力には、なんとも抗し難いものがあります。読んでいる途中でも、何度も現実を離れてその時代のプラハに行っているような気になりました。

何年か前に私も実際にプラハに行きましたが、そこで経験したことは、この小説に出てくる時代とほとんど変わず、現在もそのままに残っています。プラハに行き、プラハ城に行きさえすれば、当時錬金術を行っていた部屋や器具、魔女狩りの処刑に使った道具などが
未だに展示されていたりします。

うちのブログのトップ頁にある、ストラフフ修道院付属図書館の写真にあるように、たくさんの怪しげな本がずらりと並んでいる姿も往時と変わらないのではないでしょうか。天体観測儀(アストロラーベ)や博物学的な資料などもいっぱいあったし・・・。

また、プラハに行ったことがなくても、書籍に関する知識があれば、本書はやはり存分に楽しめると思います。但し、ヘルメス文書、エメラルド板、アグリッパ(私もようやく思い出したけど)、パラケルスス等々の単語を聞いて「ああ、あれね!」っていうぐらいでないと読んでいてかなり辛いのでお薦めしないし、できません。 

良くも悪くも読書を厳しく限定(選別?)してしまう本だと思います。歴史的に有名な書物のタイトルを聞いて、読んでないまでもその内容がすぐに想像できないと本書の衒学的な面白さに共感できないと思います。また、最低限度の歴史的素養も押さえておかないと、本書が舞台とする当時のロンドンとプラハの世界情勢の緊迫感とそれが故の稀稿本の遍歴が臨場感をもって感じられないかもしれません。

イギリス人のコアな愛書家なら、まさにその対象としてうってつけでしょうが、日本人でこの手の本に感動して涙しながら、読む人はごく少数派のような気がします。逆に言うと、いろいろなことを知っていれば、知っているほど、本書に書かれている内容の何倍ものその背景から、より深く楽しめるようにできている感じがします。

本書は一から十まで解説しません。読者が前提としてこれぐらい知っているよね、それがスタートです。だからこそ、断片的に描かれた単語や部分から、知っている人ならば本書でごく一部しか語られない裏側が自然と推測でき、勝手にふむふむと頷きながら、じっくりと読み進めて行けるのです。おそらく、私も4、5年前なら今ほど本書を堪能できなかったと思います。特に、グノーシス系やオカルト系の文献をある程度知っていないと、この独特の世界観を自らの中に鮮やかに再構築するのは難しいかもしれません。

実は、いろいろともっと書きたいことがあるのですが、ネタばれになってしまってはいけませんのでこれ以上は書きません。しかし、本書の種明かしの部分について、うちのブログでも幾つか採り上げています。大変面白い話ですので、ご興味のある方、探してみて下さいネ。

「ナインズ・ゲート」と同等、あるいはその上を行くまさに書痴やビブリオマニア向けの本かもしれません。その筋の方、是非&是非どうぞ!! 普通の読書家の方には、ちょっと辛いかもしれません。

謎の蔵書票(amazonリンク)

関連ブログ
ナインズ・ゲート デラックス版(1999年)ジョニー・デップ主演
「呪のデュマ倶楽部」アルトゥーロ ペレス・レベルテ 集英社
魔女と錬金術師の街、プラハ
「THE GOLD 2004年3月号」JCB会員誌~プラハ迷宮都市伝説~
バチカン秘蔵資料がインターネット上に公開
「錬金術」沢井繁男 講談社
「錬金術」セルジュ・ユタン 白水社
「錬金術」吉田光邦 中央公論社
「悪魔学大全」酒井潔 桃源社
「大聖堂の秘密」フルカネリ 国書刊行会
「西洋暗黒史外伝」吉田八岑 桃源社
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2007年03月11日

「幻魔の虜囚」タニス・リー 早川書房

昔、ほとんどの本を読んでいたタニス・リー作品の一つです。まだ手元にあるか不明なので、たまたま見つけた時、購入しちゃったんで再読してみました。

奇術師の王にして、興行師でもあり、悪しき神を祀る神官でもある人物が率いる一座。この世のものとも思われない素晴らしい舞台を見せてくれる反面、その代償は想像もしないほど高くつく。

その一座で操り人形同然に使役される美貌の若者に恋する女奴隷。熱狂的な恋がもたらすなんとも不思議な物語というのが本書のストーリーとなります。

確かにファンタジーなんだけど、他の作品と比べるとちょっとパワー不足かな?読者を怪しくも魅力的なこの世ならぬ世界に惹き付けてやまないだけの魅力が本書にはないように思います。う~ん、残念! 盛り上がりもないし、どの登場人物にも入れ込めない感じがしました。

唯一、興味を持てたのは、魔女が使う魔法で過去の事実に対する認識を変えることで未来の姿を変えてしまうこと。詳しく話すと、つまらなくなるのでこれ以上、触れませんが、もし、本書を読むなら是非、その部分には意識してみると面白いかも?

う~ん、本当に読み応えのあるファンタジーも読んでみたいなあ~。

幻魔の虜囚(amazonリンク)

関連ブログ
「闇の公子」タニス・リー 早川書房
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2007年02月27日

「大聖堂の悪霊」チャールズ パリサー 早川書房

akuryou.jpg

あの分厚い「五輪の薔薇」の作者による歴史ミステリーです。な~んて本書自体にも書かれていますが、実はその五輪の薔薇を読んでいなかったりする。いや、重くてかさばりそうでそちらは手を出しかねています。単純に薄いし、大聖堂だからとこちらに手を出してみました。

いかにも英国風ミステリーという感じがします。特に人物描写は、行動パターンのまどろっこしさが「あっ、英国っぽいかなあ~」なんて思いますが、理詰めで問題を解決しようという姿勢が明確に出ているし、歴史上の事件と物語上の現在が相互に関係しあう辺りはなかなかうまいのではないかと思いました。

古い大聖堂を有する参事会員や旧弊な枠組みの中で生きていかざるを得ない人間達などを丹念に描いています。また、歴史上の問題を解決すべく大聖堂内の図書館にある古文書を調べるというのも、それだけで十分にそそられるものがありますが、私にはこのミステリーはイマイチ分かり難い!

直接の当時者だけでなく、後でこれまで表に出なかった人物の告白等により、最終的には全ての謎が明らかになるのですが、恥ずかしながら私よく理解できませんでした。謎説きや犯人は分かるのですが、そちらに関心がいくとそれ以外の主人公を裏切る友人の位置付けや、歴史上の人物の行動などがすっかり空白になってしまって「誰それ?」状態になってしまいます。

読者はみんなついていっているのでしょうか??? 

あちこち視点や謎が飛ぶのはいいのですが、それが収束しないで個々の論点で発散しているような感じなのです。

謎が解かれたというカタルシスを少なくとも私は得られませんでした。じっくり読み込めば、理解できそうでそれなりに味わいもありそうですが、この程度の本をそこまで読み込む気になれませんし、そんな時間があれば、もっと他の本を読みたい私としてはこれで終わりです。

大聖堂も出るし、古文書も出るし、参事会など、道具立てが魅力的な割には、イマイチとしか言いようがありません。もう少しなんとかすれば、魅力が倍増しそうな予感はするのですが、これは非常に惜しい作品と言えるでしょう。



大聖堂の悪霊(amazonリンク)
ラベル:書評 小説 歴史
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2007年02月23日

「悪魔のピクニック」タラス グレスコー 早川書房

picnic.jpg

世界中で禁止されている食べ物や飲み物などを求めて旅をするお話。具体的には{イェベレント、クラッカー、エポワス(チーズ)、クリアディリャス(内臓)、コイーバ(葉巻)、アブサン(お酒)、ショコラ・ムース、コカ茶、ペントバルビタール・ナトリウム}が採り上げられている。

勿論、中毒性や習慣性など禁止には各国毎にそれなりの理由があるのだが、どこの国も一緒で本当に有害であったり、問題があったりするかは二の次で、合理的に考えると禁止自体が不要ではないか?というものもある。著者は冷静にそういった問題点を指摘しつつ、あえて禁止されているその国で禁断の『ブツ』(食べ物や飲み物)を探すことを試みる。

積極果敢に挑戦するその姿勢は、この一面を見る限りでは有意義であり、土地の人に混じってそれを試すのは、現地に溶け込んでいる感じで好ましいのだが・・・。

著者は国家や官僚がどこの国においても、名目的な規制ばかりをしていることを実体験を通じて批判し、それなりに説得力のある証拠も示している。ここまでは良い!

ただ、この著者って性格悪いなあ~と思うのは、わざわざ禁止されているものを持って、その国の警察とかに見せびらかすこと。外国人だからと現地の警察が見逃すのを(恐らく分かったうえで)喜々として違反行為を演じる姿には、嫌悪感を覚える。禁止されていない国があるんだから、だったらそこでそれを楽しめばいいだけなのに・・・。

どこの人でも時々、誤解している人がいるのだが、どう考えても悪法と思われる『法』でもそれは作る立場の人に責任があり、法を執行する現場の人の責に帰すべき事由ではない。どっかの国の法務大臣が法を執行すべき職無にも関わらず、死刑を執行しなかった馬鹿者もいたが、逆にこれこそ問題であろう。「悪法」もまた「法」なのだから(個人的には、実定法主義の立場だったりする)。

それはともかく、著者のようにわざわざ問題を起こそうとする姿勢は嫌いだ。本書には、そういうひねくれ者が喜びそうな部分が多々あり、全体としては否定的な感想しかないが、惜しいところがある。

私は関心がありつつもこれまで、よく分からなかった「アブサン」についての説明がとても詳しい。ちなみに、いわゆる最近のお子様向けの偽物アブサンではなく、廃人になっていくあの頃のアブサンの話である。

どうせなら、私もアブサン中毒にでもなって消えていくのも良いかなあ~、心密かに願っていたこともあったので実にこの部分は興味深かった。

まあ、以前は世界中でドラッグを求めてひたすら旅する人の本も読んだことがあるが、それと比べるとたいした毒気はない。著者はあくまでも薄っぺらな好奇心で行動しているので、情熱もかなり軽い。もっともそれが本書のウリなのかもしれないが・・・。

ちなみに以前読んだドラッグの本は、ひたすらハイになりたい。未知のものを試したいというシンプル且つ溢れんばかりの情熱の本で、私はドラッグ自体には興味ないが、その本はとても面白かった!本書にもそういったものを期待していたのだが、残念ながらミーハーなものしかなかった。

悪魔のピクニック―世界中の「禁断の果実」を食べ歩く(amazonリンク)

関連ブログ
「媚薬」エーベリング (著), レッチュ (著) 第三書館
ラベル:書評
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2007年02月21日

「パラケルススの薔薇」ホルヘ・ルイス・ボルヘス 国書刊行会

国書から出ていた「バベルの図書館」シリーズの一冊です。ボルヘスの短編集なのですが・・・あんまり面白くなかったりする。

表題の「パラケルススの薔薇」は想像通り錬金術の話なのですが、同じ錬金術関係の小説なら、パウロ・コエーリョの「アルケミスト」の方が百倍以上、面白いし、含蓄があるように思います。

本書の場合、確かに幾ばくかの余韻はあるのですが、どうにもちょっとねぇ~。

他の小説についても、私の感性に響くものがありませんでした。まあ、人それぞれ、合う合わないってあるしね。

今回の場合、錬金術つ~よりも「杜子春」の仙術を教わることにも近いノリを感じましたが、どんなもんでしょうか?少なくとも本書の短編読むなら、芥川氏の短編の方がはるかに満足度が高いかと。

そういやあ~、物心ついてから歯車を見なくなったなあ・・・。

パラケルススの薔薇(amazonリンク)

関連ブログ
「アルケミスト」愛蔵版 パウロ コエーリョ 角川書店
ラベル:小説 書評
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2007年02月16日

「マグダラの古文書」バーバラ・ウッド サンリオ

ご注意! マグダラのマリアが出てくると思うでしょ。私もそう思って購入しました。しかし、直接的にマグダラのマリアとは関連がありません。それだけでこの本を読みたいと思う気持ちは10%以下になったかも?

おそらく本書に関する情報ってほとんどないと思うので、まずは粗筋から。

主人公は、大学の教授で古文書学の専門家。ユダヤ人だが、ユダヤ教の教えに従うことなく、普通に生活をしている。そして彼の元にイスラエルで発掘されたという古文書のコピーが届き、その解読を担当することになる。

古文書は死海文書同様に、壺に入って保管されていたものでそれは、イエスの死後まもない頃のものであった。発掘の進展状況に応じて、国際郵便により数枚の写真で少しづつ届けられる古文書を解読いていくうちに、主人公はいつしかそれを描いた主人公と同一化していってしまう。

歴史の謎解きや、キリスト教の隠された謎、といったありがちな路線を期待していたのだが、読んでいくうちに段々変な方向に向かっていき、頭のおかしい人の話になっていくのが私にはどうしても理解できない? 何故、そうなっていくのかも不明だし、最後になっても説明がされていない。そして、そのおかしくなっていく過程でフィアンセとの仲が壊れ、教え子に手を出すのだが、この余計な男女関係の記述がただでさえ、つまらない内容を更に台無しにしている。

具体的な古文書の内容部分は書かないが、読み終わってがっかりするほどつまらない。著者が書きたかったのは、キリスト教のミステリーではなく、それにちょこっとだけ絡めた低俗な恋愛もの(或いはオカルトもどき?)だったのではないかと思ってしまう。

私的には思いっきり駄作の分類に当たるだろう。長らくこの本は絶版だったので原作の洋書で読もうと思っていたが、買わなくて正解でした。いやあ~、安くて買って良かった! プレミアム価格で買っていたら、またストレスが溜まるところでした。

もっと面白い本読みたいなあ~。

マグダラの古文書(amazonリンク)
ラベル:キリスト教 書評
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2007年02月13日

「女教皇ヨハンナ」上・下 ドナ・W.クロス 草思社

yohanna.jpg

男性しかなれないはずであり、思いっきり女性嫌悪(?)の宗教であるカトリックで女性の教皇がいた。この話は現在のバチカンで公式には否定されているものの、誰でも耳にしたことがあるのではないかと思います。タロットには女教皇のカードがありますし、教皇就任時には男性器の有無を確認することが儀式の慣例にあるという噂も聞いていて私も関心がありました。

本書では、女教皇の実在を肯定する立場にたつ著者が可能な限り実際の歴史的な事実を踏まえつつ、小説形式でその幻の女性教皇を描いた小説になっています。それが小説としても十分に面白いんですよ~これが。先ほど読んだ「フィレンツェ幻書行」というのも主人公は女性でしたが、あれと比べると本書は雲泥の差があり、実に読み応えのある上出来のエンターテイメントになっています。女性だったら、こちらの方がはるかに共感できると思うんですが、いかがなもんでしょう? (まあ、人それぞれでしょうけどね)

今でこそ、女性もそれなりに(!)正当に評価されつつある社会になってきたきたようですが、中世初期において女性が文字を学ぶとか、学問をするなどというのはそれこそ神が定めたもうた自然の摂理をないがしろにする、忌むべき行為とされた頃のお話です。まさに『不自然な行為』そのものだったと言えるでしょう。

そんな時代に生まれた女性が持ち前の学問的な好奇心と情熱だけを頼りに、知を求める行動を起こします。立ちはだかる困難、社会的に認められない自らの存在への悩みなどを経験しながら、幸運の助けを借りて、やがて彼女はありうべくもない至高の存在へと辿り着くことになります。

強い意志と努力という長所と共に、世慣れた目からすると時に気配りに欠けた田中まきこ的性急論者のトラブル・メイカーでもあるのですが、そういう欠点も含めて実に魅力的な人間像になっています。これ以上の詳述は避けますが、読んで楽しい物語ですのでこの手のものが好きな人なら、満足できるのではないでしょうか? 当時の歴史的背景は、史実にかなり忠実です。

あと著者自身の後書きで著者が女教皇ヨハンナの実在説を支持する根拠なども挙げられています。しばしば、他の本でも目にする内容で取り立てて新しい項目はないですが、分かり易くまとまっていますで今まで知らなかった人には、勉強になるかも?

女教皇ヨハンナ (上)(amazonリンク)
女教皇ヨハンナ (下)(amazonリンク)

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女教皇ヨハンナへの言及有り
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「フィレンツェ幻書行」ロバート ヘレンガ 扶桑社

かなり最低な本。洪水で水びたしになったフィレンツェへ、古書を救う為にボランティアで行ったアメリカ人女性が稀稿本である写本と出会い・・・という粗筋に興味を覚えて読んだものの、100頁を過ぎてもくだらない29歳独身女性の愚痴と不安感の羅列に閉口させられます。

今の言葉でいうなら『負け犬』女性の自分探しの旅、とでも言えばいいのでしょうか?舞台は1960年代のヒッピー華やかかりし頃なんで、ボランティアに行ってちょっと気があえば、行きずりでベッドを共にするという本当にくだらない内容。それを勝手に運命的な出会いと思っていい歳して夢見たあげくに、いかにもウーマンリブ的な根拠がないままでただ&ただ自己主張するだけのその姿には、正直うんざりして憎しみさえ覚えます。

勿論、人の生き方はどうでもいいのだければ、安っぽいラブロマンスだと知らずに本に関する小説と勘違いして読んでた私は大馬鹿者だと後悔することしきり。ああっ、私って馬鹿だ!

とにかく最初から最後までSEXと自己主張と自己欺瞞の続く文章で気分が悪くなります。女性の独白形式ですが、著者は男性だそうです。個人的には二度と見たくない本でした。これが本当にアメリカで売れたのか私には大いに疑問です???

フィレンツェ幻書行(amazonリンク)
ラベル:書評 小説 古書
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2007年02月02日

「地底旅行」ジュール・ヴェルヌ 岩波書店

titei.jpg

以前にも読んだはずだが、今読み直してみても十分に面白いのは、やはり古典とされるだけのことはあるなあ、と改めて認識させられました。初期SFとも位置づけられる本作ですが、書かれて100年経ってるのに(!)冒険物として夢があります。久しぶりに子供心を思い出し、冒険に出たくなりました。「失われた世界」とか読んだときと同様に思いました(笑顔)。

粗筋としては、ドイツの学者が古書店から、怪しげな古書を購入します。その古書には暗号と思しき文字の書かれた羊皮紙が挟み込まれていたのでした。どうやら元々の持ち主は、16世紀当時の最先端をいく科学者兼錬金術師として高名な人物。暗号を解くとそこには驚くべき内容が!! その学者と甥は謎の錬金術師が残した文書を頼りに地底へと向かうのでした。そしてその地底へ向かう途中で出会う数々の出来事。想像を絶する事柄を経験していくのですが、御都合主義の展開もあるものの、当時の科学知識を可能な限り敷衍して地底への旅行が説明されていてそれもなかなか興味深い。

なんたって今から100年以上前に書かれているのですが、少しも色褪せず、冒険物としてのドキドキ感は今も十分に味わえます。こういうのを読んで川口浩の探検隊とかTVで見たいとこですね(笑)。楽しかったです。

地底旅行(amazonリンク)
ラベル:書評 SF 小説
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2007年01月29日

「グノーシスの薔薇」デヴィッド マドセン 角川書店

gnosis.bmp

まず、タイトルについて。邦題では「グノーシスの薔薇」となっていますが、原題は memories of a gnostic dwarf(=グノーシス主義者の小人の記憶)であり、原題は内容に忠実なのに邦題は本書の内容とは全然異なっています。決して”ゴシック歴史ロマン”・・・なんてことはありません(爆笑)。誇大宣伝もいいとかでしょう。

まあ、邦題の方が絶対に売れそうですけどね。だって、とっても面白そうですよね。タイトルに騙されてしまうかもしれません。実際、私も騙されたクチですし(笑)。

グノーシスやらルネサンスやら、教皇に小人、ラファエロといったキーワードにそそのかされ、素晴らしい美術的な世界を想像してしまうと読者はこの本を破いて捨てたくなるかもしれません。おおよそ美術、とりわけルネサンス的な『美』とは縁もゆかりもない、むしろ汚辱と猥褻にまみれた悪書かと思います。美とかそういうものを期待する方は決して読んではいけない本でしょう!

但し、歴史というものをよ~くご存知の方で現代特有の神経症的な軟弱さなどなく、独自の価値観や強烈な自己をお持ちの方(世間からは、『変わり者』などと言われるタイプ?)、更に一部の嗜好をお持ちの方なら大いに本書を楽しむことができるでしょう。世間様から、後ろ指を指されるかもしれませんけどね。

率直に言って、私は大いに気に入りました(←私は変わり者ですので、一般論ではありません)。「ラビリンス」や「コーデックス」よりも、読み物として私には面白かったです。例えていうならば、雑誌に出ている流行の店に行くのではなくて、食べたことの無いようなゲテモノ食いをするような本質的な意味での『グルメ』のような方、そういう人向きです。

とにかく下品で下劣で、人間のおぞましいけど確かにある真実の一面をさらけ出したような描写が頻繁に出てきますし、畸形をあざ笑い、見世物にする心情や異端で火あぶりにされる見せしめを恍惚として楽しむ心情など、狂気の沙汰かもしれません。しかし、それは決して当時の歴史的なものから見て荒唐無稽ではなく、むしろ史実に裏打ちされた虚構であるだけに独特の生々しさがあります。

本書では、イタリアの路地裏で最下層の生活をしていた小人がとあるきっかけでグノーシス主義に触れ、無知蒙昧から脱却し、紆余曲折を経てなんと!高貴な法王の側近の1人にまでなります。そしてその小人が自らの人生を振り返って記述した回想録となっています。

本書の登場人物はどいつもこいつも癖があり、決して善人とは言えず、むしろ彼らの行為そのものは『悪』と呼ぶにふさわしいような人物ばかりなのです。それでいて決して純粋な『悪』ではなく、非常に人間らしい美点をもあわせ持った人物なのです。その意味でいうと、本当に人間らしい『人間』とさえ言えるかもしれません。・・・通常人の良識では決して許容できない範囲かもしれませんが・・・

う~ん、偽悪的というのともまた違うのですが、人間という名の虚飾を一切剥ぎ取ったような『姿』が描かれています。人間としてのどうしょうもない悲しみと共に、理解しがたい優しさなど一歩距離を置いて、読み取れるような気がします。でも、表面的にはエロ・グロ・バイオレンス(ナンセンス?)なんですけどね。

また本書で描かれるグノーシス主義は、根本で違ってはいないと思うのですが、私の思っていたものとは違和感がありました。3%から5%ぐらいの差異? それでも十分に面白かったです。異端審問官も出てくるしね。

中世の祭りで有名な、王と乞食の倒置のような世界観があちこちで見られます。その辺りの中世社会のメンタリティが分かっているとより納得がいくかもしれません。うちのブログでもたびたび採り上げている阿部謹也氏の本などにもその辺りのことがよく描かれている。フレイザーの金枝篇にも確かあったと思います。

とにかく98%くらいの人は読まない方がいいと思います。残りの2%くらいかな? 人間としての悲しさと憐憫を覚えつつ、興味深く読めるかもしれません。但し、最後の最後は幸せに終わります。正直、救われた気持ちがしました。

そうそうおまけですが、著者はロンドン生まれでローマに留学していた哲学・神学者とのこと。そもありなん、って思いました。色々な意味ですけどネ。

グノーシスの薔薇(amazonリンク)

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トマスによる福音書~メモ
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2007年01月26日

「コーデックス」レヴ グロスマン ソニーマガジンズ

codex.jpg

~本棚の『薔薇の名前』や『抱擁』の横に置くべき。~

とか大層な宣伝コピーがついていますが、それほどの奥深さは無い本です。でも、本好きには、結構ぐっとくる小説だと思います。その存在を疑われている幻のコーデックス(古写本)を巡る謎解きがなんとも楽しく、少しづつ解明されていく経過にも説得力があり、なんとも魅力的です。

粗筋は、投資銀行のエリート銀行員がたまたま関わってしまったコーデックス(古写本)探し。大金持ちの貴族からの依頼で訳も分からぬまま、ど素人の銀行員が膨大な書庫の整理をする羽目になる。その過程でとある稀稿本探しの不思議世界へと巻き込まれていく。

彼を助けてくれるのは中世史研究者の女性。熱狂的なまでに一途にその写本を探す姿勢が実にイイ。何よりも彼女の博識と情熱が、金銭以外への関心を示さなかった銀行員と対照的であり、いい味を出している。

また、古写本探しと同時進行で進められる不思議なPCゲームの存在が『古い世界』と『新しい世界』をパラレルで暗示し、奇妙に絡みあっていくのも面白い。

ただ本書の一番の魅力は著者がプロの書評家であることから、裏打ちされた書物に対する知識!! 本好きなら、きっとそそられること間違い無しです。本書とはノリが違うものの、「ナインズ・ゲート」的な世界観が漂います。

やっぱり、貴族や教会の所有する蔵書だよね。狙い目は! どんなお宝が眠っていることやら??? 一度でいいので、是非そういう書物に囲まれて時間を過ごしたいものです。羨ましい限り。

謎解き部分など、一番肝心な本に関わる部分は大いに楽しませてもらい、大変満足です(笑顔)。ただね、主人公たる銀行員と研究者の女性の間がね・・・最後だけ私にはあまり納得がいかないラストでした。でも、それは瑣末な部分かも? 総合的に見て本好きだったら、きっと楽しめる作品です。

コーデックス(amazonリンク)

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ナインズ・ゲート デラックス版(1999年)ジョニー・デップ主演
印刷革命がはじまった:印刷博物館企画展
ラベル:写本 書評
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2006年12月31日

「ラビリンス」上・下 ケイト・モス ソフトバンククリエイティブ

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今年最後の読書であったのだが、期待外れもいいところで散々な子供騙しの小説の習作レベルであった。

この程度の本が、世界各国で翻訳されているというのは私の感覚では理解できないし、大層な宣伝コピーは私には完全な虚飾であったとしか思えない。私の主観では時間の無駄に分類する本だった。

ざっと粗筋を述べると、古代遺跡の発掘をボランティアでやっていた主人公の女性。いきなり勝手なところを掘っていて、突然驚くような遺跡を見つける。それから突如として巻き込まれる陰謀の数々。やがて明らかになる事実。それがはるか800年前の歴史上の出来事と関連していく。

舞台として大好きなシャルトルやカルカソンヌなどが出てくるのだが、その素材を全然生かしきれていない点がなんとも歯痒い。カタリ派やシャルトル大聖堂のラビリンスの理解も薄っぺら過ぎて、ストレスが溜まります。はっきり言うと、著者勉強不足。もっと&もっと勉強してから、書いたら?って言いたくなります。と同時に、あえてストーリー重視でそれらを抑制した書き方をしたのなら、なんでストーリーが面白くないのでしょう。

実際、本書の最初の4分の3は、断片的で全く意味不明な事件や行動が記されているだけで、解説を含めてそれらが有機的に意味を持ったものとなるのは、謎解きが始まる最後の4分の1に至ってから。正直上巻を読み終わっても無意味な文章だけで意味が分からず、くだらない文章だけだったのでよっぽど下巻を読むのをやめようかと思ったぐらい。個人的には、単純な小説としても二流以下に思えた。

更に聖杯伝説といいながら、こんなチンケな歴史ミステリーもないだろう?どこぞのTVの番組かい?と思うほどの安直な謎。本家の聖杯伝説の方がよっぽど面白い。歴史・ミステリー・小説のどの観点からもつまらなくて読むのが無駄だった本。ヒエログリフやアンク(本文中ではアンサタ十字と言っていたが、普通「アンク」のような気がするが・・・)を絡ませていても、全く意味がなくてただ使っているだけ、まるで子供の文章。こりゃ、大人の読み物ではありません。

別に突飛なストーリーでもいいし、論理的な謎解きでもいいけど、読んでいて面白くなければ意味ないっしょ! これで聖杯とか歴史ミステリーなんて言われたら、温厚な私も切れちゃいますってば、もう~。

カタリ派を扱った小説なら、私が否定的な感想を書いている「オクシタニア」の方が完成度としては、はるかに高いです。「ラビリンス」を読むなら絶対に「オクシタニア」を読みましょう。こちらは少なくとも歴史小説として一定水準以上は確実にクリアしています。それでも私には不満でしたが、本書の場合はそれ以前の問題です。

ちなみに・・・カルカソンヌの歴史自体の方が本書よりも何百倍も魅力的で興味深いです。世界遺産でもありますが、異端のカタリ派のことも含めてこんな幼稚な歴史小説もどきのとは隔絶した本物の歴史の宝庫です。是非、そちら関係の本を読みべきでしょう♪

ラビリンス 上(amazonリンク)
ラビリンス 下(amazonリンク)

関連ブログ
「オクシタニア」佐藤賢一 集英社
「異端カタリ派」フェルナン・ニール 白水社
「異端審問」 講談社現代新書
シャルトル大聖堂 ~パリ(7月5日)~
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2006年12月30日

「大聖堂」(上・中・下)ケン・フォレット ソフトバンク クリエイティブ

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中世イギリスが舞台。大聖堂を建設しようとする人々が織り成す人生模様が精緻な時代考証の下で、実に劇的にして極めつけのリアル感を持って描かれています。

中世全般やゴシック建築、聖遺物に関する予備知識があると更に深く楽しめる作品ですが、本書の場合は人を描くという点で非常に巧みであり、劇的に人間を描いているのであまりその辺の歴史的背景を知らなくてもドラマとして十分に楽しめます。

ラストはハッピーエンドではあるんですが、途中の過程があまりにも実際にありそうなぐらい悲劇で惨めで残酷なんで、読んでいて結構悲しくて気が重くなったりする。そこが欠点。でも、どんなに理不尽な不幸に何度も何度も打ちのめされるちっぽけな人間の切なさを感じつつも、それを克服していってしまう生命力が凄いです。でも・・・生きていくのって大変なんだねぇ~。私はもっと楽しく&幸せに生きていきたいもんです。うん!

歴史小説とか、そういった点を抜きにしても普通の小説として、かなりの出来だと思います。悲劇が苦手でなければ、小説として十分に楽しめると思います。

また、小説を楽しみながら、中世の人々が置かれた社会情勢や社会慣習などなども知ることができていいかも?もっとも上・中・下の3巻はそれぞれが厚くてボリュームが多いので時間はかなりかかるのですが、読んでいてすぐ次を読みたくなるのは間違いない作品です。

いやあ~しかし本書にもサン・ドニ修道院長のシュジェールが出てきたのには驚きました。カンタベリー・ウォーターまで出てくるし。参った&参った!

やっぱりいろんなことを知れば知るほど、知識は相互に関連するんで面白いですね。勉強は本当に面白い。

大聖堂 (上)(amazonリンク)
大聖堂 (中)(amazonリンク)
大聖堂 (下)(amazonリンク)
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2006年12月23日

「バラの名前 百科」クラウス イッケルト,ウルズラ シック 而立書房

小説「薔薇の名前」オタクが微に入り、細に入り、小説全体に隠された入れ子状態のような隠し扉を探し出し、その扉から扉への繋がりを解明し、解きほぐしていく。ただ、それを隠したのが一流の学者であると同時に、それを探すオタクも一流の学者というのがポイント!

実際、え~そこまで知らないといけないのといささかうんざりするほどの重畳的な企みには驚愕を通り越して、正直とてもじゃないがついていけません。って泣き言を言いたくなるところもありますが、それでも本書を読むことで初めてあの本や映画で描かれている内容の真の意味を理解したような気になる箇所がいくつもありました。

逆に言うと今まで私の理解がいかに浅かったのかを痛感させられます。それに気付いただけでも本書を読んだ価値がありました。だって、あの本の中における修道院長のモデルがサン・ドニ修道院長のシュジェールだなんて、本書を読むまで全く夢にも思いませんでした。これ読まなければきっと死ぬまで気付かずにいたかもしれません。う~ん!!

ここんとかずっと読み漁っている資料がまさにそのシュジェール絡みだっただけに、そのことを知ったときには衝撃でした。小説「薔薇の名前」の該当部分とシュジェールの有名な言葉との一致には、ほんと目から鱗以外の何物でもないです。ちょっと手が震えちゃいましたもん。

いやあ~、他にも本当に驚くような発見が満載の本書です。小説や映画で感動し、真剣にもっと深く知りたい方には絶対にお奨めします!! でもね、ちょっと読んでみようかっていうレベルでは、読んでも無駄かもしれません。解説本ではあるものの、そこで要求される前提条件のハードルが高過ぎる。ホント、私なんか難しくて自分が可哀想になってしまうくらい。ある意味、あの小説よりも難解かもしれません。それだけに本書をうまく使いこなせれば、小説「薔薇の名前」を何倍にも奥深く味わい尽くすことができるようになれる(?)かも、しれません。

でも、腹をくくって読む気があるなら、きっとそれは役立つような気もします。私には、分からないなりにいくつか類書で思い当たる部分もたまにあり、非常に楽しくってしかたないところもありました。

そうそう、6章の「総まくり」というのがちょっとした関連用語集になっており、これは非常に重宝し、勉強になります。これもなかなかGOODです(満面の笑み)。
【目次】
1章 小説の構造
2章 舞台
3章 人物たち
4章 各種小説の合一―小説類型を求めて
5章 文学上の手本
6章 歴史的背景―総まくり(アルファベット順)

読者からの示唆

付録
 ウンベルト・エコ略歴―エコの邦訳文献
 映画『薔薇の名前』
 文献目録
 図版一覧表
「バラの名前」百科(amazonリンク)

関連ブログ
薔薇の名前(映画)
「薔薇の名前」解明シリーズ 而立書房 
ラベル:書評 中世
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2006年12月08日

「悪魔とプリン嬢」パウロ コエーリョ 角川書店

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非常にシンプル。児童書と言われたら、そうなんだと納得してしまうぐらい平易な文章。しかし、そこに描かれる主題は非常に示唆に富み、読むものを考えさせずにはいられない深みを持つ。

世界中のどこにでもありえる社会。日常の延長線上にあるような、とある村で期せずして大した苦労もなく大金を入手する機会が訪れる。平凡だが罪のない(と思っていた)人々が「善」と「悪」の狭間で揺れ動く姿はまさに私達自身に他ならない。

ちょっとしたきっかけさえあれば、容易に人は「善」と「悪」をそのまま等価交換してしまう危うさが描かれています。天使と悪魔の闘いは、すぐ日常に転がっているのに気付くでしょうか? 自己正当化の理由なんてものはいくらでも後から付けられますが、何があっても自己を貫ける人は希少な存在でしょう。

そういう意味で私には非常に難しい本だと思いました。ただ、私だったら悩まずに一枚の黄金だけもらって逃げますけどね! 自分の良心さえ痛まなければ、たかが国家や組織のルールなどかりそめのモノに縛られることはないからね。まあ、私自身の場合ですけど。

人によって無限の解釈ができるので面白い本かもしれません。ただ、ちょっと疲れる、っていうか考えさせられてしまう本でした。

悪魔とプリン嬢(amazonリンク)

関連ブログ
「アルケミスト」愛蔵版 パウロ コエーリョ 角川書店
「星の巡礼」パウロ・コエーリョ 角川書店
「ベロニカは死ぬことにした」パウロ コエーリョ 角川書店
「第五の山」パウロ コエーリョ 角川書店
「ピエドラ川のほとりで私は泣いた」パウロ・コエーリョ 角川書店
ラベル:小説 書評
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2006年12月06日

「パズル・パレス」ダン・ブラウン 角川書店

「ダ・ヴィンチ・コード」や「天使と悪魔」を期待して読むと残念ながら、辛いものがあります。しかし、そういったものを考えずに読むば、そこそこ出来のいい小説だと思います。常に時間に追われている主人公やパラレルで描写される場面、どんどんと急変化していく展開など小説自体としては、まずは合格点ではないでしょうか。

但し、ダン・ブラウンの描く小説のパターンは、露骨に同じ路線を行っているので2冊以上読むとそのストーリー展開のパターンがいささか飽きてきて気になってしまうのも事実。もっとも著者による執筆の順番では、これが先にあったうえで「天使と悪魔」、「ダ・ヴィンチ・コード」と続いていっているのんですけどね。

本書の場合、ポイントはストーリーというよりは何よりも題材が素晴らしい。今でこそ知っている人は誰でも知っている「エシュロン」(知らない人は最低限ググっておきましょう!)などを踏まえてみれば、本書の執筆当時にこれだけのものを調べて材料を集め、小説にまとめた能力はやはり非凡でしょう!もっともそれが、後の「ダ・ヴィンチ・コード」で花開き、世界中で様々な問題を巻き起こすとはさすがのダン・ブラウン氏も予想しなかったでしょうが・・・。(まあ、儲かったからOKでしょう)

さて、小説としての本書ですが相変わらず展開は速いし、いろいろな興味深い情報が織り込まれていて、結構楽しめるのではないでしょうか?しかもここで描かれている内容はかなり有り得る設定であり、私もセキュリティ関係の仕事に絡んでいたので基本的なセキュリティ概念を知っており、そういう意味でも楽しめました。

まさに世界は暗号によって成り立っており、暗号が使用できない状況下ではATMからお金を下ろせないだけでなく、現在の社会が成り立たないのも事実ですから、そういう意味でも楽しいかも? 小説自体の楽しさはまあ並レベルですが。

【以下、ネタばれ含む】







難攻不落の電子要塞たるデータバンクがソーシャルエンジニアリング(ネットワークシステムへの不正侵入を達成するために、必要なIDやパスワードを、物理的手段によって獲得する行為を指す)的な手法で攻略されるのもある意味、基本に忠実なストーリーであり、シンプルな分分り易い。また、現実の社会でも一番危ないのがそれであったりもする。

貴重な社外秘データを持ち出す内部犯がいかに多いことか・・・。私も実際に何件も見たきたし、そういうデータの市場も知っているが、過失ではなく、故意も多いのだから、社員を信じていますなどという馬鹿なコメントを述べる経営陣は、単なる管理能力のない『使えない』おじ様達としかいいようがない。部下を信頼しつつも適切な監視と管理は必須なのが現在の常識なのだけれど・・・。

そういう意味で本書で出てくる管理職の人々の行動は実に合理的であり、そういう見方から読んでも面白いかもしれない。

あとね、これはエヴァファンなら、分かってもらえると思うのですが・・・こんなのりっちゃんがいれば、余裕じゃんと思ったりする。ファイアウォールが一つづつ突破され、セキュリティ刻一刻とハッカー達に侵略されている場面は、マギが使徒に侵略されていく場面を思わず彷彿とさせます(ニヤリ)。
本書を読みながら、脳裏にはエヴァのあのシーンが浮かんでおりました。しかもしかも、そこで出てくるパスワードもマギに関連することだし・・・。(これ以上書くと洒落にならないのでさすがにそこは伏せておきますが)

まあ、エヴァ好きの方はそんなことなどを念頭に置かれて読むのもまた一興かと。

しかし、次から次へと出てくるウィルスやスパイウェアの現実って凄いよ!本書では出てこないがボットなどに操られているPCなんかも世界中にたくさんあるしね。ファイルをダウンロードして「コーデックがないから再生できません。コーデックをダウンロードします。」って出てうかつにダウンロードしたら、それがスパイウェア入りってのは実際にはやっている事例だし、本書のようにPC内のデータを破壊されたくなかったら、金を振り込めとかという脅迫型のものまで実際に存在しています。

また、普通にメールを送ったらそれは全ての中継地でそのまんま読み取られているわけですし、セキュリティかけたってたかが知れてますもん。こないだ見たニュースでは、アルカイダが内部の連絡用にjpeg画像に暗号文(テキストデータ)を潜り込ませて分からないようにしたうえで通常メールを装ってやりとりしているんだそうです。おまけにgoogleなどの検索データなんか絶対に国家権力と癒着してそうだもんなあ~。

それに某○国では、検索会社の進出にあたり検索キーワードに制限をかけるなどという独裁国家ぐらいでしか有り得ないような話が普通にニュースになっているんだから、現実は怖い&怖い。

先日も某ファイル共有ソフト使ってたら、普通にヤバイ情報が流出しててマジ焦りましたもん。あれって本物なのだろうか? 怖い世の中です。ほんと。

パズル・パレス (上)(amazonリンク)
パズル・パレス (下)(amazonリンク)
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2006年12月05日

「イエスが愛した聖女 マグダラのマリア」マービン・マイヤー 日経ナショナル ジオグラフィック社

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しかし、本当にナショナル・ジオグラフィックって凄い!角川さん以上の商売上手としか言いようがないです(脱帽)!

11月3日ダ・ヴィンチ・コードのDVDが出て、また世界中で関心が高まった翌月にマグダラのマリアが書いたとされるグノーシス派の福音書を出版するとは・・・。ユダの福音書での儲けに味をしめたか、二匹目のドジョウを狙うんだからなあ~。

ただ、狙いはいいと思います。私も本屋で本書を目にした時に速攻で手にとってしまって目次&内容を確認してしまいましたから。しかも、「マグダラのマリアの福音書」って数ヶ月前に私が洋書で購入して途中まで読み、積読にしていたものだったんでなおさら感慨深いです。個人的にはやられた!ってな感じです。勝手に出し抜かれてしまいましたあ~と思ってます(笑)。

ちなみにマグダラのマリアの福音書って量が少ないので全文の翻訳だけでは足りず、本書では他のグノーシス文書であるトマス福音書やピスティス・ソフィア等々の死海文書からもマグダラのマリアに関する文章を引用して紹介しています。さまざまな福音書などでマグダラのマリアがいかに描かれているのか、労せずして知るには便利かも? 勿論、それぞれをきちんとした本で読んだ方がはるかに勉強になるし、部分だけの抜書きよりは正しい理解につながるような気もしますが・・・。まあ、手抜きしてちょっとだけ知りたい向きにはいいかも?

解説もついていますが、正直これでは全然足らない感じがします。まあ、ダ・ヴィンチ・コードブームでもう一山儲ける為の本って感じですね。以前、「ユダの福音書」のセミナーで著者を拝見しましたが、また儲かって笑いが止まらないのではないでしょうか。羨ましい限りです(ニヤリ)。

個人的には、もう少しきちんとした解説があると嬉しかったんですが、単なる翻訳と他のグノーシス文書からの抜書きだけで終わっていますので、本当に知りたいと思うと結局、他の本を一冊づつ丹念に読むしかないようです。

期待外れで残念だったかも? 英文で良ければネット上で読めますのであえて本書を購入する必要はなさそうです。関連サイトで紹介しておきますので宜しければどうぞ! 

簡単な日本語訳なら、今月中に私もメモ書き程度のものブログで紹介する予定なのでそちらもどうぞ。

そうそう本は、そんなわけであまり面白くないのですが、DVDとセットで売られているのがあるんですよ~。50分の映像付きのやつ。これが見てみたくって! どなたか購入して見られたら、感想教えて下さ~い。自分で買おうか迷った(迷っている)んですが、本の内容からするとイマイチ買う気になれなくて・・・。

ちなみにこのDVDと本がセットになっているものですが、単独の本とセットの本では内容が若干違っています。セットの本では、マグダラのマリアの福音書の全文訳は変わりませんが、他のグノーシス文書からマグダラのマリアを扱った文章の引用部分が削られています。本の部分は一緒だと誤解して買われないようにご注意を!! まあ、老婆心ながら。
【目次】
序章 神秘と偏見のベールを脱ぎ捨てて
第1章 新約聖書の福音書とペトロの福音書
第2章 マリアの福音書
第3章 トマスの福音書
第4章 フィリポの福音書
第5章 救い主との対話
第6章 ピスティス・ソフィア
第7章 マニ教詩篇集「ヘラクレイデスの詩篇」
第8章 いま、なぜ、マグダラのマリアなのか
イエスが愛した聖女 マグダラのマリア(amazonリンク)
DVDブック ビジュアル保存版 イエスが愛した聖女 マグダラのマリア(amazonリンク)

関連サイト
マグダラのマリア福音書(英語)
ナショナル・ジオグラフィック

関連ブログ
マグダラのマリア 黄金伝説より直訳
「マグダラのマリア」 岡田温司 中公新書
「トマスによる福音書」荒井 献 講談社
ナショナル ジオグラフィックセミナー『ユダの福音書』の謎を追う
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2006年11月28日

「ピエドラ川のほとりで私は泣いた」パウロ・コエーリョ 角川書店

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いつも読むたびに何かしらの力と勇気、人生を生き抜くことへの励ましを与えてくれるパウロ・コエーリョの本です。

この人の本はそれぞれ違いはあるんですが、本質的に同じことを訴えかけているように思います。「人生は素晴らしいものであり、周囲のことに捕らわれず、自らの心の声を聞くことで自分が本当に為すべき事を悟り、またそれを為すことで真の自分を得ることができる!」―ということではないでしょうか?

勿論、読み手によって感じるものや気付かされる事は異なるのでしょうが、本当の『自分』を見つける為に一歩を踏み出す勇気を改めて自分の内面から気付かせてくれるように感じました。

粗筋としては、大人になっていつもの日常にしがみつくようにして生きる女性が旅に出ていた幼馴染の男性と再会する。彼は奇跡の力を有する修道士になっていたが、彼と一緒に旅することを通して彼女は本当の自分に気付き、人生が持つ意義と危険を顧みずに挑戦していくことができるようになっていく。

本の紹介には『愛の癒し』などとも書かれているが、そこに力点があるとは思わない。男女間の愛情以上に、貴重な価値観が描かれていると思います。

コエーリョの本にある種つきまとう宗教観、宗教色は否めませんが、それは特定の宗教への思い入れによるものではなく、あくまでも自らを誘う人に内在する超越的な『力』や『存在』に対して投射的に現されたモノであり、どこぞの安っぽい新興宗教やニューエイジ系のものとは異なります。

そこのところをよく理解して、純粋に本書を味わえれば素敵な本だと思います。まあ、誤解している方々も世界には多いようですが・・・。個人的には、好きなタイプの本です(笑顔)。

ピエドラ川のほとりで私は泣いた(amazonリンク)

関連ブログ
「アルケミスト」愛蔵版 パウロ コエーリョ 角川書店
「星の巡礼」パウロ・コエーリョ 角川書店
「ベロニカは死ぬことにした」パウロ コエーリョ 角川書店
「第五の山」パウロ コエーリョ 角川書店
ラベル:書評 小説
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2006年11月22日

「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」藤代 幸一 法政大学出版局

阿部 謹也氏の著作をはじめ、中世ヨーロッパ関係の本を読むとしばしば目にするこの本は15、16世紀の民衆本と呼ばれるジャンルの本だそうで、中世社会の風俗や習慣、思考方法などが素朴な童話のようなお話の中に散りばめられて実に興味深いです。

但し、この本をいきなり読むとまさに子供向けのお話以外の何物でもなく、しかも「ウンコ」「おなら」など現代的な感覚でいうと単なる下品としか評価されないものが、頻繁に(否!)それがメインで出ている作品の為、かなり俗っぽいです。

日本でいうなら、「金太の大冒険」ぐらいの低俗さでしょうか(笑)。「きっちょむさん」や「一休さん」等にも近いノリですが、それらが基本的に善人による罪のないトンチであるのに対して、本書のオイレンシュピーゲルは、極悪人とまではいかないがかなりのワルです。いわゆる札付きの厄介者で嫌われ者、且つとことんまでひねくれた人物像なのですが、一方で遍歴職人として都市の生活を如実に伝えていると共に、自らの肉体以外の資本を持たない存在が『都市』という場所において蒙っていた困難な状況を辛辣にあげつらい、既成の権力にも屈しないところなど、民衆の鬱憤晴らしの物語として人気を博したのもむべなるかな、と思わずにいられないところがあります。

まあ、小難しいこと言わずにすぐに読める本なのですが、くどいようですが、まずは本書の前に阿部先生の御本を読みましょう。ヨーロッパ中世というものをある程度理解してから読むと、本書の面白さは倍増します!

パン職人や革職人、司祭の寺男などの仕事も興味深いですが、プラハの大学で教授連中を論破するところなども実に、実に興味深い。私がこれまで読んできた本の具体的なイメージが本書を読むことで、なんともリアルに目に浮かんできました。

例えば、いたずら者として悪評が広まった結果、とある地域では出入りを禁じられながらそこに入り、あわや捉えられて罰を受けるとなると、乗っていた馬を殺して内臓を抉り出し、ひっくり返して四つの足に囲まれた中に立つオイレンシュピーゲル。これって、何をやっているのか現代の我々には不明ですが、当時、四つの柱に囲まれた空間にいるものは、どんなもの(権力)でもそこに進入することができない権利を有していた―――そういう社会的通念を理解して初めて納得できる行為だったりします。即ち、殺した馬の足で囲まれた空間が一種の避難地となっている、そういうことを明示している訳です。

いわゆる『アジール』(聖域等)というやつで、なんか面白いですよね。日本でも縁切り寺とかありますが、あれもその手のものらしいですし、子供がやる「高鬼(たかおに)」これなんかもその一種だと思います。私もよくやりましたので勝手に私がそう思うだけですが・・・。

本書では、オイレンシュピーゲルという人物の生まれてから死ぬまでを通して、庶民の中世を描き出しています。いろんな中世物を読んでから、確認や知識の整理を兼ねて読むといいと思います。また、本書を読んでから、改めて他の本を読むと、さらにいろいろな理解が進みそう。

た・だ・・・。
結構、奥深いものがありそうです。浅薄な私の知識では、表面からちょっと入ったぐらいしか味わえていませんが、もっと&もっと勉強すると更に面白いかもしれません。

※阿部先生も同じ本を翻訳されています。本当はそちらの訳を読んでみようと思ったのですが、こちらの本をたまたま購入したのでまだ阿部氏の本には目を通していません。いずれそちらも読む予定なのですが・・・?

ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら(amazonリンク)

関連ブログ
「中世の星の下で」阿部 謹也 筑摩書房
「ハーメルンの笛吹き男」阿部 謹也 筑摩書房
「甦える中世ヨーロッパ」阿部 謹也 日本エディタースクール出版部
「中世の大学」ジャック・ヴェルジェ みすず書房
「異貌の中世」蔵持 不三也 弘文堂
「中世のパン」フランソワーズ・デポルト 白水社
ラベル:中世 書評
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2006年09月16日

「変身 他一篇」カフカ 岩波書店

heisin.jpg大変有名な短編である。ある朝起きてみると、何故か虫になっていた。そしてその虫の身体で人間としての思考をしているという不条理且つ不可解な設定でいながら、何故か段々と違和感がなくなり、主人公の思考と行動が自然に思えてしまう。

『外見』が変わっただけで、態度が変わってしまう家族が普通に描かれており、主人公との関係がある意味、『見てくれ』だけで既定されていたことにあらためて気付かされるのも妙にリアルだ。決してひどい親や妹ではないのだが、やっぱりこんなふうになるのが普通なのだろう・・・。

この話は以前も読んだことがあるが、全く話を覚えていなかった。今回の記憶もすぐ忘れてしまいそうな気がする。逆に言うと、それぐらい日常的な感覚に溢れているので、状況設定の特殊性と対称的な割に自然に感じられてしまうのがまた不思議でもある。

本書を読んでどうこういうような本でもないが、ちょっとだけ気にかかるかもしれない。カフカの著書「城」には、もっと濃厚にプラハという都市独特の存在感が反映されているが、本書もやはりプラハの感覚がつきまとう、ような気がする。錬金術師や魔女が跋扈するあの都市では、気付いたら虫に変じているくらいんよくあることなのだろう(そんな訳ないんだが・・・)。

私が実感したプラハの印象が、どことはなしにカフカの小説には感じられてならなかったりする。

私にとっての「変身」は実はカフカではない。幼少の頃、見た漫画でカフカの変身を題材にしたものがあった。そして未だに、私はこの漫画で覚えた印象を通してカフカの変身を捉えてしまったいる。しかもこの漫画では、虫に変身したザムザ(主人公)が、残飯を食べて成長して蛹(さなぎ)になり、やがて一匹の虫として羽ばたいていくのが非常に強列的だった。彼は人間という殻を破り、殻を捨て超越した存在になったことを描いていた。

カフカに触発された作品としては、なかなかに秀逸と言えよう。どこを探してもその本は見つかっていない。

変身 他一篇(amazonリンク)
ラベル:小説
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2006年09月04日

「ヒストリアン」Ⅰ&Ⅱエリザベス・コストヴァ 日本放送出版協会

hostorian.jpg吸血鬼ドラキャラに関する本で、映画化が決まっていてアメリカでベストセラーなんだって! ポスト、ダ・ヴィンチ・コードの呼び声も高く、歴史好きには好評!!

こんな宣伝文句を聞いてはいたのですが、正直読もうか読むまいか、ずっと悩んでいました。だって、ダ・ヴィンチ・コードの二番煎じのような気がしてちょっと・・・。でも、読んでみたいとは思っていた本でした。図書館にあったんでようやく読めた本。わざわざ買うかどうかは微妙なところですね。

さて、感想をいきなり書いちゃうと、読みものとしては結構上手だと思います。派手さはないけど、じっくりと読者を引っ張るだけの力量はあります。秋の夜長の読書向き。

でもね、この本を読むには結構時間がかかります。しかも某書のように読破するまで息がつけない、といったこともなく、ストーリー自体も時間的にも空間的にも断続的に展開する為に読み終わるまで丸々一週間(正確には8日間)かかりました。だって、寝床で本書を読んでいると、すぐ寝てしまうんだもん(笑)。睡眠薬としては優秀。

出だしは少女が父の書斎で発見した手紙とそれに続く父の失踪から、始まるが、導入部が長過ぎる割に小説の中で本質的な中身は無い。本質部分は、失踪した父が若き頃に恩師の失踪に絡んで巻き込まれた謎の事件と恩師を探す旅で体験した数々の出来事がメイン。読み物として、盛り上げるのには役立つのでしょうが、本筋と関係無いところにも多くの紙面が割かれています。

キャッチコピーとは裏腹ながら、あくまでも読み物としての小説であって、本書により改めて知的好奇心を持つということはないでしょう。ネタばれしない範囲で言ってしまうと、本書で触れられているブラド公の基本知識はNHKの番組(アメリカのラーニングチャンネルのもの)で見たことばかりで正直言うとかなりお粗末。どこが目新しいのか不明だし、謎解きを売りにしながら、最後まで本質部分の謎解きはされない。

一応、結末がつくのと謎解きができたような書き方をしているが、肝心の部分はうやまやにされている。最後にうちのブログ向きの話にもなるのですが、その辺りへの言及が適当。メインは探偵物と恋愛や家族愛っていうありがちなパターンです。

これ読むんだったら、絶対にダ・ヴィンチ・コードや天使と悪魔の方がいいですよ!! 「天使と悪魔」は文庫本で改めて買ったし、少し関連書を調べたり用語とかまとめてもいいかな?

面白いか面白くないかと言われれば、面白い本だとは思うですが、せっかくブラド公扱いながら、この程度なのは残念。著者がずいぶんと資料や文献を調べたというが、本当か?と疑いたくなるぐらい。

これだったら、怪奇物としては、ブラム・ストーカーの吸血鬼の方がよっぱど素晴らしいです。じゃなきゃ、アン・ライスのレスタトとかね。あっちの方が絶対に上でしょう。

ちなみに・・・主人公は有能な歴史学者の卵のはずですが、感情的で行動がはがゆく、知的なところが全く感じられないのですが・・・。タイトルのヒストリアン(歴史家)は誇大広告だろうなあ~。

ブラド公の話はもっと面白く出来るはずだし、青髭伝説との絡みは無かったなあ~。そちらとも絡めたら、話がもっと膨らんだのではとか妄想しちゃいました。

ヒストリアン・I(amazonリンク)
ヒストリアン・II(amazonリンク)

関連ブログ
VLAD ブラド(2004年)マイケル・セラーズ監督
「吸血鬼伝説」ジャン・アリニー 創元社
ヴァン・ヘルシング(2004年)スティーヴン・ソマーズ監督
「ドラキュリア2 鮮血の狩人」パトリック・ルシエ監督
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2006年07月21日

「プロテクター」ラリイ・ニーヴン 早川書房

久しぶりに読むSFです。と言っても、これ大昔買った本、部屋を相持していた見つかったんだけど、読んでなかったみたいなんでとりあえず読んどこうかって感じでした。

さて、う~ん典型的なよくあるSF。いわゆるファースト・コントクトものに当たるかな? 異星人と初めて出会って・・・という奴です。まさにパターンに則った常道ですが、SFらしい新鮮な驚きやひねりは、弱い。

もうちょっと頭を使うSFの方が好きだな、私は。せっかく舞台設定が自由なSFなのにそれを生かしていないような感じがしました。わざわざ本を買って読まなくてもいいレベルですね。

最近、あまりハヤカワ目を通してないから、最新のって分かんないんだよね。たまにはSFマガジンとか買ってみようかな?読者投稿のリーダーズ・ストーリーとかってまだ募集してるだろうか? 昔、あれに応募した頃が懐かしい。

プロテクター(amazonリンク)
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2006年07月09日

「ベロニカは死ぬことにした」パウロ コエーリョ 角川書店

beronika.jpgこれまで読んだ本とは違い、あえてお薦めしようとは思わない本でした。舞台が精神病院であるからとかということではなく、扱っているテーマがあまりにも私には慣れ親しんだもので、本書で展開される内容が正直幼稚に感じてしまうからです。
平易な文章と内容の幼さには、関係がありません。ただ精神状態の均衡についてなら、たくさんの実例を見たことがありますし、実際に知り合いにもいましたから。ありがちな心理学関係の本なども中高生のぐらいの時に、一部の子と同様に読み漁っていた時もありましたし。もっとも専門家の臨床医や研究者ではないので、偏ったサンプルなんでしょうけどね。

1)自分自身がイメージする世界と2)社会がある種の共同幻想として認識される世界、さらに3)その共同幻想だろうと自分が思い込んで勝手に生み出す自分自身が既定しつつも社会的に強制される世界。大概は、こんな感じの世界観があり、1)と3)のズレに対して、個人がそのズレを許容してはいけないという自己規範を生み出し、勝手にその規範に抵触して悩み、自己嫌悪に陥り、ひいては自己存在の否定に至る。

自傷行為や刹那的な性的快楽へ耽溺、暴力衝動、自己欺瞞、まあいろいろあります。先天的な遺伝的器質もあれば、後天的な獲得器質の場合もあるでしょうしね。社会の成功者と落伍者なんて、分類しようとすれば、いくらでも精神病の範疇に入れれるでしょう。ネット依存症やブログ中毒だって、その軽微なものというのは簡単ですし。

ドンドン話がそれていきますが、自分が他人と違うことは当たり前だし、平均的な普通人なるものがいるのは幻想でしかない。身長や体重、学歴や平均睡眠時間、ボーナスの平均支給額やら1回の性行為の平均回数などなど、全く意味のない数字が乱舞する中、そんな数字を気にする人々が集団的な社会幻想に埋没しているのには気付かない。マクロ的には意味があっても、適当なサンプルを元にして作られた、実体のない『標準』幻想ほど滑稽なものはないだろう。ところによっては雨という降水確率に何の意味があるだろう? 私が知りたいのは、特定の時間に特定の場所で傘が必要か否かであり、ブラジルやNYで雨が降っても、竜巻が起ころうと関係はないのだが・・・。

長々と書いてきたが本書で扱いたいのは、上記のように、人はみんな違うということに尽きるのではないだろうか?人類という「種」で考えた場合、異なっているのは当然で、「種」は多様性を保つことで環境適応能力を高め、不測の事態であっても全滅は逃れられるような仕組みを予め内包しているのだ。犯罪者や怠け者、酔っ払い、異常人格者等々もその多様性の中で予定されているピースの一部であり、特定の時代の特定の社会においては不適格であり、排除・隔離すべき対象であっても、それを無くす事は有り得ない。できることは、適切に制御するだけだ。巷において、犯罪者を処罰するのは、当然で厳罰に処すべきではあるが、それはあくまでも被害者感情を考慮し、社会組織として円滑に機能させる為の便宜的なものに過ぎない。その点を理解していない人が多い。

信号は赤で止まることに必然はない。青で止まってもいいのだが、便宜的に決められたルールでしかない。赤で突進することが罪になるのは、まさに交通ルールという便宜的な社会規範に反しただけである。規範のない世界は、更なる不便が生じるので規範はよりベターなものとして多数の人々が欲した成果に他ならず、大多数の利益の為に特定個人の不利益を甘受させるものである。まあ、それ自体は必要悪であり、問題はないのだが・・・。

困ったことにこれらの社会的規範を金科玉条の如く、遵守することこそが幻想的な『普通人』だと思っている人があまりにも多いことだ。逆に声高に『個性的』な自分を標榜する者も「自分は人間だ」と自明なことを主張する愚者と同列に思えるが、学校の先生やら親の評価を気にして無遅刻無欠席の完璧を演出する人以上に、みんなに合わせて行動する矮小なその他大勢を自演する輩には、ある種の憐憫の感情さえ覚える。

(と、ここまで書いてきてこの私的なブログでさえ、誰か見ることを意識して偽って書いている自分の姿に気付いた。ある種の憐憫・・・ああ、なんて偽善的な表現だろう。実際は、軽蔑以下のどうでもいい人達と避けて接触しないようにさえしているのにね。仕事中の私は、自分の描く『プロ』を演じていて、社外・社内を問わず、そつなく人間関係処理するが、そんな自分を嫌悪する自分が時々現われて、こんなことしていていいのだろうかという思いが苛まれる。自分を偽っている感覚がたとえようもなく嫌いだ。だからこそ、書籍やブログに別なものを求めるのだろうか・・・)

既にこの文章も書籍のレビューではなく、別なものになっているが、本書はこの手のことに近い話です。でも、扱い方が生ぬるい。もっとディープなものをお薦めします。クレチェマーーの「天才人」とか、白倉由美の「贖いの聖者」とかお薦めですね。白倉氏の作品は漫画ですが、そこに描かれる世界観はエヴァよりもはまります。っていうか、アスカもまだまだ救いがあるかなあ~って。絶版の多い方ですが、思春期の儚い心理状況を描かせて白倉氏以上の方を見たことがありません。思春期にこういう本や漫画を読んで育つと、私のようになります(自虐的微笑)。

そうそう、そこに澁澤龍彦氏や芥川龍之介氏を加えれば、素敵な虚無主義者の出来上がりってね!

ベロニカは死ぬことにした(amazonリンク)

関連ブログ
「第五の山」パウロ コエーリョ 角川書店
「アルケミスト」愛蔵版 パウロ コエーリョ 角川書店
「星の巡礼」パウロ・コエーリョ 角川書店
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2006年07月06日

「第五の山」パウロ コエーリョ 角川書店

daigo.jpgしかし、「アルケミスト」といい、「星の巡礼」といい、この著者の本は平易な文章であるにも係わらず、そこに描かれているモノは非常に奥深いものがあり、一見するとすっと読めてしまうのだが、読者に常に自分の人生というものを考えさせずにはおかないものがある。

全ての人に当てはまり、全ての人が意識するしないに関係なく、感じずにはいられない事(!)「=人生は思い通りにいかないものであり、不可避の出来事が必ず生じる」は、まさに人が生きているうえで否が応でも向き合わざるを得ないことだろう。

追い込まれた時や困難な時に、どう対処するかで平常時には分からないその人の真価が問われるというが、それは真実だと思う。これまでの過去の努力やようやく作り上げたものが一瞬にして崩れ去る、そんな時に過去を振り返らずに将来の希望を夢見て、なお努力をし続けていけるのか? これが一番難しい。

個々人の才能以上に、これがクリアできるか否かでその人が所謂『成功』するか、言い換えれば、素晴らしい人生を送れるかが分かれるところでもある。

人生には、いろんな出来事が起こる。自ら選んだ場合もあるし、外的に与えられて選択の有無を問わずにその場面に直面させられることもある。しかし、困難はそれを解消できない場合は、近視眼的にはマイナス要素以外の何物でもないが、いったんそれを克服することができると、それは次への成長への大いなる飛躍を可能にするステップになる存在に他ならない。

勉強にしろ、仕事にしろ、恋愛にしろ、問題が生じない方が稀である。というか、一生懸命に努力すればするほど、問題は起こり易くなる。何故なら、それがより一段階高いレベルに行く為に必要なことだからだ。私も何度かそれを実体験を通じて、実感したことがあるのに・・・何故か時々忘れていたりする。

問題に直面した時に、真正面から取り組む勇気があれば、人は常に前進していける。その人には、幸福あるいは成功以外のことがありえない。本書では、神というモノの存在との対比の中で描かれるが、神自体が問題なのではなく、自分が本当の自分であり続ける為に客観化の尺度としての神と言い換えてもいい。

本書も自分の人生に悩むことがあれば、是非お手にとってみることをお薦めする。自分で知っているはずのことであるが、人は時としてそれを忘れてしまうものだから、たまにこういったきっかけを持てるのは喜ばしいことだろう!! 

私も自分なら何でもできるはずだと思い、困難に直面して乗り越えたことはある一方で、その困難に打ち負かされていることもしばしばある。自らの力を思いだすだけで、人は前進することができる。本書の中でも出てくるフレーズであるが、この事を自力で思い出せる人はとっても少ないのだろう。

私にも確かに誰にも負けずに出来る能力と努力はあるはずなのだが、それを意識できないでいたことを痛感した。本書を読み終わって感じたことは、自分が持っていた力を思いだしたい!! まさにそれに尽きる。

本書のストーリーとしては、神の啓示を聞いたエリヤ(聖書で有名な人物)が全てを犠牲にして、神からの役目を果たすべく行動する。彼の前には次々と問題が生じ、彼は自分の姿を見失うがやがて、彼は自分本来の姿と力を思い出す。彼は自らの力で前進を可能にし、彼は彼の人生もまた啓示の一部であることに気付くのである。

まあ、このままじゃいけないと思う人や、自分が何をすべきか戸惑っている人にも素晴らしいきっかけを与えてくれる本だと思う。まあ、読んでみるべし!

第五の山(amazonリンク)

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「アルケミスト」愛蔵版 パウロ コエーリョ 角川書店
「星の巡礼」パウロ・コエーリョ 角川書店
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2006年07月04日

「古書店めぐりは夫婦で」ローレンス ゴールドストーン, ナンシー ゴールドストーン 早川書房

koshoten.jpg最近は、ほとんど毎日古書店をハシゴしている私としては、「隣は何をする人ぞ?」というわけでもないが、古書を買う人種自体にも興味があったりする。

古書店を利用する理由としては、絶版で新刊では入手できない、価格が安いといった実利面もさることながら、新刊の書店ではそもそもそんな本があることさえ知らない本を見ることができるのが、一番の魅力だったりする。

たいていの古書店には専門ジャンルがあり、店主の性格や趣味嗜好を反映した本が揃っているのだが、いい本を集めている店は当然、その価値を分かっていて値段も高く付けているというのが実は痛し、痒しだったりする。

しかも自分が欲しい本に限って、値段が高かったりするのは嬉しいような悲しいような複雑な気持ちに襲われる。しかも古書の怖いところは、同じ本であっても保存状態が良い、初版だとか、種々の理由から手元に持っている本をまた買う羽目になってしまったりする。これが大変困りものだったりする。実は、私も黄金伝説の2巻なんて3冊あるし、英語のまで含めると・・・ああ~、アホかい?って自虐的な落ち込みに襲われる。

まあ、本を集めるというのは往々にしてそういうことになるのだが、中には人生の全てを読みもしない本を『所有する』、まさに宝石か何かを持つことに価値を見出して生きる人もいるのだが、本書は正直そこまでいかない。

さて、本書のお話。
たまたまプレゼントとして古書を送ったことをきっかけに古書店巡りにはまり、古書のオークションに参加したりするようになる、とある夫婦のお話である。ちょっと珍しいオタクの世界の入口までを紹介した本といったところでしょうか。本書に出てくる本も私には全く不要で興味の湧かない本ばかり(これは単に私が物を知らないということが理由にある)で、どうでもいいよ、ということもあり、感情移入ができない。

実際、どんなんだろう? この本は読み易いけど、いささか子供騙しのような・・・。ビブリオマニアの世界は、オタクを突き抜けて狂気の世界なのにネ。まあ、そこまでいくと誰もついていかないか(笑)。本に関する本なら、荒俣氏の「稀書自慢 紙の極楽」の方がはるかに面白いし、勉強になります。何よりも綺麗で見るだけで楽しい♪(ハードカバーの方)

この本も以前持っていたけど、素敵な人にプレゼントして今手元にないなあ~。そういえば、あちこちの女性にあげたり、貸してる本が結構あるなあ。どうしても綺麗な本や素敵な本は、気になる人にあげたくなるもんですね、ハイ。帰ってこないのも寂しいが、帰ってきた場合はもっと寂しい理由によるものもあり、複雑だったりします。まあ、人生いろいろありますね。

ど~でもいい話ばかりで恐縮ですが、単なる読書好きの私だってプラハの古書店で読めない本買ったり、旅行先では古書店を見つけるととりあえず中をチェックするんだから、この程度の本ではなんも感じないぞ~!

そうそう、浅草松屋の古書市の案内が来てたが、まだやってるかな? 夏は古書市もいろいろあるんだよねぇ~。散財しそうで怖い・・・。

古書店めぐりは夫婦で(amazonリンク)

稀書自慢 紙の極楽(amazonリンク)

関連ブログ
「古書街を歩く」紀田 順一郎  新潮社
「われ巷にて殺されん」紀田順一郎 双葉社
「古本屋さんの謎」岡崎 武志 同朋舎
「本棚が見たい!」川本 武 (著) ダイヤモンド社
「古書法楽」出久根 達郎 中公文庫
ナインズ・ゲート デラックス版(1999年)ジョニー・デップ主演
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2006年07月02日

「謎の聖杯」上下 リチャード・ベン サピア 徳間書店

NYで貴重で高価な宝石がたくさんついた塩壺を巡り、数々の殺人が起きる。最初の被害者は、とある地方では成功した実業家。殺された実業家の娘が父のかたきをとるべく、孤軍奮闘する・・・。

としか、書きようがない。タイトルの聖杯には、端的に言うと意味はない。聖遺物でもあれば、十字架でもなんでもいいのでしょう。今回は、イギリスだし、聖杯伝説に絡めれば読者の注意を引くかなあ~というレベル。

聖杯自体に関心を持って読むと、ストレスが溜まります。先日は聖遺物が十字架だったものを読んだが、まあ、シビアに言うと同類かな?

失われた聖杯探求伝説を現代に置き換え、国家の思惑などを絡めてちょっと思わせぶりにしたものが本書。

シンプルに小説としての感想だと、地方のお金持ちで世間知らずに育ったお嬢様が父の死をきっかけに、自ら考え、行動し、歴史の闇に隠された真実を暴く人間成長ドラマ(この時点で引くなあ~)。

しかも、今まで蝶よ花よと育てられた無知な女性が、国家の駆使するプロ中のプロと互角に渡り合うというのだから、冷静に見るとかなり滑稽でさえある。確かに小説ではあるが、個人が国家に敵対して無事にいられるとは思えない。あのランボーでさえ、あれだけの武器が必要なのに、主人公の女性は、本人の努力と知性だけでそれを可能にしたというのだから、失笑を禁じえない。

批判的なことばかりで恐縮なのだが、この小説の中の主人公がかなり嫌い。自分が善良で無知であることを、己を守る武器として使い、個人的な正義を貫く為に、周りの人にいくら迷惑をかけてもかまわない(結果的にそう見える)という姿勢が大嫌い!! 自分が正義を貫きたいという個人的な欲望を満たす為に、小悪党や小市民的にささやかな悪徳と偽善に生きている人々を切り捨てる傲慢さには、某国の外交姿勢にもなぞらえてしまいそう・・・。

人は完全じゃないし、正義や努力をすること自体は素晴らしいが、その価値観を他人に強要するような(人間理解の)無知には、非常に反感を覚える。つ~か、読んでいて何故すぐこの主人公の女性を殺さないのか不思議でならなかった。一番殺し易いし、生きていてもらっては困る存在なのに・・・。

まあ、小説だからと言っても不快感が残る感じでした。綺麗な画集でもみよっ♪

謎の聖杯〈上〉(amazonリンク)
謎の聖杯〈下〉(amazonリンク)

関連ブログ
「アーサー王の死」トマス・マロリー 厨川文夫・圭子訳
「マグダラのマリアと聖杯」マーガレット・スターバード 感想1
「聖杯魔団」菊池秀行 実業之日本社
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2006年06月26日

「聖なる暗号」ビル ネイピア 早川書房

seinaru.jpgもう思いっきりベタです。古書店主の元に寄せられたとある古書。暗号で記されたその書は、16世紀に新大陸に向かった少年の体験談に基づく手記であり、同時にそれは、キリスト教最高の聖遺物にまつわる物語だった・・・。

古書と聖遺物。もう私好みのキーワードが二つも揃ったのでとりあえず買わないわけにはいかないっしょ!(苦笑)

ナインズ・ゲート的なものを期待していながら、さてさてどんな聖遺物が出てくるのだろうか?っと楽しみにしていたら・・・。まあ、期待しちゃいけなかったかもしれない。確かに街の古書店主よりは物知りかもしれないが、京極堂ほどは物を知らない古書店主が主人公。

古書の生き馬の目を抜くような知的で冷ややかなゾクゾク感もない。小市民的で良心的なところが、ちょっと物足りない。一応、元軍人という経歴もとってつけた程度。その店主と行動をともにする女性の研究家もう~ん、あまり頭がいいとは言えないタイプ。いささか上っ面なプライドだけ高くて研究室に勘違いしてよくいるタイプみたいであまり好感は持てない。

何故、こんなにも登場人物についてうだうだ言うかと申しますと、ストーリーが結構貧弱だったりする。だから、あくまでも小説として面白いかどうかでレビュー書こうかな?って。

ネタバレしない範囲でいうと、実はこれと類似のストーリーの小説を何かで読んでるんですよ、私。一番のポイントとなるネタがまさに同じ。でも、この本は初めてです~。たまに同じ本を読んでしまったりするから(自爆)。この本では出なかったけど、同じようなネタを扱った本だと、たいがいこれにフリーメイソンが絡むことになったりする。まあ、かえってそこまで行かないのがいいかもしれないけどね。

きっと分かる人には、この説明でだいたい想像がついてしまう、そんな感じのストーリーです。でも、読んでる時は、それなりに面白かったするからなあ~。普通の小説として読む分なら、決して外れではないです。楽しく読めると思う。ただ、それ以上を求めるといけません。

帯には出版社が売ろうとして、ダ・ヴィンチ・コードに絡むようなコピーまでつけてますが、ダ・ヴィンチ・コードよりもはるかに内容がないのだけは間違いないです。元天文学の学者さんが書いている割に、知的な好奇心という点ではそれほど刺激されません。というか全くね。

また、最後に期待していた聖遺物ですが・・・・。

【以下、若干のネタバレ含む】










というわけでこれ知っていても知らなくても、この小説としての面白さを味わうには関係ありませんが、イエス・キリストが架けられた聖十字架が聖遺物として出てきます。しかし&しかし、その説明が涙が出ちゃうほど、簡潔過ぎてつまらない。

もっともったいつけて、それにまつわる伝説とかを話すぐらいならいいんだけど、『黄金伝説』に書かれた十字架の話の方がはるかに面白いので困ってしまいます。ったく・・・! あえて十字架の聖遺物である必然性があるのか、疑います。旧教と新教の対立を描くにしても迫力不足に知識不足。もうちょいお勉強してからTRYしてみてね♪ってな感じでいささか悲しくなってしまう。

まあ、冒険譚としてもワクワク度が弱い。知的好奇心をくすぐるほどでもない。いい所ははあまりないんだけど、実に読み易い。まさに娯楽小説なんだろうなあ~。そういう意味では。

軽~い読み物としては、悪くないです。小説としてね。読んでる時は面白いんだけど、後で冷静になると、なんだかなあ~。もっと突っ込んで書いてくれれば、ずっと&ずっと面白くなるのに・・・な~んて思ったりもするんだけどね。

う~ん、物足りない。黄金伝説で素敵な聖遺物の話でもまた読むかな。

聖なる暗号(amazonリンク)

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「黄金伝説3」ヤコブス・デ・ウォラギネ著 人文書院
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2006年06月10日

「メサイア・コード」マイクル・コーディ 早川書房

mesaia.jpgまず最初に言っておかなければならないことがあります。実はこの本、「イエスの遺伝子」っていうタイトルだったのを、ダ・ヴィンチ・コードに便乗して儲けようと思って改題したものです。メサイアは当然メシア(救世主)だし。

私、それを知らずに「イエスの遺伝子」を読んでいたのに買ってしまった馬鹿者です(鬱&涙)。

いやね、言い訳になるけど、裏表紙の粗筋を読んでいてどっかで聞いたような話だなあ~と思ったんです。思ったんですけど、この手のってどれも似たようなもんだからと、少なくとも題名は見たことなかったので買ってしまいました。ああ~。

電車内で読み出して2、3頁で気付きましたよ。「やられた!」って。でも、他に手元には本がなかったので読み続けると結構いけたりする。あくまでも娯楽としてですが、それなりに面白かったです。ダ・ヴィンチ・コードとは全然違うけど、エンターテイメント系の小説を楽しみたい人には、十分楽しめると思います。結局、自宅に帰って下巻まで再読してしまったから(笑)。

同じ本の感想でも、最初から期待していなかった分、今回の方が評価が高いかも? 便乗的なタイトルが正直好きになれないが(それでも買ったくせにね!)、本自体は面白いので一応、また採り上げてみました。

メサイア・コード (上)(amazonリンク)
メサイア・コード (下)(amazonリンク)

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「イエスの遺伝子」マイクル コーディ 徳間書店
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2006年04月22日

「闇の公子」タニス・リー 早川書房

はい、ファンタジー好きで知らない人などいない(はず?)の大御所中の大御所、タニス・リーです。この人の作品を読んだことなくてファンタジー好きと自称する方は、絶対にモグリ!! じゃなければ、大いなる損失に気付いていない不幸な人だと思います。騙されたと思って、買って読んでみれば私の言いたいことが分かってもらえると思います。

独断と偏見がウリの私ですが、自信を持ってお薦めできるシリーズです。もっとも関連はしつつも一話完結に近い連作であり、他の本とも世界観は一緒でも直接他の本を知らなくても問題ないので、入手できるものから、読んでも間違いありません。ハリポタ等と比べたら、ネバーエンディングストーリーなんかと比べたら、はるかに大人向きのファンタジーです。

世界がまだ平らであった頃の話、妖魔や魔物が人々に実感を持って感じられる世界であり、この世の中で想像もできないような美の造形が生み出す人や妖し(あやかし)が存在しえた今とは異なる世界の話。

普通では考えられないような魔術や妖魔、彼らに魅入られた特別な運命を背負った人間が主人公。彼らの紡ぐ、このうえもなく甘美で麗しいお話の数々ですが、そのどれにも怜悧な刃物で切り裂かれずにはいられないような悪意が潜んでいる。表面的な端正な美は、残酷な話の中でも絶えず現われるが、人間の持つ、否、この地球という世界が持つ本質的な冷酷さが、虚構にしか見えないはずのこのおとぎの世界を、異様なまでにリアルに演出している。

いかにも・・・いかにも冷笑家たるべき英国民でなければ、描けない小説であろう。英国幻想文学大賞を受賞した女史(受賞作は「死の王」)ならではの筆が冴える作品である。黙って読めば分かる、この文体がなによりも特徴的ですらある。訳者も実に、原作のいい味を出していると思う。もっとも、リー女史の作品は、是非とも原作で読もうと学生時代から思いつつ、未だチャレンジしていないのだが、原作で読めば更にスタイル(文体)に感動できそうな気がしてならない。今年中に一冊ぐらいは読んでみたいところだ。

甘っちょろい童話などと、心得違いなどされずに、心して読まれることを切に願う。生半可な気持ちで読むと、バッサリ切って捨てられてしまうぐらいの凄みのある作品です。私も勿論、タニス・リー氏の作品はほとんで持って読んでますもん! 最近、知らぬ間に絶版になっているようですが、探して読んでみましょう。それだけの価値がある作品です。

できれば、「死の王」がベスト!!

闇の公子(amazonリンク)

死の王(amazonリンク)
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2006年04月12日

「星の巡礼」パウロ・コエーリョ 角川書店

hosinojyunrei.jpg「アルケミスト」で受けた衝撃と私が憧れを持つ巡礼地サンチャゴ・デ・コンポステーラが一緒になっている以上、いつかは読もうと思っていた作品です。

ただ、想像以上にくせがあり、強烈なのも事実。日本人の大半には受け入れられないような気がします。また、逆に進んで受け入れる人の中には、失礼ながら安易なスピリチャアル系のブームに躍らせれているような人がいそうな感じがしてなりません(大変失礼ではありますが・・・)。

なんで、こんな前置きをするかというと、それくらいこの本は特殊で神秘主義的なのです。但し、誤解して欲しくないのはここで描かれるものは宗教色やオカルトではなく、もっと&もっと深い次元での精神性の問題であるように感じます。

私の一人よがりな感性でいうならば、修験道の荒行による神秘体験、それを通じて人間の意識の中で培われる『生へのエネルギー』あるいは『生きていく自信』といったようなものに近いのかもしれません。深い絶望を経験したり、真剣に悩んだことのある人であるならば、この小説の背後にある核心的なものを感じ取れるかもしれません。

別に年齢は関係ありませんが、それなりに人生経験なり、人生を変えてしまうような決断をしたことがある人なら、共感できるかもしれません。ただ、日々を生きている方には「なんだこりゃ?」と思うかも・・・。

小説の粗筋は、とある秘密結社の一員が主人公。もうすぐマスターというところで、試験に落ちてしまいます。その代わりにマスターとなる為には、徒歩で巡礼の道を行き、とある剣を見つけ出さねばならない。

その巡礼の道を歩く過程で彼が経験し、理解し、身に付けていく諸々のこと。人が人生を生きていくうえで、知らず知らずに体験していくこととの同一性。非常に深いものがあります。

平易な言葉で語られるだけに、奥が非常に深い。言葉が悪いが、アメリカじゃ売れないだろうなあ~(笑)。いろいろな意味でブラジル出身の作家さんというのも納得です。ああ、またブラジル行きたくなったよ・・・ほんと!

人には薦められない本です。でも、私はこういうのも大好きです。勝手な思い込みだろうとなんだろうと、私には非常に共感でき、深く&深く感銘を受けました。

日々一生懸命に生きていくことも大切なのですが、時には立ち止まって本来の自分を再認識することの重要性を痛いほど、思い出させてくれます。

ちょっと体調を崩して昨日一日中家で寝ていたので、いささか精神的に過敏になっていたりして・・・。この本読みながら、黄金伝説(聖人伝)の第三巻読んでたのでより一層心に響いたのかも・・・。

星の巡礼(amazonリンク)

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「アルケミスト」愛蔵版 パウロ コエーリョ 角川書店
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2006年04月03日

「大伽藍」ユイスマン 桃源社

シャルトル大聖堂

澁澤龍彦氏好きには、お馴染みの桃源社の本である。世界異端の文学、ユイスマンスというキーワードだけで、ご存知の方なら、ふふ~んって何やら訳知り顔をされる方々もいらっしゃるかもしれない。そうです、私もそういった顔をするまさに一人だったりする(自爆)。

あとがきにも載っているが、ユイスマンスの翻訳というと、日本語訳の出た順から「彼方」(田辺貞之助氏、「さかしま」(澁澤龍彦氏)ときてこの「大伽藍」がくるらしい。それ以外には「出発」「ルルドの群衆」とかもあるらしいが、ほとんど初版で持っているなあ~。学生の頃、株で儲けた金で買って結構読み漁っていた気がする。今でもダンボール箱の中で埋没しているはず・・・(苦笑)。

ただ、本書の「大伽藍」だけ何故か読んでなかったらしい。去年、シャルトル大聖堂に行って以来、気になっていたのだが、もしかしたら持っていそうで、重複が怖くて買えませんでした。でも、今回買って正解!! やっぱり持ってないと思う。文章を読んだ覚えがなかったし、この文章だったら一度読めば忘れるはずはない(!)と思うもの。

シャルトル大聖堂 ステンドグラス

どこからどこまでもシャルトル大聖堂について書かれた一冊。私もたった一日を過ごしただけなのでえらそうなことは言えないが、こればっかりは実際に見て、自らの感覚で体感しないと絶対に本書の述べるものが理解できないと思う(興味のない人には、見ても分かってもらえないかもしれないが・・・)。

恐らくシャルトル大聖堂というものを知らなければ、たかだか綺麗なステンドグラスがあるので有名な大聖堂一つに、よくそこまで書けたものだと思われるかもしれないが、個人的な感想だと、もっと&もっと書けるんじゃない?そんなかんじがより自分の心情に近かったりする。もっとも本社は抄訳で、残念なことにだいぶ削られてしまっているらしい。非常に悲しい限りだ(号泣)。

とにかく、いくつかの入口に彫られた彫刻の意匠や技法には、まさに驚くばかりであり、極めて高い芸術性以上に神の世界を語るその聖性の至高性には胸を打たずにはいられないものがある。

シャルトル大聖堂 ステンドグラス 青の聖母

旧約聖書と新約聖書がいかにしてそこに描かれているか、その解釈と共におしなべて他の大聖堂の彫刻群との比較から、辛辣な批評が大変に面白い! 世界の人がこぞって誉め称えるルネサンス美術でさえ、彼の手にかかれば、異教に染まって淫乱に堕し、神性を失ったものに過ぎない。世俗のものがどう考えるかではなく、あくまでも彼一個人としての論理の帰結として述べられるその主張には、(全てに賛同するわけではないものの)感銘を受け、共感する点も多い。

自分の価値判断の尺度をもたず、有名だからなどという俗物過ぎる価値観など、一挙両断に切り捨てる、その潔さが心地良い。勿論、そこで語られるシャルトルの彫刻に見られるキリスト教の象徴学的解釈なども非常に面白いし、為になる。その歴史や文献から掘り起こして、述べられる文章にはいちいち、そんな事実や資料があるのかと、尽きぬ興味と好奇心を刺激するものとなっている。

ただね、正直言って私には理解するのが難しいところが多々あるのも事実。聖書の知識なんか大前提として必要だし、ロマネスク建築やゴシック建築、クラナッハ、フラ・アンジェリコ(み~んな私の好きなものばっかり!)とかが普通に既知のものとして出てくるから、それらの予備知識のない方には、この本は無用の長物と化してしまうのも事実。潜在的な読者のパイは、非常に小さいでしょう。まして、ヨーロッパではなく、日本では。

逆にこれらのことが分かったうえで、シャルトル大聖堂好き!ユイスマンス好き! なら、もうこれは必須ですね。別に『異端』とまでは思いませんが、あまりまともな生活を送っている人ではないでしょう。かろうじて、研究者崩れや暇人(=高等遊民転じてニート)とかね。そういう人向きの本です。

文学といえば文学でしょうけど、それよりももっと崇高な宗教的な情熱を持った神秘主義者向き?かな。

シャルトル大聖堂

とにかく私は、大好きです。抄訳でなくて是非全訳を読みたい!! 桃源社のは絶版になって、今、平凡社から出てるのもきっと同じ抄訳でしょう。誰かフランス語のできる人で教養のある人、訳してくれないかなあ~。きちんとした日本語のできる人ね。じゃないと、訳が下手なのも辛いし。

しかし本当にシャルトル大聖堂について詳しいです。主人公はこのシャルトルに住んで毎日、大聖堂を見て暮らすんですよ。もう羨ましくてしょうがないです。フランス自体はそれほど好きでもないけど、シャルトルの側だったら一ヶ月ぐらい毎日、大聖堂に通ってみたいなあ~。柱の一本一本から、ステンドグラスの一枚一枚、彫刻の一体一体まで自分の記憶に刻みつけるほど、毎日眺めてみたいです。

また数年したら、行ってみようっと! 

大伽藍―神秘と崇厳の聖堂讃歌(amazonリンク)

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「シャルトル大聖堂」馬杉 宗夫 八坂書房
シャルトル大聖堂 ~パリ(7月5日)~
シャルトル大聖堂の案内パンフ
「ステンドグラスによる聖書物語」志田 政人 朝日新聞社
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2006年03月31日

「カンビュセス王の秘宝」上・下 ポール サスマン 角川書店

kanbyu.jpg思いっきりベタベタなエジプト遺跡発掘モノといえば分かって頂けるでしょうか? 映画のハムナムトラとインディジョーンズが合わせて2で割って、水そそいで薄めたもの・・・(ヒドイ言い方)そんな感じでしょうか。

まあ、でも最初から最後まで飽きずに読破できました。それなりに面白かったです。有名なエジプト考古学者の父が急死し、娘が突如として謎の陰謀に巻き込まれる。謎の原理主義グループに、暗躍する人々の影。やがて明らかになっていく、幻(まぼろし)の古代エジプトの秘宝とは・・・!

お約束の恋愛あり、ドンパチあり、いかにも悪役っていう人物あり。楽しむ読み物としては、確かにイイ線いってるかも。何しろ頭を使わずに、ちょっとした古代遺跡やお宝へのロマンをかき立てるし。ドキドキのサスペンスありだもん。

あと、何かもうちょっと踏み込んであまり知られていない専門的なエジプト史とかも紹介してくれると面白かったんだけどなあ~。そこが不満でした。どうせならミカ・ワルタリの有名な「エジプト人」ぐらい、突っ込んでくれると良かったのに・・・。

そういえば、高校時代の友人を思い出した。エジプト遺跡発掘を夢見ていた奴で早稲田入って、一部で悪名高き(=TVでは有名だが、研究水準は?)吉村教授の研究室入ったらしいが、結構中身はひどかったらしい。その後彼はドクターまでいったのかな? 昨年、たまたま電車で会って話をしたが、シカゴで講師をしているらしい。まあ、好きなことをしているんだから、幸せだろうがいろいろな人生があるもんです。本を読んでいてふと彼を思い出した。

著者は、自分で今も発掘に参加したりする人でそういう意味では、経験に基づいているんだろうが、その割に格別なリアリティーや独自のインサイダー的な知識や情報もない。そこらへんが評価を高くできない理由だったりもする。

個人的には、余分な人物描写とかの部分はなくってもいいから、エジプトの遺跡とかのミステリー部分をもっと&もっと深く且つ広げて欲しかった!!軽めのものが好きな人にはいいかも。普通にさっと読めて、そこそこ楽しいと思います。

そうそう、本当に古代エジプト好きなら、「エジプト人」(上・中・下)を読みましょう♪ こいつは絶対に面白いですから。

カンビュセス王の秘宝〈上〉(amazonリンク)
カンビュセス王の秘宝〈下〉(amazonリンク)

エジプト人 (上巻)(amazonリンク)
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2006年03月28日

「怪奇クラブ」アーサー・マッケン 東京創元社

kaiki.jpg怪談・怪奇ときて、御大(おんたい)平井呈一大先生の翻訳ときたら、つまらないはずがありません。それだけで、正統派の怪しいもの好きは、黙って買って読みましょう♪ 古き良き怪奇をたっぷりと楽しめます。

もっとも昨今のただ血が飛び散ったり、安易な精神異常やストーカー的な安っぽくて分かり易い反面、風情のないホラーがお好きな方には合わないかも?

近代人が有する合理性や科学的知識などという表面的なものが、いにしえからの歴然たる事実によって根底から覆らされるさまが、なんともイイ! まさに理知的に考えれば考えるほど、認めざるを得ない世界に確としてある神秘。

独特の語り口から、次々に紡ぎ出される不思議で幻惑的な事件の数々。春先よりも秋の夜長に最適かもしれませんが、じっくりと読書を楽しみたい向きにはお薦めです。

日常に隠されたちょっとした機会から、想像もつかない非日常へと誘われていくのは、なんとも素敵な体験です。いくつもの物語をあてどもなく、連ねていく感もありますが、それが気にならずにあたかも千夜一夜物語のようで私は好きです。

内容の個別・具体的な紹介は、かえって興醒めになりかねませんので特には触れませんが、ブラックウッドとかと並んでいいものはいいですね、やっぱり!

大昔にこの本を読んだ記憶があるんですが(たぶん本も持っているはず?)、忘れていて先日また買って読んだのですが、新鮮な感じで全然新しい。こういうのが良い作品なんでしょうね。ふむふむ。

怪奇クラブ(amazonリンク)
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2006年02月23日

「ダ・ヴィンチ・コード」イン・アメリカ グレッグ・テイラー 白夜書房

soromonguide.jpgそうか遂にこういう本まで出るのか…、そこまで「ダ・ヴィンチ・コード」人気も来たのか?と同時に、この本ってこれまでにも何冊か読んだ便乗本の一種か、関連本か、それとも違ったものなのか? 次回作のタイトル「ソロモンの鍵」への案内というので結構、興味津々で読み始めました。

まず言える事はこれはこれまでのダ・ヴィンチ・コード関係の解説本ではないって言うこと! そもそもダ・ヴィンチ・コードに限らず、ダン・ブラウンの著作のうち、ラングドンシリーズを中心にダン・ブラウンが現在執筆中の次回作(!)この内容を推理しようという本でした。

うちのブログでも、ブラウン氏がメディアに思わせぶりに流しているニュース記事は折に触れていくつか採り上げてきたのですが、やっぱり海外は異様に盛り上がっているますね。ブラウン・ファンは皆次回作を待ち切れずに、本のカバーに隠された暗号やCIA本部の暗号彫刻、ダン・ブラウン氏のサイトを手掛かりになんとかその内容を推理しようとマニア熱全開の噂は知っていましたが、そのマニア魂を凝縮した一冊と言えるでしょう。

よくもまあ、こんなにあれこれ調べたり、過去のブラウン氏の著作傾向から演繹して推測したりと頭が下がります。私はここまでやらないもんね。ブラウン氏の小説は大好きだし、面白いけど、普通に出版されてからで十分です。そこまでよーしません(笑)。

とにかくダ・ヴィンチ・コードっていうよりも、ダン・ブラウン・ファン向けの同人誌的色彩が濃厚。いささか一般向けとは言い難いのも事実。とは言っても本自体は非常に読み易いし、書かれている内容も分かり易いからすぐ読めるし、想像してたよりも内容は盛りだくさんで飽きない。

フリーメイソンなんかの説明も基本に忠実だけど、そこそこよくまとまっているし、ナショナル・トレジャーよろしくアメリカ合衆国建国に関わる部分は、知らないことがたくさん書かれていて勉強になったかも。

CIAの問題の彫刻やスカル&ボンーズ(イエール大学にある本当に選ばれた者達だけの伝統的な秘密結社)まで触れられているのは、思わず読んでいてニヤっとしてしまいました(笑顔)。こないだ日本のTVでもやってたなあ~。

ただね、ちょっと推測というか予想が違っているなあ~という点も。イエズス会にも注目しているんですが、私が記事で読んだ限りではモルモン教の方が次回作では重要度が高そうです。まあ、おそらくこの本が書かれていた段階では、まだこの件の情報リリースがされていなかったんでしょうけどね。

ダン・ブラウンの次回作を待ちきれない熱狂的ファンや予習として情報が欲しい方には、打ってつけ。これは今まで無かった本です。一方で、先にいろんな知識を得てしまうと本を読んだ時の感動(目からうろこ)がなくなってしまいそうな気もします…? これは微妙かも?
それ以上に、いま一つ私が熱くなってないのは、アメリカの歴史に関わることだから。個人的な感覚でいうと、アメリカの(植民以後)歴史って、たかだか数百年でしょ。うちの近くの神社で800年以上も前からあると思うとね、正直言うとあまり興味が湧かないんだよねぇ~。

でも、映画が公開されたのをみたら、きっとこの本をみんな買わずにいられないんだろうね(笑)。但し、ダ・ヴィンチ・コードの小説としての面白さを求めるなら、止めた方が正解です。とにかく情報量は多いです。著者も自分で言ってますが、資料の内容が正確か否かではなく、ダン・ブラウンが小説(fiction)を書くにあたり、素材として使うのではないかと思われる資料を集めて紹介しています。スタンスが明快だから、安心してそういう仮説もあるんだと読める点はいいかも?暗号マニアも楽しめそうですね。

最後に、うちのブログがダ・ヴィンチ・コードを中心に扱っているということで本書を進呈して下さった白夜書房様どうも有り難うございました。あくまでも私個人の率直な感想なので恐縮ですが、楽しく読ませて頂きました。

「ダ・ヴィンチ・コード」イン・アメリカ――「ソロモンの鍵」解読ガイド(amazonリンク)


そうそう、もし皆さんも本書に興味があって中身を少し見てみたいという方は以下のURLをご覧下さい。白夜書房様の方で御用意してくれたようです。
●はじめに
http://www.geocities.jp/t2enonu/da_vinci/Introduction_sample.pdf
●第一章
http://www.geocities.jp/t2enonu/da_vinci/Chapter1_sample.pdf 
●表紙
http://www.geocities.jp/t2enonu/da_vinci/Da_Vinci_cover_72.jpg
【目次】
第1章 『ダ・ヴィンチ・コード』に隠された未解読データ
第2章 薔薇十字団
第3章 石工の兄弟会
第4章 アメリカを創ったフリーメイソン
第5章 ワシントンDCの奇想建築群
第6章 フリーメイソンの陰謀説
第7章 ソロモンの暗号
第8章 イエズス会とクー・クラックス・クラン
結論 後は“その日”を待つのみ…

関連ブログ
CIA本部に据えられた暗号彫刻『クリプトス』の謎
暗号解読者達がダ・ヴィンチ・コードに続くミステリーを解読
「ダ・ヴィンチ・コード」予告編に仕込まれた「謎」
神秘的なテンプルマウントの人工物がダ・ヴィンチ・コードを惹起させる
「法王暗殺」より、抜き書き
「世界を支配する秘密結社 謎と真相」 新人物往来社
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2006年01月14日

「前日島」ウンベルト エーコ 文藝春秋

zenjitu.jpg薔薇の名前の著者が書いた本ということで関心はありつつも、タイトルがどうも感性的に嫌いで読まないでいた本です。結果的には、私の本に関する直感は正しかったと言えるでしょうか? つまらない本と否定することはできない本ですが、面白くてたまりません、絶対に読んだ方がいいよともお薦めできない本です。かなり特殊な部類で読み手を選択する本です。

SFを空想科学小説ともいいますが、本書を指していうならば妄想科学小説とでも申しましょうか? 人間の頭の中で作り上げられるありとあらゆる奇想・空想・仮説・こじつけ等々が独自の論理性・合理性を伴いながら展開されていきます。話はそれこそあちこちに飛びまくりますが、それらの全然違った話の一つ一つがそれなりに興味深く、長編で読破をくじけそうになりながらもようやく読み終えられました。もっとも、ここに書かれた内容をどれだけ理解しているかというのは置いといて、別の話ですが…(アセアセ)。

ただ、一見適当に頭の中で想像して書いてるだけに見えながら、著者がどれほどたくさんのことを調べ、幅広い教養の中からこれらを結びつけ、組み合わせているかは驚愕するほどです。西洋の古代・中世・近代に至る、まさに教養というか基礎知識を持っていればいるほど、楽しめる作品なのかもしれません。私も一部は、あのことを踏まえているんだなと分かる部分もありましたが、正直全然ついていけていません。

それでもそれなりに面白かったのは、思考方法がある一定の論理の下で純粋理論上の展開をしていくことや、聖書を合理的・科学的に解釈しようとする神父の発言なども当時の社会では実際にしばしばあったようで、なかなか楽しかったりする。真面目に史実として、聖書を読み解き、そこで起こったノアの洪水や地獄を科学的に説明しようとするのは、たくさんの本に書かれていたのを読んだことがあったので、それらを思い出し、ふむふむと頷いてしまいさえした。

ただねぇ~、やっぱりキツイと思う。普通の人が読むには、宗教的思弁や哲学的思弁に慣れていないとすぐ挫折すると思う。その手のが好きな人には、はまるんでしょうけどね。結末もかなり苦しいでしょう。私にはその前に姿を消した人もどうなったのか、分からないままでいささかストレスです。最初から、最後まで全ては誰かの想像で終わってしまう内容ですし…。

この本を面白く読める方、ちょっと尊敬しちゃいますね。いろいろとつっこんで感想を聞いてみたいかも?

前日島(amazonリンク)

関連ブログ
薔薇の名前(映画)
「バロック科学の驚異」 荒俣宏 リブロボート(図版3枚有り
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2006年01月02日

「聖骸布血盟」フリア・ナバロ ランダムハウス講談社

seigaifu.jpg明けましておめでとうございます。今年一冊目のレビューです。 皆さん、今年も宜しくお願いしま~す!!

本屋で平積みのものを見たときから何度も手に取り、読んでみたいなあ~と思っていた本でした。ちょっと前に「トリノの聖骸布」の本を読んでいましたが、すっごく面白かった本でそれもお薦めですが、その本で出てきている仮説をほとんどそっくり採り込んで脚色してあるような感じです。勿論、小説は小説として独自の面白さがあるんですが、原著の著者がベストセラーだったあの本を読んでいるのは間違いないでしょう。それがいい意味で解釈・発展させられて小説化されています。以前に羽村さんからコメントでこの本を紹介されましたが、本当に面白いです(笑顔)。

聖骸布を保管するトリノの大聖堂で相次ぐ火事や事故の数々。歴史的にみても偶然と言うには不自然なほど、度重なるこれらの出来事の背後には、何かがあると思われた。そして、それらの事故の現場で発見される舌を切り取り、指紋を消した焼死体や不審人物。イタリアの美術品特捜部の部長は、直感的にそれらの事柄が偶然ではなく故意によるものではないかと思い、捜査を進めていく。捜査に当たる特捜部の面々には、情報の専門家や美術史学の博士号を持つ者もおり、優れた学識と専門知識を駆使しながらも、一流の直感に従い、歴史の闇に隠された真実へと迫っていく。

一方、キリストのお姿を写したと言われるキリスト教世界においては、唯一無二の聖遺物を巡って過去において秘匿されてきた真実の存在。いにしえより連綿と受け継がれてきた秘密結社の存在とその存在理由。彼らは決して歴史の表面に出ることないが、古代と代わらず、この現代において社会において枢要な指導者的地位を占め、彼らの属するべき組織の使命の為に、献身的な犠牲を捧げている。彼らの使命とは何なのであろうか?

現代で進行する事件と共に、並行的にイエスが起こした奇跡である聖骸布伝説の真相が語られていきます。更にその過程で登場してくる、あの謎に満ちた伝説に他ならないテンプル騎士団が下巻以降に大活躍をしてきます。聖地エルサレムを奪還し、キリスト教国を打ち立てた彼ら。ソロモン神殿跡に本拠地を定め、イスラム教への理解も深く、西欧に初めて近代的な金融機構を生み出したともされる彼らの行動には、謎が多く残っています。本書に出てくる話は、ある程度まで史実に残っていることであり、それを踏まえてこれまでたくさん出されてきた類書「トリノの聖骸布」「レンヌ=ル=シャトーの謎」の美味しいところを十分に取り入れてうま~く料理しています。

本当に、途中まではすっごく面白いです。元旦から、一気に読み巻くってしまいましもん、私。でも、あれだけ引っ張っていてラストが無理矢理というのが非常に残念。後半から謎解きに参加して、いい具合に歴史的な謎に肉薄するジャーナリストも結局、なんの役にも立たないで中途半端な役所なのは??? 強引に、謎解きの過程で解明した事実を集約して最後にまとめようとしているんだけど、ここもいささか投げやりでいただけない。最後の最後まできっちりとしめて欲しかったけど、とりあえず謎が解ければ、出てきた人達をみんな殺しちゃうってのは、乱暴過ぎませんか???(生き残っている人もいるけどさ)

これ以上書くと、ネタバレになりますので控えますが、最後の部分の7分の1か8分の1はつまんないです。途中まで興味深く引っ張ってきただけに口惜しい限り。最後の謎解きもそれぞれの組織がどのように行動しているのかいまいち分からないところがあるし。ここまで来たんだったら、バチカン内部の組織にまでもっとも克明に叙述してくれてもいいのにね。ちぇっ、いささか消化不良気味。

とまあ、不満も残りますが、途中までは文句無く面白いと思います。とりあえず、楽しめたのも事実。この本に書かれていることのどこまでが事実で、どこからが有名な本の仮説であり、どこから小説独自の脚色なのか、それが分かるともっと楽しめるかも? 知らなくても楽しめるけど、トリノの聖骸布に関して基本的な知識があればあるほど、本書は楽しめると思います。できれば、「トリノの聖骸布」だけでも先に読んでおいた方が絶対に面白いですよ~♪

なお、基本的に本書はいわゆる陰謀史観によるものです。ルイス・バーデュー氏の著作に似ているかな?あそこまでアクション・シーンに固執したエンターテイメントになってないけど、どちらかというとそれ系です。そうそう、著者の母国のスペインでは、映画化が決まっているそうです。そのうち、DVDかなんかで観てみたいですね。日本で公開するなら、映画館で観るのも考えますが、その前にダ・ヴィンチ・コードを今年は観ないとね♪

そうそう、本書全体を通して似ているかなあ~と思ったのが「クムラン」。こちらの方が出来はいいかもしれません。ご興味のある方はそちらもどうぞ! メチャクチャに奥が深いです。

聖骸布血盟 上巻(amazonリンク)
聖骸布血盟 下巻(amazonリンク)

関連ブログ
「トリノの聖骸布―最後の奇蹟」イアン・ウィルソン 文芸春秋
『トリノの聖骸布』の印影は復活の時のものか
「荒俣宏の20世紀ミステリー遺産」集英社
「テンプル騎士団 」レジーヌ・ペルヌー 白水社
「レンヌ=ル=シャトーの謎」 柏書房 感想1
「聖ヴェロニカの陰謀」ルイス・パーデュー 集英社
「クムラン」エリエット・アベカシス著 角川文庫 
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2005年12月04日

「トリスタン・イズー物語」ベディエ 岩波書店

確か聖杯物語の一部がこのトリスタン・イズーの物語だったと思う。以前に聖杯物語を読んだ時に、これだけなくていつか読まねばと思っていた一冊。中世騎士道の典型ともいえるお話ですね。

高貴な血筋を引くトリスタンが運命に翻弄されながら、ようやく叔父である王に仕える騎士として認められる。勇猛な武人として、王の良き相談相手として、宮中で活躍するがとある運命の過ちから、愛の魔法薬を飲んでしまって王妃となるべき女性と許されない恋に落ちる。

王に対する忠誠心から苦悩しながらも、それ以上に強い恋の炎に身を焦がす騎士トリスタンと王妃イズー。やがて二人の秘められし、恋は宮中に救う悪しき側近達の知るところになる。何度も密告をし、王を疑心暗鬼に陥らせる側近達。

やがて、恋する二人は全てを捨てて追われる身の上になる。そして二人の行き着く先は・・・?

いささか甘ったるいことはしかたないですが、いかにも騎士的精神とはこういうものなのか、と思わされることも多く、西洋中世史に関心を持つ方だったら、読んでおいて損はないでしょう。読んでいてそこそこ面白かったです。こういう背景的なものを知らないと、ヨーロッパを旅行した時に楽しくないもんね。知れば知るほど、面白い♪

そうそう、この話はケルト的な伝承を色濃く受け継いでいるそうです。読んでると、いかにもと思う箇所を何度も気付きました。トリスタンが愛しいイズーと離れ離れの時に、その悲しさを忘れさせてくれる魔法の鈴をつけた小さな犬。この鈴と犬は、アヴァロンの島の仙女から送られたものだそうだが、聖杯物語の読者にはピンときたはず! そう、アーサー王は最後に傷付き渡った島がそのアヴァロンに他ならない。

他にも気をつけていると、聖杯物語やケルト伝承に絡むことがたくさん出てきます。知っていればいるほど、読んでいて楽しいかも?

美しい恋愛物語、高貴なる女性に捧げられた騎士道的誓いなど、御興味のある方にもお薦めします。

そういえば余談ですがケルト神話で有名な「ブランの航海」って翻訳出ているんですね。ちょっと高いのでまだ買ってないですが、また買ってしまいそうで怖い・・・(涙)。

トリスタン・イズー物語(amazonリンク)

関連ブログ
「アーサー王物語」R.L.グリーン 厨川文夫訳 岩波書店
「アーサー王の死」トマス・マロリー 厨川文夫・圭子訳
「ケルト神話と中世騎士物語」田中 仁彦 中央公論社
「マグダラのマリアと聖杯」マーガレット・スターバード 感想1
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2005年11月23日

「聖ヴェロニカの陰謀」ルイス・パーデュー 集英社

ついつい、宣伝文句に踊らされて買ってしまった本です。ナチスの悪逆非道の行為に沈黙を守ったバチカン。バチカンの口を封じた秘密とは、世界中のキリスト教秩序を根底から崩してしまいかねない忌まわしき歴史上の事実であった。ナチスはその事実の証拠となるものを入手し、バチカンを脅迫したという。

こ~んな宣伝コピー読んだら、ほらっ読まない訳にいかないでしょう(ニコニコ)。しかもナチスはその極秘の証拠をあの有名な名画狩りで集めたいわくつきの超一級作品達と一緒に、とある山中の洞窟に隠したというんですから・・・思いっきり内容に期待してしまいます。

上下2巻とそれなりにボリュームはあるものの、ネタになっている部分はなかなか面白く読書を引っ張ります。国家安全保障局やKGBに、バチカンの魔の手、まさに陰謀史観ありありの世界(笑)。それはいいんだけどねぇ~。

アクションシーンは百歩譲ってまだいいとしても、拷問シーンはちょっと・・・。正直言ってかなりえげつないです。まあ、私はその手の大丈夫ですが、普通の人は結構、抵抗感というか嫌悪感あるんじゃないでしょうか? ちょっとお勧めできませんね。

根本的な素材であるネタはいいんですが、料理の仕方がドンパチアクションや拷問シーンの方がメインになってしまって、B級映画向き。もったいないなあ~。ネタの部分だけは、結構好きなタイプで紹介したいんだけど、もしこの本を読む人いたら申し訳ないしなあ~。

【以下、ネタバレ有り。注意してね!】








この本でナチスとバチカンの密約の原因となったのが「聖ヴェロニカの聖骸布」。この本では、彼女が13才の時から様々な奇跡をおこし、村民全体をはじめとし、周囲にまでヴェロニカ崇拝が広まったという。女性の救世主が実在する事実は、当時のバチカンを驚愕させ、あろうかとか救世主自身と村民全員150名をバチカンに呼んで歓待した後に、虐殺したという。虐殺された彼女を包んでいた布が発見された時、中にいるはずの死体はなく、布には彼女の姿がくっきりと写っていたという。

彼女の実在を示す歴史的資料(当時の公文書記録等)と聖骸布を巡っての、謀略や殺人などを描いたのが本作に他ならない。この謎がいかにも!ってな感じで面白いんだけど、この部分は少ししか書かれていない。後はアクションと拷問シーンだけなんで、それが残念。

アクション物が好きな人なら、いけるかな? 拷問に耐性のある人にも良いかも? 普通の人はあまり受け付けないと思いました。

聖ヴェロニカの陰謀〈上〉(amazonリンク)
聖ヴェロニカの陰謀〈下〉(amazonリンク)

関連ブログ
「ダ・ヴィンチ・レガシー」ルイス・パーデュー 集英社
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2005年11月05日

「カンタベリー物語」チョーサー 角川書店

時は中世14世紀。ご利益のあらかたなるカンタベリー寺院への巡礼を目指す道中、袖磨り合うも他生の縁、ではないけれど、道すがら集まった身分も職業も異なる人達の一行。旅のつれづれの慰みにと、一人一人が語るちょっと面白い話。教訓有り、俗っぽさ有り、エロチック有りで中世という時代に生きる人々の生々しい声を知ることができます。

日本昔話の黄表紙版とでも言えばいいのかな? とにかく俗っぽいのですが、それがいかにも民衆の声らしくていい感じです。免罪符(=バチカンが発行するものでそれを金で買えば、現世での罪が許されるというもの)売りが、金持ちを口先三寸で騙してなんとかお金を出させよ売るとするあたりなんて、今も昔も変わらないなあ~と実に感慨深いです(ニヤニヤ)。

あと老人が若い妻を娶れば当然生じてくる、浮気への恐れとその結末なんて、どっかで聞いたような話だと思って読んでいると、まさに&まさに千夜一夜物語と同じノリです。もっともあれよりもはるかに品が落ちますけど…。まあ、どちらも読んでて楽しいのは一緒です。岩波の千夜一夜物語全13巻を読めた人なら、楽しんで読めると思いますよ~。もっともカンタベリーでは、美男美女は滅多に、魔人(ジンニー)はちっても出てこないのが残念ですが。

登場人物は本当に多岐に渡っています。参考までに挙げると・・・
騎士、家僕、従者、尼、僧侶、托鉢僧、商人、学生、法律家、郷士、小間物商人、大工、機織,染物師、室内装飾商人、料理人、船乗り、医師、牧師、農夫、家扶持、粉屋、賄い人、送達吏、免罪符売り、旅籠の主人。

彼らの口を借りて語られる話の数々は、なかなか魅力的で雄弁です。本書は、残念ながら抄訳で全訳ではありませんが、その雰囲気は十分に感じられます。試しに読んでみようという方にはいいかも? 私は嫌いじゃないな、こういうの。

そうそう、後書きをみたら、これって散文ではなくて、実は韻文(詩などのように、韻を踏んだ文章)なんだって原文は。翻訳文だから、そういうの全然解らなかったけど、原文で読めたら、更に面白いのかもしれないと思いました。

カンタベリー物語(amazonリンク)
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2005年11月01日

「皇帝の魔剣」ぺトラ・エルカー他 扶桑社

ちょっと変わったタイプの連作集。8世紀にヨーロッパを統一したフランク王国のカール大帝が所持した短剣。その短剣には、呪いがかかっているのですが・・・。

この短剣を巡る歴史上の事件を、一話完結でドイツの著名な作家さん達が連作したものをまとめた小説集です。ノリとしてはラブクラフトのクトゥルー神話のような感じでしょうか?キリスト教世界に対する異教徒の呪いを一身に受けた短剣。それに関わった無数の者達が巻き込まれていく血にまみれた悲劇の数々。一話づつが全く異なった内容であり、それぞれが違った作家さんなので、全部で11個の小説をこれ一冊で味わえます。

勿論、全てが面白いとは言えないものの、非常に興味深く関心をそそる小説がいくつもありました。具体的に挙げてみると、第二話の聖遺物絡みのお話。根拠の無いままに聖遺物伝説が形作られていくかという如何にもありそうなお話と、そのままなら聖遺物になるところであった短剣による司祭の殺人事件で、薔薇の名前のような(ちょっと誉め過ぎ?)探偵顔負けの謎解きがなされ、読んでてなかなか楽しいです。品のいいミステリーというところでしょうか。

中でも一番面白かったのは第四話の聖堂騎士のお話。そうです、そうです、お待たせしました。あのテンプル騎士団のお話です。あの当時に驚異としかいいようのない魔術的なゴシック大聖堂建築を可能にした秘密がここでは明らかにされます。勿論、創作小説ではありますが、これも結構面白くて好き!! テンプル騎士団フリークとしては(なんだ、それ?)、是非とも読んでおきたい所でしょう。

あとね、第六話の印刷のお話も実に味わい深いです。私達がイメージするグーテンベルクとは異なり、現実の世界で当時の社会的無理解の下で、いかにして新しい印刷技術を確立したのか? 実際にどうだったのかは知りませんが、妙にこれも実感があって興味深い。ガリレオではないが、社会を変える新しい技術はすべからく悪魔のそそのかしと捉えられた時代に、どれほどの苦労をしたのか、思わず想像してしまいました。夏に印刷博物館に行って、実際にグーテンベルクの印刷物の実物を見て感動したので、より一層興味深く読みました。そして、その発明の影には、意外な人物の存在が! 後は読んでのお楽しみってことで。

それなりに分厚いし、秋の夜長に一話づつ読んでいくのには最適かも? 結構、楽しめる小説集でした。
【目次】 
第一話 カール大帝が呪われた短剣を世に送りだし、その見返りとして象を受けとった話
第二話 聴罪司祭の墜落と、短剣が聖遺物に高められなかった話
第三話 信仰を失った十字軍騎士が、偽りの友を刺殺した話
第四話 聖堂騎士の血なまぐさい使命と、皇帝の短剣が大聖堂の運命を決めた話
第五話 偽ヴァルデマール事件、ブランデンブルク辺境伯領での、短剣の七突きの話
第六話 手をインクで汚した大罪人と、活版印刷の真の考案者の話
第七話 不滅への夢がこわれ、帝国議会のあるアウグスブルクで短剣が見つかった話
第八話 風変わりな嫁入り道具が、湿原の島で不気味な効果を発揮した話
第九話 不運な家具職人の夢見た城が、じつは砂上楼閣だった話
第十話 ロシアの誇り、ナポレオンの屈辱、そして、無謀なフェルディナントの話
第十一話 恋ゆえに心臓を一突きした皇帝の短剣が、眠りについた場所の話

皇帝の魔剣(amazonリンク)

関連ブログ
印刷革命がはじまった:印刷博物館企画展
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2005年10月27日

「イエスの古文書」アーヴィング ウォーレス 扶桑社

kobunsho.jpgイエスの弟が書いた福音書が発見された。これまで知られているどの福音書よりも古く、後世の教会関係者によって脚色されたものとは明らかに異なる真のイエスの活動を伝える奇蹟の書。その新しい聖書を出版し、世界に広める広報・宣伝担当を主人公のやり手広告代理店経営者が任される。彼を取り巻く敵対勢力の存在。新しい聖書に渦巻く陰謀の数々。非常に、関心をそそられて是非とも読んでみたかった作品。「イエスの弟」に関しては、既にいろいろ記事や本まで読んでいたので、やっぱりこれも抑えておきたかったしね。

さて、期待に胸膨らませていざ読んでみると…。
別に学術論文を期待してた訳でもないし、巧妙なトリックを期待してた訳でもないけど、単なるミステリーとしてもどうなんでしょう? う~ん、何にも残るものがない小説ってとこでしょうか。酷評するほど、ヒドイわけでもないし、それなりに聖書関係の情報も描かれているんだけど、ほとんど知ってるしあのレベルでは。それを如何に加工して読み物にするかがプロの腕の見せ所でしょうに…、ただ書いてあるだけ。

いろんな陰謀があって騙しのうえに騙しがあったりと、問題の複雑化は進むものの整理されることなく、最後に安易に説明不足のまままとめている。まあ、一応それなりに説明付けているけどつまんないし、納得がいかない。根本的な聖書やイエスに対する謎解きがすご~くつまらない。そんなもん知ってるぞ~!どうせ創作なんだから、一ひねりしろって! 先日読んだ「ダ・ヴィンチ・レガシー」同様、ダ・ヴィンチ・コードの人気にあやかって便乗して売ろうというのだろうが、これは全然違う。あちらは、まだエンターテイメントしてそれなりに楽しめたが、こちらはちっとも面白くない。途中までは、期待させつつ引っ張るんだけど駄目でした。

まあ、今回の出版に際してこの作品もリニューアルしてるそうだけど、話のネタが古いうえに陳腐過ぎ。聖書関係の情報・知識の説明が下手だし、事前に知らない人には不親切、知っている人は内容が薄っぺらいのでこの本いらな~い。あ~あ、期待していたので悲しい。

Q資料の話や、オプス・デイまで出てくるが、オプス・デイは必要性がないのに、無理にダ・ヴィンチ・コードに便乗したくて付け加えたのではないか?と疑ってしまう。リニューアル前ではどうだったのだろうか??? 

新しい聖書の内容も正直イマイチ。どうせなら、ナグ・ハマディ文書とか死海文書とかを新しい聖書の説明で出しながら、効果的に使いこなしていないしね。著者はある程度調べているのは分かるけど、この小説に関する限り、意味がないかも?

「ダ・ヴィンチ・コード」とかの関連書として読むのだけは避けるべきです。後悔しますよ~私のように。高かったのに図書館になくて買ってしまった(鬱)。誰か、半額で買ってくれないかなあ、ふう~。

普通の小説としてなら…まあ、2流ぐらいの小説としてなら、読めるかも? 3流とはいいませんが、1.5流というのも辛いぐらい。あとがきの訳者さんの言葉では、ダ・ヴィンチ・コードと比較しているけど、それはいくらなんでもうぬぼれかと? 何十年も前の作品でも、いいものはいいし、駄目なものは駄目でしょう。そうそう2匹目のドジョウを狙ってもね。騙されて無駄使いするのは私だけにしておきましょう。あ~あ、金と時間の無駄だった。

ちゃんとしたQ文書の本でも読むか。少し前に買ったのが、部屋に積読状態だったのを思い出しました。

イエスの古文書〈上〉(amazonリンク)
イエスの古文書〈下〉(amazonリンク)

関連ブログ
「イエスの弟」ハーシェル シャンクス, ベン,3 ウィザリントン 松柏社
「ダ・ヴィンチ・レガシー」ルイス・パーデュー 集英社
イエスの兄弟の石棺は偽物 CBSニュースより
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2005年10月26日

「フランドルの呪画(のろいえ) 」アルトゥーロ ペレス・レベルテ 集英社

frandoru.jpg映画「ナインズ・ゲート」を観ておお~こりゃイイ!と思い、原作の「呪のデュマ倶楽部」を読み、それも面白かったので著者の別な作品を探す。その延長線上で読むことにした作品です。

でも、この作品に関していうとちょっとなあ・・・というのが率直な感想です。15世紀に描かれた名画の修復過程で発見される不思議な文字。X線という現代の手法で、500年ぶりに明らかにされる謎の言葉。

主人公の女性修復士の周りで起こる不可思議な死。それはやがて明確な殺人となり、徐々に主人公を追い詰めていく。何よりもこの作品で特徴的なのは、絵に描かれたチェス盤。勝負の途上にある対局が実は、500年後の現代にあって何事かを語り始める。犯行と同時進行して行くチェスの差し手が謎を深める一方で、解決へと導いていく。

アイデアは盛り沢山で、実際ある種の誘引力で惹き付けるんだけど、チェスが分からないとこの小説理解出来ません。日曜の3チャンネルでやっている将棋の対局表のように、チェスの盤面が示され、棋譜を解説されても読み飛ばすしかない。一冊の小説を読む為にわざわざチェスのやり方を覚えないでしょう、みんなも。結局、そこは読み飛ばすしかなく、雰囲気を味わうだけで面白さを賞味できませんでした。

だからでしょうか?なんか、面白みが湧かない。絵画に秘められた当時の複雑な状況なんかはすっごく魅力的なんだけど、思わせぶりなだけできちんと生かし切れていない感じもしました。一概に、つまらないと切って捨てられないだけの不思議な魅力はあるんですけどね…なんか惜しい!って感じ。

最後は、いかにもミステリーという感じで納得のいく予定調和で終わるので安心できるのですが、う~ん評価は微妙? 個人的には、読まなくてもいいような気がします。恐らくほとんどの人にもそう思えると思います。これが結構売れたというのは、ちょっと不思議ですね。

チェスの分かる人の意見も聞いてみたいところです。将棋なら分かるんですけどね、私も。だから、チェスを通して言いたいことは分かるんですが、どうも実感できなくて。

フランドルの呪画(のろいえ)(amazonリンク)

関連ブログ
「呪のデュマ倶楽部」アルトゥーロ ペレス・レベルテ 集英社
ナインズ・ゲート デラックス版(1999年)ジョニー・デップ主演
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2005年10月25日

The Da Vinci Code  Dan Brown Corgi Adult

code1024.jpg【勿論、ネタバレ有りなんでご注意!!】


いやあ~、長い&長い。読破するまで何ヶ月かかったんだろう?確か7月にルーブル行って、モナリザの前でダ・ヴィンチ・コード持って写真に写る為に買ったような記憶が・・・?

まあ、英語でも読んでみたいという気持ちもあったのですが、それにしてもずいぶんかかったなあ。まあ、実際には辞書を使わずに分からない単語を推測と無視して読んだので正味一週間かかってないんだけどね(2割から3割ぐらい単語読んでなかったりして…)。日本に戻ってきてからも先週まで全く読んでなかったし。

粗筋分かってるし、状況描写はどうでもいいので謎解き部分に中心を当てて読んでみました。ストーリーはほとんど頭に入っているし、関連書もだいぶ読んだので著者が書いているのをサマリーとしてみると、相当分かり易かったです。

でね、改めて思ったのが本当にエンターテイメントに徹してるなあってこと。登場人物の人名の名付け方もそうだし、イエスとマグダラのマリアが結婚していたという辺りも大筋はちゃんとした伝承や有名な本の仮説を採用しているが、場合に応じて、かなり大胆に著者の創作を混入させていますね。

読んでいるうちに記憶が怪しくなってきたけど、確かマグダラのマリアとともにマルセイユに流れ着いた二人の子供の名前として『サラ』が知られているとか書かれてたけど…、有名なプロヴァンス地方の伝承だとマグダラのマリアの姉妹として一緒に辿り着いたマルタの召使で黒人だった女性がサラとして知られていたはず。その辺のこととかはダン・ブラウン氏は知りながら、あえてインパクトを増す為に創作してるんじゃないかな?

まあ、他にもいろいろと他の本からそのまんま引用したり、大胆に創作している箇所も多いけど、小説として面白くしようとしているんだから、目くじら立てずに楽しめばいいと思うんですけどね。実際に効果を挙げていて面白いし、小説としては魅力的だと思うし。

小説の前書きに「これは全て事実である」と書かれていたって、信じちゃ駄目でしょ、信じちゃ。新聞やTVだって、頻繁に間違っている記事出てるもん。以前、教科書の地図にさえ間違えがあり、指摘してあげたら、丁寧な詫び状と次回から訂正する旨の連絡あったもん。当時、高校生の私が指摘するまで誰も気付かなかったのもなあ…。

余談はともかく、英語で読んでも読み易いし、分かり易いです。だてにベストセラーじゃないですね。英語の勉強したい方は、日本語で読んでから読むとすっごく勉強になるかも? いきなり英文だと私みたいな英語力のない人には辛いです。知らない単語の嵐にあいますから(苦笑)。

あとね、英文で読んでいて思ったのが暗号文の詩のところ。日本語訳でもさすがにそこには英文も併記されてましたが、日本語で読んだ時は、英文なんて見てませんでした。今回は、頻繁にその詩が出てくるのでしっかり読みましたが・・・やっぱり詩は分からないなあ~。省略されている部分が多くて、文の構造が??? まあ、日本語の時よりは暗号文を解いている気にはなりましたけどね。

もっともこの本ってミステリーといいつつも、ミステリーでもないような気がするなあ。歴史的にも正しい知識がたくさん紹介されてもいる一方、かなりのトンデモ説も意図的に混入して読んで楽しいエンターテイメント・ノベルってとこでしょう。この本は謎解きをテーマにしていながらも読書に謎を解かせるのではなく、その過程をあくまでも傍観者として読者に見せる一方で、常に時間や種々のモノに追われている切迫感のみを読者に共感させることを主眼において、ハラハラドキドキさせているのかなあ~なんて感じました。

間違っても推理小説と同じ物を求めてはいけないでしょう。たま~に感想で推理小説としてつまらないとかアンフェアという評価を見たので、もっともな評価ですが、そもそもの前提が違うかも?って個人的には思いました。

あくまでも作り物として捉えると、すっごく楽しいし、そういう話もあるんだと啓蒙されるいい本だと思うんですけどね。だって、キリスト教には全く関心のなかった私がこれだけ、キリスト教関係の本を読むなんて考えられなかったし。そのおまけでゴシック建築や中世全般についての関心もより一層高まりました。これは、ダ・ヴィンチ・コードに感謝しないとですね(笑顔)。

関連ブログ
ダ・ヴィンチ・コードにはまりまくり
初めて読んだ時の感想です。
ルーブル美術館 ~パリ(7月4日)~
「フランスにやって来たキリストの弟子たち」田辺 保 教文館
この本の中に「サラ」の伝承が出てきます。レビューでは特に触れていません。

The Da Vinci Code(amazonリンク)
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2005年10月18日

「ダ・ヴィンチ・レガシー」ルイス・パーデュー 集英社

legashi.jpg実は著者のルイス・パーデュー氏から、以前うちのブログにコメントをもらったことがあり、是非著書を読んでみなければと思いつつ、忘れていました(オイオイ)。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、パーデュー氏は「ダ・ヴィンチ・コード」がこの本からネタをパクったと裁判を起こしていたのですが、残念ながら負けてしまった、そういう渦中の人だったりします。

正直な所、ダン・ブラウン氏に言いがかりつけてるのでは?と内心思っていたのでそれほど、期待することなく読み始めたのですが・・・。結構、面白い。間違ってもダ・ヴィンチ・コードを期待すると、アマゾンのレビューに書かれているようにマイナスっぽい評価になるかもしれませんが、通常の読み物として読む分には、十分に面白いです。ダ・ヴィンチ・コードもエンターテイメントを相当強く意識した作品(知的好奇心もそれ以上に満たしてくれますが)でしたが、本著は完全にエンターテイメントにアクションシーンをふんだんに盛り込み、ダ・ヴィンチ・コード以上に映画向けの作品です。

私はとっても楽しめましたし、ダ・ヴィンチ・コードよろしくヒロインの女性も昔懐かしい○○○で僕は大いに満喫致しました(笑顔)。この作品が20年前に書かれてものだと思うと、水準以上の娯楽作品だと思います。ここで描かれているダ・ヴィンチも、結構よく調べられており、この小説に背景として出てくる情報なども決して侮れないものがあります。

但し、著者はあくまでも娯楽アクション小説に徹しているので、背景的事実についての説明を簡単にしてしまっているので、ダ・ヴィンチ・コードのような目からうろこ~的な知的好奇心を満足させるまでには至っていません。だけど、ダ・ヴィンチについてちょっと調べると、この本に描かれている世界観や情報も、それなりに大いなる含みがあるのに気付くと思います。私はとっても満足した一冊です。あ~、内容をもっと書くと、伝わるかもしれないけど、読む時につまんなくなるからなあ~。

ネタばれにならない範囲で内容をご紹介すると。
主人公はメジャーを越える独立系石油会社の地質調査学者。通常ではおよそ考えられない確率で油田を見つけ出す、その道では超一流の凄腕。しかもそのその石油会社のオーナーの養子でもある。と同時に、若き頃は資金稼ぎの為に独自の必勝法を編み出し、カジノで連戦連勝を重ねてありとあらゆるギャンブル場から出入り禁止になった人物。しかも彼は、アマチュアながらレオナルド・ダ・ヴィンチの世界有数の研究者でもあった。

こんないかにも…という型破りのスーパーマン的人物がダ・ヴィンチの古写本の中に偽造ページがあったことを発見する。その失われたページには、現代においてもなお、世界を震撼させるダ・ヴィンチの発明があった!!

彼をアカデミック界の異端児として敵視する女性がいつしか味方になりながらも、この主人公の回りでは、問題のダ・ヴィンチの古写本に関係した人物が次々に消されていく。登場人物は自らの命を狙われながらも、大切なものを守る為、愛しい者達への復讐の為に立ち上がり、謎の存在に挑んでいく。

ダ・ヴィンチの残した大いなる遺産(秘密)を中核に据えながら、それを巡る宗教・政財界の黒幕たる結社等の組織を相手に大立ち回りを演じます。娯楽活劇みたいなもんかな? スケールが非常に大きいし、楽しく読めますね。軽~く読書を楽しみたい方には最適。お約束の怪しげな組織やら秘密結社やらもたくさん出てきますので、その手のがお好きな方もどうぞ!

余談ですが、今公開しているダ・ヴィンチ氏の直筆レスター手稿ですが、あれにも何か隠されてないんですかねぇ~? なんか期待してしまいますね(笑)。
ダ・ヴィンチ・レガシー(amazonリンク)

関連ブログ
ダ・ヴィンチの粗筋が争う(10億円の裁判)
この記事にルイス・パーデュー氏のコメントを頂きました。
ダ・ヴィンチ・コード裁判の当事者からコメント頂きました!
ダ・ヴィンチ・コード訴訟、著者が勝訴
NY州裁判所がダ・ヴィンチ・コードが盗作でないと判決
心臓外科医にとって、ダ・ヴィンチの手がかり
未だに、ダ・ヴィンチ氏の先見性・創意力の素晴らしさは通用するそうです。
「ダ・ヴィンチ・コード」の予習にいかが?ダ・ヴィンチ展が開幕
レスター手稿を展示中!
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2005年10月09日

「ダ・ヴィンチ・コード ヴィジュアル愛蔵版」ダン・ブラウン 角川書店

vinchi1010.jpg本の内容についての感想は既に書いたものがあるので、ここでは通常版との違いについて書いてみます。

文章は通常版の上下2冊を1冊にしただけで、当然変更がなく、値段が高くなっただけでもったいないかとも思うのですが、ダテに高くありません。このあたり角川出版さんもなかなかの知恵者つ~か、商売上手。しっかり付加価値をつけています。イラストや写真がこれでもかっていうぐらい入っています。これが悔しいんだけど、なかなかイイ! 今持っている手持ちのダ・ヴィンチ・コード売って、この愛蔵版に買い換えようかと思わず考えてしまいました。

逆に言うと、ダ・ヴィンチ・コードの文章中には、たくさんの絵画や歴史的建築物、各種用語の説明があるんですが、それらを文章で説明するには『限界』ってあるんですよ。いちいち画集を片手に本を読むほど暇な人はいないでしょうし、見なくても「ああ、あの絵か。」なんて分かる人は例外。私も含めて普通の人は、どんな絵なのか分からなかったりする。ルーブルの三角ピラミッドなら、行ったことのある人は分かっても逆さピラミッドまで知っている人って、かなり特殊な人でしょう。

それ以外にもアーチ構造の要(かなめ)になるキーストーンとか言われてすぐイメージできないと思うなあ~。私は建築関係の本読んでやっと分かりましたもん。ロスリン礼拝堂のローズラインとかも同じ。

本を読んでると、そういった言葉からだけではイメージできないのが、写真や図版等でバンバンと大量に挿入されていて、視覚的にとっても分かり易い。もともとが読み易く、スピーディーな展開がウリのこの小説で、これは協力なサポートですね。

あ~、ますます角川さんが大儲けしそう。まさに二匹目のドジョウですが、しっかり捕まえられそうだなあ~。こないだの決算でもダ・ヴィンチ・コード絡みでだいぶ収益が上がっていたそうですが、またこの本を売って稼ぐなんて・・・本当に羨ましい。想像ですが、そのうちダ・ヴィンチ・コードの舞台となった場所だけをあつめた写真集みたいなのも出すんだろうなあ~。きっと!

ただ、ちょっと思ったのですが、図版や写真がとっても多くていいのですが、袖問に思ったことも。シャルトル大聖堂の写真が3枚か4枚入っていたけど、なんで? 本文には特に関係ないはずなのに・・・。どっかで触れられていたかな? 個人的にはシャルトル大聖堂大好きだから、嬉しいけど、ヴィジュアル部分を増やす為に無理して入れてる感じもした。

あとね、シラスが騙されて聖杯を探したシュルピス教会。この写真も何枚もあったけど、実際に行ってみるとそれほどのものでも無いような??? ローズ・ラインの記念碑みたいなのは、興味深いけど、教会自体は普通にあるものです。本書内の写真は撮り方がうまいから、なんか良さそうに思えちゃいますが、これはちょっとなあ・・・。

逆に、さすがいいのを使ってるなと思ったのだが、ディズニーの人魚アリエルがラ・トゥールの描くマグダラのマリアの絵と一緒にいるイラスト。これはいかにも高い愛蔵版故になせる業(わざ)か。ブラボー!!

でも、オーム貝の絵は要らないような気もする。他にもちょっと意味あるのか?っていうのもあるんだけど、トータルで見てやっぱり欲しい本だと思う。でも高いよ~。段々、泣けてくるって。デフレの時代ですし、なんとかして欲しいなあ~。

ダ・ヴィンチ・コード ヴィジュアル愛蔵版(amazonリンク)

関・ブログ
ダ・ヴィンチ・コードにはまりまくり 通常版の感想
ルーブル美術館 ~パリ(7月4日)~ マグダラのマリアの写真有り
ダ・ヴィンチ・コードに出てくるサン・シュルピス教会 ~パリ(7月5日)~
ラベル:書評 小説
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2005年09月27日

「フランチェスコの暗号」イアン コールドウェル、ダスティン トマスン 新潮社

fracode.jpg「もしもウンベルト・エーコ(『薔薇の名前』)とダン・ブラウン(『ダ・ヴィンチ・コード』)そしてフィッツジェラルド(『グレート・ギャッツビー』)が手を組んで小説を書いたとしたら、それはまさしく『フランチェスコの暗号』)になるだろう」 ~ネルソン・デミル~

などという大層な宣伝コピーに惹かれて気にはなっていたのですが、これは明らかに大袈裟です。っていうか、エーコやブラウンの本読んでないのアンタ?って言いたくなるぐらいの事実に反した宣伝文句以外の何物でもありません(フィッツジェラルドは読んでないのでなんともいえませんが)。とにかく、それほどの価値がある作品ではないし、これ読んでも自分の世界観というか価値観に一切の影響はありませんでした。逆に言うと、『薔薇の名前』や『ダ・ヴィンチ・コード』は今まで知らなかった世界の扉を開き、私にとっては大いに知的刺激となった作品達ですので、一緒にするな!と個人的には言いたくなりますね。

アマゾンのPublishers Weeklyからの書評で
『The Da Vinci Code』と比較されるのは必至。だが、本作のほうがより思索的で完成度も高い。ダン・ブラウンがドナ・タートとウンベルト・エーコの力を借りたレベルを想像してほしい。
な~んて書かれていますが、これも嘘です。何しろ暗号の秘密があれでは盛り上がれませんって!それ以前にダ・ヴィンチ・コードを思索的か否かの視点で捉えるのがおかしいと思うのですが…。ダ・ヴィンチ・コードに思索的側面ってありましたっけ??? 

批判がましいことばかり書いていますが、そういう虚飾を取っ払って単純な読み物としては、割合面白いです。知的興奮もあるものの、舞台になっているプリンストン大学の学生生活そのものがこの作品の中心にドンと構えており、単なる背景以上にそこでの学生生活の描写が主眼の一つになっています。それ自体を十分に楽しめれば、他の小説よりはずっと面白いです!!この作品も映画化決まってるようですし、その意味では先に挙げられてた本よりも一番映画化しやすそうな作品でもあります。

内容はと言いますと、実在する希書「Hypnerotomachia Poliphili(ポリフィーロの夢)」という本を巡る物語です。この本は一見すると不可思議な部分のある小説だが、実はそこには大変な学識を持った超一流の人物でなくては解けない暗号が隠されており、それを解読する鍵となる知識も言語としては、イタリア語、ラテン語、アラビア語等々を最低限の必須としながらも、天文学、建築学、動物学等々の百科全書的な博識を要求されるという途方もない本というのがポイントです。

この本を巡り、プリンストン大学に入学した当初から憑かれたように本の解読を目指し、図書館に籠る学生と、父がこの本に魅入られて研究したあげくに事故死した古書店主の息子の学生が共同研究者となり、暗号の解読に取り組んでいく。また、それを取り巻く周囲の人物が興味深い。一番情熱を注ぎ、朝から晩までこの謎の研究一筋に打ち込む彼の卒業論文のテーマがまさにこの本なのですが、彼を取り巻く友人達もなかなか魅力的な人が多く、プリンストン大学のいかにも学生生活ってノリの描写が生き生きとしている。まあ、著者の1人はそこのOBだしね。逆にそれが故に、この本が知的興奮をもたらすミステリーから、単なる青春物として終わってしまう危険性もあるんだけど…。

そうそう彼の指導教官も実はこの本に取り付かれた1人であり、事故死した古書店主と学生時代に一緒に研究した仲であった。もっともその後は本に関する見解の相違から喧嘩分かれし、争いは彼らの一生にわたって続いた。そして、この指導教官は今でも暗号の解読を夢見ており、暗号解読を目指す彼ら学生達にさまざまな影響を及ぼしていく。

基本的なプロットはしっかりしているし、そこに重層的に関わってくる人間関係の描き方もうまい。謎解きの部分も十分に知的で面白いんだけど、個人的にはプリンストン大学の学生生活の描写や友情関係の描写が多過ぎて、何の本だこれは?という違和感が否めない。深夜に裸で走る行事とかはニュースでも時々出てくる恒例行事で有名だし、卒業パーティとかもいかにもアメリカのあの手の大学って感じだが、それが私には余計に感じられた。

タイトルの邦訳「暗号」に引っ張られ過ぎて、勝手に先入観を持ってしまったのがいけないのかもしれない? それによって確実に日本での売上部数は伸びただろうけど、私のように感じた人が多かったかもしれません。ちなみに英語タイトルは「THE RULE OF FOU」です。これなら変な先入観なかったかも…。

そうそう、いささか批判的な私の感想ですが、本のあとがきに興味深いのがあったのでメモしておきますね。
澁澤龍彦氏は早くもその著者『胡桃の中の世界』所収の「ポリフィルス狂恋夢」の中で「夢の中でさまよいながら、壮麗な古代風の庭園や神殿や、さまざまな建造物や、神話の怪獣や水精や、また愛神ウェヌスの盛大な祝祭や儀式などに次々に遭遇する。あらゆるエピソード、あらゆる寓意が、古代風の意味を帯びている」「異教的な官能を謳歌した物語」であることを、まるまる一章を割いて説明されています。
え~、そうなの?っていうのが私の正直な感想です。だって、この本読んでたし、確かにそんな名称聞いた覚えがありましたが、この本を読み終わってあとがきを読むまで、澁澤さんが紹介していた本のことだとは全く気付きませんでした。うかつもいいところですね。

この本よりもこの作品で取り上げられた希書の方がなんか面白そうに思えてきました。今ではアマゾンでも売っているようですので下に挙げておきますね。私も手持ちの未読の山がなくなったら買ってもいいかも? その前にあと一、二冊英語の本も残っている読まなければ。

最後に、あまり暗号部分に期待してしまうと私のように違和感を覚えてしまいますが、単なる小説として読めば、結構面白いです。読んどいて悪くない作品です。但し、ある意味、青春学園物かも? そこだけ注意しておけば、楽しめると思います。

フランチェスコの暗号〈上〉(amazonリンク)
フランチェスコの暗号〈下〉(amazonリンク)
Hypnerotomachia Poliphili: The Strife Of Love In A Dream(amazonリンク)
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2005年09月20日

「奇術師」クリストファー・プリースト 早川書房 

kijyutu.jpg世界幻想文学大賞受賞、この言葉に惹かれて手に取った本です。どうにもこのうたい文句に弱い。何故なら、以前この賞を掲げたタニス・リーの「死の王」を読んだのですが、あまりの素晴らしさに感動を通り越して絶句!した覚えがあるからです。ファンタジー系の作品で私が読んだもののうち、幼少時から今に至るまでこれを越えた作品に出会ったことがないのですが、本書は少しでもそれに近づくでしょうか?そのことを期待して手にとった作品でした。それと少し前に人気のあったTVドラマ「トリック」の影響もあったりする。

まず、感想を述べてしまうと物語として面白いといえる部類でしょう。対立し、互いに敵愾心を抱く超一流の奇術師の二人が主人公であり、それぞれが残した手記を辿る事で二人の人間の人生と、不思議な交流を描き出しています。

また、二人の得意技が人間の「瞬間移動」であり、現代だとプリンセス天功とかラスベガスのホワイト・タイガーかというぐらい(比較にならないぐらい、それよりはるかに勝っていたはず)当時は人気を博した演目だったんだと思う。そのタネを巡るプロとプロとのメンツを賭けた争いというのも読み易いながらも、充実感あふれる筆致で描いていて読み応えがあった。基本的にマジック系にほとんど興味のない私でもそう思えるのだから、筆力はあると思う。

退屈しないで読めるのですが、なんというんでしょうか? 心底充実感があったかというとそうでもない。潜在意識レベルで、感情移入できないんですよ。奇術の仕掛けを探し求めつつも、結局その程度なの?そんなレベルで終わってしまっていて、ますます私の場合は奇術自体への興味が薄れてしまったかも。

本書の最初と最後の部分で、これらの奇術師の子孫が現代において、先祖達の謎に注目するという舞台設定だが、これらの子孫の役割もあやふやで何故必要なのかが分からない? また、子孫達の最後の方で判明する行動・説明も私には全然理解できなかった。全体を通して、良く分からないままで終わっている。私の理解力不足なのかもしれないが。

話自体としては、読んでいる間はそれなりに引き込まれるが、読み終わった時に何も残らないように感じた。少なくとも感銘はないし、私が感動した世界幻想文学大賞をこの作品が受賞したとは信じられない。一瞬を読んで楽しむ、ただそれだけの本にしか思えないのだが…。

秋の夜長に、本当に読書を満喫したいなら間違いなく「死の王」をお薦めする!! たくさんの読者諸氏を敵に回すことがあったとしても「ハリーポッター」を読むよりは絶対に&絶対に面白いことを保証する。子供でもなんなく読める作品ながら、そこに描かれる世界観の奥深さには、大人でなくては理解できないものがある。

小説としても面白いし、ファンタジーとしても傑作だが、それほど知られていないのが不思議でしかたのない作品の一つである。いかにも英国作家だなあ~と良い意味で感じられ、その上品で洗練された文章には、読書の純粋な喜びを味わえると思うし。また、私自身も読み返したくなった作品です。既に3、4回は読んでいるんですけどね。大好き~!

〈プラチナファンタジイ〉奇術師 (amazonリンク)
死の王(amazonリンク)
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2005年09月08日

「死への婚礼」エリス・ピーターズ 社会思想社

元十字軍の戦士であり、薬草学等に通じた修道士カドフェルが探偵役で大活躍するシリーズの第5作目です。これは中世を舞台にしたミステリーで、薔薇の名前を彷彿とさせるような教会権力をリアルに感じさせてくれる、楽しい作品です。

著者がたぶん、相当綿密に当時の時代考証をしているんじゃないかなあ~と思います。西欧中世史好きには嬉しいかも♪ 今回は出てきませんが、しっかり聖人の聖遺物なんかを巡るお話なんかも過去の巻にはあるし、シリーズ全体を通してお薦めですね。但し、20冊以上のシリーズもんなんで、はまると大変かも? 読み易いけど、結構分量はあるので1冊読むのも時間はある程度かかりますので。

まあ、のんびりと秋の夜長を読書で過ごしたい向きにはいいかな。中世的な価値観や、権力構造が読んでいるうちに頭に入ってそれもまた楽しいです。もっとも基本的に描かれているのは、いつの時代にも変わらない普遍的な愛や誠実、友情と同時に、他人よりも幸せになりたいという金銭欲、出世欲等々を持った等身大の生身の人間です。現代とは異なるところもありますが、現代にも通じる価値観がそこにはあり、十分に共感できます。舞台は中世ですが、基本的には人間心理を描いています。そうだね、だからミステリーのジャンルですね。歴史物というよりも。

ちなみにストーリーはとってもシンプルなのですが、一修道士という限られた権限の中で着実に証拠を集め、それを論理的に推論していくスタイルは非常に正統派的です。それなりに、伏線などもあり、ドンデン返しまではいかなくとも、ふふ~ん、なるほどね。っていうぐらいのお楽しみもあります。

このシリーズは基本的に水準をクリアしていると思うのですが、私的にはちょっと気になるのが、説明が多くて分かり易いし、登場人物の心理描写も詳しくて良い反面、いささか話がだれるような気もするんです。ほんのちょっとだけですが。そこが読んでると、たま~に気になります。でも、なんだかんだ言ってもこうして5冊まで読んでるんですから、それなりに面白いです。普段あまりミステリーは読まないので、よく分かりませんが悪くないと思います。

では、今回の粗筋。
資産家で世俗的な地位も名誉もある初老のオヤジと、両親がなくなり、後見人に操られる、広大な土地財産を持つ若い花嫁との政略結婚。いつの時代にもありがちなカップルだが、その初老の花婿が殺されてしまう。

疑いをかけられるのは、その花婿の従者をしていた若者。彼自身、ひとかどの資産があるが行儀見習いの為に預けられたいた先で花嫁になる少女と知り合い、恋に落ちていた。もう古典的パターンのオンパレード。で・す・が・・・、それが色褪せない辺りが作家としてうまいんでしょうね。殺人がある位だから、悪人もいるのですが、基本的にみんな善人なんですよねぇ~。この本の登場人物。善良な人が最後に勝つ、勧善懲悪かな?でも、読後感は良かったです。

そうそう、おせっかいながらアマゾンの書評は今回は読まない方がいいかも? ネタバレに近いこと書かれてました。面白さが半減しますよ、あれ読んじゃ。

死への婚礼(amazonリンク)
聖女の遺骨求む(amazonリンク)これがカドフェルシリーズの第一作なので、できればこちらから読んだ方が面白いと思います。
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2005年08月18日

「サファイアの書」ジルベール シヌエ 日本放送出版協会

safaia.jpg謎解き冒険物というべきか、歴史ミステリーというべきか、それとも宗教ミステリーであろうか? 非常にたくさんの要素が詰まった内容の本だと言えるかもしれない。

舞台は異端審問が華やかなりし、15世紀のスペイン。大航海時代を目前に控えつつも、キリスト教徒悲願のレコンキスタ運動がまさに完成しようという時代を背景にして、物語は始まる。そこには私の大・大・大好きなアルハンブラ宮殿の主(あるじ)であった最後のグラナダ王朝のことも端々に触れられている。この本の中に出てくるシアラ・ネバダ山脈やダロー川、みな私の記憶では色褪せないイスラム文化の思い出であり、本書を読んでいるだけでひとしおの感慨がある。

しかし、そんなことでさえ、大したことではないかのように本書には、様々な宗教に関する知識がきらびやかに織り込まれ、とっても大切な『宝』を求めてユダヤ教徒・イスラム教徒・キリスト教徒が反発・協力しながら旅を続けていく。彼らは、おのおのが学識深いその道の精通者であると共に、ある者の友人であった。そして異端の疑いをかけられ、火刑に消えて亡き友人の残した暗号文を頼りに、彼らはこの世にあるとは思えないような神の『宝』を探しにいくのだ。暗号文には、タルムード(ユダヤ教の聖典)、コーラン、聖書の各知識を総動員してようやく解ける難解さでその謎解きが教養を試されます。正直言って、私には難しくてよく分からない所が多数ありました。

逆に、そういうものに素養がある人にはとっても楽しめるものみたいです。私は、この謎解き自体については、薔薇の名前やダ・ヴィンチ・コードほど面白いとは思えませんでしたし、ルブランの「奇岩城」や「813の謎」とかの方が楽しいのですが、友人はすっごく誉めてました。人を選ぶみたいです。残念ながら、私は選ばれませんでした。

そうそう、コロンブスもしっかり出てきます。コロンブスが航海の資金を求めてカスティリア女王に嘆願していたのは有名な話ですが、それも出てきます。但し、私にはそれがストーリー上、有効なシーンだとは思えないのですが…? ある程度、史実に基づきつつ、いろんなエピソードを取り込もうとして、十分に消化しきれていないようにも感じました。

途中までは、結構、宗教的な知識を駆使した謎解きが面白くて引っ張るのですが、最後がなあ~。私的にはすっごく欲求不満で消化不良な感じが残ります。本書の内部であちこちに振りまいたテーマが最後に一点に収束することなく、中途半端に投げ出された感じを禁じ得ません。

たぶん、このラスト次第で全体の印象がガラって変わったと思いますが、私的には微妙な評価ですね。トータルで言うと、可もなく、不可もなくってところでしょうか。正直言って、一般受けはしないと思います。謎解き自体はかなり魅力的で、ダ・ヴィンチ・コードよりも突っ込んでいるんでしょうが、宗教に偏り過ぎて私のような普通の人には辛いです。

但し、宗教について、ある程度分かる方には、とっても面白いかも? 私の友人は非常に高くこの本を評価していましたので。参考までに。

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2005年08月15日

「アグネス―神の小羊」レオノー・フライシャー 角川書店

もともとは芝居で好評を得ていたものをノベライズ化するという、最近ありがちなもの。で、物の見事に大失敗している。暇つぶしに電車内で読み捨てようかと買ったものだが、本当に捨てたい気持ちになったのは、なかなか珍しい。そういう本です。

ストーリーは、ある精神科の女医がいさかか変わった事件の精神鑑定を依頼される。被疑者が犯行当時、責任能力があったか否かという非常にありがちなものだが、事件は特殊な性格のものだった。

厳重に出入りを制限される女子修道院の若き尼僧が、どのようにしてか身籠り、あろうことが僧院内で出産し、更に赤ん坊を殺したというものだった。それ自体は、スキャンダルであったものの本質的に問題ではないが、その殺人を実行した尼僧は、その犯罪を全く記憶しておらず、しかも一見する限り、このうえなく純朴でその証言が偽証なのか、精神的な病に起因するものなのか不明。この上なく、不可思議な様相を呈する事件となった。

私としては、イエス様の処女からの生誕を念頭に置き、現代に起きた「奇蹟」とかという話を期待していたのですが…見事に裏切られました。この女医が、これ以上無いっていうぐらいのありがちのトラウマをもった女性で、西欧的な信仰に伴う苦悩をまさに体現しているんですねぇ~。非キリスト教的価値観の下で生きてきた私が知ったようなことをいうのは、少々心苦しいのですが、この主人公である女医の行動や思考方法が、もうどうしょうもないくらいいやらしくて吐き気がします。トラウマから、ただ宗教というものは何でも敵という安易な態度でかみつくかませ犬みたいで、正直嫌悪感を覚えてたまらなかったです。

別に信仰心があるわけでもないが、個人的な苦しみを他者のもののせいにするその考え方に唾棄すべきいやらしさを覚えてしかたがなかった。さらにそれが一連の謎説きを通じて、自分の問題を明確化し、認識して克服していく。もう、ある種の人びとが好きそうなパターン。実際、この手の人間の内面を掘り下げ、その葛藤からの脱却を描く心理劇は多いし、名作もあるが、それをそのまま小説にしても陳腐なだけしょう。まさに、そこが一番この作品をくだらなくしていると思う。

せっかく、話を膨らまされる状況でも、無理してつまんない推理劇にされてもねぇ~。こちとら、そんな安っぽい推理に満足するほど、ウブじゃないんだよなあ。もちっと知恵を出して欲しかった。

天使のような歌声で歌う尼僧。恐ろしいまでに世界から隔絶され、歪められた世界に生きている人物。当然、この人もトラウマの迷宮に閉じこまれているんですが…安易・陳腐・お手軽。
私には駄作としか思えないのですが…。amazonのマーケットプレイスで1円ですか。それでも欲しくないな、時間の無駄。皆さん、有限の時間を大切に使いましょう。電車内で寝てれば良かったなあ。眠いです、お休みなさい。ムニャムニャ。

アグネス―神の小羊(amazonリンク)
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2005年07月24日

「呪のデュマ倶楽部」アルトゥーロ ペレス・レベルテ 集英社

noroi.jpg映画「ナインズ・ゲート」を見て大いに気に入り、知り合いから原作はこれだよと教えてもらった本です。映画では、ジョニー・ディップが怪演をしていて妖しい雰囲気に思わず引き込まれたが、原作は映画とはかなり異なっています。別物と考えた方がいいかな? 但し、本の内容は別物というぐらい違っていますが、これはこれで私は好きですね! 面白いです。基本はやはり稀覯本マニアとそれをメシの種にするプロの稀覯本ハンター。本の為なら、何でもするという業の深い(=天国にいけそうにない)人びとのお話です。

ざっと粗筋を述べると、三銃士の生原稿を巡る調査依頼を発端に、次から次へと不可思議な事柄が起こります。やがて、悪魔を呼び出す方法を暗号にして隠したとされる希書「影の王国への九つの扉」(=ナインズ・ゲート)の真贋を調べることになります。悪魔との共著と言われ、この本を作った作者は異端審問で火焙りにされるといういわく付きの本ですが、この本は世界に3冊しかなく、いずれもそれ相当な値段がついてマニアがまさに宝物として所蔵しているのですが…。

本好きな人なら、誰でもが共感できる感覚を心憎いまでに刺激する内容です。一部の人ではありますが本が単なる「モノ」ではなく、自分を取り巻く世界であり、自分にとって切り離せない家族であり、友であり、人生の一部である。そんな悲しいまでの愛書家(否、狂書家)を描いています。そういった心理描写もいいですし、本篇に散りばめられた書誌学的知識の数々も圧倒されるほどですが、たま~に出てくる自分も知っている本の事なんかにも当たり前の前提条件的に話されるのもある意味、小気味良く、もっと&もっと本読まないといけないなあ~と痛感させられます。

あと、映画で出てくる版画ですか、しっかりとそれぞれ1頁づつ使って読者がじっくり眺めることができます。影響され易い私は、この版画をコピーして○○○○しようかと思っちゃいましたよ~(笑)。詳しくはこの本読んでくれれば、分かりますこの気持ち。ネタバレになるので後は伏せておきますが。

この本は本に関する愛情、書誌的知識等々がたくさんあればあるほど、楽しく読めます。マニアというか、オタク向きの本かも。勿論、知らなくても楽しく読めますが、三銃士については知っていた方が楽しめそうです。私は、あまり知らないのでちょうど、今映画の「三銃士」を借りてきたとこです。

羊皮紙の貴重さ、紙質へのこだわりや装丁の職人技、等々、読んでるだけで博識になれますね。もっともこの手の知識が増えれば増えるほど、後のち苦しむかもしれませんが…。人は知れが知るほど、欲しくなるものですから。他にもここでさりげなく出てくる書名の数々、うっ読みたくなるジャン!困った&困った。さりげなくフルカネリとかも出してくるのが、う~んやられました、脱帽!ってカンジですね。

ちょっと、マニアというかオタク入ってる読書家の方にお薦め。う~悪魔呼び出したい!!

呪のデュマ倶楽部(amazonリンク)

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ナインズ・ゲート デラックス版(1999年)ジョニー・デップ主演
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2005年07月21日

「アルケミスト」愛蔵版 パウロ コエーリョ 角川書店

alchemist.jpg実は、この本なんですが書名が気になって何度も手には取ってみたものの、読もうという気にならなかった一冊だったりする。なんでまた急に読み始めたかというと、この著者が書いている本に「星の巡礼」というものがあり、その本にはキリスト教の聖地巡礼(サンチャゴ・デ・コンポステーラ)について書かれているらしく、「星の巡礼」を買うか否かの試金石としてとりあえず、図書館にあったのを借り出して読んだ、というのが発端だったりします。

読む前は児童文学か童話のような感じがして、イマイチ乗り気じゃなかったんですよね。しかし&しかし、読み進めていくうちにこいつはなかなかに素晴らしい名著ではないのか?という予感(本書に出てくる言葉で言うなら『予兆』)がビシバシ訴えかけてくるんだなあ~、これが!

文章や言葉は非常に平易な為、子供でも楽勝で読み進められるが、子供向きというよりは、日常に魂を磨り減らしている、おじ様方に必読の書だと思った。子供が読むととても面白い話だけど、大人が読むと反応が分かれるかな? 子供の頃は、夢があったなあ~と懐かしむタイプと日常に埋没して自分に手枷足枷をつけていることに気付き忸怩たる思いを覚えるタイプ、更に一歩進んで、自らの心の声を聞き、行動に移すタイプ。さあ、皆さんはどれでしょうか?(いささか悪意のある笑い)

なんか、いつもとは違った感じですご~く心に響いた本ですが、まずは粗筋を。羊飼いの少年が自分の為の宝が隠されているという夢を信じ、彼を取り巻く日常を捨て去り、己が内なる心の欲するまま旅をする。その過程で世界には全てが示されており、それを自らの心の声に耳を傾けることで予兆として認識し、正しい道を歩むことができることを学ぶ。

人間がその本性に素直に生きることで、その人が本当に願う目的を達成することが可能になる、実にシンプルなストーリー。しかしながら、そこに含まれる含意は深い。目的達成の為にいくら努力をして困難を克服しても、最後に自分の自分に対して持つ恐れ故に、夢半ばにして消え去る者がいかに多いか。まさに真理かも?

これを読みながら、自分と比べつつ、ある人は挫折感を味わい、ある人は目的に向かうパワーを与えられるでしょう。読了して今、気付いたんだけど、この本に書かれていることって2年ほど前に私が起業家セミナーとかをハシゴしてて聞いたアントレプレナーとしての心構えとまさに瓜二つ。経営者が決断に迷った際に、いかにしてリーダーシップを発揮していくかというテーマと同じなんだもん。真理に至る道筋はいくつもあるが、真理そのものは、普遍且つ唯一なのだから、当然なんでしょうが、ちょっとそれも驚き!

役に立たないリーダーシップ論や起業家セミナーよりは、こっちをお薦めしますね。本当に素晴らしい本だし、絶対にお薦めですよ!! 但し、自らの人生に対して前向きな方限定。ただ生きてるだけの方では幼児期への憧憬で終わりですから、何にも意味ないかと。逆に、自分の人生を生きる気力のある方には、是非読んで役立て欲しい本です。

私はこれ読んで、大いにやる気が出ました。改めて、本書で紹介しているような自分の心の声を聞こうと思います。勿論、「星の巡礼」も買うことにしました。この本も買おうっと!

【追記】
他の方の感想を読んでて思ったんですが、やっぱりいろんな解釈や感想があるんですね。人の思いは千差万別、当然なんですが…。私は、この本はただ頑張ろう!というのではなく、たいていの人は日常に甘んじているだけなんだよ、というある種、痛烈な批判さえ伴ったものだと感じてもいるのですが…。ここまで言ってはいけないのかな??? 

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アルケミスト―夢を旅した少年(amazonリンク)

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「星の巡礼」パウロ・コエーリョ 角川書店
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2005年06月08日

「イエスの遺伝子」マイクル コーディ 徳間書店

iesu.jpg基本的なノリは、近未来(10~30年以内)SFですね。しかも典型的なアメリカSFです(作者はロンドン生まれだけ)。えっと、映画化されたインビジブルだっけ?あれと似たようなノリを感じます。話のテンポはいいよ~。

だって、遺伝子工学が進み、個々人が将来的に発生する可能性のある遺伝病がある程度の確実性を持って予測が可能になった社会。その最先端を開拓する科学者が、その技術によって自分の娘が1年以内に脳腫瘍で死ぬことを宣告されちゃうんだもん。なんとか残された期限内に、治療方法を発見・開発しようと必死になります。

時間を区切ってあるのでいやがおうにも焦らざるを得ない状況が生まれます。このあたりは、ダン・ブラウンなんかも得意な手法ですね! 読者もそれがある以上、読み進めながら、ドキドキ感を共有できます。化学療法、放射線療法、薬物投与等々、どんなことをしても効果が見込めないことが予想された時に、科学者は思いきった手法を思いつきます。

稀代の治癒能力を持つ者として、歴史上に燦然と名を残す人物、そうイエスです。イエスの遺伝子を調べることで、特殊な治癒能力を解明し、遺伝病(遺伝子情報の欠落により、生じる病気)を正常な遺伝子に直すことで病気を治そうとします。なかなかGOODなアイデアですね! さすが神を恐れぬアメリカ人(冗談ですよ~)。

その過程で、その科学者との微妙な関係を変化させつつ暗躍する、長い&長い歴史を持つ秘密結社。いやあ~、なんかどれもこれも似ているような(笑顔)。

最後の部分は、まあ悪くない結末だけど、あっけなさ過ぎるかな~。失敗した、と思うほど悪くはないので遺伝子工学や細胞生物学的なこと好きな人は読んでみてもいいかも。積極的にお薦めするほどではないなあ。

あっ、でもここで扱われている遺伝子工学の話はかなりの部分まで事実で、現在でも実際に達成されている話です。人ゲノムの解析競争は一通り終わったんじゃなかった?アマゾンや未開の土地に入り、新種の細菌や遺伝子を集めまくり、有用な遺伝子情報を特許として申請するビジネスはだいぶ前から、進んでますもんね。日本でも宝酒造やサントリーとか、醸造技術のある企業はだいぶその辺、力を入れてるらしいし、まさに金のなる木なんでしょうね。日経新聞にもジーン・ハンターの記事出てましたね。NHKスペシャルや雑誌のネイチャーとかでも何度か記事で読みました。

そうそう、保険会社が予め遺伝子検査をして、将来高い確率で遺伝病を発生する可能性のある人の保険料を引き上げたり、保険加入を拒否したりして問題になったのもだいぶ昔の話。日本ももうすぐかもしれませんね。国民総番号制の下準備は住基ネットでほとんど済んだでしょう。

これに年金番号、納税者番号を統合して、個々人の学歴、職歴、犯罪歴を加え、カード会社と組んで支払い履歴や購入履歴を加えれば、最高のデータベースが出来上がり。あとは、ここで私が以前勤めていた通販会社のようなデータベースマーケティングを利用できるように、統計的に処理しちゃえば、いろんなことができますね。犯罪者予備軍の事前監視(新派刑法やなあ~)や素直で扱い易い官僚の採用試験への導入、ベンチャー育成の助成金の出資可否の資料とか、もう無限にできそう。しかも役立ったりして・・・。

どんな大手の企業であろうと、たとえ官公庁だろうと管理するのが人間である以上、ずぼらな人がやれば、同じこと。情報なんてすぐにブラックマーケットに流れますね。私自身も仕事柄、何度もそういう情報を売買を業者から持ちかけられたもの。勿論、取引しなかったけど。

アメリカでは個人のクレジットカードの番号情報さえも履歴とともに、売り買いされてるもんなあ~。各社の購買履歴データを共有するビジネスもたくさんあったし。つくづく、個人の情報は丸裸だと感じずにはいられない昨今です。

まあ、話はそれたけど、なかば実現しているSF話でした。そうそう、この小説で強引にやってる部分もありました。遺伝子情報から、本人の姿形をホログラフィーで描くとこ。こんなのありえません。だって、環境や本人の意思等で後天的に決まる要素まで遺伝子から分かるわけないじゃん。そのあたりに、いい加減さが出てましたが、あとは結構、いい線いってます。あなたもイエスになれるかも?(笑)

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2005年05月12日

「聖母の日」(上・下)ポール ウィルスン 扶桑社

seibo.jpgここんとこ、話題であった聖母のご出現と奇跡がテーマになっていると言われては読まないわけにいかないでしょう。ってな感じで読み始めたんですが…。

いわずもがなのような、典型的なアメリカの小説ですね。背景に出てくるものはイラク戦争や大統領選、国家保安局に始まり、ホームレスにエイズ。アメリカという国家の抱える社会問題が凝縮として至るところにはびこっている米国内向けドラマ。こいつも映画向きだなあ~。

まあ、読んでてそれなりに楽しく読めました。バチカンの奇跡審査官とか、いかにも~ってな人も出てくるしね。ですが、あくまでも移動の時間つぶしとかに向いてるくらいかな? これ読んで感動したり、知的好奇心を刺激されたり、宗教心を起こしたりなんて間違っても起こらない(それこそ奇跡でもない限り)レベルのもの。まあ、出版社が扶桑社さんですから、当然ですが。

ざっと言ってしまうと、イラク戦争で弾道を誤ったミサイルが秘密の封印された場所を開けてしまう結果に…。いかにもありがち(?)なベドウィンが死海文書よろしく巻物を発見する。で、その巻物には書かれている内容こそ、実は聖母の遺体(まさに!聖遺物)の隠し場所。とある運命の糸(意図)に操られ、巻物を読んでそれを発見する人達。そして、それを持ち出すと…、おお~なんということでしょう!! 聖母のお姿があちらこちらに現れます。そしてそれに伴い、常識ではありえない奇跡の数々が起こるのでした。それはやがて…。

非常に、粗筋的には興味惹くんだけどねぇ~。以前、読んだようなしっかりした知識的な背景を持った著者による小説(「クムラン」みたいな)でなく、舞台仕立てだけを借りたぐらいの小説なんで、すっごく展開が安易。まあ、ご都合主義とは言わないまでも、普通は遺体を発見するまでがアドベンチャーで盛り上がるんだけどね。すごいよ~、コンビニに弁当買いに行くレベルの気楽さで見つけちゃうもん。さすがU.S.A.(拍手)。

ただ、聖母が起こす奇跡も安っぽいこと、このうえない。ラストが後味悪いうえに、およそ敬虔さがない(アナーキスト的な)聖母のお言葉もいささか不快だった。お薦めはしないけど、飛行機や電車の中で時間つぶし的には悪くないかも。つまんないから嫌いってほどではないけどね。聖母やキリストという点では、全く意味の無い小説でした。次は、もっと面白い読もうっと。

関連ブログ
「聖母マリア」 竹下節子著 講談社選書メチエ 
スティグマータ 聖痕 <特別編>(1999年)

聖母の日〈上〉(amazonリンク)
聖母の日〈下〉(amazonリンク)
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2005年05月08日

「アーサー王物語」R.L.グリーン 厨川文夫訳 岩波書店

これは岩波少年文庫の一冊。ジュブナイル物ですが、どうしてどうして今まで知らないことが結構たくさん書かれていました。つーか、私がいかに聖杯伝説関係を知らないかということなんですけどね(苦笑)。

前回読んだトマス・マロリーの「アーサー王の死」 だと肝心な聖杯探求の部分がカットされてて残念でしたが、こちらにはしっかり描かれてました。訳者は同じ厨川氏なのに差別だあ~、なんてね。でも、私としてはこっちの本の方がいいなあ~。勿論、重複するところはありますが、こちらの方が夢とロマンに溢れていますね。少年少女向きの方がいいや。あちらは、ランスロットとグウィネヴィア王妃とのロマンスがごちゃごちゃ書かれていていささかまどろっこしいのに対して、こちらはスッキリしています。

そもそもこの本は現代の作家がアーサー王伝説や聖杯関係のものを取捨選択して書いたものを抄訳したもので、前回の本では入ってなかったガウェイン卿と緑の騎士、ガラハッド卿の聖杯探求、トリスタンと美女イズーの悲恋物語等々が入っています。マロリーの本には無かったものや、マロリーの著作から翻訳時にカットされているのが含まれていて聖杯に関心があるなら、こちらだけでもいいかも?

聖杯関係のところは、初めて知る事ばかりでなかなか面白かったが、それ以外は重複もあり、関心の埒外のテーマで退屈でした。ある程度、話を知っているなら飛ばし読みでいいかもしれません。物語は面白くないとね!

で、この本で初めて知った聖杯に関することをメモしておくと。

聖杯とロンギヌスの聖槍は、アリマテヤのヨセフがはるばるこの地に持ち込み、ヨセフの子孫であるペレス王の城の一室で保管されている。その部屋は、消える事のない金の燭台で照らされ、ヨセフの子孫以外はガウェイン卿が入ったのみだった。

あのランスロットでさえ、現世での罪で触れることのかなわない聖杯だが、ランスロットの息子ガラハッド卿が聖杯探求の旅の結果、部屋に辿り着き、それに触れて中から聖酒を飲むことができた。それによって聖杯の司祭であった聖杯の乙女の呪いは解け、普通の人になれた一方、聖杯の守護者である隠者ナーシアンスは眠るように亡くなる。なすべきことをなしたガラハッドの魂が天に召されると、聖杯と槍は天に昇って消えてしまった。

よく分からないんですが、ほとんどみんな死んでしまうんですね。魂が天に召されたから、めでたし&めでたしなのかな。あと、この本の中でちょっと面白かったのが聖槍から滴り落ちる血。十字架にかけられたイエスの脇腹を突いた槍ですが、切っ先から血が滴るものの、地面につく前に血が消えてしまうのだそうです。興味深いですね。

そういえば、ロンギヌスの槍ってどこかの博物館にあるんだよねぇ~。どこだったか忘れてけど、それを所有するものは現世を支配する力を有すると言われ、時の権力者がそれを求めたとか。中でも有名なのはあのヒトラーがまさにこの槍を見た時に、世界を支配するのは自分だと告げられたとかなんとか…?そんな眉唾の話がありましたね。

単なる聖遺物でも大騒ぎするんだから、この槍は強烈な力があるんでしょう。見てみたいなあ~、どっかの本に載っていたんだけど…???

まあ、それはともかく聖杯について私のように何も知らない人は読んでみるといいかも?既に知っている人には無用でしょうね、この本は。

アーサー王物語(amazonリンク)

関連ブログ
「アーサー王の死」トマス・マロリー 厨川文夫・圭子訳
キング・アーサー(2004年) アントワン・フークア監督
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2005年04月24日

「ソロモン王の洞窟」 H.R.ハガード著 創元推理文庫

soromon.jpgこれもいろんなとこで名作としてタイトルだけは聞いたことのある作品。ソロモンの所に惹かれて、いざ読んでみると…。

残念ながら、ソロモンは全くというほど内容に関係してきません。その点では、隠された秘宝にハクをつける為だけに用いられた空虚な装飾語に過ぎませんでした。で、内容的にはどうなの?って言われると、私的にはそれなりに面白かったかなあ~。

この小説は、あくまでもトレジャーハンティングを目的としながら、そこに辿り着くまでの秘境での探検を描くのがポイントになっています。砂漠での熱砂地獄との闘いに、異国の土人達(昔の小説の為、こういう表現がされています)との交渉・事件の諸々。血湧き肉踊る、とでもいうような男のロマンをくすぐる事件の数々。実際、少年少女の冒険活劇ってカンジでしょうか?

もうこれ以上はないっていうぐらいの王道中の王道を歩む、正統派の冒険ジュブナイル物ってとこですね。根本的な謎解きはされないままですが、ストーリー上で必須の部分は、きちんと読んで納得のいく説明がされていきます。割り切って読む分には、結構面白いです。読んでる最中は、それなりにドキドキして昔に戻った感じ。そうだなあ~、子供の頃に読んだロプノール湖みたいなもんかな?(ご存知でしょうか、砂漠に消えた幻の湖で移動すると言われるアレです)

今は、同時進行で「エチオピア王国誌」(キリスト教の神父が実際に旅をした旅行記なんですが、これがこの小説以上に興味深い。まだ途中なんですが…)を読んでますが、これなんかと近い系統かな?こちらは史実でソロモンの方は小説ですが。

この小説は、ノリとしては川口宏の探検隊みたいなもんです。昔は欠かさず見てたなあ~。胡散臭いながらも、大好きでした。私的には「失われた世界」とかの仲間だし。まあ、実際にギニア高地があるからね! 秘境探検物、愛好者には基本の書ですね。今では、古典的ともいえるお約束の数々が嫌ってほど、忠実に守られています。ここで言っちゃうと話が終わってしまうので、書くのは控えますけど…。その筋に人は、目を通しておくべき古典ですね、やはり。白人と土人との駆け引きとして、これ以上無いくらいの定番さは別な意味で驚きを与えてくれるかもしれません(呆れるかもしれませんが?)。

軽く粗筋を述べると。
主人公である元猟師は、とある事情から砂漠にあるという財宝とそれを探しに出掛けたとされる人物(一行の血縁者)探しの為に、熱砂の砂漠を横断する旅に出ます。いかなる因果か、そこを訪れ、実際に財宝を見つけたという人物が残した地図を主人公達は所有しており、それだけを頼りに命を賭けた大冒険に繰り出すのです。このプロットからして、定番以外の何物でもないです。

これ読んで早速探検に出たくなってしまいました。また、ブラジルのアマゾンとか行ってみた~い! 敦煌にラクダで行くのもいいなあ(今は、飛行機で楽に行けるそうです。石油が近くから出るんだって…時代は変わりました)。あと探検物といえば、「クムラン洞窟」。こっちを読んだことなければ、絶対にこちらをお薦め!! 改めて、こちらのレビューを書くつもりですが、これ読んだら、もうじってしていられなくなるかも?頭に映像がこれほど鮮明に浮かび上がる小説もないなあ~。冒険好きには堪らない一冊です!!

そういえば、友人がこんど北京ーウランバートル間のラリーに出るそうですが、凄いなあ~まさに砂漠を疾走する冒険家ですね。こういった行動力が私にも必要だなあ。頑張らないと!!GW明けでエアーが安くなったら、久しぶりにどっか行きたいな、海外。

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2005年04月21日

「バーティミアスII ゴーレムの眼」理論社

golem.jpg装丁が子供向けでずっと避けていたんだけど、サブタイトルがゴーレムで舞台にプラハもあるみたいで結局、読み始めてしまいました。

文字も大きし、内容も読み易かったけど、何しろ分量が多い。結局、数時間かかってしまいましたが、まあそれなりに面白かったですね。一部は、気に入らない部分もあったんですけど、それはおいといて。

まず、舞台はロンドン。今でもオタクが集まるので有名なあの街(事実)がメインで、悪魔を操る魔術師が特権階級を作り、一般市民を支配する階級社会がある世界という設定。主役はいかにも子供向きで10代前半の少年魔術師。彼が使役する悪魔がバーティアスという名前の年齢5000歳の食えない奴で、実はこれが本当の主役だったりする。一応、形式的に悪魔は読み出された魔術師に逆らえないらしいのだが、この悪魔はひと癖もふた癖もあり、歳を経た狡猾さと達観による皮相的な毒舌を吐きまくるのがなかなか魅力的。作者のイギリス人らしさがおそらくこの毒舌に如実に現われている(ご存知の通り、イギリス人のあの皮肉好きは筋金入りだからなあ~)。

個人的には、かなり好きだが日本人には嫌われるんだよねぇ~。まあいいんですが。さて、粗筋は若くして政府の要職の一部を占めんとする少年魔術師に、次々と襲い掛かる仕事上の難問。治安担当者なので、不可解な事件が続発し、対処を迫られるといったところです。その事件には怪物ゴーレムが関わっており、謎を解く為、プラハへも行ったりします。

とまあ、話はその辺りにしといて。この本って本当になんの工夫も仕掛けもなく、安易に魔術関係の言葉をパクってます。だって、さきほどの少年の名前からしてマンドレークだもん。ご存知でしょう、魔法薬を作るときに欠かせない薬草の名前ですね。引っこ抜く時に叫び声をあげ、その声を聞くと死んでしまうというアレです。ゴーレムはそのまんまだし、ゴーレムの作成者がプラハにいるカフカですよ。確かにプラハの黄金小道には、カフカが住んでいた家があり、私もそこで絵葉書とかグッズ買った覚えがありますがそのまんまだもんなあ~。ゴーレムが土塊にかえったシナゴーグは未だにあるし、プラハじゃ。しかもしかも本の冒頭に出てくるプラハの場面ではストラホフ修道院まで出てる。ここのブログのモデルです(ブログの左に写真あるでしょ、修道院付属図書館の)。他にも無数に聞いたような名称が次々から出てくるしぃ。

それらは元ネタを知っているから、私的にはそれなりに面白いですが、知らなかったら何も意味無いと思うんですけど・・・? とりあえずは読み易いけど、敵側として出てくる少女が大嫌い!! 理屈はどうあれ、反社会的なテロリストを、やや偽善者的に正義の人っぽく描く著者に嫌悪感を覚えた。抑圧された弱者が、やむなく抵抗する手段とでも言いたげだけど、子供向きの本でこういう人物を出す気が知れない。個人的には、この手の悪は絶対的に悪で強圧的に弾圧するほうを支持するなあ~。何故か、この本はそういった大人向け以上に毒のある部分が多い。だから、それなりに売れているのだろうか?

そういった点が幾つか見られて、気に入らなかったが、全体として大人が読んでも楽しめる(屈折した)ファンタジーだと思った。それなりに誰が読んでも楽しめるんじゃない。でも、まあ、プラハの観光ガイドを見ながら作ったような話です。つっこみ方は、深みがないです。

さあ~て、前作も読もうかな? ちょっと悩むところ。気が向けば読んでもいいけど、あえて読んでも特になにもなさそう。今回も知っているところが出ているというミーハー的な意味で読んでたし。出てくる舞台次第かな? そんな程度の本作でした。

バーティミアスII ゴーレムの眼(amazonリンク)

関連ブログ
魔女と錬金術師の街、プラハ
「THE GOLD 2004年3月号」JCB会員誌~プラハ迷宮都市伝説~
NHK世界美術館紀行 プラハ国立美術館
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2005年04月11日

「アーサー王の死」トマス・マロリー 厨川文夫・圭子訳

author.jpg誰でも名前だけは知っているアーサー王と円卓の騎士ですが、断片的にあちこちの書物で知ってはいたのですが、きちんと本で読んだ事無かったんですよ。映画で幾つか見てるし、解説している本も読んでいるのに、なかなか機会が無くて今回は初体験でした。

で、感想はというと・・・。
最初は確かにアーサー王がメインなんですが、想像していたのと違いあまり活躍していないんですよ。むしろ魔術師マーリンがいろんなとこに絡んで陰謀を企み、そっちの方が主役級の活躍してるし・・・。マーリンは何の為に、あんな行動をとるのか理由がいっこうに分からない?おまけに物語の中から、いつのまにか姿消して中盤以降は全然出てこないし、どこいったんだろう?

それよりも気になることが。アーサーの母イグレーヌは前の夫を殺したウーゼル王(アーサーの父)を何の良心の呵責もなく、受け入れているんですがそういうのあり?それと共に、理由も無く殺された前の夫は、無駄死に?騎士道がどうのこうのとか、キリスト教精神がどうのこうのいう以前に人としてどうかと思うんですが・・・冷静に見るとかなり異常な小説ですね。不可解なことが多いです。まあ、日本昔話とかにもあるようなfairy taleにそういう合理的な精神を求めてはそもそもいけないのかな、やはり。

で、「アーサー王の死」というのがタイトルにもかかわらず、アーサー王はただ、主君として存在するだけで何もしてないんだよねぇ~。ランスロットの武勇伝というか英雄伝みたいなんですけど・・・。でもいくら格好いいことして騎士だとか言っても、主君の妃に手を出して騎士の中の騎士というのもよく判んない論理。それでいて、意図しない女性に迫られても僕は、手を出しませんよ~というのが納得いかないんですが・・・。光源氏の積極性やどんな女性をも愛する心の広さを学んで欲しいくらいですよ~(狭量な器じゃいけません)

それ以上に、不倫をする王妃ギネビアってそんなにいい女なの?英雄であり、円卓の騎士の中でも指折りの騎士であるランスロットが命をかけて誓う女性であり、天下のアーサー王の王妃だけど、嫉妬しやすいし、短絡的で頭も悪そうな人で立派な良識ある騎士達がみんなギネビアに惹かれる理由が分からない??? 本当に謎の多い小説です。

そうそう、これも読んで初めて知ったんですが、この本の中でアーサー王がローマ皇帝に就任してたりするんですけど。たかだか偏狭のブリテン出身のアーサー王がどうやったら世界の中心ローマの皇帝になれるんだろう・・・。ましてや偉大なるシーザーにより征服されたガリアじゃん(ガリア戦記は名著だった)。ローマが属国に対して、貢物を要求するほうが正当な権利であり、何も逆切れしなくてもと思ったんですけどね。

いろんな意味で興味深い物語でした。そうだ、聖杯についてもここでは断片的に語られているので、メモしておくと。

聖杯には芳香があり、ありとあらゆる傷を癒す力がある。罪のない善人しか見えない。
「えもいわれぬ甘美な芳香に包まれて聖杯が近づいてきた。しかし二人ともすぐには誰がその聖杯を捧げているのか見えなかったが、パーシヴァルには薄ぼんやりと、聖杯及び聖杯を捧げている乙女が見えた。その乙女は完全無垢な乙女だった。あっという間に、二人とも今まで通りに皮膚も手足も健康体に戻った。」
「あれは乙女が捧げている聖杯です。そしてあれの中にキリスト様の聖なる御血の一部が入っているのです。キリスト様に祝福あれ。しかし、罪けがれの全くない善人にしか、聖杯はみえないのです。」

聖杯は狂気を正常に戻す力がある。
「聖杯の祀ってある部屋へ運び入れると、聖杯のすぐわきにランスロットを置いた。そこへ聖職者が入ってきて、聖杯のおおいをとった。すると、聖杯の奇跡と功徳によって、ラーンスロット全快した。」

なんか聖杯関係はやっぱり面白そう・・・。とっても期待しちゃう・・・・。
それなのにさあ~、本当は一番知りたかった聖杯探求がカットされているんだなあ~。チェッ!残念。それでも物凄く量があります。私が読んだのは筑摩書房の筑摩世界文学大系10「中世文学集」ですが、だいぶ時間がかかったもの。でも、これでやっとアーサー王と円卓の騎士の基本は押えられたかも。他の本に出てくる話もきちんと理解できるかも?それはちょっと嬉しいなあ。

聖杯探求の部分だけは、別な本を探しますか・・・。さてさてどの本がいいのやら???
あっ、そうそうもうすぐ映画も公開されるじゃないですか、「キングダム・オブ・ヘブン」。これも十字軍の騎士の物語だったはず、観に行こうっと!

アーサー王の死ちくま文庫―中世文学集(amazonリンク)
残念なことに、量が多いせいだと思うのですが、私が読んだ以上に相当量が省略されているようです。「中世文学集」から更に削って一般向けにしたようです。

関連リンク
アーサー王伝説とケルト伝説
妖精に関するサイト アーサー王についても書かれています
国際アーサー王学会日本支部 こ、こんなのあるんですね!まじに。サー・ティービングが会員名簿にいそう・・・。
アーサー王伝説への第一歩
アーサー王伝説

関連ブログ・・・今回はあまり意味無いです。
キング・アーサー(2004年) アントワン・フークア監督
「聖杯魔団」菊池秀行 実業之日本社
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2005年04月06日

「フランダースの犬」ウィーダ 著 新潮社

dog.jpgもう、涙、涙、涙しかないフランダースの犬に小説があるなんて初めて知りました。本ではせいぜい絵本かなあ~って勝手に思い込んでいたんで。先日のアントワープ王立美術館のTV見て、思わず思い出した! そして目に飛び込んできたのがこの本。

とっても有名な話ですから【ネタバレ有り】で書きますね。


この本では、パトラッシュの一人称(一犬称?)で書かれています。相変わらず可哀相なんだけど、TVの時に比べるとはるかに優しい。残酷な最初の主人が虐待のあげく、倒れこむと捨てたパトラッシュなのに、ネロの手当てで元気な姿を見ると、所有権を主張し、金をせびりとろうとする普通によくいる極悪人。本ではこれが無い。良かったね、パトラッシュ。と思う一方、なんか物足りなく感じてしまうのは・・・人間って不可思議?

残酷な主人は、無頼の限りを尽くしてさっさと死んでしまい、パトラッシュに再び出会うことがないのだから、喜ぶべきなのに・・・。実際、TVの方がはるかに面白い。アロアとネロの淡い恋心も紙面が少なくてイマイチ感情移入ができないし。おじいさんが亡くなるところもさらっとし過ぎていて・・・。TVではもう涙無しに見られる回が無かったもん。

あっ、でもラストの悲劇だけは一緒。ルーベンスの絵を見る最後の願いがかなって良かった!・・・じゃ、すまないでしょう。あんなに清く正しく生きているのにね。なんかヒドイよね、善人が必ずしも報われるわけじゃないというのを子供のうちから教えるというのもスゴイ話のように思うのですけど・・・? ネロの台詞が心に残る。「この絵を描いた人は、お金が欲しくて描いたわけでもないし、お金を払わないと見られない、そんなふうにして欲しいと考えるはずはないのに・・・(記憶なんで少し違うかもしれないけど・・・)」ルーベンスの絵を教会で見るには、お金がいるのです。当時の教会の拝金主義に対する強烈な当てこすりです。天使のような善人、ネロが最初で最後に述べる非難。心に突き刺さります。

でも、本よりはTVや映画の方がいいなあ~。あっちが好き。

フランダースの犬新潮文庫(amazonリンク)

関連ブログ
NHK世界美術館紀行「ルーベンス・故郷に捧(ささ)げた祈り~アントワープ王立美術館」
ラベル:小説 書評
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2005年03月28日

「魔女の鉄鎚」ジェーン・S ヒッチコック 角川書店

majyo.jpg
内容は、稀覯本コレクターの医師がとある書物を入手したことがきっかけにして、医師が殺され、その本だけがいつのまにやら書斎から姿を消す。父の殺人事件を追う一人娘がその本の持つ、歴史的宗教的価値を知っていくにつれ、その身に降りかかる暗黒の秘密結社による陰謀の魔の手・・・。果たして結末やいかに?

いやあ~、懐かしい勧善懲悪のドラマみたいですね。仮面ライダーとかでやってもいいかな?悪の秘密結社がメインだし。基本的なストーリーはかなり安っぽい。しかも全くのひねりが無いうえに、ラストが相当にお粗末で二流の推理小説でペーパバッグもの、ってところでしょうか。だって、世界にまたがるような大組織のくせに、たかが小市民且つ、人間としても矮小なタイプのヒステリー性女性を扱い兼ねるなんて、どう考えても話に無理があるなあ~。

この本は以前読みかけたことがあったんですが、その時はなんかつまらなかったので半分ぐらいで挫折したんです。なんでかなあ~って思っていたんですが・・・。今回新たに入手して読んで、何故読了しなかったが分かりました。ストーリー的なものを別にしても、主役である父の死の謎を追う娘がどうにも我慢できないほど、嫌いな性格で描かれているんです。これほど嫌悪感を催させる主人公も少ないのでは?というくらいイヤ。

まず、潔癖症なくせに、時によっては尻軽で、さらに二股をかけてプラトニックなものまで入れると三股をかけています。そのわりに中途半端に善人ぶるし、カトリックなのに教会を疎んじるという、人として一番信用できないタイプ。明らかに以前はやったウーマンリブ運動に共鳴していそうな、思慮の浅いフィミニスト路線。学歴はあるが、本質的に無知で頭の回転はそれほど切れなさそう、おまけに強情で多情タイプ。いやあ~辟易しますね。

ちなみに悪役の方じゃないですよ、これが主役なんです。NYのオフ・ブロードウェイで舞台の脚本を書いている女性作家さんの作品だとこんなもんなんでしょうか?正直ガッカリです。そんな女性に運命の女神を見る男も男で、思いっきり身を挺して女性を助ける騎士として描かれています。偏狭な平等主義者の小説ってとこでしょうか。(私の偏った感想にしても、それ以上に本書は偏った思想を感じます。意図的に狙っているのでしょうが、嫌悪感を覚えます)

こんなに嫌いなんですが、小説的には途中までかなり惹き込まれてしまいます。それは背景たる道具立てがいいんですねぇ~。ネクロマンシー(死者復活)や悪魔を呼び出せるという魔法書が、まさにこの話のキーになる存在。しかもそれにはテンプル騎士団の○○が隠されているとも・・・。また、魔女裁判の純然たる裁判手引書である「魔女の鉄槌」を今も忠実に信奉し、実践する謎の秘密結社。バチカンにあるという、特殊な種類の本ばかりを集めたという秘密図書館。元バチカンに勤めていたという怪しいオカルト専門の稀覯本書店の店主。どれもどれもが、私の関心を惹いてやまないんですもん・・・悔しい、この小説嫌いだけど、読了せずにいられなかったし・・・。

要素的には相当いいし、部分部分はしっかり調べて書かれているのが分かるんですが、それが有機的に結びついていかない。バラバラの断片的な知識のみで、それが絡み合って素晴らしい作品になっていかないんです。途中まではグイグイ引きずりこむ魅力があるんですがねぇ~。どこまでが必要か分かりませんが、性描写もくだらなくて陳腐な売れ線狙いでむしろ唾棄すべきノリに感じました。そんなことに頁をさくなら、もっとテーマを掘り下げてくれてもいいのに・・・。

魔法書と魔女の鉄槌に関しては、知識的にも十分に面白いですが、それ以降の小説としての部分は2流以下だと思いました。これが売れたというのは・・・まあ、嫌らしいまでのバチカン批判が受けたのかな? どちらにしても前半のみで終わって欲しい作品でした。後半はヒドイ内容でした。もう読まなくていいなあ~、コレ。

ただ、個人的にすっごく感銘を受けたのが、ココ。
「・・・・・魔法書に関する限り、そっくり同じものというのは存在しません。製本業者がそうしたんです。余分なページをはさみこむ、或いは抜き取る、または印刷された本文のそこかしこに手書きの単語を加えるとかして、どれもがこの世で一冊きりの本になるようにしてあります。・・・・・」
この部分読んで、即座に映画のナインズ・ゲートを思い浮かべてしまいました。やっぱ、コレですよコレ!この世に一冊の本というアイデアが素晴らしいですね。あの映画では、悪魔との共著でしたが。また、教皇の名前がこの手の本に使われているのもそそられます。聖なるものと邪なるものは、両極端でありつつ、ある意味一番近しい存在でもあるらしいですし。

もう一度、主人公変えて、ストーリーも練ったうえで同じ舞台で書いて欲しいなあ~。パーツ的にはいい素材なのに。全体では、読む価値を著しく落としてしまっている一冊でした(ちょっと憤りを覚えてしまい、感想としては冷静でないかも???)。特に最後のラストが大いに不満!あまりにも現代的な小説に仕立て上げられてしまい、せっかくここまで引っ張ってきた怪しげな味わいある雰囲気に、水を差し、興ざめなものにしてしまっています。やっぱ、もう読まないな、この本。メモしておきたい事項はいくつかありましたが・・・。

魔女の鉄鎚(amazonリンク)

関連ブログ
教皇庁立大学で「エクソシズム」コース開講
エクソシスト養成講座 記事各種
映画 スティグマータ(聖痕) <特別編>(1999年)
映画 悪霊喰(2003年)
映画 ナインズ・ゲート デラックス版(1999年)ジョニー・デップ主演

関連リンク
魔女の鉄槌(英語) 誰か全文訳してぇ~
バチカン図書館(英語) 写本があります(満面の笑み)
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2005年03月18日

「ネアンデルタール」 ジョン・ダートン著 ソニー・マガジンズ

nean.jpg昔、子供の頃に読んでた「失われた世界」やアマゾン奥地の森林や秘境への探検物を思い出してしまった。実際にアマゾン(イグアスの国立森林公園)にも行ったけど、子供の時に覚えたあの憧れは一向に衰えず、今でも心の中で燃え上がるように、忘れることのできない想い。そういったものを久しぶりに、熱く感じてしまいました。

まず、道具立てがなかなかGOOD! 去年NHKスペシャルで放送した「地球大進化 第六週」でもやっていたネアンデルタール人がもう、全面に出てくるんです。NHKのこの番組はずっと見ていて、とっても興味深かったのです。だって、類人猿から現代の人類に至るまで20種類の人類がいたらしいのですが、それは常に二者択一の分岐をしながら、勝ち残ったものがまた2種類に分岐し、どちらが生き残り、それがまた分岐し・・・といった流れを繰り返してきたそうです。まさに競争によって勝ち残ることによって得られた現在のホモ・サピエンスによる『繁栄』。

特に現在の人類と脳の容積や能力において、ほとんど差異の認められないネアンデルタール人とホモ・サピエンスを分けたもの・・・この小説でも触れ、NHKの番組内でも注目されている仮説として「言語能力の差(=発声器官、ノドの声帯の位置の違い)」もきちんと紹介されていて、非常に知的好奇心を刺激する読み物になっています。そして、本当に失われしネアンデルタール人を巡って、秘境へと旅立つ主人公一行。なかなかいい雰囲気です。秘境探検の基本パターンを忠実に追っているんですが、それが全体として良質な小説の為、嫌味にならず、安心して探検を楽しめる感じとでもいうのでしょうか?

勿論、前人未到の秘境での探検ですから、さまざまな困難が訪れ、命を危うくする危険に再三襲われるのですが・・・・。

ネタバレを避ける為に、後は伏せておきますが、探検物好きな人なら、きっと楽しめる作品です。著者はニューヨーク・タイムズの元記者で、ピュリッツアー賞受賞のジャナーリスト。彼が初めて書いた小説だそうですが、あちこち戦地を実際に行っている方だけあって、しっかりした状況描写とかも私は好きですね。読ませるだけの力量を持っているし、事前の資料調査とかも相当されているのがはっきりと分かります。最後の結末も、いいんじゃないかなあ~。現代に生きるホモ・サピエンスに対してもしっかり書かれていて、私は好感が持てました。我々は何故、生き残れたのか?・・・・いかにも、と納得してしまったりします。

私の友人でこういうの好きな人には絶対に薦める本ですが、人にもよるかな?科学的な好奇心がある人なら、きっと喜ぶと思います。本の帯にはスピルバーグの映画化決定というけど、映画になってるのかな?あまり覚えがないんですが・・・???

ネアンデルタール(amazonリンク)
ラベル:小説
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2005年03月12日

「天使と悪魔」ダン・ブラウン 角川書店

【ネタバレ有り、未読者注意!】

実は、この本はダ・ヴィンチ・コード読んでほとんど間をあけずに読んだ本だったりします。何ヶ月か前に読んでる。勿論、とっても面白かったんだけど、ダ・ヴィンチ・コードとそっくりのストーリー展開が災いしてその時の感想はまあ、面白いね!どまりでした。

で、おととい図書館で再び見つけたので改めて読んでみると、二度目なのに面白い!!グイグイと話に引き込むセンスは、パターン化しているとは言え、やっぱりうまいです。私、以前某会社のカタログで商品コピーも書いていたことあるんですが、まさに最初でキャッチーな状況(言葉)で関心を持たせないと、読者はそもそも読み始めてくれませんもん。その辺りは本当に上手、心憎いばかりに商売上手です。

だって、いきなり欧州原子核研究機構(欧州のものとアメリカで競っていて、日本も資金を相当額出すとか出さないとかで大きな問題になってましたね。どちらの陣営に組するかとか、新聞に良く出てた)で、怪しい紋章を焼印された殺人事件が起きて、ハーバードの教授が呼ばれちゃうんだもん。マッハ15の飛行機で(オイオイ)。オマケに殺人で盗まれたものが反物質(=地球上に存在し得ない物質、昔のSFでよく見たなあ~。懐かしいネタ)だもん。コレ、完全にSFの設定です。あっ、ちなみにダン・ブラウン氏はもともとSF作家だったのが、ミステリー系に転進した第一作が本作で、その筋の人です。

導入部の設定は、ちょっと読者を選んでしまうんじゃないかと心配しますが、そこだけ乗り切れば、もう売れ線路線をバリバリ全開のブラウン氏の筆が冴え渡ります。魅力的な女性が出てきて、ちょっと駄目っぽいところもあるけど、英国紳士然として古き良きアメリカ男性と助け合いながら、謎解きをしていく。ホラっ、もうあのスピーディーな迷宮世界に巻き込まれてしまいます。
そこは、現存しながらも私達が気がつかないできた宗教の世界やら、美術の世界、古書の世界等々が神秘の扉を開いて、新鮮な驚きと共に知的好奇心をくすぐるんですから・・・。はまるんでしょうね、きっと、そんなわけで。

でも、ほんとこの著者ってうまいんだよね。私はトレッキー(スター・トレックの熱狂的ファンのこと)ではないけど、深夜3時とかのTV番組をしっかり見てたくちですので、ちょこちょことくすぐられる表現にも弱かったりする。アメリカ人だったら、堪らないでしょうね、きっと。おまけに、欧米人が大好きなお得意の秘密結社とか陰謀論がメインとなれば、設定的に売れてしまうって。しかもその秘密結社はあのヴァチカンと対立する組織となれば、道具立ては完璧!うまい、うますぎるぞ、ブラウン氏。

それ以上に、凄いのはやはりその素材を生かし切る作家としての能力。奇跡を体現し、あまりに真摯で胸が熱くなるような信仰の徒にして、指導者として決断力を示す教会関係者(侍従とか)。職務に忠実過ぎる堅物のスイス兵の責任者。本当に魅力ある人物として、生き生きと描かれています。そういうのがやっぱり、見逃せない凄さですね。読んでて本当に面白いもん。二度目でも。

で、後半にかけて出てくるあの建築家。ローマを歩いていると、どこに行ってもあるし、噴水やら何やら知らないでいられない存在でしょう。また、そのどれもがいいんだけど。いやあ~、京都で仏像や寺が秘密を解く鍵と言われても、お手上げなのと一緒ですね。うん。で、最後の最後の結末は・・・・・。いやあ~脱帽です。全然、読めませんでした。ダ・ヴィンチ・コードは比較的すぐ分かる人が多いですが、こちらはねぇ~。まあ、犯人探しがメインの本ではなく、その過程を楽しむ本ですから、犯人は二の次だと思うのですが、よく出来た結末だと思いますよ!(拍手)

この本の元ネタはかなり知っていたので(ラファエロの墓とか、あの城とか、建築家等々)、ダ・ヴィンチ・コードほど知識の面では驚きませんでしたが、コンクラーベは知りませんでした。薔薇の名前(本)を読んで、初めてそれが始まった経緯を知りました。何故、鍵をかけて閉じ込めたのかとかね!(どこの世界も政治と権力です。勝てば官軍。歴史は勝者によって作られる。ってことですね)

まあ、話はそれましたが、エンターテイメント性たっぷりの小説でした。これもダ・ヴィンチ・コードの次に友達や知り合いに勧めまくってます。外れはないでしょう(笑顔)。出版社と訳者は儲かってしょうがないね。羨ましい限り。

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「イエス・キリスト 失われた物語」 ハート出版

イエス・キリスト 失われた物語
この著者が前書きに書いているのが、なかなかスゴイ内容だったりする。通信霊との交信から自然と手が動いて書き出していった(=自動手記)物語。失礼だが、訳者の経歴もちょっと特殊だと思うのですが・・・・。

(※ネタバレ有りの為、未読者注意!!)




イエスを特殊な医療技術を有するヒーラー(癒し手)とし、聖書に書かれたイエスの行動が実はすべて別の意味を持った計画的な、作為的な戦略に基づくものであり、ズバリ言ってしまうと、民族解放運動の指導者であったとする。真偽は、わざわざ検討する必要もないほどのいわゆるファンタジーではあるが(私はそう思う)、なかなか論理的に一貫して筋が通っていて、興味深いお話です。勿論、作者のストーリーに乗って読む分には、刺激的ですらあり、魅力的です。

だって、マグダラのマリアがイエスをリーダーとする独立運動のスポンサーなんて、すごいアイデアですよね。売春で儲けたお金を活動資金に当てるなんて。おまけに彼女はピラトを誘惑して、砦を初めとする警備体制の情報まで聞き出すんだから、大活躍ですなあ~(ニッコリ)。

おまけにユダはローマとイエスの二重スパイ役。007のノリでしょう、これはもう。おまけにマグダラのマリアに欲情しちゃうし、イエスも含めて人間的に描き過ぎてますよ、もう~。でも、それなりに本当に筋が通っていて面白いのも事実。イエスが十字架上で死なず、実は生きていたというのもあちこちであるネタでもあるしね。この辺は「ダ・ヴィンチ・コード」同様、最近はなんかお約束に感じてしまったりする。その手の本、私が読み過ぎてるせいもあるんですけど・・・。あ、そうそう、イエスが独立運動の指導者という仮説(というか、妄想)も先日読んだ本に出てましたねぇ~。「死海文書の謎」 にも似たような説が載ってました。

でも、小説としては結構、面白いですよ~。よく考えられています。ゼロテ党の絡みや、諸国と連携して叛乱ののろしをあげるとか、微妙にありそうでイイかも?どちらかというと、イエスの名を借りた陰謀モノかな?結構、巧妙だったりします。

イエス・キリスト失われた物語(amazonリンク)
ラベル:キリスト教 小説
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「クムラン」エリエット・アベカシス著 角川文庫 

しかし、凄いとはこういうことを言うのかと、久しぶりに文章といわず、書物の「力」について気付かされた一冊。事前にこの本を読み、キリスト教全体に関心を持っていたから、「ダ・ヴィンチ・コード」につながったいったのも、不思議な書物の連鎖を感じる。

まあ、個人的な感慨は置いといて。これはあの有名な死海文書にまつわるお話である(エヴァンゲリオンではない、はまった人物としては苦笑)。要は、失われた死海文書を集める為に、波乱万丈の事件を経験していくうちに、そもそもの死海文書に秘められた謎に近づいていくという設定になっている。

小説といえば、小説なのだが、ここに出てくる知識量(情報量)は半端なものではなく、しかもそれが断片的に用いられているのではなく、有機的に絡み合いながら、謎を益々深くし、一方で読者をその特異な世界に引き込むのである。なんせ、著者がうら若き女性ながら、ラビの一族の出身でしかも20代で大学教授なのだから、そのユダヤ的教養水準の高さは並たいていのものではない。ただ、未知の用語や概念が多数出てくるが、しっかりした解説が違和感なくなせれているので、決して著者の独りよがりなストーリーにならず、しっかり読者が共有し、あまつさえ、その独特の(宗教的)世界観に溶け込んでしまうのが筆力も侮れない。

また、小説である以上、ストーリーは虚構であってもそれを支える事柄は、まさしく歴史的事実をたぶんに踏まえており、ちょっと調べればすぐにそれらが明々白々の事実であることが分かる為、一層、ストーリーのリアリティーがましてくるのだ(もっともこれは後日、思い返して他の資料を見た時に分かったことであるが・・・)。

とにかく、これを読むだけで貴方の死海文書に関する知識や、ユダヤ教に関する理解は恐ろしいまでに深まるでしょう。タルムードという言葉さえ、知らなかった私には(ほとんどの人に当てはまると思うが)感動の本でした。この本を読んで、キリスト教に関する関心が湧き上がり、イエスや死海文書関係の本へと走っていったのも納得の一冊です。

いやあ~、本当に勉強になりますよ!! イスラエル建国の背後で、死海文書を巡って各種の団体・国家・宗教勢力の駆け引き。その後の徹底した秘密主義や血なまぐさい事件の数々。現在、大部分をイスラエルが所有し、「本の聖殿」という特別室で展示しているなんて、これを読むまで全く知らないまま人生を生きておりましたから・・・・ハイ、うかつにも。

とにかく目からうろこが落ちる一冊です。およそ宗教に否定的な立場で人生を生きてきた私が、それほどまでに信じられるというのは、素晴らしい人生なのではないかと考えるようにさえ、なった一冊でした。

クムラン 角川文庫(amazonリンク)
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「イエスのビデオ」〈上)〈下〉 ハヤカワ文庫NV

いきなり遺跡からSONYのビデオカメラの説明書が出るんだから驚くでしょうな、たぶん。しかもそれが2000年以上前というのですから・・・。タイムトラベラーものとしてのセオリー通りの展開ですが、そこで問題になるのがビデオに撮られた思われるイエスの映像とは?

状況設定の面白さがこの小説のウリだと思います。史上初のイエス・キリスト衝撃映像を巡り、メディア王・バチカン異端審問官・主人公(一介の学生)が壮絶な獲得合戦を行うんですから! 

但し、焦点が主人公の学生なのはストーリー上分かるのですが、周りのメディア王、異端審問官(これは昔の名称らしいですが)の背景の描き込みが足らず、より深みのある世界観の構築にまでは至っていないと思いました。残念!

この傾向は随所に見られ、ストーリー展開はスピーディーで良いのですが、最後が陳腐なラブ・ストーリー的な箇所は不要。もっと知的好奇心を満たすべく随所に情報と知識の嵐のして欲しかった。まあ、小説だからといえばそれまでだが。

追加情報:sign of god というタイトルで映画になっているみたい。見てないけど、借りてみたいなあ~。あるかな?

イエスのビデオ ハヤカワ文庫NV(amazonリンク)〈上〉〈下〉
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2005年01月31日

「薔薇の名前」解明シリーズ 而立書房

薔薇の名前の便乗本、つ~位置付けですな。出版当時は各種雑誌でも大騒ぎして特集していたのを覚えています。あの当時に、このシリーズを一冊買ったんだけど、どれだっけ?今度、本の整理をする時に探してみよう。いつのことか分からないが・・・・。本棚に入りきらず、ダンボール箱に突っ込んだ15~20箱。とてもじゃないが、探す気にならん(涙)。

おっと、この解明シリーズの訳者は谷口 勇。

映画「バラの名前」
「バラの名前」百科・・・・・たぶん以前買ったのコレ
「バラの名前」探求
「バラの名前」後日譚
「バラの名前」便覧・・・・・・・・昨日、買ってもらったやつ。流し読みしたら、あまり面白くないか「バラの名前」とボルヘス   も?うっ、スポンサーに殴られるかな?
「バラの名前」饗宴
「バラの名前」史談
「バラの名前」精読
「バラの名前」奏鳴

やはり内容をチェックしてから、今度は買おうっと。特にこのシリーズは要注意!
ラベル: 修道院
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2005年01月27日

薔薇の名前(ウンベルト・エーコ 東京創元社) 抜き書き

没薬 流産の予防に用いてバルサモデンドロン・ミッラという樹木から採取

ムーミア ミイラ化した死骸を解体して作る。いろいろな薬の調合に用いると奇跡に近い効果をあげる

マンドラゴラ 覚醒作用、欲望をかきたてる効果

フィリップ五世が、まだポワティエ伯であった頃、カルパントラから逃げ出した枢機卿たちを呼び集めた。枢機卿たちをリヨンのドミニコ会修道会に閉じ込め、彼らの身の安全を図る為であって決して虜にする為ではないと誓いながら、改めて教皇の選出に当らせたのだった。

しかしながら、彼らを掌中に収めるや鍵をかけて(その後、これは正当な習慣となるのであるが)閉じ込めてしまったばかりか、日一日と食べ物の量を減らしていって、彼らに一つの決断を下さるざるを得ないように仕向けたのだった。そして枢機卿一人一人に自分が王位に就いたときには支援してやる事を約束した。

やがて実際に玉座に昇ったとき、枢機卿たちはすでに二年に及ぶ捕囚の生活に疲れ、粗食の中でその場に一生閉じ込められてしまうのではないかと恐れて、すべてを受け入れてしまった。あの意地汚しめたちがペテロの座(教皇の位)へあの70歳を過ぎた矮小な人物を昇らせてしまう。

教養のある男で、モンペリエで法学を修め、パリでは医学を修めた。アヴィニヨンの司教としては神殿騎士団を壊滅されるためにありとあらゆる適切な(非道な企ての目的にそって、適切な、という意味だが)進言をフィリップ美王にした。 

~これがコンクラーベにつながる。神殿騎士団の壊滅にも積極的な働きかけをしていたとは、なかなかの重要人物~(感想)
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2005年01月20日

ダ・ヴィンチ・コードにはまりまくり

【ネタばれ有り・未読者注意!】

ダン・ブラウン氏の「ダ・ヴィンチ・コード」についての書評です。

友人からずっと薦められていたし、書店で平積みになっていたのも知っていたが、なんか周りに迎合して本の趣味まで決められそうなのがイヤで読まないまま時が過ぎていた。でも、それ以前に読んでいた角川の「クムラン」で死海写本にはまり、原始キリスト教やイエスにまつわる謎にはまっていた時に、再度紹介されて、ついに(!)読むことになりました・・・・。

図書館で予約してようやく借り出して読んでみると、こりゃ世界中でベストセラーになるのも納得しますね。時間のあることを幸いに、一気に読み通してしまいました。まさにインディー=ジョーンズばりの秘宝探しのアドベンチャーで、スピーディーな展開。おまけに男と女が出てきてロマンスっぽい所まであれば、もう「映画化」の文字がちらつきますね。実際に、2006年公開でハリウッドでの映画化まできまってるそうですが・・・。まあ、原作者はアメリカ人だからね、やっぱり売れてなんぼなんでしょう。

といささか、揶揄しつつも内容は一級品です(不肖、私の折り紙付き!)。何よりもこの手の謎解きが大好きなもんで(笑顔)。もともと澁澤龍彦氏や種村氏の本で育ってるし。と、分かる人だけ分かる話を振りつつ、感想を述べると。

とにかく現代では、誤解されていたり、知る者さえほとんどいない事物・意匠(デザイン)の由来や本当の意味を説明したりとまさにトリヴィアをふんだんに織り交ぜながら、キリスト教に隠されたとされる秘密や歴史上、名前だけは挙がってくる秘密結社について説明していってくれます。しかも聖杯の騎士伝説で有名な聖杯探しがこの小説のテーマであり、まさに宝探しの過程で数々の謎が解き明かされるのですから、楽しいですね。読むだけで雑学がたくさん身に付きますよ~。

しかも、キリスト教文化圏においては、不敬罪というよりもまさに異端と呼ばれかねない説(:マグダラのマリアがイエスの妻であり、イエスの子孫が生き残っている)がその背景にあるときては、大いに関心をそそりますね。これを読んでいた時には知らなかったのですが、この説自体は、ちょっと前に西欧で一大ブームになった本に書かれていた説を流用(つ~か、パクリ)したもので著者の独創ではないそうです。でも、この本を読んでおかげでそういったことも学べただけでも勉強になりました、ハイ。

あと、テンプル騎士団が出てくるのも良かったかも?もっとも本の中での説明は少なかったけどね。十字軍の巡礼者保護から始まって、「ソロモンの栄華」の時代に作られたエルサレム神殿跡に本拠地を置き、最後は東西貿易で多大な利益をあげ、金融業にまで手を伸ばした中世三大騎士団の一つ。その反映の影には、聖杯を手にした故との噂がつきまとい、悪魔を崇拝したとしてつぶされた中世の闇の部分。ゾクゾクしますねぇ~。もっともこの辺りは「イエスのビデオ」にも出てくる有名な話ですが・・・。

私の場合、この本の影響は大きかったなあ。関連する書籍は現在も読みまくっている最中で本代がかさむ(鬱)。まあ、楽しいからいいけど。その成果というか、弊害で読んで本はおいおい書いていこうか?荒俣氏の「レックス・ムンディー」やら、「イエスのミステリー」 「死海文書の謎」とか書くネタは山ほどあるし・・・。

そうそう、TBSの世界遺産で去年やっていた「フランスのカルッソンヌ」地方もこの本読んでて思い出し、行きたくてしかたがない。中世の当時、最も豊かな地域で先進的な宗教観(=教会等の世俗権力が神へ至る道なのではなく、信仰それ自体に価値を認めた)を持っていたが故に、カタリ派の勢力地となり、自らの存在意義を否定されるカソリックにより虐殺され、完膚なきまでに滅ぼされた土地。彼らも異端とされ、みな歴史から抹殺されていった。ここで特に興味深い言葉が残されている。

前線の兵士が異端を攻撃し、滅ぼすにあたり、いかにしてカソリックの信者を見分ければ良いかを指揮官に尋ねた。指揮官はためらわず言った。「皆殺しにしろ。神は神の民をご存知だ。神が異端か否かを見分けて下さるだろう。」
素晴らしい解答ですね。カソリックの信者は死後、神の手により選ばれて天国に行けるそうです。このまま現代にも通じてしまいそうで怖いですが・・・。

いろんな話題に広がるネタが多く、読んで久々に正解の一冊でした。ただ、著者ダン・ブラウン氏は、本を面白くする為に書かれていることは「事実」だと言っていますが、これはあくまでもブラフ。しょせんは小説ですからね。勿論、事実も巧みに混ざっていてそれが重層的にリアリティーを出していて本書の魅力になっています。

ただ、読めば読むほど、もっといろんなことを知りたくなり、調査にはまってしまうのが難点。私などは、関係しているサイトにダ・ヴィンチ・コード用語集まで作ってしまったくらい。その割りに、まだまだお粗末で恥ずかしい限り(苦笑)。もっと&もっと調べて内容を充実したいなあ~。今年前半の課題ですね!

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posted by alice-room at 00:00| Comment(86) | TrackBack(73) | 【書評 海外小説A】 | 更新情報をチェックする