2017年06月18日

「宇宙の戦士」ロバート・A ハインライン 早川書房

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古典SFの一つとして著名な作品ながら、読んでいなかったのですが、初トライ。

確かに舞台はSFなのですが・・・あえてSFの設定を必要とする作品ではありませんでした。
普通の小説として読んでも素敵な内容の作品でした。
もっともSFだからこそ、かえって現実による余計な設定等を考慮せず、純粋な作品の舞台を作って、その分、本質的な内容部分の充実に著者の精力が注ぎ込まれたのかもしれませんが・・・。

うん、非常に中身のある作品ですね。

自分たちの世界を、自分たちの政治を決める最終的な市民権行使の資格を兵士に限定する、という「市民皆兵」というかその手の基本的ルールというのが何よりも根本にあり、その兵士は自発的な意思による志願者というのが、古代ローマの軍隊を思い出させました。

確か、30年間だったっけ?
ローマ市民権を持たないものでも軍務に服せば、市民権を与えられたというのがありましたねぇ~。
あと、古代ギリシアのアテナやスパルタなんかも全市民に兵役があり、直接民主制がとられていたのも、その辺が本書の想定する市民社会かな?なんて思いながら読んでました。

オーソン・ウェルズの動物農場よりは、こっちの方が面白いし、教訓というか為になることが多いなあ~。

だけど、決して説教臭い訳ではなく、なんていうかまさに古き良き時代の徒弟関係ではないものの、仲間や長幼の別、上が下を育ていく、今の世界でもどんなところでも見かけなくなったとても大切な価値観を思い出させてくれる作品でした。

ストーリーはとある一人の若者が将来の進路として、兵士を志望します。
志願兵ですね。

恵まれた環境に育ち、輝かしい将来を約束されていたものをすべて捨てて、命の危険を冒して、兵士を志望してしまう・・・その代価は退役するまで持った場合に与えられる、政治において行使できる市民権。
しかし、若者はその将来の代価を望んで兵士を志望する訳ではないのです。

いささか成り行き的に決まった兵士という選択は、その若者を特殊な環境において教育することになります。
その兵士となる過程で、彼は大切なことを身につけていったりします。

新兵がやがて数々の修羅場を経て、老練な熟練兵になっていくのですが、その過程がまたなかなかに読ませる内容となっています。

以前に英語版で読んだ TOYOTA's WAY も個人的には頭に思い浮かべました。
結構、熱い思いがこもった作品となっています。
何よりも面白いですねぇ~。

こういう作品とは思いませんでしたが、未読であれば、一読の価値はあるかと。

宇宙の戦士〔新訳版〕(ハヤカワ文庫SF) (amazonリンク)
ラベル:SF 小説
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2017年05月21日

「皇帝ネロの密使」上下 ジェームズ・ベッカー 竹書房

キリスト教(カトリック)のレーゾンデーテルにかかわる重要機密を巡る謎解き物ですね。

装丁(カバー)が流行りのシグマシリーズと同じ感じだし、謎解きもそれっぽいので期待して読んでみたのですが、やっぱり別物ですね。最新の科学的知見を元ネタにして謎解きに絡め、知的好奇心を煽るあのシリーズとは異なり、こちらはそういった側面無しに淡々と謎解きをするのですが、登場人物も正直魅力に欠けるし、単なる警官には荷が重いかと。

一応、銃撃戦とか銃が使えるという為に必要でも、他にも何も無いし、組織的暴力集団に対してはあまりに無力過ぎでがっかり以外の何者でもない。それなのに・・・そんな一個人が組織に対抗しちゃうのって、なんだかね?

謎解きもつまらないし、バチカンを出してもあまり意味ありげに思えません。
最後の展開も、あれれっ?って感じで残念感が半端ないです。

暇つぶしにしてもお薦めしません。

皇帝ネロの密使 上 (竹書房文庫)(amazonリンク)
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2016年07月18日

「消えた錬金術師」スコット・マリアーニ 河出書房新社

消えたカタリ派の財宝。
レンヌ・ル・シャトー。
錬金術師。

といった、いかにもその手のが好きそうな人向きのキーワードにホイホイ釣られて久しぶりにこの手の小説を読んでみたのですが・・・ぶっちゃけ駄作です。

だって、全然カタリ派のこと分かってないし、説明もしていないし、カタリ派が錬金術ってのがもう分かりません! まして肉体を有する現世こそ地獄とするカタリ派が不老不死を求めるはずもないし、エリクサーってば、もう知ってる単語を並べるだけの話はやめましょうよ。

フルカネリも全然、違うでしょ!!
つ~か、フルカネリの「大聖堂の秘密」ぐらい読んでから、書いてね?

うちのブログにも確かはるか昔に読んだ時の書評があったと思いますが・・・著者の教養水準が低過ぎて泣けてくる・・・・。

私もプラハの古書店行ったけれど、そんな素敵な古書や羊皮紙は置いてありませんでした・・・。
もっとも私が行った店が悪かっただけなんでしょうが・・・先日読んだエーコの本に出てくるような運命的な古書との出会いなんて、スペインのグラナダ行った時も無かったです。
みんな、みんな私の引きが弱いだけかもしれませんが・・・・ネ。

まあ、どうでもいいんですが、読み物として安易な悪役やら悩みを持った今時のヒーロー、巨大組織に救う闇の秘密組織とか、もうなんていうかベタな展開をしていくのですが、ノリは悪くないもののB級映画レベル。

俗っぽいB級映画自体は嫌いじゃないんですが・・・全然、メインルートが盛り上がらなくて、しかもバズワードのような一部受けの良さそうなキーワードだけ、散りばめて何もまとまらないし、本来意味間違えているしで少し知っている人からは興醒め度合いが甚だしく、がっかりする。

読了してしまったんだけれど、時間の無駄でした。

単純なアクションとかサスペンス物として面白ければそれでもいいんだけれど、かなり中途半端で読み終わって愕然とします。著者にもう少し資料調査や読み込みしてよ~と言いたくなりますが、それ以前にこの著者の作品は二度と触れないようにしようと思いました。

酷過ぎ。
名前は書きませんが、あの建築家の名前まで出してどんな意味があるのやら?
ダン・ブラウンの爪の垢でも飲んでもらいたいぐらいの酷さです。

何でも元特殊部隊っていうのはやめましょう♪
ランボーじゃないんだから・・・ネ。

消えた錬金術師---レンヌ・ル・シャトーの秘密(amazonリンク)

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「モンタイユー 1294~1324〈上〉」エマニュエル ル・ロワ・ラデュリ 刀水書房
ラベル:書評 小説 錬金術
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2016年01月04日

「肩をすくめるアトラス」アイン ランド  ビジネス社

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昨年から読み始めて年末年始を全部使って読了しました。

1200頁超でボリュームがあり、邦訳のあまりの分厚さに正直読み始めるのにためらいがありましたが、ネットのニュース記事でアメリカのリベラル派の思想的背景として著者のアイン・ランドの名が挙げられるのを知り、またあのグリーン・スパンが若い頃、そのサロン的なものに出席していたとか、大統領選挙で名の知れたティ・パーティとかでも絡んでくるとかね。

否が応にも関心が沸いてきたところで決定打だったのは・・・・NHKのBS世界のドキュメンタリー「パーク・アベニュー 格差社会アメリカ」を以前に見ていて、そこでもアイン・ランドの名前が出てきたこと。

最初、記事を読んでいてどっかで聞いた名前だなあ~と思っていたんだけれどまさか、金融資本家連中が各種ロビー活動をしている裏でアイン・ランド思想を広める裏工作とかやってるなんてね。

『事実は小説より奇なり』といういささか陳腐になった言葉があるが、まさに悪い冗談みたいなことが実際の政治で、現実社会で行われていることを知ると驚きを禁じ得ない。

ピケティ本の資本収益率と経済成長率の話も興味深いが、資本家自身が主体的に自らにより有利な経済状況を作り出すべく、そもそもの経済環境作りに影響を及ぼしている、っていうのはまさに合理的に行動する経済人のモデルそのものの行動で想定内の範囲といえば、その通りなんでしょうけれど・・・・。

所与の条件が時間の経過と共に変化していく中での均衡点ってどうなんでしょう。どこかに収束するというよりは発散していく過程で何か特異的なイベントが起こって、また所与の条件が劇的に揺り戻しにでもなるのでしょうか???

ウェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」とは全く異なるメンタリティー・行動原理を本書は説く訳であり、それでいて確かに本書で述べられる小さな政府以上の自由主義経済の思想は人々に訴えかけるものがあると思う。

本書の中で数々の愚昧な平等主義者達の妨害にもめげず、高らかにうたわれる人間の尊厳に係るものとして、利己的行動こそが社会を進歩・発展させていくという経済人の行動というのが実に胸熱だったりする。

本書を読んでいて、大衆の味方をうたいながらその実、経済を、社会を、人心を蝕み、世界を原始人の共同社会レベルにまで貶めてしまうとする政府の姿が私にはどうにもついこないだまで政権与党だった民主党の姿にオーバーラップしてならなかった。

誰も責任を取らず、努力をしない者、能力の劣った者に媚びて、本来は社会を進歩・発展させうる機会を台無しにし、現場で真面目に働く者を怠惰で無気力にしよとするポピュリズム。まるでどっかの国の先日までの姿だったかと・・・。

まあね、国や企業等、一定程度以上の組織になれば、単純な個々人の能力ではなく、それこそコネ等の影響が非常に大きく、否が応にも政治的なものが幅を利かすのは致し方ない面もあるとは思います。

でもねぇ~、無能な指導者、無能な経営者、無能な管理者等の下で、有為な人材は能力を最大限に発揮できるのでしょうか???

そりゃ、本書のように消極的ストライキをせざるを得ないでしょう。
この点には大いに共感しました!

そういえば、他人事ではないかな? 
私も仕事をする度に揚げ足取られて、指示された以上のことはするなと言われるので、最近、急速に指示待ち人間になっているような・・・・。

で、困った時にどうしょうもなくなって、こちらにどの面下げて仕事を振ってくるのやら???
厚顔無恥も甚だしいがまさに本書の世界を私の職場も体現しつつあるなあ~。

実際、古株で仕事できる人が辞めていくし、私もそれに続きたいと思ってるしねぇ~。
新しく入ってくる人の水準が落ちていく一方というのもまさに本書を地でいってるか・・・。

そんなのも一部の限られた範囲であるならば、社会全体では水平移動が可能なわけで問題でもないのですが、社会全体がそれではね。夢も希望もないかと・・・。

そういったことも含めて非常に考えさせられる本でした。
いきなり年初の読書で言い切るのも横暴な感じがしますが、本書が本年一番読む価値のあった本になるのは間違いないです!!

アメリカで多くのお金を稼ぐ人が立派な人物として、社会から尊敬される。
しばしばよく聞く言葉ですが、それを支える社会的・思想的背景というのが本書に凝縮されてます。
アメリカで21世紀に聖書に次いで読まれたベストセラーという売り文句はあながち嘘ではなさそうです。

せいぜい、私も肩をすくめるように致しましょうか?アトラスのように・・・(笑)。

BCPでもBCMでもいいのですが、形だけのマニュアル作れば、誰でも出来るというのが片腹痛いです。
きちんとして事前の練習・準備等の研修をする手間暇惜しんで人が育つことなく、辞めていく状況で何が出来るのか?

ベテランがどんどん消えていく組織に明日があるのか?
(新人も入ったそばから消えてますけどね)
資本主義社会の中で淘汰されるべき存在が正しく淘汰されていくことを願うのみです。

いろいろと考えさせられる本でした。
良い勉強になりました。

肩をすくめるアトラス(amazonリンク)

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「21世紀の資本」トマ・ピケティ みすず書房
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2015年07月06日

「古書店主」マーク・プライヤー 早川書房

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パリのセーヌ川沿いに立ち並ぶブッキニスト。
パリの光景としてはお馴染みのものだが、そのブッキニストがいきなり拉致られるところから、物語がスタートする。

軽い気持ちで購入した古書が高価な稀稿本だった・・・・というのは、まあ、世界中のどこでも古書マニアが夢に見る都市伝説ですが、そういったベタなところを物語は進んでいきます。

登場人物は必然性がないのに何故か元FBIで大使館の外交保安部長という、肩書きはまあ、おいといて友人がCIAとかそういうのも置いとくべきかな? まあ、誘拐されたブッキニストが知人でそれを探すというストーリーになります。

頭をひねったトリックとか、謎を鮮やかに解き明かすような名探偵などは出てきませんが、きわめてオーソドックスなごく普通の小説として物語は進んでいきます。

そして、お約束のイベントが次々と生じ、物語は順当な流れで解決(?)というかエンディングに向かっていきます。

これだけ聞くと、なんかとっても退屈でつまらない小説に聞こえてしまうかもしれませんが、奇をてらったところがない分、非常に正統派的で普通に楽しめる物語になっています。読んでると次が気になり、結局、一晩で読了しちゃいましたし。

【以後、ネタバレ含む未読者注意】



あとはヨーロッパの抱える問題意識を背景的知識として知っていれば、本書の内容についても違和感無く溶け込めるかと・・・。

イスラエルが戦後、未だにナチ協力者の徹底的追及と解明を進める一方、ヨーロッパだけではなく、バチカンやオーストラリア等戦勝国には戦後も政治の第一線に立ったり、社会的指導者層で活躍した人物が戦争中はダブルスパイやナチの協力者となっていたりした事実が時々、すっぱ抜かれて政変が起きたり、まだまだ戦後は完全に終わっていなかったりする。

たまに海外のニュースでも出てくるしね。ホットな話題だったりする。
以前のPOPEがヒトラーユーゲントかなんかだっけ?所属してたってので、騒がれていたりね。

そういうのを知っていたり、フランス他西欧諸国の旧・植民地からの移民とか直接、あちらに行くと実感したりする。サン・ドニなんて、アフリカのどっかの国かと思いましたよ。数年前にパリに行った時には。

話はそれましたが、古書にまつわる小説だったので手に取りましたが、まあ~印刷本だしね。
装飾写本とかでもないし、インキュナブラでもないしね。

古書という点では物足りないですが、小説としては暇つぶし程度にはなるかと。
お薦めの面白い本ではないですが、それなりに読めました。可もなく不可もなくかな?

古書店主 (ハヤカワ文庫NV)(amazonリンク)
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2013年11月04日

「ラファエロ真贋事件」イアン ペアズ 新潮社

1ヶ月くらい前に読了したもの。
ラファエロの未発見の新作が見つかった!、先日もそんなような記事を見たけれど、あれもオークションにかかってたっけ?

まさにそんな可能性としてはありそうな話を主題にした小説です。
犯人を見つけるというではありませんが、謎を解いていくいうスタイルの非常にオーソドックスな感じの小説です。

美大の学生がイタリアの古い教会で忍び込んで軽犯罪で捕まるのですが、その学生がここにラファエロの知られざる作品があったはずだと騒ぎ出し、それがきっかけになって物語が進展していきます。

イタリアの美術犯罪専門の組織がその捜査を担当し、二転三転しつつ、最後には・・・・。

ダ・ヴィンチ・コードや昨今のジェット・コースター的にストーリーが進むノリノリな緊迫感はありませんが、淡々と謎解きがされていく小説です。

作者があのゲッティ美術館の理事だったかな?
専門はメディア関係でアートは専門外のようですが、一応はその業界のことを知っている(?)人なので、説明もそれなりにもっともらしい解説で、それはそれとして読める小説となっています。

お薦めってほどではありませんが、ラファエロとかアート関係がお好きな人なら、軽く読めて悪くないかもしれません。

ラファエロ真贋事件 (新潮文庫)(amazonリンク)
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2013年09月29日

「詩聖の王子」キャスリン・マゴーワン ソフトバンククリエイティブ

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以前読んだ「待ち望まれし者」の続きのようです。3部作の最終巻。真ん中は読んでなくて、最初良く知らずに1巻毎に完結してるかと思ったのですが、どうやら違っていたようです。

ただ・・・・前作を読まなくていきなり最終巻でもなんとか意味は分かるかと。
「ダ・ヴィンチ・コード」だけ読んでたら、十分ストーリー的についていけます。

ストーリーは、マグダラのマリアをイエスの伴侶にとし、真にイエス様自身が書き記した福音書「マグダラのマリアの福音書」とイエスの血脈を伝える一族が主役になります。

その歴史の中で「詩聖の王子」と呼ばれる存在として、ルネサンス期のフィレンツェのメディチ家一族のロレンツォや彼がパトロンとなったボティッチェリ、ミケランジェロを描き、また現代の「詩聖の王子」として現代の人を交互に描く小説になっています。

それなりによく調べて書かれているので(一応、私はほとんど既知の内容ですが)、ふむふむと頷きながら、読み進めていましたが、悪い意味で必要以上と思われるカトリック批判と、70年代のウーマン・リブ運動のノリがいささか時代錯誤的で読後感があまり良くありません。

無理やり肩肘張って女性の地位を叫ばなくても、自然体で対等且つ、普通に接すれば良いだけかと思いますが、女性擁護の過剰な不自然さが読んでいて大きな違和感として感じられてしまいます。

理性的な面を唱えつつも、実際は情緒を必要以上に尊重し、女性の感覚重視といった悪しき女性特有の面が色濃く出てしまい、小説としてはかなり駄目になっているように思えました。

あまり意味のない伏線がきちんと回収されないまま、放置されるものが目立ち、結局、何の結論もないまま、適当に終わってしまっています。

サヴォナローラも一時、華々しく登場しますが、それがストーリーに果たす役割がはなはだ疑問で本書の物語にそもそも何の意味があるのかと考えると、無駄・無意味以外の感想が浮かびません。

努力は認めますが、ストーリーテラーとしては所詮、同人誌レベルかと。
これを商業小説化した出版社・担当者は、明らかにダ・ヴィンチ・コードの便乗商法のそしりを免れないでしょう。

まあ、一定の利益は出たかもしれませんが、この作家はこのネタのみ一発屋で終わるかと。
そんな程度のお話でした。

よく勉強されているのですが、もうちょい踏み込むと違ってきたと思います。
ユマニスムとか、もっと&もっと深い意味で掘り下げると、本書もまた違ったものになって、面白かったであろうに・・・と思うと大変残念でした。

結論、本書は読む価値なしかと。

詩聖の王子 イエスによる福音書 (ソフトバンク文庫)(amazonリンク)

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「待ち望まれし者」上・下 キャスリン・マゴーワン ソフトバンク クリエイティブ
「ルネサンスの神秘思想」伊藤博明 講談社
「パトロンたちのルネサンス」松本 典昭 日本放送出版協会
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2013年08月18日

「死都ブリュージュ」G. ローデンバック 岩波書店

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ベルギー旅行の準備中に、中世以降忘れさられていたブリュージュを一躍有名にした19世紀の小説があったと知ったので読んでみました。本自体は絶版みたい。

歴史の流れの中で、一時の栄光を遠く離れ、堆積する時間の滓と共に、灰色にくすんでひっそりと生きている都市、ブリュージュ。

その都市のノスタルジックなイメージに、最愛の人を失った悲しみを抱えた男の辿り着いた先というのが相互に干渉しあい、融合していく中でこの小説は語られていきます。

著者が「はしがき」で語るように、この都市の風光と鐘がそこに滞在する人々を育成し、影響し、規定していく・・・。

著者はブリュージュに住んでいたのではなく、ゲントの住民だったようですが、まあ、近いしね。
ゲントの方がブリュージュ以上に寂れていたのでしょうが、過去の栄光の大きさとそれが遺したもののと(執筆された)当時の対比からして、より一層ブリュージュの都市のイメージが鮮烈(灰色の都市とはいささか不整合な言葉ではありますが)だったのかもしれません。

おりしも私が行く10月は、もう観光の季節じゃないだろうし、まさに「灰色の都市」の片鱗が見られるかもしれません。今は十分繁栄した観光都市だろうとは思いますが・・・・。

本書に出てくる男のように、街を怪しげに徘徊してみたいものです・・・・。

死都ブリュージュ (岩波文庫)(amazonリンク)

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「フランドルの祭壇画」岡部 紘三 勁草書房
「ブリュージュ」河原 温 中央公論新社
「旅名人ブックス56 フランドル美術紀行」谷 克二
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2013年08月16日

「P2」(上・下) ルイス・ミゲル ローシャ 新潮社

元ネタは、超・有名な話で私も良く知っているので、あのP2を扱った
小説ということで、ちょっとだけ期待していたのだけれど・・・・。

普通のニュース記事の方が正直、はるかに面白いです。

今回の新しいポープもバチカン銀行をなんとかしなければいけないとい
う事実に直面しているようで、今月もバチカン銀行の浄化に関していく
つもニュース記事が出ていたりします。

日本ではほとんど扱わないんだけれど・・・・。
マスコミは大衆に迎合するものしか扱わないから・・・・ネ。

実際のニュースよりも、本書の小説はレベルが数段落ちています。
淡々とバチカン銀行を扱った他の本の方が、その深刻さと救いようの無さ、
その歴史的事実と現在も隠然とある影響力の大きさを教えてくれて興味深い
です。

本書は3流以下のスパイ小説水準で、読んでいてドキドキ感もなければ、
どんなふうになっていくのかを期待するようなこともなく、社会の暗黒面
への暗い好奇心さえも湧き上がりません。

これでは駄目。

途中もしょうもないけれど、最後も全く盛り上がらないし、ヒーローの正
体聞いても、「ハア~?」で終わってしまい、虚脱感が半端無いです。

ヒロインも存在感薄い上に要らないかと。ぶっちゃけね。

無理して「ファティマの予言」入れてますが、バチカンが公式として発表
した内容の方がそのままでもずっと面白いんですが・・・・。
昔、読んでうちのブログでも扱ってますが・・・。

本書の原作者、上っ面だけしか知らないまま、真実と虚構を混ぜたっていう、
ただ、それだけの事で満足しちゃってる感があります。ちゃんと資料を読み
込んでいないんじゃない? 

本作は駄作でしょう。
時間の無駄でした。

P2(amazonリンク)

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「バチカン・ミステリー」ジョン コーンウェル 徳間書店
「法王暗殺」デイヴィッド・ヤロップ 文芸春秋
「法王の銀行家」殺害で4人起訴 CNN
「教皇の銀行家」殺害で4人を起訴
「神の銀行家」変死、マフィアら無罪 謎解けぬまま…
P・マルチンクス氏死去/元バチカン銀行総裁
バチカン文書流出、暴露された「聖なる」権力闘争
カルビ殺人:神の銀行の謎
マフィアが「神の銀行家」を殺害するよう命じた:イタリアの法廷
「世界を支配する秘密結社 謎と真相」 新人物往来社
「法王暗殺」より、抜き書き
法王の銀行家 2002年の映画
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2012年09月23日

「修道女フィデルマの叡智」ピーター・トレメイン 東京創元社

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中世アイルランドを舞台にして、女性の法廷弁護士が主人公となって、数々の事件を解決する推理物です。

長編も翻訳があるのですが、本作は短編集になっています。まずは短編で作品の良し悪しを判断してから、長編物を読もうか否かと思い、本書を試金石にしてみました。

舞台が当時、キリスト教世界において一番学問の進んでいたアイルランドであり、しかも女性の修道女が名探偵役だったので、どんな内容だろうと興味津々で読み始めました。以前読んだ、中世イングランドを舞台にし、修道士が探偵役を務めるカドフェル・シリーズの類似を期待しつつ・・・。

推理物としては、正統派ですね。
いかにも英国ミステリーってな感じです。

論理的に謎解きをしていくストーリーは好感が持てますが、個人的にはどうしても主人公の女性に対して、共感を覚えられません! 

悪い意味で現代的な知性の持ち主であり、それを全面に出しつつ、個人主義的な主張全開で正論を述べる姿には現代感覚には一致するものの、当時の状況でその思考・行動様式はかなり異質であり、社会的に物事を進めていくに足るだけの政治的な配慮に欠ける愚者にも見えてしまいます。私の感性からするとね。

現代の読者には共感を得られ易いかもしれませんが、わざわざ中世ケルトを舞台にして、この登場人物の言動にはとっても不自然さを覚えてしまうのでよ。

キリスト教の教義に関する解釈にしても、懐かしいコロンバンとかあの辺の話にしっかり触れていて、かの地の独自性をもっていた時代的・歴史的な背景は私も知っておりますが、それでも公的な立場を有するものが、しかも女性が行う発言としては、あまりにも幼過ぎて、推理の見事さとの対比で失笑してしまうのですが・・・。

人間心理を含めて、論理的な推論をしていく人物が何故か自分の言動についてだけ、不用意で周囲に敵意を抱かせないような物言いをしているのが強い違和感となって、私には本作品に対して、好意的な感想を抱けませんでした。

どうせ中世ケルトの地、アイルランドを舞台にしているのですから、むしろドルイド絡みのものとかも組み込んで世界中からキリスト教の修道士が集まっていた部分をもっと増やしてくれてもいいのですが、一部、その辺の描写はあるものの、全然物足りません。

また、その一部についても当時の状況を知っていれば、すんなり理解できますが、特別な解説無しで話進めてますが、現代の読者がそれを理解できているのでしょうか? 現地でさえ、どうかなあ~と思いますが、翻訳されている本書で、さらに日本の読者がどれだけ理解しているのでしょうか?根本的な疑問を感じます。

その辺、知らなくても謎解きには特に支障ありませんが、だったら、わざわざ本書(本作品)を読む必然性は無いような???

まあ、複雑な事情を抱えるアイルランドですから、自らの故郷への想いとイギリスへの屈折した想いがあわさって、いささか体制内にいつつ、自主独立的な主張を是とする気持ちも分からないのではないのですが、主人公のキャラがこれ見よがしで、正直イタイんですけど・・・。

切れ者なら、もっとしたたかに腰を低くしつつ、ここぞという時にだけ才能の片鱗を示す方が恰好いいと思うんですけどねぇ~。実際、その方が効率的で高い成果が出るはずなんですが・・・。姑息でいやらしいやり方だから、読者に解決後のカタルシスを与えられなくなっちゃますかね?はてさて。

推理物としては、決して悪くないです。
ただ、歴史物である舞台的な必然性は皆無です。

主人公に共感できるか否かで評価が分かれるそう。
私は現代人向きに読者に媚売っている感じがして、嫌いです。長編も読む気はなくなりました。

修道女フィデルマの叡智 修道女フィデルマ短編集 (創元推理文庫)(amazonリンク)

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「死への婚礼」エリス・ピーターズ 社会思想社
「聖者と学僧の島」トマス カヒル 青土社
「ケルト神話と中世騎士物語」田中 仁彦 中央公論社
「図説 ケルトの歴史」鶴岡 真弓,村松 一男 河出書房新社
聖ブレンダンの航海譚 抜粋
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2012年04月08日

「誤植聖書殺人事件」ロバート リチャードソン 扶桑社

『誤植』聖書って単語から、姦淫聖書や悪魔の聖書等を想像して読み始めてみたのですが・・・。

ラティマ・マーシー、という誤植の聖書は出てくるものの、全然それに関する薀蓄やら、広がりのある話は一切無く、単なる小説の舞台の道具立てとして、チョロっと出る程度で何ら特別な意義を与えられていません。

イギリスの地方都市を舞台にした、ごくありふれた殺人事件で謎解きらしい謎解きもなく、人物の心理描写等もまあ『並』としか評しようがない、2流小説です。

せっかく中世以来の聖書や教会の塔があり、聖史劇など中世色濃厚なのに・・・それらの材料を全然活かしきれていない、もったいなさが悔しいです。

現代に限らず、舞台的には中世にまで遡って諸々絡めていけば、話も広がり、読書の知的好奇心をそそるのかもしれませんが、本当に登場人物も凡庸で、それだけ現実性が高いかもしれませんが、読んでて全く面白いところが無かったので相当辛いです。

どっかで盛り上がりがあるかと、少しだけ期待はさせるのですが・・・・本当に何にもなく、つまんない個人的思い込みからの殺人事件でもうがっかり(涙)。

時間の無駄ですし、通常の小説としても一定水準に達しているとは思えませんので、お薦めしませんねぇ~。これは。

誤植聖書殺人事件 (サンケイ文庫―海外ノベルス・シリーズ)(amazonリンク)

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『姦淫聖書』(Wicked Bible)誰か買って!
「悪魔のバイブル」、350年ぶりにチェコに里帰り
ラベル:書評 小説
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2012年03月11日

「時の地図」上・下 フェリクス J.パルマ 早川書房

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全3部構成になっています。

上巻の半分以上まで読んでいる時は、全くSFなんて出てきません。ましてタイムトラベルの片鱗さえもありません。

19世紀を舞台にした、上品な推理小説を読んでいるとしか思われず、それはそれで面白くて、なんの本を読んでいるのかさえ忘れて、物語に没頭していました。

やがて、とってつけたように場面が転換し、最初、H・G・ウェルズとか出てくると何、これ、部外者が出てきた。単なるひやかしの登場人物で、メインには関与しないと勝手に思い込むほどの存在感の無さです。

しかし、全く異なる舞台が新しく語られるうちに徐々に、ウェルズが出しゃばってきます。
つ~か、少しづつチョイ役から、主役を取り巻く大切な役へと移行していきます。

しかし、最初の上巻との関連は、ほとんどなく、最初のは何?って感じがしばらく続きます。

それがまたまた、舞台が変わると、いつの間にやらSFっぽくなってきてビックリします!
ウェルズ、主役になっちゃうし・・・。アレレ???

タイムトラベル物、ではありますが・・・、これはかなり特殊なSFです。
色物ではなくて、むしろ、王道の推理小説のようで最初、著者はイギリス人かと思いました。スペインってのはかなり意外な感じでした。

好き嫌いが分かれるかもしれませんが、読み物として面白いと思います。
SF部分の方が、本書の場合、おまけのように思います。

私は前半部が特に好きでした。
ウェルズが出てくる部分もちゃんと読み物として楽しめますが、個人的には無くても一向に構わないぐらい。

そうそう小説の舞台は、19世紀ロンドン。
切り裂きジャックが思いっきり、本書でも活躍してます。つ~か、それを巡って物語が進展していきますので。

切り裂きジャックが捕まった世界。
捕まらなかった世界。

定番の古典的な時間理論を踏まえた話で、目新しさはありませんが、読み物としてはいいのではないでしょうか? 一気に読了できました。SFよりもむしろ、ミステリテイストでどんでん返し的なお約束もきっちり守られていますので、正統派の物語でしょう。

SFとしては、微妙な評価かと思いますけど・・・。


時の地図 上 (ハヤカワ文庫 NV ハ 30-1)(amazonリンク)
時の地図 下 (ハヤカワ文庫 NV ハ 30-2)(amazonリンク)
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2012年01月28日

「アデル ファラオと復活の秘薬」バンジャマン・ルグラン 早川書房

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映画化されてるようです。
原作は、フランス独特なコミックのような媒体で人気の作品。それを映画化したもののノベライズって、ところでしょうか?

表紙はその映画からみたい。観てないけど。

ジャーナリストの才気活発な女性が、型破りなやり方でバリバリと活躍する物語。時代的なものもあり、正直、ちょっと片意地張って頑張ってます調なところがありますが、主人公は好感が持てます。

元々のメディアが、コミック系だからか、原作も口調がかなり軽いのかな?
翻訳も翻訳らしさが、いい意味でも悪い意味でも感じられなく、非常に読み易いです。
ラノベよりも軽い感じです。

テンポ良くストーリーは進むものの、中身は無いなあ~。本当に正真正銘のカラッポ。
無意味に人死んでるし、悪人生きてるし・・・・。
最初は、面白いのかな?っと期待したんだけど、なんか最後まで内容らしい内容は無かった。

コミックとは異なるメディアらしいのですが、やっぱりヨーロッパなので、申し訳ないがこのレベルかな?普通のカリカチュアとかの方がはるかにそのユーモア溢れる精神を表現できそうですが・・・?

ただ、映像化するとそれなりの冒険活劇にはなりそう。
映画なら、楽しく観れるかもしれません。

読み物としては、お薦めしませんけどね。

アデル ファラオと復活の秘薬 (ハヤカワ文庫NV)(amazonリンク)
ラベル:書評 小説
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2012年01月04日

「ウロボロスの古写本」上・下 レイモンド・クーリー 早川書房

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【※ネタバレ有り。未読者注意!】









同じ著者の書いた「テンプル騎士団の古文書」は、確かあまり面白くなかったのでこちらもずっと放置していたのですが、最近、この手の小説を読んでなかったので久しぶりに読んでみました。

上巻、及び下巻のかなりの部分までは、正直えげつない描写ばかりで嫌いです。
いくらマッド・サイエンティストでも、まんま人体解剖では・・・・。

最後にいくらそれが意味があって、謎解き部分につながる伏線として結び付くにしろ、私的には気持ち悪くて後味が悪い。確か、前作も残酷な表現が多く、アクション・シーン満載かもしれませんが、どうにも安っぽさの方が鼻についてしまいます。

映画とかビジュアル的には、見栄えするんでしょうけどね。

延々と、人が拉致られ、拷問するような場面ばかりが続くので最後まで読むの止めようと思い、途中からかなり飛ばし読みにして謎解き部分だけ見て、読むの中止するつもりでした。

でも・・・アクションシーンやら拷問シーンを飛ばして、下巻後半の謎解き部分は結構、いい感じでした。この部分を生かしつつ、そこの内容を膨らませれば、もっと素敵な読み物になるのにねぇ~。

徹頭徹尾、受け狙い、映画化狙いのあざとい演出、つ~かプロットで、知的な読み物とは言い難いなあ~。すっごくもったない感じです。

ただ、いろいろな各時代を名を変え、肩書きを変え、生き抜いて『不老不死』という究極の目的を達成せんとする話は、ベタベタなパターンではあるものの、結構いい感じでした。

アン・ライスの吸血鬼のものの方が、はるかに洗練されていて読み物としても面白いけどね。

あとタイトルですが、わざわざ『古写本』である必要も無かったです。本好きの私はそこに引っかかったのですが・・・。

『ウロボロス』もオカルト系やグノーシス系の異端的な色彩を印象付ける記号でしかなく、本質的な必然性や伏線につながるような意義もありません。

結論、映画的なドタバタアクションシーンを文字で読むのが好きならいいが、物語としての面白さ、ストーリー性を求めるなら、読むべきではないかと。やっぱり、この著者の作品は合わないな、私には。

一応、概要も。
レバノンで考古学の研究する女性考古学者。以前の知り合いでイラクからやってきた人物がとある考古学的遺物の買取を持ちかける。しかし、その遺物の中には、一部の者達にとって最高の価値を持つ古写本が含まれており、それを巡り、数々の陰謀・事件が起きていく。

関係者は次々と殺害され、女性考古学者は拉致され、その娘の遺伝学者が母の奪還を目指す。旧イラク権力者の残党やら、CIA、国連等、複雑な政治的状況下、古写本を求めて各人が各人の思惑でその争いに関わっていく・・・。

物語の進行と平行して、18世紀のとある場面が描かれて、重層的に物語の深みを増すように描かれるが・・・。

まあ、そんな感じのお話です。
特徴的なのは、旧イラク残党のマッド・サイエンティスト。惨たらしい人体実験や拷問場面は、お薦めできません、個人的にはね。

ウロボロスの古写本 上 (ハヤカワ文庫NV)(amazonリンク)
ウロボロスの古写本 下 (ハヤカワ文庫NV)(amazonリンク)

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「テンプル騎士団の古文書」上・下 レイモンド・クーリー 早川書房
ラベル:書評 小説
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2011年12月19日

「不死の怪物」ジェシー・ダグラス ケルーシュ 文藝春秋

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最初は、クトゥルー神話系のホラーかと思い、あまり期待していませんでした。
翻訳も最初、読み易いものの、時代を考えるともうちょい古い文体(スタイル)でも良いかと思われ、いささか抵抗感がありました。

書かれた時代がそうですが、本書で出てくる事物も英国のスピリチュアル系華やかなりし頃だし、降霊会とか、第5感やダウンジングとか擬似科学が大手を振るっていた頃のものですもの。


【※以下、ネタばれ有り。未読者注意】








結論自体は、小説のかなり早い段階で気付きます。
ミステリー小説ではないので、謎解きそのものの過程をロジカルに楽しむものではなく、『謎』そのものの薀蓄を楽しむ系統の作品です。

実は私、今回読んでいてこの手の読者としては失敗をやらかしてしまいまして・・・・。
予想以上に面白そうだったので、読んでる途中で著者の経歴を知りたくなり、荒俣さんの後書きの一部を見ちゃったんです・・・。いきなりそこで、結末書かれてねぇ~(涙)。

薄々思っていた通りではありましたが、興味半減してしまわないか? このまま読了出来るか一瞬、不安になったものの、結論そのものよりもその『謎』自体の魅力で思わず一気読みするぐらい、面白かったです。

おかげで途中で辞められず、読了するまで昨日は夜中の1時半まで読む羽目に。
それぐらい、久々に面白かったです。

いかにも英国らしい英国の怪談なのですが・・・・英国の歴史自体に密接に絡みつき、背景的な歴史を知っていれば知っているほど、ゾクゾクする密やかな喜びのある物語です。基本のプロットが実にしっかりしています。大きな歴史的な流れの中に存在する、現在の自分。人というものの描き方も巧いです。感心&感心♪

いかにも地元に根付いた領主一族の末裔で、先祖伝来のさらに先にまで遡る話は、もう溜まりませんね!個人的には、チュニジアに最初に訪れた女王の話を思い出しました。土地を買ったあの話です。

あと隔世遺伝を突き抜けるような、先祖以来の脳髄に(=細胞の一つ一つに)刻まれた奥底の記憶、この概念は、まさに「ドクラマグラ」のアレですね。当時、世界中でいかにこの手の犯罪心理学が脚光を浴びていたのか、改めて思い知らされますね。ホント!

勿論、「ドグラマグラ」好きの私には、その意味で楽しかったです。但し、「ドグラマグラ」の方がはるかに上ですけどね。これは日本人の贔屓目・欲目を抜きにしても、私個人の感覚では真実です。

最後に、しっかりとハッピーエンドになるのは、いささか意外なくらいでしたが、解決の仕方も、本書はそれだけでも非凡であると確信できるくらい斬新です。ラディカルな発想ですが、説得力もあるしねぇ~。う~む。

そうそう、俗物・好奇心の塊で、無知厚顔を典型と浮かび上がるマスコミ像も、そういえば「ドグラマグラ」ともオーバーラップしますね。やはり、世界的な同時代性を感じざるを得ません。実際、当たらずとも遠からずみたい。

「心霊探偵」というのが、正直、かなり違和感というか拒否感あるんだけど、そういうのを乗り越えるぐらい魅力的で、且つ、これは歴史物に近い類いの楽しさです。知的好奇心を強烈に刺激します!!

原作はおそらく最高ですね、きっと!
本書は原作を改めて読みたいと思った一冊です。

逆に言うと、翻訳はお世辞にもうまくはないです。
現代風で一定の読み易さはあるのですが、冒頭でいった時代的な味わいが台無しになってます。また、口語的な表現が目につく中で、頭をかしげるほど違和感のある言葉遣いもたまにされていて、そこが更に文体のリズムを壊し、スタイルとしては、駄目駄目になってます。

例えば、いきなり「脳回」という単語を使うのはいかがなものでしょう?説明無しに唐突に出てくるしっくりこなさは凄いです。

他にも文章中の「摩損」ってなんかねぇ~? 
意味はすぐ分かりますが、磨耗して磨り減ってでいいと思うのですが・・・。現代的な他の訳との齟齬感が半端無くて、読んでいてイライラしてしまいました。

訳者は他にも何冊も訳出しているプロの割りに、言語感覚のセンスを疑ってしまいます。私だったら。

結論としては、作品は素晴らしいが訳出が駄目かと。ご存命なら、平井呈一氏の訳で読んでみかった。

しかたないので、今度、原書を買って読んでみようかと思います。
英語の本、ただでさえ未読で溜まっているのに・・・・(涙)。

英語できるなら、この翻訳はお薦めしません。原書を強く押しますが、英語苦手なだったら、本書で我慢するのも妥協点とはしてはあるかも? 逆にそれだけ原著の内容が魅力的で面白いです。

まさに極上の怪談でした。
怪談としては、絶対に当たりです!

【追記】
なんか粗筋がないですね。少しだけ書いておきます。

英国のとある領地を治める、とっても古くから続く家柄の御領主様。一族で残るのはまだ20代の若い兄と妹の二人きりでした。

しかもその領主家の主には代々呪われた運命があり、一定の条件が揃った時、不思議な怪物と遭遇し、殺されてしまうか、生き残っても自殺するか、結局、命を落とすと決まっておりました。

また歴代の当主の中には、錬金術にはまって自らの妻や子供を失う者もあり、噂では吸血鬼の一族とも呼ばれたそうです。

また、屋敷には秘密の部屋があり、そこには・・・・。

とまあ、これ以上ないくらいのお膳立ての下、若き領主の兄は怪物に遭遇します。
一緒にいた若い女性は殺され、愛犬も惨殺されます。かろうじて命を保った兄も、殺されるか自殺に追い込まれるかの瀬戸際に追いやられます。

最愛の兄を守る為、美しい妹は当時、評判だった美貌の女性、心霊探偵に調査を依頼します。そして、壮大な歴史に隠された謎に満ちた古からの秘密が解き明かされるのでした・・・・。

ざっとこんな感じです。

ジョン・サイレンスの心霊探偵よりもこちらの方が、ずっと知的好奇心を刺激し、大いに納得&唸らせるストーリーでホラーの枠に留まらない一流の謎解き小説になっています。これは必読!!

不死の怪物 (文春文庫)(amazonリンク)

ブログ内関連記事
「真夜中の檻」平井呈一 東京創元社
「怪奇クラブ」アーサー・マッケン 東京創元社
「妖怪博士ジョン・サイレンス」アルジャノン ブラックウッド 角川書店
「怪奇礼讃」E・F・ベンスン他  東京創元社
「百物語怪談会」泉 鏡花 (著)、東 雅夫 (編纂) 筑摩書房
「怪談部屋」山田 風太郎 出版芸術社
「ぼっけえ、きょうてえ」岩井志麻子 角川書店
「陀吉尼の紡ぐ糸」藤木 稟 徳間書店
「稲生物怪録」荒俣 宏 角川書店
「ドグラ・マグラ」夢野久作 社会思想社
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2011年10月25日

『バラの名前』後日譚 ロリアーノ マッキアヴェッリ 而立書房

後日譚とは言うものの・・・所謂、原作のその後とは全く(?)無関係な小説です。

「薔薇の名前」の登場人物を使った二次創作物みたいなもんかと。まだ、同人誌の方が面白いぐらい。
「薔薇の名前」のあの重々しくも凝りに凝った、練りに練った西洋中世にまつわる面白さが全くありません!

某シナリオライターが、映画の中で原作の語りつくせなかった部分を勝手な飛躍的想像力で、独自解釈し、ウィリアムに現代のショーン・コネリーとしての立場で何故か突如、推理物を始めちゃったりします。

素直ではにかみ屋のアトソンは、すれっからしでこすっからい小生意気な若造になるし・・・オイオイ。

原作の一番美味しい中世的な謎解きや薀蓄は完全に消え去り、単なるミステリーとしての謎解きに終始し、更にそれが現代物で、しかも俗化したこのやるさなさは、半端無いです。

原作の影も形もありません。大概の「薔薇の名前」ファンは失望する事しきりかと。

それでも最後まで読んでしまった私は、大馬鹿者ですが、本書を読んで感じたことはただ1つ。
改めて、映画見て、原作を読んで楽しもう♪ それだけです。

本書は要らない本かと。お薦めしません。

『バラの名前』後日譚(amazonリンク)

ブログ内関連記事
薔薇の名前(映画)
「バラの名前 百科」クラウス イッケルト,ウルズラ シック 而立書房
「薔薇の名前」解明シリーズ 而立書房
薔薇の名前(ウンベルト・エーコ 東京創元社) 抜き書き
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2010年09月20日

「幽霊書店」クリストファー・モーリー

iPhoneで青空文庫の中に見つけたもの。半分はiPhoneで、残り半分はおととい届いたばかりのkindleに媒体を移して読みました。

原題は「THE HAUNTED BOOKSHOP」。

タイトルの幽霊だけど、別に幽霊が出てくる訳ではなく、たくさんの読むべき本を目の前に、あれも読まなきゃ、これも読まなきゃという強迫概念にとり憑かれた状態の古書店主を指したものらしい。

いかにもいそう・・・な、本に対するこだわりを持った、変わり者っぽい古書店主が経営する古書店が舞台。その店に関わる読書好きのひとくせもふたくせもある人達もなかなか楽しい♪

中でも本書の魅力は、何かにつけ、店主が本から引用する台詞が頻繁に、もう飽き飽きするほど出てくること。これ、引用されている本を読んでいたら、とっても面白いんだと思う。つ~かたまらなく面白そう・・・。

でも、残念ながら、私は本書で引用されている元本をほとんど(全てかも?)読んでないのでその面白さが直接分かりません。それが非常に歯痒くて悲しいのですが、正直それらは私個人の興味の対象外なので、今後も読まなさそう。

しかたないですが、それは個人的に残念でした。

でも&でも、いかにも本好きで本は人類にとって至高の宝物と思い、何よりも本を読んでいるのが幸せという感覚は、なんとなく分かります(笑顔)。R.O.Dの読子さんなら、きっとここの店主と熱く語ってくれることでしょう♪ そういう系のお話です。

あっ、でも一応、体裁的には推理小説になるらしく、怪しげな人物やらが出てきて、探偵ごっこが始まり、謎解きなんかもあったりしますが、そちらはおまけですね。

古き良き時代の、風情を感じさせる愛書家を取り扱った小説ってところです。個人的には、こういうのは好きかも。読んでいて、とても楽しかったです。

二日前も用も無いのに、神保町を周ってちりめん本の和紙に印刷された黴臭い本やら、100年以上前の洋書の扉絵とか触れてましたがなんだかねぇ~。で、その後、秋葉のジャンク街をうろついて、見るからにパチもんっぽい中華製androidタブレットをいじってましたが・・・それが3連休の1日の過ごし方という私も終わってるなあ~(自爆)。

今日は、昼間っから酒飲んで、まどろみながらkindleで本書を読んでました。いつのまにか寝てましたが・・・。結構、そういうのは好きですねぇ~。

もっとも本書の古書店主のようにタバコは吸いませんけどね。タバコは臭いが嫌いなので。元、喘息持ちですし。

でもまあ、酒飲んで本を読んでそのまま寝るってのは、一番の快楽ですけどね。さて、このブログ書いたら、また読書しよっと。iPhoneでは画面が小さくていらいらしてたのですが、Amazonのkindleは、なかなか快適なんで。(不満はあるけど、まずは合格点!)

そうそう、本作品について一言。
原著は洋書で日本で言うなら、青空文庫(そもそもグーテンベルク・プロジェクトがモデル)のように著作権切れの作品をみんなが読めるようにしたグーテンベルク・プロジェクトというのがあり、そこで公開されていた作品。

どうやら、それを個人の方が翻訳してテキスト化し、青空文庫とかで公開されているようです。通常のように翻訳本の著作権が切れたものをテキスト化する流れ以外にもこういうのあるんですね。知りませんでした。

訳は自然で非常に読み易かったし、作品も面白かったです。他の青空文庫とかで協力されている方々を始め、善意の方の協力のおかげですね。恩恵に与っている身としては、大変感謝です!!

でも、ネットのこういう善意の仕組みってのは、本当に素晴らしいですね。有り難いことです♪

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「世界古本探しの旅」朝日新聞社
「世界の古書店Ⅱ」川成 洋 丸善
「世界の古書店」川成洋(編) 丸善
「古書店めぐりは夫婦で」ローレンス ゴールドストーン, ナンシー ゴールドストーン 早川書房
「本の国の王様」リチャード ブース 創元社
「古書街を歩く」紀田 順一郎  新潮社
「古本道場」角田 光代、岡崎 武志 ポプラ社
「古本屋さんの謎」岡崎 武志 同朋舎
「古書法楽」出久根 達郎 中公文庫
「愛書狂」鹿島茂 角川春樹事務所
ナインズ・ゲート デラックス版(1999年)ジョニー・デップ主演
「謎の蔵書票」ロス キング 早川書房
「ある愛書狂の告白」ジョン・バクスター 晶文社
「書物の敵」ウィリアム ブレイズ 八坂書房
「呪のデュマ倶楽部」アルトゥーロ ペレス・レベルテ 集英社
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2010年04月18日

「古書の来歴」ジェラルディン ブルックス ランダムハウス講談社

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本書については、このブログのコメントで大阪のマリアさんから、教えて頂き、OZさんにはっぱをかけられ(?)、私自身も興味が湧いたので気にしていました。

先日、図書館で見つけたので早速、借り出し、読んでみました。

紛争の地、サラエボで行方不明になっていた500年以上前の稀覯本。それが実際に見つかった史実を契機にして、ピューリッツァー賞受賞(個人的にはどうでもいいのですが、枕言葉なのでつけときます)の著者が書いた、本を巡る(人々の)数奇な運命を描いた作品です。

原題は"People of the Book"。

確かに『古書の来歴』という邦題の方が一見すると分かり易いのだけれど、原題の方が本書の内容を正確に指し示しています。

本書は、一冊の古書『サラエボ・ハガダー』(ユダヤ教の祈祷書)を巡り、それに関係したさまざまな時代の、さまざま階級・社会の人々の姿を描いていきます。あくまでも力点は、本そのものよりも本にまつわる人々が描かれています。

オムニバス形式で、異なる時代、異なる地域を舞台にした独立した短編集のような感じです。それが一冊の稀覯本を横軸に貫く形で、結び付けられているのですが、稀覯本を巡る小説としては、ちょっと珍しい感じです。

内容も面白い、というよりは、読後にいろいろと深く考えさせられるところが多々ある本と言えば、良いでしょうか・・・。

人としての存在、価値観、いろんな観点で、個々のエピソードそのどれもがかなり重かったりする。正直、かなり暗い。いささか鬱系。

でも、そういった制約のある環境下でも、志高く生きている人の姿を垣間見れ、人の善性について、素晴らしさについて感じるものがある作品です。

その反面、本そのものについては、いささか物足りない感じがしないでもないです。つ~か、もっと情報欲しいですね。古書を扱う専門家・職人としての仕事の描写は、結構詳しくてそそるだけに、その辺ももっと知りたいですねぇ~。

ただ、作品全体からのバランスからすると、そこだけボリュームを増すのは正しくないのかもしれないのですが・・・う~ん、我ままな希望かも?

さて、問題の本。

偶像崇拝につながる絵画表現が禁止され、挿絵等は本来は有り得ないとされたヘブライ語で書かれてユダヤ教の装飾写本。まさに歴史が変わる一冊の稀覯本が実在し、一度は紛失していたものが発見され、戦火の中、イスラム教徒の学芸員が命懸けで守り抜いたというのも事実だそうです。

そんな本を題材にしているので、古書好きや稀覯本好きにはただでさえ、たまらないものがありますが、諸々の西洋史なども分かっていれば、本書は更に興味深いものになります。

イスラム教・ユダヤ教・キリスト教。この三つが多様性を維持できたのがまさに中世のスペインであり、レコンキスタの完成が、むしろ平和の終結に他ならなかった歴史の皮肉さを痛感します。

アルハンブラ宮殿内にある、カール5世の宮殿の台無し感を彷彿とさせます。

と同時に、今現在同時進行中の紛争についても、つくづく考えさせられます。知り合いがイスラエルの多国籍企業で働いているのでよく話を聞きますが、本当に違うよなあ~。

今度、また会った時にいろいろ聞いてみよっと。

それはそうと、あとでこの『サラエボ・ハガダー』調べてみようっと!!

【追記】
そういやあ~スペインの異端審問のところには、あのトルケマダの名前が・・・。他にも知っている人なら、ピンとくるようなものがあちこちに散りばめられているのもそそります。

古書の来歴(amazonリンク)
ラベル:小説 書評 稀覯本
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2010年02月05日

「テンプル騎士団の古文書」上・下 レイモンド・クーリー 早川書房

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タイトルが関心を惹くうえに、この著者の他の作品のタイトルも是非、一度は読んでみたいと思っていましたが、結論としてはこの程度か・・・ってところです。

絶対に誰もが比べるダ・ヴィンチ・コード、著者はマネじゃないと主張してようがそれはどうでもいいのですが、比較になりません。

映画の脚本家がノベライズしただけあって、確かに目を引きますし、インパクトはあるけど、中身が何にもないのが悲しい(涙)。

そりゃ、METでテンプル騎士団の恰好して、展示品を強奪し、警備員の首チョンパすりゃ、インパクトはありますが、安物B級映画の悪ノリレベルでしょう。

読んでいて上巻で何度辞めようかと思ったことか・・・。

途中、古文書にまつわるエピソード部分だけは、私はイイと思いましたが、あとは「007」の粗悪品ってところです。

崇高な使命に命をかけるくだりは、映画にしたら、感動を呼び起こすシーンでしょう。

まあ、格闘シーンなどアクションシーン、ラブロマンスに陰謀等々など、盛りだくさんだしね。まさに映画だったら、飽きさせない展開かも?

腕のいい監督なら、それなりの映画になるかもしれない。

でも、小説として満足できるほど面白かったかと言われると "否" です!

最初は変に自立した生意気な女性が、数々の出来事を通して、人間愛に目覚め、可愛らしい女性に成長し、大切な人を獲得するに至るというのは、どうでしょうかね? 

なんか最初は傲慢な愚者が、結局、謙虚な愚者になっただけで、真の理知的で自立したバランス感覚のある人物になっていないような気がするのだけれど・・・。

まあ、そんな些細な事はおいといて、一番大切な古文書の内容というのが・・・これまた、無知な人しか納得できないレベルの秘密で笑うというよりも泣けてくる。

著者さんに期待することは、もう少しお勉強しましょうね。そういうレベルですね。

歴史ミステリーではなく、単なるアクションノベルです。そちら系が好きなら、別な楽しみ方ができるかもしれませんが、私には楽しめませんでした。

もし、テンプル騎士団とかキリスト教の謎目当て、まかり間違って歴史的な関心から読むのなら、決してお薦めしません。だったら、映画の「スティグマータ」でも観ましょう♪

あ~あ、同じ著者のウロボロス~とかという題名の本は、楽しみにしてたけど、読むの辞めようっと。時間の無駄だもんね。

テンプル騎士団の古文書(上)(ハヤカワ文庫)(amazonリンク)
テンプル騎士団の古文書(下)(ハヤカワ文庫)(amazonリンク)

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2010年01月28日

「スカイシティの秘密」ジェイ エイモリー 東京創元社

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実に正統的なファンタジー物語です。

遠い昔に羽根のある人々と羽根のない人々が世界を分かち、互いの交流が絶えたまま、時の経過した世界。

羽根のある人々は、地上から伸びた柱の上に巨大なかりそめの都市を作り、そこで新しい生活を形づくっていきます。一方、忘れ去られたはずの地上でいつくばるように生きていく人々。

ファンタジーといいながら、本書を読んでいて私はトマス・モアの「ユートピア」を何故か思い浮かべました。

人は亡くなると、昇天し、天上の世界(来世)へと生まれ変われる。地上の人々の儚い集団幻想を糧にして、非労働者階級たる宗教者が特権階級として君臨し、搾取する様は、何気に痛烈な現世批判にも通じ、いろいろと暗喩(明喩?)された組織など、実に興味深いです。

と同時に、最初から最後まで人として倫理的に正しいと信じられるような、今では珍しいぐらいに人文主義的精神の発露もみえ、力強さも感じられました。

主人公の少年もくせはあるものの、良い子だもんね。

翻訳の訳文も一語(おそらく苦肉の策でしょうが?)以外は、違和感なく、自然に読めるし、悪くない作品だと思います。

本来ならば、普通に誉めれば良い作品なのですが、正統過ぎて、展開が100%予測の範囲内であり、正直読んでいてドキドキ感や過剰なまでの感情移入、驚き等の気持ちはありませんでした。

淡々と読めてしまい、いささかの読後感はあるものの、物足りないかなあ~というところでしょうか?

まあ、めでたしめでたしで終わる作品もあって良いのかもしれません。

スカイシティの秘密―翼のない少年アズの冒険 (創元推理文庫)(amazonリンク)
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2010年01月17日

「エルサレムから来た悪魔」上・下 アリアナ・フランクリン 東京創元社

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舞台は12世紀のイングランド。カンタベリー・ウォターを生み出すトマス・ベケット大司教殺害後の聖俗間の微妙な緊張状態のさなか。子供達を犠牲者とした、連続猟奇殺人事件が起こります。

ヨーロッパにおける現代にまで続くユダヤ人迫害の歴史の一環として、事件の犯人にユダヤ人社会が疑われ、暴徒による虐殺や焼き討ちが起こります。

そこで登場する探偵役は、かなり異色な女性医師。専門が今で言うなら法医学で、死体解剖や死因究明での権威。ただ、時代背景を考えると、本来有り得なさそうですが、実にうま~く回避していたりする。

当時の国際社会をご存知なら、納得いくでしょうが、当時の世界に名だたる医師教育の先進地、シチリア王国というのがまた一つのポイントだったりする。この探偵さんは、宗教や外国籍等々を問わない、ある意味、超・国際都市サレルノの出身ということで可能性的には、有り得るかも?としているのがなかなか巧妙です(笑顔)。

だって、十字軍でイスラム陣営との交渉で、争い無しに和平条約を結んだあの人物の出身地もシチリア王国ですもんね。歴史を少しでもかじっていれば、ふむふむと頷かされること間違い無しです。

だてに、(よく知りませんが)歴史ミステリ賞とやらをとってはいないですね。

また、その探偵をシチリア王国に求めたのは、何よりもユダヤ人社会の保護の代償として得られる経済的損失に頭を悩ますイングランド国王。

この人物が、実に合理的精神に満ち溢れた、マキャベリズムの体現者たる大政治家で魅力的に描かれています。

中世において、神の秩序の名の下に現世においてもわが世の春を謳歌していたキリスト教社会に対し、したたかに且つ、開明的な視野を持って対処し、徐々に中央集権的な方向性へ向かうその後の歴史の萌芽がありありと見てとれます。

その一方で、中世らしく庶民がいかにも胡散臭い聖人崇拝に踊らされて、聖遺物を有り難がる社会や、またそれを自己の権力の拡大に結び付けることとしか考えられない女修道院長を冷ややかに描写していたり、と冷笑家の英国人好きそう・・・!

日本における歴史物が、どうしてもなんちゃってSFやスーパー伝奇小説みたいなものが多い中では、あくまでも時代としての枠は遵守したうえで、その中で有り得る範囲のミステリーを描くというのは、やっぱり英国の底力ですね。

読み物に貴賎の別はなくとも、好み的にはこちらが私好み。

賢明な読者なら、ご存知かと思いますが、12世紀はまさに『12世紀ルネサンス』の時代であり、かつてのような『暗黒の中世』とは一味も二味も違います。シャルトル大聖堂が体現化するシャルトル学派の思想にも通じていく時代背景を思い浮かべれば、本書を可能にする状況にも納得がいきますね。ふむふむ。

その流れを分かっていて読むと、本書の面白さは倍増します。っていうか、結構、最初は感銘しつつ読んじゃいましたよ~。現代において、世界の金融を牛耳るユダヤ資本が生み出される歴史的過程を理解していると、本書のユダヤ人コミュニティへの保護と迫害も別な感慨を覚えます。

西欧では、非常に微妙な問題なのは今も不変でしょうしね。今年に入ってからも、ピウス何世?とかの列福とかでバチカンに対し、強く抗議しているユダヤ人社会の態度も根は同根です。ヒトラーのユダヤ人迫害について、無言の承諾(?)ともいうべき態度をとり続けた人物の肯定は、そりゃ受け入られないのも無理無いでしょう。

まあ、話がそれてますが、そういったことも含めて日本の学校では、何にも教えてくれない(教師が無知で知らなかったというのもある)実に大切な歴史を改めて認識させられます。

さて、本書の話に戻ると・・・。

現代でも納得がいくようなロジカルな思考と当時でも知られていたと思われる先進的な医学知識を背景に、なかなか素敵な推理を進めていくのと同時に、探偵役を囲む脇役達がなかなか魅力的。

それらも含めて、実に読ませる歴史ミステリーだと思います。最初に非常にはまってしまった反動でもあるのですが、下巻以降になると、探偵役への不満も生まれてくるのが少し残念。

もっともこれは、探偵役の著者設定によるものなので、あとは好みの問題ですね。専門知識は、男性などにも負けない権威であっても、それ以外は、からきし駄目な専門馬鹿という設定の為、探偵役では不可欠な対人交渉や犯人心理の分析とかは、やりたがらないし、かなりボケボケの対応をするのが、かなりいらつくのだけれど、そういうキャラ付けだからなあ~。

個人的には専門知識と共に、したたかな交渉と心理分析で、犯人を追い詰めていくようなものを期待していたので、その点は期待外れでしたが、まあ、これは人によって異なるかと?

ただ、純然たるミステリファンでも楽しめる作品だと思います。インチキ無しの正統派ですから。後は、その舞台設定をどこまで楽しめるか、というまさに歴史物固有の部分をどこまで埋められるかという点でしょうか?

西欧に興味があり、相応の常識があれば、かなり楽しめる作品だと思いました。この作家さんの別な作品も読んでみたいです(笑顔)。結構、お薦めです♪

エルサレムから来た悪魔 上 (創元推理文庫)(amazonリンク)
エルサレムから来た悪魔 下 (創元推理文庫)(amazonリンク)

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「中世シチリア王国」高山博 講談社
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2009年12月03日

「探偵レオナルド・ダ・ヴィンチ」ダイアン A S スタカート ランダムハウス講談社

tanteireo.jpg

実にオーソドックスなタイプの推理小説です。文字通り殺人事件が起り、犯人を突き止める探偵役をレオナルド・ダ・ヴィンチが果たすのですが、視点はワトソン役である弟子のディノによる語りとなっています。

そう、あのディノなのがポイント!

えっ、知らない?
う~ん、そういう方はこの時点で本書を読むのをお薦めしません。ダ・ヴィンチが特に可愛がっていた弟子でいろいろと不穏な噂が漂ったことでも有名なあの弟子の名前なんですが・・・・。

鏡文字や、当時のレオナルドの置かれた時代的境遇なども踏まえて描かれていますので、それらを前提条件として知らないと本書の面白さは半減しちゃいます。

知らなくても読み物としては、ついていけるでしょうが、それはあまり意味がなくなってしまうかも?

床屋が医者でもあるのは、別に珍しいことではないですが、その意味も知らない人にはちょっと・・・ネ。

もっとも、そういうことを知っていても、それほど感動するほどの面白さは無いです。淡々とした読み物レベルです。きちんとしたプロットに沿っているので、読み物として基本はクリアしているのですが、あえてレオナルドである意味も特にありません。

道具立てとして、有名人を使っている以上の付加価値は無いというところでしょうか? 暇つぶしに読んでも悪くないですが、あまりお薦めするほどではないなあ~。

少しだけ粗筋。
ミラノのとある城に技師として雇われてたいたレオナルド・ダ・ヴィンチ。そこで壮大な人間チェスが行われていると、その城の関係者が殺されます。

城主により、犯人探しを指示されるレオナルド。とある事情を持った弟子と二人で犯人探しを始めます。そして・・・。

こんな感じですね。某ダ・ヴィンチ・コード便乗路線の遅れた奴かな?なんか残念な作品でした。途中で弾けるかと期待してたのですが、最初から同じペースでそのまま終わってしまいました。ちぇっ。

探偵レオナルド・ダ・ヴィンチ (ランダムハウス講談社文庫)(amazonリンク)
ラベル:小説 書評
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2009年11月28日

「闇の左手」アーシュラ・K・ル・グィン 早川書房

基本的にファンタジー系好きなんですけどね。ヒューゴー賞とネビュラー賞を受賞している作品ということで読んでみたんですが・・・。

う~ん、どうにも作中の世界に入り込めない・・・。感じるところはあるものの、この世界観を面白い、惹かれる・・・という感じになりません。

読んでいて、段々辛くなってきてしまいました。

読みたい本がたくさんあるし、なんか読んでいるのが時間の無駄に思えてきたので、5分の2ぐらいかな?半分までいかないうちに、読むのを止めました。

惑星間の交流を果たす為の使節が一方の主役。異なる価値観、文化、社会制度の中で、外交交渉を進めるのは、スタ-トレックとかに近しい価値観を思わずほうふつとさせるものの、なんだかねぇ~。

両性を備え持ち、一定の発情期(?)にのみ、性が顕現するのはかたつもりみたいですけど、それが興味深いものには思えなかったりする。

ノリが私の感性を相容れない感じ。タニス・リーの世界とかとも違って、どうも拒否感を覚えるらしい。素敵なファンタジーも読みたいな。最近、あまりその手のと巡り合っていないのは寂しい。

闇の左手 (ハヤカワ文庫 SF)(amazonリンク)
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2009年11月22日

「メディチ家の暗号」マイケル・ホワイト 早川書房

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途中までは結構面白かったんだけどね。最後でぐずぐずの台無しになってしまった作品です。

まあ、小説にありがちなうざったい個人的な家庭環境とか、離婚後の子供の話とか余計な要素はまあ、しゃーないんだけど、一番ウリになる部分である、歴史の中で失われてしまったはずの古代の叡智(ヘロドトスの直筆、古代ローマの風刺詩人マルティリアスの随筆集、ホメロス註解集、プラトンの講話初期写本、アリストレスの原本等々)に関する部分が書名の列挙で終わってしまい、実に興醒めな結末でがっかりしました。

著者がディスカバリーチャンネルのコンサルタントとか経歴に書かれていますけど、本当にそうなの? と疑いたくなるレベルの薄っぺらさです。

ユマニストの求める最高の宝という位置付けの、古典知識ならば、12世紀ルネサンスも絡ませろよ~。あるいは、トレド経由とか、シチリア有りだろ。舞台がイタリアのくせにシチリアが出てこないのは、無知を疑われかねません!

調べなくても分かるルネサンスへ至る歴史の常識なんだから、わざと省いたのかもしれませんが、正直かなりの違和感を覚えます。つ~か、読者なめてる?

あ~無駄な時間を費やした。翻訳が悪いのか分かりませんが、文章自体もあまり良くありません。なんかしっくりこないし、無意味な秘密結社とか謎解きも、深みが無くてくだらないの一言に尽きる。

それでも、稀覯本つ~か、人類に残された叡智たる古代の文献とかの説明で薀蓄でも語られるかと期待してたんですが・・・、一切触れられていません。がっかり・・・。

「薔薇の名前」の爪の垢でも煎じて欲しいッス。


【ネタばれ有り、未読者注意!】








薬絡みでメディチ家、メディチ家だから薬なのかもしれませんが、隠された宝が本じゃないのはいただけません。つ~か、その宝の設定自体が思いっきり駄作になっています。架空の物質でもなんでもいいのですが、読者になるほど~と思わせるぐらいの蓋然性が無いと意味ないっしょ。

登場人物が行動・思考パターンとしても2流並みだし、過去の事件当時と現在を比較並行して物語る手法もいささか手垢がついた感があり、しかもそれが効果的でもないのは、更にイタイ。

メディチ家のサン・ロレンツォ教会なら、私も行った事あるし、確か五線譜の写本とかも見た覚えがあるけど・・・。本書でいうメディチ家の礼拝堂ってここの教会がモデル? 元のイメージの片鱗もないけど?

メディチ家である必然性もなく、ただキャッチーな点で選んだだけなのでしょう。フィレンツェの洪水の件も、もう少し効果的に利用できなかったのでしょうか・・・。

最後の方は、頁合わせで強引にまとめようとしますが、説明が無いまま、強引且つ勝手に終わらせられてしまい、意味不明です。いろんな意味で残念です。ふう~。

じゃあ、ちょっとだけ粗筋を。
メディチ家礼拝堂でルネサンス期の遺体を調査していると、関係者が次々に殺されていきます。定番である老コジモの遺体を調査していると奇妙なモノが見つかります。それに隠された秘密。

秘密を求めて暗躍する組織。

老コジモの若かりし頃の冒険とは? 人文主義者(ユマニスト)達の求める最高の宝とは・・・? 想像もしなかった宝のオマケとは?

まあ、そんな感じかな?

知的サスペンスとか宣伝に書かれていますが、知識水準の高い方には不満が残るであろう一冊です。レベルはかなり低いです。安っぽいサスペンスが適切な評価かと。

メディチ家の暗号 (ハヤカワ文庫NV)(amazonリンク)

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「十二世紀ルネサンス」伊東 俊太郎 講談社
「十二世紀ルネサンス」チャールズ・H. ハスキンズ(著)、別宮貞徳(訳)、 朝倉文市 (訳)みすず書房
NHK世界遺産~中世の輝き 永久の古都 スペイン・トレド~
「中世シチリア王国」高山博 講談社
「ヨーロッパの歴史的図書館」ヴィンフリート レーシュブルク 国文社
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2009年04月16日

「古城の迷路」ドロシー ギルマン 集英社

表紙の絵があまり好きではないタイプでしたが、魔術師が出てきたり、迷路を彷徨ったりするファンタジーっぽいノリでしたので読んでみました。

途中までパウロ・コエーリョ的な感覚で人生に前向きに立ち向かっていく方向性を示し、常に勇気をもって事に当たる姿勢に好感を持っていました。久々に、コエーリョに次ぐ傑作かと期待したのですが・・・。

いつのまにか、無意味な戦闘があったり、思わせぶりでありながら、深みがない台詞に正直途中から、かなり冷ややかに読むようになりました。

更に、途中で人に裏切られる件も何の意味も教訓さえも見出せず、不可解なうえに、最後の終りは・・・笑止!
駄作以外の何物とも思えません。

コエーリョの作品の本質を抜き取り、どうでもいい部分や空虚な思わせぶりな台詞だけで作ると本作レベルになります。

たぶん著者ってイギリス人ではないと思います。アメリカ人じゃないかな? イギリス人ってもっと考える人多いし・・・。伝統が違うっしょ! いろんな意味で表面的過ぎて、中身が無いんだもん。がっかり。

タニス・リーの片鱗さえ見受けられないし、コエーリョとは似ても似つかないスケールの小ささです。

一応、粗筋話すと、両親を失った孤独な少年が世の理不尽を嘆いて、そこからの解決を目指し、古城の中の迷路へと旅に出ます。旅の途中で様々な困難にあい、少年はいろいろなことを体験し、学んで成長していくという物語ですが・・・。

コエーリョやタニス・リーを読んだ後に、本書を読むと絶望感というか徒労感に襲われます。特に最後の部分は、呆気に囚われた後、著者の手抜きとしか思えなくて憤りを感じました。決して、余韻を残したり、読者に考えさせるような意味合いではないと思います。

私だったら、知人に絶対別な本をお薦めします。

古城の迷路 (集英社文庫)(amazonリンク)

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「アルケミスト」愛蔵版 パウロ コエーリョ 角川書店
「闇の公子」タニス・リー 早川書房
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2009年02月07日

「聖なる遺骨」マイクル バーンズ 早川書房

まだこの手の本あったんだなあ~というのが第一の感想です。出版された年から言えば、ダ・ヴィンチ・コードブームに乗って出された本ですね(ニヤリ)。

テーマ自体も今ではいささか食傷気味で、手垢がついた感さえあるイエスの遺骨を巡る争いです。

復活してあるはずのないイエスの遺骨が実在したら、キリスト教は崩壊し、磔刑での死もなかったというコーランの教えに誤りがあることでイスラム教もダメージを受ける。

それにエルサレムという聖地の領有権など、高度に政治的な思惑が絡まり、キリスト教(バチカン)・イスラム教・ユダヤ教(イスラエル)が複雑に関わりながら、熾烈な駆引きが繰り広げられます。

さらに歴史的な各種事実に、伝説が加わり、テンプル騎士団の虚実をミックスしてカクテルしたら、ちょっと興味を惹きますよねぇ~(笑)。

それに昨今ブームだった人ゲノム解析の話題をうまく溶け込ませて、現代風の味付けをしています。ネタは、よく調べたうえで上手に料理していると思います。ただ、私は元ネタ全部分かったけど・・・。

読書をぐいぐい引っ張り、ドキドキさせて読ませるエンターテイメント系の小説ではなく、淡々と読ませるタイプの小説です。一応、アクションシーンもありますが、おまけですね。基本は、静かにストーリーが進みます。

それほど盛り上がりもないのですが、時事ネタを存分に仕込んでいるので、知っている人ならば、それなりに面白いと思います。知らなかったら、どうかなあ~? 微妙?

単なる小説としては、イマイチ。初期キリスト教の事をある程度、知っている人なら、ニヤリとできる部分のある小説です。Q文書とかグノーシス系の話とかね。エッセネ派とか。

著者はよく勉強しているし、翻訳は読み易いです。でも面白さは微妙な本でした。読んでる時は、それなりなんですけどね。よくある系の小説です。

聖なる遺骨 (ハヤカワ文庫NV)(amazonリンク)

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「イエスのビデオ」〈上)〈下〉 ハヤカワ文庫NV
「イエスの古文書」アーヴィング ウォーレス 扶桑社
「イエスの弟」ハーシェル シャンクス, ベン,3 ウィザリントン 松柏社
イエスの兄弟の石棺は偽物 CBSニュースより
「聖典クルアーンの思想」 講談社現代新書
「イエスのミステリー」バーバラ・シィーリング著 感想1
「イエスの遺伝子」マイクル コーディ 徳間書店
「キリストの墓」発見か――「妻」マグダラのマリアと息子も?
古代ユダヤ王国・ヘロデ王の墓を発見
「死者の季節」上下 デヴィッド・ヒューソン ランダムハウス講談社
「法王暗殺」デイヴィッド・ヤロップ 文芸春秋
「クムラン」エリエット・アベカシス著 角川文庫 
バチカン法王庁、テンプル騎士団の宗教裁判の史料を700年ぶりに公開
神秘的なテンプルマウントの人工物がダ・ヴィンチ・コードを惹起させる
ラベル:小説 書評
posted by alice-room at 08:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 海外小説B】 | 更新情報をチェックする