日本語のタイトルが良くないんだけどねぇ~。素直に英語版の直訳にした方が、エセインテリ的な想定読者層には受けるような気がします・・・私には。
本来の原著タイトル:
The hidden role of chance in life and in the markets
Fooled by Randomness
この本を読んで楽しめる読者層って、実は日本ではそんなに多数派ではないと思う。だって、株式投資の基本中の基本である確率論でさえ、理解していない投資家が大半だろうし、本来なら一番分かっているはずの専門家(本書内でもクウォンツとか経済学者が往々にして、間違っている点を指摘している)がある意味、最大の障害つ~か、認めたがらない内容だろうから!
誰だって、成功したと思っている(又は世間一般からそう誤解されている)人々を単純な確率上の一事象でしかないと言われたらねぇ~。なかなか受け入れられないでしょう。まして、著者はかなりのマスコミ嫌いっていうか、徹底的にその存在価値を否定しているかのように見える姿勢で、もっともらしい肩書きでTVや雑誌に出ているだけでちやほやされている人々や、間違いだらけの情報もどきを垂れ流しているメディアをあげつらっている以上、拒否反応を示す人達の方が多いかもしれません。MBAでさえ、使えない奴等というか市場から消えてしまう人々と言っちゃてますから(笑)。
勿論、私などもしっかりメディアに踊らされている方に含まれる反面、相当軽蔑し、嫌っている首尾一貫しない日和見野郎ですけどね。
しかし、そんな私が読んでも本書は、大変示唆に富み、そこで主張される説明が今まで読んだ経済学の本とは、ある種異なった次元で、より合理的だと思えました。
例えば、ずいぶん大昔に読んだ証券アナリスト関係の参考本の「証券投資論」「経済学とファイナンス」や、院生時代に読んでた「金融論」堀内昭義、「金融論入門」芹澤数雄、「金融」館龍一郎・浜田宏一、「証券投資の理論・方法・戦略」水野宣広、「現代経済学の数学基礎」A.C.チャン、確率論は洋書で学んだがタイトルが見つからないなあ~。まあ、そんな本達で学んだファイナンス理論に対して、それ自体が誤りではないが、実際に適用する場面で前提条件が明らかに異なる点(無意識下に無視している点?)を指摘しているという事もできると思う。
是非、証券アナリストの参考文献ぐらいには入れておいて欲しいと切に思う。だって、あの試験内容、それほど高くないもん。(すみません、受けてもいない私が言うと説得力がないかもしれませんが)
問題なのは、あの程度の試験に対しても、とりあえずテストさえ受かればいいというので表面的なことしか理解せずに勉強し、受かっている人達。まあ、何も知らないで個人的なジンクスだけでごもっともな投資理論とかほざいているいる自称・カリスマ投資家やらよりはなんぼかマシかもしれませんが、合理的市場仮説なんて、イデア論の域を出ないだろうなあ~。
もっとも、本書は経済学の素養(+柔軟な頭)があるとすこぶる面白い本ですが、基本的な確率論と論理的に思考さえできれば、表面的には数式などは出てきませんし、誰でも理解できるかもしれません(勿論、100%の理解はできません。私なんかもっと低いレベルの理解でしかありません)。
ある種、純粋な思考実験の賜物ともいうべき作品です。しかし、そこに描かれた内容は、心ある方には絶対に何かしら『気付き』や『衝撃』をもたらすことが書かれています。
いかに自らが気付かないうちに偏った(バイアスのかかった)情報や確率下で、本来想定されるような合理的意思決定が行われていないのか、また、そうすること(=非合理的な決定・選択)自体が何故、一般的に行われ、それはそれで別種の合理性に支配されているのか? そんなことを考えさせてくれます。
知的好奇心旺盛な方、自分が合理的な投資行動を取っていると過信(誤解?)している方、是非、本書をお薦めします。本書を読んだうえでも自分の行動が理にかなっていると思える方は、素晴らしい!! 是非、お友達になりたいです。貴方が教条主義者でそもそも合理性を放棄した方でなければ・・・の話ですが。
理系・文系を問わず、ロジカルな思考さえできるならば、絶対に本書の面白さは分かると思います。著者の全ての主張を肯定するということではありませんが(ここがポイント! 著者も言ってるが、懐疑主義であることが大切なのです)、この手のジャンルの中で本書はここ数年来で一番の良書だと思います。
あっ、念の為、書いておきますが、本書を読んでも株で儲かるとかそういう点には、全く直結しません。むしろ、仕事をしていくうえではマイナスになりかねないでしょう。出世するのは、たまたま偶然で仕事がうまくいった事象が連続し、それを自分で仕事ができると誤解したことでアドレナリンを分泌し、いかにも仕事ができそうなフリをしている人である場合が、実に多いことを指摘しちゃうような本書です。
気をつけないと、同僚や上司に後ろから刺されます(爆笑)。
でもね、実際に実力や能力が伴う場合もあることは、当然ながら肯定しています。その一方で、そうでない場合でも外見上は変わりがないように見えてしまうのが問題だと指摘しているのですが、本書を誤解というか曲解してしまう人は、その辺を頻繁に指摘するみたいです。
日本のマスコミもアメリカのマスコミも、その手の曲解お得意ですし、職業的宿命なんでしょうけど、実に社会にとっての害悪ですね。元々は、情報を周知する素晴らしい機能を持っているのですが、往々にしてノイズを撒き散らし、合理的判断への悪影響の方が昨今多いので、考えものです。
とにかく、読む読まないは別にして、一度は書店か図書館で手にとって目を通して欲しい本です。100人中一人でも本書のことで『気付き』があれば、社会は少しづつでも良くなると信じたくなりますね、私。
本当は、本書内で述べられている具体的な内容をもっと書きたい気もしますが、読んだ時の感動というか面白さが半減しますので自粛しますね。
著者の関心事の幅は実に広範囲です。文学から歴史、芸術、数学、哲学等々。暇さえあれば、本を読み漁って、暗く思考実験しているタイプ(?)。でも、ユーモアの感覚は失っていません。大学の先生とトレーダーの二色のわらじをはくだけあって、本当に魅力的な本です。
私自身は、学生時代、「不確実性下の意思決定」(情報の非対称性含む)が一番勉強していて面白かったのですが、まさに本書はそこをついているわけで、楽しくてしょうがなかったです!!
私自身の一見すると不合理な行動(転職等)も説明がつきそうだけど、人事担当者は理解できないだろうなあ~(苦笑)。説明できても、別な意味で雇われ人としては不適格とか言われそう・・・。
とにかく、私的には最高に面白かった本の一冊でした(満面の笑み)。
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【ちょい、個人的メモ】
本書の中で出てくるサイモンの「経営行動論」。著者は評価しているけど、本当かなあ~。私も読んだし、サイモンの直系の弟子に講義も受けたが、内容は面白いけど、それ以上に発展するものとは思えなかったんだけどねぇ~。
証券投資論の青山先生いわく、「一番いい投資戦略? 赤字会社の今にもつぶれそうな価格の株を適当に多数(種類)買っておけば、どれか黒字になって大儲けできるさ。」とおっしゃっていたことを思い出す。
まあ、ボラティリティを考えりゃ正論だし、現実的にも実効性がありそうだが、博打以外の何物でもないので心理的葛藤があったことを思い出した。合理的市場仮説なんて、まさに仮説以外の何物でもないが、それに市場が近い存在なら、上記の話さえも有り得てはいけないのだが・・・。
【目次】
はじめに:知識を真に受けてはいけない
各章の要約
プロローグ:雲に浮かんだモスク
第I部 ソロンの戒め:歪み、非対称性、帰納法
第1章 そんなに金持ちなら頭が悪いのはどうしてだ?
第2章 奇妙な会計方法
第3章 歴史を数学的に考える
第4章 たまたま、ナンセンス、理系のインテリ
第5章 不適者生存の法則:進化は偶然にだまされるか?
第6章 歪みと非対称性
第7章 帰納の問題
第II部 タイプの前に座ったサル:生存バイアスとその他のバイアス
第8章 あるいはとなりの億万長者でいっぱいの世界
第9章 卵を焼くより売り買いするほうが簡単
第10章 敗者総取りの法則:日常の非線形性
第11章 偶然と脳:確率をわかるのに不自由
第III部 耳には蝋を:偶然という病とともに生きる
第12章 ギャンブラーのゲンかつぎと箱の中のハト
第13章 カルネアデス、ローマへきたる:確率論と懐疑主義
第14章 バッカスがアントニウスを見捨てる
エピローグ:ソロンの言うとおり
あとがき:シャワーを浴びながら振り返る
図書館へ行く:付注
図書館へ行く:参考文献
索引
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