ロシアの一流思想家が、ユーラシア安全保障を巡る自国とインドの違いについて説明(抄訳)
2024/11/29のアンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。ロシアとインドの間には幾つもの相違点が存在するが、両国のプラグマティックな戦略的パートナーシップが依然として強固であることは、露中関係よりも印象的だ。
A Top Russian Thinker Described His Country’s Differences With India On Eurasian Security
ロシアとインドは、2022年にグローバルなシステム移行が空前の速度で加速化し始めてから、多極化プロセスを共同で加速させて来た緊密な戦略的パートナーだ。両国の間に深刻な意見の相違は存在しないが、何もかも同意見と云う訳でもない(これは極く普通のことだ)。
その食い違う問題のひとつはユーラシアの集団安全保障だが、これについてロシア国際問題評議会の元事務局長アンドレイ・コルトゥノフが「(ユーロ)アジア(Eur-Asia)に於ける集団安全保障:モスクワとニューデリーの視点」と云う記事で解説している。
1)課題の解釈
ロシアはユーラシア超大陸に於ける安全保障上の中核的課題は海外の大国(以前は英国だったが現在は米国)から来ていると考えているが、インドは自分達が「アジアの一極化」を防ぐ上で不可欠だと考えている。従ってロシアは米国とのバランスを取ろうとし、インドは中国とのバランスを取ろうとする。
2)インド太平洋構想
ロシアはインド太平洋構想について、中国を封じ込め、より広い地域を米国に従属させる手段と考えているが、インドにとってはこれは自国と日本が共同で提案した構想だ。これは反ロシア的ではなく、インドはロシアの「クラブへの入場券」として機能することが出来る。
3)集団安全保障
ロシアはユーラシアの集団安全保障について、超大陸全体を包含し、制度化されるべきだと考えているが、インドは正式な約束抜きで、地域に焦点を当てるべきだと考えている。
4)発想方法
ロシアが演繹的であるのに対し、インドは帰納的である。例えばロシアは米国は常に覇権を求めているので、QUADもその為のプラットフォームだと考えている。他方インドはQUADの一員ではあるが、戦略的には自立している。反対に、ロシアは中国は覇権的な米国に封じ込められているので覇権的ではないと想定しているが、インドは国境での中国の行動を覇権的だと考えている。
5)安全保障と開発の概念
ロシアは安全保障と開発が手を取り合って進むと信じているが、インドは、中国との緊張関係が両国間の貿易の減少に繋がらなかったのと同様、インドとの緊密な安全保障関係が自動的に緊密な経済協力に繋がる訳ではないことを示した。
6)両国が体現するもの
インドは台頭する大国として、通常は修正主義的な目的を支持すると思われているが、実際には漸進的な改革を伴った現状維持を好む。対照的に、ロシアは確立された大国であり、通常は現状維持を支持すると思われているが、実際には修正主義的な目的を支持している。———コルトゥノフはこのパラドクスについて詳しく立ち入ってはいないものの、既存の国際関係理論の重大な欠陥を示唆していると思われるので、関心の有る専門家達によるより深い考察と研究に値するだろう。
まとめ
以上6つの相違点にも関わらず、この重要な移行期に両国の協力が損なわれていないことは注目に値する。これらの相違点は、ここ数世紀の異なる政治史、現在の国際システム内での異なる役割、そしてその結果形成された異なる戦略文化に起因するものだ。
インドとロシアはインドと中国とは異なり、地理的に離れている為、相違点が相反する利益に繋がる様な分野が存在しない。寧ろ両国の違いは関係拡大に役立った可能性さえ有る。従って共通の利益を推進する為に、両国は更に緊密に協力する必要が有る。
代替メディアでは露中関係は世界に於けるプラグマティックな関係の好例と言われることが有るが、露印関係の方が更に適切な例と言えるかも知れない。中国はインドよりもよりロシアと意見が一致しているが、印露の戦略的パートナーシップが引き続き強固であることは、中露の戦略的パートナーシップよりも印象的だ。
A Top Russian Thinker Described His Country’s Differences With India On Eurasian Security
ロシアとインドは、2022年にグローバルなシステム移行が空前の速度で加速化し始めてから、多極化プロセスを共同で加速させて来た緊密な戦略的パートナーだ。両国の間に深刻な意見の相違は存在しないが、何もかも同意見と云う訳でもない(これは極く普通のことだ)。
その食い違う問題のひとつはユーラシアの集団安全保障だが、これについてロシア国際問題評議会の元事務局長アンドレイ・コルトゥノフが「(ユーロ)アジア(Eur-Asia)に於ける集団安全保障:モスクワとニューデリーの視点」と云う記事で解説している。
1)課題の解釈
ロシアはユーラシア超大陸に於ける安全保障上の中核的課題は海外の大国(以前は英国だったが現在は米国)から来ていると考えているが、インドは自分達が「アジアの一極化」を防ぐ上で不可欠だと考えている。従ってロシアは米国とのバランスを取ろうとし、インドは中国とのバランスを取ろうとする。
2)インド太平洋構想
ロシアはインド太平洋構想について、中国を封じ込め、より広い地域を米国に従属させる手段と考えているが、インドにとってはこれは自国と日本が共同で提案した構想だ。これは反ロシア的ではなく、インドはロシアの「クラブへの入場券」として機能することが出来る。
3)集団安全保障
ロシアはユーラシアの集団安全保障について、超大陸全体を包含し、制度化されるべきだと考えているが、インドは正式な約束抜きで、地域に焦点を当てるべきだと考えている。
4)発想方法
ロシアが演繹的であるのに対し、インドは帰納的である。例えばロシアは米国は常に覇権を求めているので、QUADもその為のプラットフォームだと考えている。他方インドはQUADの一員ではあるが、戦略的には自立している。反対に、ロシアは中国は覇権的な米国に封じ込められているので覇権的ではないと想定しているが、インドは国境での中国の行動を覇権的だと考えている。
5)安全保障と開発の概念
ロシアは安全保障と開発が手を取り合って進むと信じているが、インドは、中国との緊張関係が両国間の貿易の減少に繋がらなかったのと同様、インドとの緊密な安全保障関係が自動的に緊密な経済協力に繋がる訳ではないことを示した。
6)両国が体現するもの
インドは台頭する大国として、通常は修正主義的な目的を支持すると思われているが、実際には漸進的な改革を伴った現状維持を好む。対照的に、ロシアは確立された大国であり、通常は現状維持を支持すると思われているが、実際には修正主義的な目的を支持している。———コルトゥノフはこのパラドクスについて詳しく立ち入ってはいないものの、既存の国際関係理論の重大な欠陥を示唆していると思われるので、関心の有る専門家達によるより深い考察と研究に値するだろう。
まとめ
以上6つの相違点にも関わらず、この重要な移行期に両国の協力が損なわれていないことは注目に値する。これらの相違点は、ここ数世紀の異なる政治史、現在の国際システム内での異なる役割、そしてその結果形成された異なる戦略文化に起因するものだ。
インドとロシアはインドと中国とは異なり、地理的に離れている為、相違点が相反する利益に繋がる様な分野が存在しない。寧ろ両国の違いは関係拡大に役立った可能性さえ有る。従って共通の利益を推進する為に、両国は更に緊密に協力する必要が有る。
代替メディアでは露中関係は世界に於けるプラグマティックな関係の好例と言われることが有るが、露印関係の方が更に適切な例と言えるかも知れない。中国はインドよりもよりロシアと意見が一致しているが、印露の戦略的パートナーシップが引き続き強固であることは、中露の戦略的パートナーシップよりも印象的だ。
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