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「他のじゃだめなの? それを、返してよ」「モーリス?」「もともとおじいさんの船だったんだから」「でも、仲良くなったひとに絵をかいてもらったのに? それに、わたしにくれたんでしょ?」 モーリスはそっと唇をかんでいます。彼の言いたいことはわかっています。モーリスは、この箱を教会におさめるか、海に流すつもりでいたのです。でも、わたしが彼のためにいろいろと気遣いをしたので、旅の思い出を感謝の気持ちとして贈...全文を読む
モーリスはわたしと違って感じやすい、やわらかな心の持ち主でした。それでいていろんなことに執着して、かわいそうなほどこだわるのです。おじいさんの船を、お父さんが売り払ってしまったことにいちばん傷ついたのも彼でした。おじいさんは、パリで亡くなったのです。海の見えるこの家でなく、病院のベッドの上でした。奇しくもそれは12月30日、聖ヤコブ様の埋葬された日のことです。 だから、ふたりだけになってすぐ、モ...全文を読む
そのあと、家族はひさしぶりにそろってホテルのレストランに集まりました。お父さんは明日朝早くに帰らないといけないので、すこし不便なところにあるおばあさんの家には泊まろうとしなかったのです。娘をカトリックの寄宿舎つきの学校に入れながら、お父さんにとって、深い信仰をもつおばあさんたち――亡くなったおじいさんとふたり――は、どうにもなじめないひとたちなのでした。嫌いというのではありません。いっそ、そういう強...全文を読む
それから、わたしたち三人はタクシーに乗って聖ヤコブ様の遺骸が納められたサン・ティアゴ・デ・コンポステラへむかい、大聖堂の前の広場におろしてもらいました。 おばあさんはもうさっそく、胸の十字架を握って目を閉じていました。その目じりには大粒の涙がうかんでいます。モーリスはそれを見ないようにして、わたしの横顔を見つめました。 モーリスは、最後にあったときよりもずいぶん背ものびて日焼けして、なんだか思っ...全文を読む
「モーリス!」 名前を呼んだのが、ほんとうに猫だったのかどうか、そのときにはもう、わかりませんでした。「モーリス、モーリス、いるのかい、モーリス!」 ドアをせわしなく叩く音がして、ああ、あれはおばあちゃんだ、と気づきました。おばあさんはおかあさんとそっくりで、せっかちなのです。そう思ってから、それは順番がぎゃくなことに気がつきました。 彼はそれからぱっちりと目をあけて笑いました。見覚えのない天井...全文を読む
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