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いくらか書き残したことがある。 おれはあなた宛の書簡のふりをして、このはなしをしはじめた。じっさいに、あなたがこれを読むことがあるのかどうかはわからない。ただおれは、あなたという稀有な「夢使い」について、書き記さずにはいられないのだ。「あなた」についてはもう、諦めた。それはおれの「仕事」ではないし、ほんとうのところ、あなたのことは誰にも知られたくないのだ。おれが何をおいても語りたいと願う「あなた...全文を読む
スタンディングオベーションの観客のなか席を立った。隣りの弟子はあわてて俺の袖を掴んだが、俺はその手にそっと触れて頭をふった。それから苦労して扉の外に出ると弟子が駆け寄ってきた。「先生、どうしてっ」「どうしてもこうしてもない。彼女がそばにいたのに気付いただろう。邪魔になる」「でもっ、でも……っ」 泣いていた。この子は怒っているときに泣く。俺は、その肩に手をやってそっと抱き寄せて囁いた。「本当にどうも...全文を読む
叔父からメールが届いたのは試写会のほんの数日前のことだった。ぶっきらぼうをとおりこして、この国の言葉を忘れた人間のような文面だった。だったら外国語で寄越せと毒づいたほどだ。とはいえ、それがらしくもあっておれはため息と同時に微笑んだ。 著名な映画監督のもとに出入りしていた過去が功を奏したのか、はたまたその後にまた違う映画賞を受賞したせいか前評判はよかった。いわば凱旋映画なのだからと張り切った代理店...全文を読む
教授から呼び出しをくらう。花冷えのキャンパスを足早に横切った。職員は彼女をのぞいておれよりすべて年上という資料館からこちらへ来ると、学生たちが文字通り眩しくみえた。新入生は十代か。まだそのころ、あなたを知らなかった。反射的にそうおもう。 教授の気に入りのソファに腰かけてコーヒーを飲んでいると、端末に悪友から飲みの誘いが入った。気分じゃないと断るが、折り返し、海外におまえと同じ苗字の映画監督がいる...全文を読む
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