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平野陽子は十一年前に夫とともに利根川沿いのベッドタウンへ越してきた。 その前は、東京都北区十条のマンションに住んでいた。すべてがアーケードになった商店街で有名な土地だ。陽子も夫も、十条銀座がテレビに出るとかかさず見ることにしている。そして、かつてよくいった洋食屋のマスターが目に見えて老けて白髪が増えただの、あそこのカフェは雑誌やテレビで噂になるがそれほどでもなかっただのと言い合う。そのくせ一度た...全文を読む
ため息をつくと幸せが逃げるというけれど、この半年でどれほどそれを逃しただろう。いや、この十一年の暮らしでついたため息をすべて数えあげたら、幸福が逃げるどころではないはずだ。 そう考えて陽子の唇からまた重苦しい吐息がもれた。頭痛がする。身体のあちこちが痛み、涙が出る。鏡台の横に立てたイーゼルにある描きかけのキャンバスを眼にすると、嗚咽はさらに激しくなった。 あれほど祝福されて結婚したのに、子どもを...全文を読む
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