ビジネス視点からBOP市場を語る
 その1:BOP市場の特徴
 その2:ターゲット市場の特定
 その3:マーケティング・ミックス Product / Price / Place / Promotion
 その4:日本企業への提言
 その5:市場を開拓する人材要件

前回のエントリから随分時間がたってしまったが、BOP市場に対してのマーケティングに関して論じてみたい。(今後も週に1回の頻度で更新できればと思う。)今回はターゲット市場(国や地域)の選定の際に意識すべきことに関して述べる。既にBOP市場でビジネスに取り組んでいる方にはあたりまえのことばかりかと思うが、これから海外に進出したいベンチャー企業、あるいはこれから就職活動に取り組む学生の皆さんにとっては視点を整理するひとつの参考になるのではないかと思う。


■ターゲット市場の特定

BOP市場といっても、国や都市によって実態は様々で、一括りに議論するのはなかなか難しい。状況に応じて進出に適した国もあれば、時期尚早の国もある。進出する国を見極めるにあたって、最低限抑えておきたいのは下記の3点だ。

1)人口構造の変化
2)取引統治能力
3)自社が保有する強み


以下、詳しく述べる。


1)人口構造の変化

P.F.ドラッカーは、「人口構造の変化がもたらすものは予測が最も容易である。しかも、リードタイムまで明らかである。」と述べている。進出するターゲットを選択する際に、

人口の規模と合計特殊出生率は現在と将来の市場の魅力をはかる良い指標となる。
一般に経済成長に伴って、人口は多産多死型→多産少死→少産少死と変化する。これは下記のグラフを見て頂ければ明らかだろう。(gapminderにて作成。縦軸に合計特殊出生率、横軸に一人当たり実質GDPを取っている。円の大きさは現在の人口を表す。合計特殊出生率は2.08を超える国は人口が将来的に増加する国とされている。)

population

グラフでは、人口の多い上位15カ国をマーキングしている。
人口が多い国、及び人口が今後増える国(合計特殊出生率が2.08以上の国)が魅力的なターゲットとなる。
  • グラフの左上のエリアは出生率は高いものの、人口及び経済規模が小さい国々。経済が未発展で多産多死の人口構造になってしまっている。これらの国々に必要なのは政治の安定と、政府や国際機関を通じた援助や介入だ。後に述べるが、支援は途中でブラックマーケットに流れてしまうこともある。政治が安定すれば、経済が急速に発展する可能性を秘めた国々だ。これらの国々に関しては現地の政治状況を正確に把握することが、マーケット進出に向けた第一歩となる。
  • グラフの中央よりやや下よりに属する国々は、経済発展を始めた新興国と言われる国々だ。急速に経済が発展し、医療・衛生環境が劇的に改善し、多産少死の人口構造になった国々だ。これらの国々(特に大きな人口を保有する国々)は、マーケットが爆発的に成長する可能性を秘めている。進出する際には、後に述べる取引統治能力に関して確認するとともに、自社の強みを活かせる市場かどうかを把握する必要がある。
  • グラフの右下エリアは経済は十分に発展しているものの、少子高齢化を迎えようとしている国々だ。(アメリカのような例外もある。)BOP市場を保有する側ではなく、BOP市場に目を向ける側の国々だ。

もちろん、人口や出生率が全てではない。購買力が低い国(BOP市場を保有している国)は、どこであっても、今後経済を発展させ、購買力を高めることによって、魅力的な市場となりうる。人口や出生率は非常に大事な指標ではあるが、ビジネス展開を助ける一要素に過ぎないことは意識しておきたい。


2)取引統治能力

人口の次に確認しなければならないのは、各国の取引統治能力だ。

取引統治能力とは、社会が経済取引のプロセスにおける透明性を保証する能力であり、商取引を後押しする能力のことを指す。プロセスがガラス張りになることで、取引コストは大きく削減される。インドは規制の撤廃と自由競争の促進を掲げたナラシマ・ラオ政権に変わってから、大きく成長を遂げたが、未だ取引する上で様々な汚職がはびこっており、BOP層は貧困ゆえの不利益を未だ被っている。

また、取引統治能力が低い国に対しては、政府を通じた援助が行われても十分に機能しない。それは、援助物資や資金が現場に届くまでに、賄賂等の汚職によって大部分が失われてしまうからだ。

ネクスト・マーケットによると、取引統治能力は大きく3段階に分類できるという。
  1. 専制的で独裁的な国。法律は存在せず、存在しても施行されない。コンゴがこの代表例だ。欧米に見られる民間企業の発展は、ここではほとんど起こりそうにない。唯一見込みがある海外直接投資は、鉱物資源の採掘に集中している。
  2. 市場経済の法律や制度が存在する国。民間企業は活発だが、国は潜在する自らの能力を活用できていない。インドが適例である。一方、GDPの伸びは大きいが、基礎となる法制度が十分発達していない国もある。中国が代表例。
  3. 十分発達した法律、条例、制度や施行体系が存在する国。米国が代表例。
マッピングすると下記のようになる。インドは法制度は優れているが、施行する能力に欠け、中国は法制度は整備されていないものの、官僚が介入し、官と民の利害調整を行うことで、契約に確実性を保証してきたという。

trade


1に属する国の市場(コンゴやソマリア)に民間企業が参入するのは大変に難しく、国際機関や周辺諸国による介入・対話を通じて、該当政府の上層部が経済発展の重要性を認識し、法制度を整備するよう働きかけることが大事になる。

また、2に属する国(インドや中国など)に関しては、初期段階こそ、国の商慣習に従う必要があると思われるが、ビジネスを通じて、取引統治能力を高めて行くことに貢献できる。

BOP市場で成功している企業はすべて、関係会社や顧客、そして政府すらも教育することによって、取引統治能力を高める活動を行っている。BOP市場の顧客は、低い取引統治能力のために不利益を被っているので、公正な取引を実現することによって、顧客に大きなメリットを提供することができるようになる。結果的にそれは、企業の成長に繋がる。


3)自社が保有する強み


最後に意識すべき点は、「自社が保有する強み」だ。

国が持つ固有の文化や法制度に関して深い理解をしていることは、ビジネスを展開するうえで非常に有利に働く。既に深い取引関係のある国、何らかの人的コネクション(社員の出身地、留学先、知人etc..)がある国は、有力な進出先となる。

進出する前に、社内及び周辺のリソースを事前に確認しておくことは非常に重要だ。



今回は市場選定の際に注意すべき視点を述べたが、次回はマーケティング・ミックスの視点から、どのようにPrice/Product/Place/Plomotionを検討して行くべきか述べたい。