ビジネス視点からBOP市場を語る最近、日本でもようやくBOP市場を対象にしたビジネスが注目を集めるようになってきた。昨年、経済産業省でもBOPビジネス政策研究会が発足し、今年は本当の意味でBOP元年といえるような年になるかもしれないと感じている。
その1:BOP市場の特徴
その2:ターゲット市場の特定
その3:マーケティング・ミックス Product / Price / Place / Promotion
その4:日本企業への提言
その5:市場を開拓する人材要件
僕自身はGiftという香港に本部のある独立系シンクタンクの日本事務局メンバーでもあるし、この大きな可能性を秘めた市場に関しては、大変興味深く調べているが、日本でのBOP市場の取り扱いに、不満な面がないわけでもない。
それは、BOP市場を語るときに、何かと社会起業とセットで語られたり、BOPビジネスの成功には志や多文化コミュニケーションの姿勢が必要といった点ばかり強調して語られる点だ。
もちろん、BOPビジネスは社会起業の側面もあるし、志だって必要だ。しかし、ほかのビジネスだってそうだろう。社会に貢献する、高い志を持つ。それを大前提としたうえで、全力を尽くしてしたたかに取り組まなければ成功などおぼつかない。そして、成功しなければBOP市場を持つ国々とwin-winの関係を築くことすらできないのだ。
そこで、あえてビジネスの側面を強く打ち出してBOP市場を語るエントリを何回かにわけて書きたいと思う。(多分、BOPがらみのエントリは週一ぐらいのペースでゆっくりと書いていきます。マーケティングやイノベーション、人と組織の面からBOPの紹介を試みます。)
BOP市場とは何か
BOP(Bottom of The Pyramid)とは、2002年に著名な経営コンサルタント、C.K.プラハラード氏によって産み出されたコンセプトだ。ネクスト・マーケットという書籍で日本にも紹介されたその論文の中で、プラハラード氏は40億人以上の以上の人々が1日2ドル以下(世帯年収1500ドル以下)で暮らしていると示し、彼らを救済すべき弱者ではなく、意欲的な起業家であり、顧客であると考えよ。と訴えた。
これは革新的な提言だった。途上国の貧困層を食い物にするのでも、援助するのでもなく、手に手をとって互いに経済発展して行くことがもっとも持続可能な発展形態だと提示したのだ。
論文発表後、氏の予言通りBOP市場は急速な勢いで発展を始めた。次の系統だった調査は、WRI( World Resources Institute )のTHE NEXT 4BILLON だった。この調査レポートの中で、BOP市場は、base of the economic pyramid と表現を変え。世帯年収3000ドル以下の層が、全世界で40億人いること、彼らを対象にした消費者市場の規模は5兆ドルに達することを明らかにした。(同時にその上の所得層にいる、世帯年収の所得が3000~20,000ドルの層の市場規模は12.5兆ドルに達することも示した)
BOP市場は5年前に比べて確実に、そして急速に豊かになっていた。
ドラッカーによると、人口動態の変化は確実に起こる未来だという。また、成長領域でビジネスに取り組むことはビジネス成功の第一条件だ。(参考:就職せずに起業して、成功するために必要なこと その3)若年人口を多く抱え、多産多死型の社会から多産少死型の社会に移行中のBOP市場は将来確実に成長する市場なのだ。
BOP市場の特徴
まずはじめに、BOP市場の特徴に関して述べる。特徴を理解し、機会として利用することができれば、市場進出の手助けとなるだろうし、理解不足であれば、逆に大きな参入障壁となることだろう。
1)都市部への人口集中
BOP市場は全世界に広がっているが、国単位ではなく、都市単位で市場を捉えたほうがわかりやすい。
また、現地人材の雇用を容易に行える点も大きな魅力だ。低コストでの財・サービス提供を実現しなければならないため、BOP市場のオフィス・工場は可能な 限り現地のスタッフで回すのが望ましい。ビジネスが軌道に乗れば事業は急拡大するため、豊富な人的リソースが供給される点は大きな魅力の一つだ。
2)規制緩和・イノベーションの大きな余地
都市への人口集中が進み、加えて若年人口が多いことは何を意味するか。これは政府の規制緩和や企業努力によるイノベーション(低価格での生産体制の確立や流通網の整備)が一度行われると、先進国の水準では考えられないスピードで市場が広がることを意味する。
逆に言うと政権交代や規制緩和による成長余地が大きく、いざ国による規制緩和が実行に移されると爆発的な市場成長が見込めることを示している。また、先進 国でビジネスを展開してきた多くの企業はBOP市場向けの財・サービスのイノベーションに取り組んだことが極めて少ない。BOP市場の購買力にあった生産 体制や流通体制、プロモーションにはイノベーションの余地がおおいにあり、他社にさきがけてイノベーションを生み出し、市場を制することが出来れば、巨大 な先行者利益を得ることができる。
国単位で見ると新興国は年率10%程度の経済成長を実現しているが、BOP市場に限って成長率を見ると、50~100%近い成長を実現している。リスクコントロールは必要だが、早期に参入するメリットは十分あるろう。
3)貧しいがゆえの不利益を被っている
BOP市場の消費者は、適切なコストで製品やサービスを手に入れることができてない。一番顕著な例は、金融だ。BOP市場の消費者は地元の貸金業者からお 金を借りるときに、年率100%以上の利子を支払うこともある。(ネクスト・マーケットで紹介されているダラピの事例では年率600~1000%の利子を 支払っているという。)
貧困ゆえの不利益をイメージするときは、離島や山小屋の小売店をイメージすると良い。そういった地域の事業主は、販売網が未発達なため輸送に多大なコストがかかっている。また、多くの場合、独占的に事業を行っている。そのため120円のジュースが150円で売られたり するわけだが、こういった状況がBOP市場で更に顕著に顕れていると考えてもらいたい。BOP市場が離島や山小屋の小売店と異なるのは、十分な人口を抱え、流通や商品を地域にあった形に整えれば大きな需要が見込めることだ。
この貧しいが故の不利益を理解し、ビジネスを通じて是正する方法を考えることが、BOP市場に効果的にアプローチする際に助けとなる。
4)急速に進むIT化
2008年に行われた調査では、全世界で41億人に携帯電話が普及しているという。2002年に行われた調査と比較しても利用者は10億人増えており、 2010年にはさらに10億人が携帯電話を利用するようになるという。増加する10億台の携帯電話のうち、8割は発展途上国への普及と見積もられている。
BOP市場の人々は携帯電話で農作物の相場を知り、最も高く販売できるところに商品をおろす。先進国が長い年月をかけて発展させてきたテクノロジーの恩恵 をBOP市場の住人たちは余すところなく受取ることが出来る。それは裏を返せば、財・サービスのサプライヤーにとってもプロモーションや流通といったマー ケティング面でテクノロジーを活用出来ることを意味する。
BOP市場を理解することで得られるインサイト
以上述べてきたのは、BOP市場の基本的な特徴に過ぎない。しかし、基本的な特徴を抑えるだけでも、多くの気付きを得ることができる。
今回はBOP市場の基本を抑えるにとどまるが、次にエントリを書く際には、具体的にどのようなことに注意しながらマーケティングを進めていけば良いのか、考察していきたい。
※2月4日追記
cloudgrabberさんから、Twitterにて下記のご指摘を頂きました。ありがとうございます。おっしゃる通りだと思います。
マーケティングとイノベーションに関しては、僕も定石どおりでいけると思ってまして、むしろBOP市場だ!と変に構えると失敗すると思ってます。次回以降はこの点に関して書こうかなと思っています。
リスクマネー供給量の不足に関しては、国ごとに事情が異なるような気がするので、ちょっと文献にあたってみたいと思います。国家間で生じる基本的な投資パターンとかあるのかな。世界全体でみると投資資金が余り気味とも感じているのですが、適切に資金が流れていない原因がどこにあるのか考えるのは非常におもしろそうです。
Missing Middleの問題は今後ますます大きくなってくると思います。どう解決すればいいか、全然見えてませんので、まずは意識するところから始めないといけませんね。
BOP市場は全世界に広がっているが、国単位ではなく、都市単位で市場を捉えたほうがわかりやすい。
2015年までには、アフリカには225、アジアでは903、ラテンアメリカでは225以上の都市部が出来ると言わ れている。発展途上国の368以上の都市でそれぞれ100万人以上、少なくとも23の都市で1000万人以上の住民を擁することになるという。合計する と、これらの都市部の人口は約15~20億人になり、その35~40%以上が、BOPの消費者で構成されることになる。(ネクスト・マーケットより引用)人口が都市に集中していることはビジネスを展開する上で大きな助けとなる。
- 流通コストを低く抑えることが出来る
- 情報が迅速に広まる
- 人材雇用が容易
また、現地人材の雇用を容易に行える点も大きな魅力だ。低コストでの財・サービス提供を実現しなければならないため、BOP市場のオフィス・工場は可能な 限り現地のスタッフで回すのが望ましい。ビジネスが軌道に乗れば事業は急拡大するため、豊富な人的リソースが供給される点は大きな魅力の一つだ。
2)規制緩和・イノベーションの大きな余地
都市への人口集中が進み、加えて若年人口が多いことは何を意味するか。これは政府の規制緩和や企業努力によるイノベーション(低価格での生産体制の確立や流通網の整備)が一度行われると、先進国の水準では考えられないスピードで市場が広がることを意味する。
インドは、「民間企業への深い疑い」を抱いたまま始まっている。その背景には、この国が東インド会社や植民地主義と 関わっていた影響があり、現地の民間企業との付き合いも、あまり前向きに捉えられていなかった。「民間企業は貧困層を搾取するもの」という疑念は、「正しく道徳的なこと」を行う政府機関に対する絶大な信頼と結びついた。インドは、規制の撤廃と自由競争の促進を政策に掲げたナラシマ・ラオ政権に移ってから急速な成長を実現した。インドに限らず、BOP市場を保有する発展途上国の多くは、ブラック・マーケットに代表される民間企業への不信から伝統的に政府が大きな規制を実行してきた。
逆に言うと政権交代や規制緩和による成長余地が大きく、いざ国による規制緩和が実行に移されると爆発的な市場成長が見込めることを示している。また、先進 国でビジネスを展開してきた多くの企業はBOP市場向けの財・サービスのイノベーションに取り組んだことが極めて少ない。BOP市場の購買力にあった生産 体制や流通体制、プロモーションにはイノベーションの余地がおおいにあり、他社にさきがけてイノベーションを生み出し、市場を制することが出来れば、巨大 な先行者利益を得ることができる。
国単位で見ると新興国は年率10%程度の経済成長を実現しているが、BOP市場に限って成長率を見ると、50~100%近い成長を実現している。リスクコントロールは必要だが、早期に参入するメリットは十分あるろう。
3)貧しいがゆえの不利益を被っている
BOP市場の消費者は、適切なコストで製品やサービスを手に入れることができてない。一番顕著な例は、金融だ。BOP市場の消費者は地元の貸金業者からお 金を借りるときに、年率100%以上の利子を支払うこともある。(ネクスト・マーケットで紹介されているダラピの事例では年率600~1000%の利子を 支払っているという。)
グラミン銀行はこういった層に対して年利20%程度で資金を貸し付けることを実現した。日本では年利20%というと 高金利だが、高金利に苦しんでいた消費者たちにとっては、これ以上なくいい条件が提示されたと言える。また、貸し付けた資金の回収率も極めて高いまた、それ以外にも地方での独占事業主の存在や、不十分な販売網、情報不足、強力な中間搾取事業者の存在などが、貧困ゆえの不利益を生み出ししている。
貧困ゆえの不利益をイメージするときは、離島や山小屋の小売店をイメージすると良い。そういった地域の事業主は、販売網が未発達なため輸送に多大なコストがかかっている。また、多くの場合、独占的に事業を行っている。そのため120円のジュースが150円で売られたり するわけだが、こういった状況がBOP市場で更に顕著に顕れていると考えてもらいたい。BOP市場が離島や山小屋の小売店と異なるのは、十分な人口を抱え、流通や商品を地域にあった形に整えれば大きな需要が見込めることだ。
この貧しいが故の不利益を理解し、ビジネスを通じて是正する方法を考えることが、BOP市場に効果的にアプローチする際に助けとなる。
4)急速に進むIT化
2008年に行われた調査では、全世界で41億人に携帯電話が普及しているという。2002年に行われた調査と比較しても利用者は10億人増えており、 2010年にはさらに10億人が携帯電話を利用するようになるという。増加する10億台の携帯電話のうち、8割は発展途上国への普及と見積もられている。
BOP市場の人々は携帯電話で農作物の相場を知り、最も高く販売できるところに商品をおろす。先進国が長い年月をかけて発展させてきたテクノロジーの恩恵 をBOP市場の住人たちは余すところなく受取ることが出来る。それは裏を返せば、財・サービスのサプライヤーにとってもプロモーションや流通といったマー ケティング面でテクノロジーを活用出来ることを意味する。
BOP市場を理解することで得られるインサイト
以上述べてきたのは、BOP市場の基本的な特徴に過ぎない。しかし、基本的な特徴を抑えるだけでも、多くの気付きを得ることができる。
- BOP市場は豊富な若年人口と労働力を抱える魅力的な市場であること。
- それにも関わらず政府による規制、イノベーションの不足、貧困ゆえの不利益などにより、成長が阻害されていること。
- 成長を阻害している要因を取り除くことができれば、爆発的な市場成長が見込めること。
- BOPビジネスに進出する企業に求められているのは、市場にあったマーケティングであり、イノベーションであること。
- 企業が直面する最初のハードルはコスト構造の見直しになること。
- 企業がBOP市場を開拓するにあたり、テクノロジーの普及は大きな助けとなること。
今回はBOP市場の基本を抑えるにとどまるが、次にエントリを書く際には、具体的にどのようなことに注意しながらマーケティングを進めていけば良いのか、考察していきたい。
※2月4日追記
cloudgrabberさんから、Twitterにて下記のご指摘を頂きました。ありがとうございます。おっしゃる通りだと思います。
マーケティングとイノベーションに関しては、僕も定石どおりでいけると思ってまして、むしろBOP市場だ!と変に構えると失敗すると思ってます。次回以降はこの点に関して書こうかなと思っています。
リスクマネー供給量の不足に関しては、国ごとに事情が異なるような気がするので、ちょっと文献にあたってみたいと思います。国家間で生じる基本的な投資パターンとかあるのかな。世界全体でみると投資資金が余り気味とも感じているのですが、適切に資金が流れていない原因がどこにあるのか考えるのは非常におもしろそうです。
Missing Middleの問題は今後ますます大きくなってくると思います。どう解決すればいいか、全然見えてませんので、まずは意識するところから始めないといけませんね。
Comment
3月にまた途上国に行くことになったので、五感をフル活用して、BOP市場を感じてきます。
何か調査してきてほしいことがあれば言って下さい。
やはり、何を収益源にするかが問題だと思います。
プラットフォーム(PDA等)を無料で顧客に提供し、それを通じてサービスを提供する企業から手数料を得るのか。
はたまた別の手段があるのか…
BOP市場って名前は聞いたことあるのですが、意味は知らなかったので調べてみました。
ケースとしてグラミンフォンが紹介されていましたが、真っ先に生保レディーやヤクルト売りのおばちゃんを連想しました。
プリンタのニーズってどれぐらいあるんだろうね。そこが一番興味深いな。
もちろん国(というか都市?)によるんだろうけど。紙での契約や提案文化を飛び越えて、電子認証とPCプレゼン中心の、ペーパーレス社会に一足飛びに突入したりして。
渡航する国の日常、及びビジネスシーンでどれぐらい紙が使われているか(あるいはリサイクルされているか)見てきてもらえると嬉しいなぁ。
日本企業の強みは高付加価値商品にありますからね…。BOP市場では苦戦を強いられそうです。生保などは国内市場が飽和しているので、海外展開の重要性はどこよりも強く認識しているみたいなのですが、海外に駐在する人材が十分いない。みたいな話も聞きますね。難しいところです。
コメントする