近接格闘術と詠春と女性警備員
2008年 10月 05日
例によってTAKESANさんのエントリからインスパイアされ,近接格闘術(Close Quarters Combat)のデモで使えそうなものをいくつかを視聴していると,どう見ても詠春拳の流れを汲むものが多いけど,まさかねと思っていたのは,私の勉強不足でした。
ちなみにこのプロモは,擬音など入れてやり過ぎ。ゲイマー系からの生徒さんでも狙っているのか,こういうのもあり何でしょうね。勝手に生徒さんの方が裏返しになったり,ひっくり返るのが多いので,まぁ,分かりやすいといえば,分かりやすいです。
CQCに使われている手の技は,多くはダン・イノセントからの流れだと思いますが,彼は詠春拳からジークンドーを組み立てたブルース・リーの技術の直接的な伝承者です。Systemaの手の技も似た部分がありますが収斂現象を感じます。太極拳とは全く風格が異なりますが,基本術理には共通性を感じます。超接近戦を旨とするため,勁道が異なりますが,寸勁が存在することは他の中国武術と何ら変わることはありません。
関係ビデオを見ていくと,ちゃんと詠春拳とタイトルを入れたものがあります。そして,手業からの絡みからサブミッションへの流れが非常に上手くできています。
マスターの聴勁は巧みで,最後の方は見てもいませんね。目隠ししてもこの人はちゃんと戦えます。システマとは勁道が異なりますが,戦闘理論の一部は極めて近いですね。
詠春拳の特性は,ありとあらゆる格闘技に対して,現在も浸透,融合中という特異な性格を持っていることで,陳家太極拳や八極拳,形意拳など,完成型とされる伝統芸的な門派とは全く異なるものです。黐手(li・shou;リーショウ)と呼ばれる,お互いの腕を接触した状態で自由攻防する練習は,太極拳の推手(tui・shou),伝統的剛柔流空手の「カキエ」(上の動画参照)などと相同的ですが,詠春拳はサブミッションや寝技に繋げる形で柔軟に他の近代格闘術を取り入れてきたがゆえに,世界中のマーシャル・アーツ=軍隊用白兵戦のコア・テクノロジーとしての近接格闘術に影響を与えるほど隆盛を誇っているようで,かつてブルース・リーの見せた黐手と比べても,現在の詠春拳のそれは,もはや別物と言って良いでしょう。
太極拳の推手については,陳家の嫡男,18世陳小旺老師がやや本気になって形意拳の方と組んだ映像がここにあります。
動画でも肘法が多用されていますが,推手における相手のトレースを切る方法として最もシンプルで効果的なのは肘方を使うことです。近代太極拳最強の達人であった17世陳発科老師の関門弟子,馮志強老師も肘方だけで教本を書いておられますが,実戦において肘方が効果的なのは,威力があることもありますが,聴勁・化勁を駆使して王道的拳による接近戦を戦える相手には,必須だからだと思います。
ちなみに,別サイトで,女性警備員の戦闘能力の話がありました。これは土俵に突撃した女性や,現役警官の万引き犯などに後れを取った女性警備員のニュースがあって,女性警備員なんてのは単なる飾りで,女性にはそういった仕事は物理的に出来ないというような話をされる方がお出でになったわけです。私も平均値を考えたら,女性が男性よりも格闘向きであるとは思いませんが,多くの男性だって格闘向きだなんてことはやっぱり言えないと思います。
ここで,詠春拳の話です。詠春拳の開祖は,その名前が指し示すとおり,厳詠春という女性だと言われています。勿論,諸説有って伝説の域を出ないのですが,女性が創始したマーシャル・アーツだということがまた門派においてもネガティブ・イメージとならず,寧ろ誇としている故の伝説かと思います。強いものは男女関係なく強いという,偏見や先入観を捨て,良いものはどん欲に取り入れていく門派の特性と符合しています。そして,それが「女が作った武術」など使えないなんていうような偏見とは真逆で,様々な軍隊における近接格闘術のベースとして研究されている,何と武技とは楽しい世界ではないでしょうか。
女性の場合,筋力については,十分に鍛えれば,格闘可能になるのは男性同様ですし。乳房があるために,特にナイフなどを使用した格闘術では明確なハンディキャップがありますが(詳しくは書けませんが,一定の攻撃方向からのディフェンスの問題です),これは,金的という急所を脚の間にぶら下げているという男性のハンディキャップに比べたら大したことはないのではと,私は思っています。
まぁ,今時,金的けっ飛ばせば,PTSDだのEDになっただの,喚く男が多いでしょうから,覚悟が要りますが。
追記ー能力をどの時点で決めるかということについては,単純ではありませんが,男女差よりも,訓練や経験などによる差が大きいものだということを示すお話。良くできた話だと思のですが,元のソースはこちらのようです。
銀行強盗に気づいた華奢なウエイトレスが店から飛び出し、銃もないのに犯人の背後から「動くな!撃つぞ」と命令
コメントについてはいかにも今風な批判が付いています。ごもっともなので,警察だと思いこませるというテクニックが更に必要だったかも知れませんが,それくらい警察は意にも介さないと思いますが。日本ではしないのか? お目こぼしなんていえば,この女性に失礼な,勇敢で社会正義的な行為です。それと,もともとプロであったことから,素人の計算無しの蛮勇とは区別されるべきです。
例えば,暴漢に襲われた女性が,例えば「ほら,警察が来た!」という風に叫んでも,虚偽の申告になるのかと考えれば,犯人逮捕協力と自分の安全を確保するために警官を名乗ることを非難するコンプライアンス原理主義社会が当たり前だと思うのは,少し異常です。
諸外国と比べて日本人の判断能力や生きていくためのダイナミクスが疲弊しているからでなければいいのですが。
追記ー
TAKESANさんより,ブックマークコメントをいただきました。いつも勉強になります。
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各方面に大好評であった「眞傳 詠春拳教本」第1号の刊行から3ヶ月―遂にその続編となる「眞傳 詠春拳教本」第2号が刊行された。今号では第1号で紹介された基本套路、小念頭第1節に続いて第2号第3章小念頭套路では、小念頭第2節を紹介する。
黄淳樑派詠春拳において小念頭第2節の多くは力業である剛法中心の構成となっている。剛法で相手をねじ伏せる為には詠春拳の基本に忠実に実行する必要がある。今回強調される剛法を実行するためには「一攤三伏」と呼ばれる訓練を継続実施する事で達成される。よって第4章小念頭講解では剛法のためには必須となる「一攤三伏」の訓練法の詳細が明らかにされる。
また、今号の特徴は対比として洪拳の姿勢や訓練法が紹介されている。