本日は，太極拳の推手的な戦闘法練習の相手をさせようと長男に教えたら，流石に３年格闘空手やっただけあって，基本部分は直ぐに飲み込めて，ぺったり貼り着く形で組み手の練習が出来たので，親バカでちょっと気分が良く，武術ネタを。


さすがに，マニアックな話なので，余り話題になったことはないと思われますが，Van Halenの１／４世紀前のスーパー・ヒット曲のプロモーション・ビデオ（PV）“Jump”と“Panama”には，北派少林拳の基礎的腿法（足技）がフューチャーされています。“Jump”のPVを最初に見た当時は，話題のPVであっても，いつでもめったやたらにそこらで見ることが出来るなんて状況ではなかったので，とあるカフェバーで，酒飲んでいる前に置いてあったモニターで跌岔式をとっているDavid Lee Roth を初めて目にして，「あれ，Roth が中武（中国武術のこと）やってる？」ってびっくりしたものです。
　今は，便利な時代です。

　さて，PVの中身ですがボーカリストであるDavid Lee Roth が，単なるステージ・パフォーマンスとしてではなく，中国武術として，ここに登場する技を履修していたことが，その基礎技の熟達度や彼自身の発言から推察されます。

I started working on my sword routine months and months ago. It's something that people spend years working on, it's part of the Northern Chinese kung fu style called Pekkwar. It's a very aggressive martial art. …

　ここにある‘Pekkwar’は北派長拳系の「劈掛門」のことですが，強力なマーシャルアーツだと紹介しています。彼は「刀術」（「剣術」では無い）も学んだようです。

　では，有名なアルバム1984の二つのスーパーヒットの両PVから腿法基本技を抽出してみましょう。




　まずは“Jump”のニ起脚。空手の二段蹴りとは違う用法ですが，これは，套路におけるやりかたで，思いっきり二段目の左蹴り上げが，教科書どおり左肩側面と耳に密着するまで蹴り上げてます。あ，Rothは左利きかな。

　David Lee Roth は，フリークライミングでも，凄いことをやっているフィジカルエリートですが，流石やります。




続いて，騰空外擺脚（とうくうがいはいきゃく）。

空手やテッコンドーの後ろ回し蹴りとは違います。足裏ではなく，足の側面部（実際の用法は，また少し違うようです）で蹴るわけですが，ニ起脚とこの後にご紹介する旋風脚とセットで，全て最初の蹴りが次の蹴りのための準備（蓄勁）になっています。

蹴り技は，威力をふるうべき脚の重量モーメントが大きいので，作動前には同一方向に，作動後には逆方向にモーメントを掛けて軸が反対方向に回転しないようにしてやらないと力が逃げてしまいます。術理は近いのです。

しかし，このカメラワークも見事に計算されています。下からのアングルで丸いゴーストをなぞるようにDavid Lee Roth の擺脚が空中を飛んでいきます。




旋風脚（せんぷうきゃく）。太極拳の看板技のように，名作『男組』では取り上げられていました。太極拳の場合，寧ろ先導する方の脚は，後発の蹴り脚が動くときには地を匍うような軸足となり，リニアモーターカーのような安定した感じで回転し，虚空に舞うような用法とは異なる用法が主流のようですが・・・「男組」での主人公流全次郎の戦闘スタイルは笠尾恭二氏の套路をそのまま真似（コピペ）したためで，後に太極拳じゃないと言われたりしていますが（笠尾氏の套路は太極拳風空手と言われましたが、日本の中国武術シーンの黎明期、情報が少ない時代参考にされた方は多かったと思います。勁道や理路など別物にしか見えませんが、割り引いて考えないといけません。長拳としてのパフォーマンスとしてスキはない動きなのでその部分では武術家だと思います），結果，David Lee Roth の演じる劈掛門を含む長拳の風格によく似ていました。

これは，“Jump”ではなく，二大ヒットとなった“Panama”のPVの方でDavid Lee Rothが演じております。恐らく，思いっきり中国武術の演舞をＰＶに入れて，パフォーマンスとして違和感なく見せたロックスターは，David Lee Roth だけです。誰もなしえていない快挙です。彼のフリークライミングと同じで，ダイナミズムに溢れています。


そして“Panama”のPVの終わりの方で，再びニ起脚。今度は，蹴り上げではなく分脚（本来の用法は最も危険なつま先蹴りー足指による空手の「抜き手」みたいなものです）で使う二起脚を再び見せております。

躍動感溢れる素晴らしいパフォーマンスです。ダンサーとしてのトレーニングをきっちり行った人に武術指導を行うと，下手な武術家のレベルをあっさり凌ぐと言われております。体軸コントロールを幼いときから身につけている人が当たり前だからかも知れません。





刀術で跌岔式をとっているRoth。これも“Panama”の方です。跌岔式は地に伏せる機能を持っていますが，それが本来の中心的な用法ではありません。集団戦闘のためのノウハウの結果生まれたもので，脚によるサブミッションで，一人の敵の首を脚で巻き込んで地に固定し，次の敵を処理します。



あんまり，殺伐とした武術ネタばかりでもなんですので，アメリカンハードロックギターの雄，Edward Van Halenのミッキーマウス系の癒しの笑顔もちょっとだけ。口元が，チャーミング。結構好きです。
　この頃若いなぁ。咽頭癌だったそうですが，復活できて良かった。