民主主義は長年にわたり、多くの国で採用されてきた政治体制ですが、近年その存続が危ぶまれています。
その背景には、スマートフォンとSNSの急速な普及があります。
民主主義が機能するためには、いくつかの重要な前提があります。
かつては、政治や社会問題についての議論は専門家が主導し、一般市民はその知見を基に意思決定を行う構造がありました。
しかし、スマートフォンとSNSの普及により、誰でも自由に発信し、多くの人が政治的な意見を持つようになりました。
その結果、知識や経験の有無に関係なく、あらゆる意見が同等の価値を持つようになり、専門家の見解が軽視される傾向が生じています。
SNSのアルゴリズムは、感情を刺激するコンテンツを優先的に拡散させる傾向があります。
冷静で論理的な議論よりも、扇動的で感情的な発言の方が多くの人の関心を引くため、公共の議論の質が低下しやすくなります。
結果として、社会全体が合理的な政策決定よりも、短絡的で感情的な意思決定をしやすい環境になっています。
SNSの登場により、信頼性の低い情報が容易に拡散するようになりました。
従来のマスメディアは一定の審査を経た情報を提供していましたが、SNSでは事実確認が不十分な情報が瞬時に広まり、市民が誤った情報に基づいて判断を下すリスクが高まっています。
大衆と知識層が情報発信の場において対等に扱われるようになったことで、民主主義の根幹が揺らいでいます。
民主主義の基本原則は「多数決」にありますが、多数決において「数の多い意見」が必ずしも合理的とは限らない状況が生まれています。
感情的な意見が支持を集めると、長期的な国家戦略よりも短期的な人気取り政策が優先されるようになります。
これは、古代ギリシャの「衆愚政治」の再来とも言えるでしょう。
この状況を打開し、民主主義を維持するためには、以下の対策が必要です。
しかし、これらの対策が実現する可能性は低いと言わざるを得ません。
フェイクニュースの拡散を抑える仕組みは、言論の自由と対立し、多くの国で実施が困難です。
また、選挙制度の改革は既存の政治システムと対立し、強い抵抗を受けるでしょう。
さらに、社会全体で理性的な議論を重視する文化を育むには、長い時間が必要ですが、現代のスピード感のある情報社会ではむしろ逆方向へ進んでいるように見えます。
スマートフォンとSNSの影響により、民主主義のルールは大きく変化しています。
しかし、社会はすでに「衆愚政治」の段階に入りつつあり、民主主義が本来の形で機能し続けることは難しくなってきています。
かつて、古代アテネは衆愚政治によって内部から瓦解し、ローマ共和国はポピュリズムと権力の集中によって帝政へと移行しました。
現代の民主主義も例外ではなく、私たちはいずれ、それに代わる新しい政治体制の誕生を目の当たりにすることになるかもしれません。