玄武書房に勤める馬締光也は営業部では変人として持て余されていたが、
新しい辞書『大渡海』編纂メンバーとして辞書編集部に迎えられる。
個性的な面々の中で、馬締は辞書の世界に没頭する。
言葉という絆を得て、彼らの人生が優しく編み上げられていく。
しかし、問題が山積みの辞書編集部。果たして『大渡海』は完成するのか──。
言葉への敬意、不完全な人間たちへの愛おしさを謳いあげる三浦しをんの最新長編小説。
2012年発表の本屋大賞に輝いた小説です。
出版社の地味部門を舞台に、集った様々な面々が織りなすユーモラスな物語です。
大都会ならぬ「大渡海」という辞書の編纂を目的として繰り広げられるストーリー展開。
この本の装丁は、実は小説内の「大渡海」の装丁だったりします。
辞書の編纂に関する実情、大変さをわかりやすく丁寧に描いていきます。
淡々とした進行で途中13年もの空白がありますが、総じてとてもハートウォーミング。
辞書編纂という興味深いテーマと魅力的な登場人物、難しい仕事に真摯に向き合う実直さ。
魅力的なキャラクター、ユーモア、堅実なストーリーで、最後まで読み終えました。
仕事小説としてだけでなくチーム小説という角度から読んでも、とても秀逸と思います。
言葉オタクという直接辞書作りに活かせる才能を持つ人がその部署にいるのは普通ですが、
軽薄なお調子者で一見辞書向きじゃない人にも、調停や援護や大切な役割があるのです。
そういう異なる個性の人たちが集まり同じ目的に突き進む様子が、とても爽快です。
三浦しをんさんのあの駅伝メンバー同様、成長していく登場人物たちに勇気をもらえます。
ひたむきすぎるゆえに時々出てくるおかしい言動に笑えることで良質なエンタテイメント。
読み終えてみると「舟を編む」というタイトルの奥深さに気付きます。
毎日、何気なく使っている多くの言葉。その一つ一つには大きな意味と役割があります。
溺れないように迷わないように、言葉の海を渡るために人を先導する舟が必要なのです。
言葉の大海原に漕ぎ出し乗りこなすための舟は手作りだからこそ真価を発揮するもの。
生き物としての言葉と格闘する主人公が到達した「大渡海」の完成に感動しました。
辞書作りの舞台裏を体験しながら、本を読む楽しみを味わうこともできました。
このように人に誠実に向き合うこと、言葉に誠実に向き合うことを心がけていきたいです。
手元の辞書が出来上がるまでにどんな物語があったのか、想像したりしました。
この本で精魂を傾けて一日を紡いでいこうとしている人たちにたくさん会えた気がします。
笑いあり涙あり、時が経つのを忘れて大いに楽しんだ一書でした。
映画は原作のイメージを踏襲して逸脱せず、真面目に作られた佳作という印象でした。
出演は松田龍平さん、宮崎あおいさん、オダギリジョーさん、黒木華さん、
渡辺美佐子さん、池脇千鶴さん、鶴見辰吾さん、八千草薫さん、小林薫さん。
「舟を編む」三浦しをんさんの本屋大賞受賞作。言葉への愛があふれた一冊です。
楽天からも購入できます。
「舟を編む」三浦しをん
[C19634] TBありがとうございました.