yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

新作能『王昭君』——国境を越えて——@たかいし市民文化会館 アプラ大ホール 1月26日

 

豪華なお囃子方

人間国宝の小鼓方大倉源次郎師、それに大鼓の大倉慶乃助師が出演される上、新作能ということで、予約をとっていた。前の週の土曜日に足を捻挫してしまい、「片山定期能」を見逃してしまっているので、本当に久しぶりの能鑑賞。以前に京都観世会館でお見かけした方々も、何人か来ておられたような。

それにしてもお囃子陣の豪華なこと。笛の杉信太朗師も好きな笛方なので、期待が高まった。演者の方々は以下。

王昭君の霊   辰巳満次郎
貞保親王    原大 

宇多院の臣人  山内崇生

貞保親王の家人 茂山逸平
    

笛    杉 信太朗 

小鼓   大倉源次郎 

大鼓   大倉慶乃助

地謡

     和久荘太郎、澤田宏司、辰巳孝弥、辰巳大二郎、辰巳和磨
    

後見

     石黒実都

能にはすでに『昭君』という演目があるけれど、それとは切り口がまったく違った内容になっていた。シテをされた辰巳満次郎師と上演前に「レクチャー」をされた泉紀子氏との共作とのこと。一部の人を除いて悲劇の美女、王昭君についてはほとんどの人が初耳だっただろうから、あらかじめ話の背景と製作経緯を解説していただけたのは、ありがたかった。 

悲劇の美女、王昭君

王昭君とは前漢時代の元帝の後宮に仕えた女性。中国四大美女の一人に数えられる。画工に賄賂を贈らなかったため、帝に差し出された似顔絵には醜く描かれていた。そこで、匈奴の王、呼韓邪単于が妻を所望したとき、帝は彼女を差し出した。彼女は泣く泣く遠い匈奴の地へと、馬に乗って嫁いで行ったという。

Wikiで「王昭君」を検索すると、腕に琵琶を抱えた昭君旅立ちの図が出てくる。この「琵琶」が新作能のキーとなっている。また、唐代の詩人、杜甫、李白、白居易もこの悲劇の美女をうたっている。たしかに悲劇の美女という題材は、詩心をそそりますよね。レクチャーで紹介されたのは李白のものだったが、琵琶が出てくるのは杜甫の詩。「琵琶が胡語(夷狄の言語)で昭君の嘆きを奏でる」(怪しい翻訳ですが)というもの。

新作能『王昭君』の特徴

創作能の舞台は日本の平安時代。琵琶の秘曲である「王昭君」の譜と由来を宇多帝に求められた貞保親王。その前に王昭君の亡霊が現れ、親王に秘曲のあらましを伝えようと琵琶の音に合わせて唄い、舞うという内容になっている。小道具として使われた琵琶は、かなり小型だった。構成もよくある能のものとは違っていた。つまり、前場で旅僧が訪れた土地で在所の者に出くわし、その人から場所とそこに所縁のある人物の仔細を聞く。後場ではその人物の亡霊が僧の前に現れ、その想いを謡い舞うというもの。ところが、この新作能では、「貞保親王の前に王昭君の霊が現れ、自らの想いを語り、舞う」という段替えのない短い能に仕立てられていた。

 演者の力演

シテの辰巳満次郎師は謡の声がよかった。さすが謡の宝生。舞いの部分が少なかったのが残念だった。それもあってか、全体的にかなり大人しめ。盛り上がりがいまひとつだったように感じた。ワキの原大師はいつもながら安定した声調。背景の解説者としての語り部の役を担ったアイの茂山逸平師のメリハリの効いた台詞回しが素敵だった。 

そして、なんといっても繊細かつ大胆な大倉源次郎師の小鼓と甥御の大倉慶乃助師の力強い大鼓の共演がよかった。

この日は朝からの急激な冷え込みと強風で、観客数が少ないのではと心配したけれど、杞憂だった。羽衣国際大学の女子学生たちが袴姿で甲斐甲斐しくお手伝いされていたのが新鮮だった。これだけ若い女性が揃ってお世話係をされたので、普段シニア層の多い能の場が、一挙に華やいでいた。

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