おがさわら‐こくりつこうえん〔をがさはらコクリツコウヱン〕【小笠原国立公園】
小笠原国立公園
[南島・扇池]
東京湾の南には、伊豆諸島に始まって南に延々と走る火山島や海底火山の列がある。伊豆小笠原海嶺である。このうち、伊豆諸島のはるか南方、東京から南南東に約1,000〜1,200kmの、沖縄本島とほぼ同じ緯度に位置するのが小笠原諸島で、北から聟(むこ)島列島、父島列島、母島列島、火山列島と続く。
この公園は、北硫黄島以北の小笠原諸島を区域とする。清澄な空と海の狭間にあって多くの固有の生物たちを育む、亜熱帯の小さく美しい島々である。
島々の成因
[ムニンノボタン]
公園に含まれる島のうち、北硫黄島などは火山島であるが、そのほかの島々は古い火山島が浸食により一度海中に没したあと、第四紀になってから隆起して再び島になったものである。山頂部の高さが比較的揃っているのは、海中にあった時代に頂部が波浪により浸食を受けたためである。どの島も周囲は海食を受け、断崖になっているところが多い。
植生は、父島や兄島ではシマイスノキ、シマシャリンバイなどの乾性の低木林が広く分布する。母島では、石門(せきもん)山付近に残るシマホルトノキ、モンテンボクなどからなる湿性高木林に特徴がある。
父島では各所に、枕状(まくらじょう)溶岩が見られるが、これは溶岩が海中に噴出して固まり堆積したもので、海底で火山活動があった証拠である。
圧迫される固有の生物たち
小笠原の島々は、誕生以来大陸と陸続きになったことがない海洋島であるため、生物相に大きな特色がある。海上を長距離移動できない陸生動物を欠くため、全体の種類数は多いとはいえないが、固有種が多く、植物についても約40%が固有種だといわれる。しかし、島在来の生物は環境のわずかな変化やほかの種との競争に弱く、人の活動や、侵入したり持ち込まれたりした外来生物の影響を受け、絶滅したり、絶滅の危機にある種が少なくない。
古くは19世紀から20世紀初頭までに、オガサワラマシコ、オガサワラガビチョウ、オガサワラカラスバトの固有の鳥類3種が絶滅した。植物でもムニンキヌラン、トヨシマアザミのように20世紀前半に絶滅したと考えられる種がある。また、シマホザキラン、ムニンノボタン、ムニンツツジなどは、近年になって自生する株が激減しており、絶滅のおそれがきわめて高い。
動物では、自然分布する唯一の哺乳類であるオガサワラオオコウモリは、父島では個体数がきわめて少なくなっている。また、現状で鳥類唯一の固有種であるメグロは、父島と聟島ではすでに絶滅し、母島列島のみに生き残っている。
自然保護と利用の共存を図る
小笠原はもともと火山島であったため、島の周りは水深が急激に深くなり、サンゴ礁の発達はよくない。しかし、湾の内部などには小規模ながらサンゴ礁があり、造礁サンゴの種類も多く、華やかな色彩の熱帯系魚類とともに見事な海中景観をつくっている。
公園の利用は父島、母島の両島と近くの小島に限られる。交通機関は、東京港から数日に1回出航する父島行きの船が唯一の定期便である。母島には、父島からさらに海路2時間を要する。車道は、父島では島の北・中部を周回できるよう整備されている。歩道は父島と母島では整備され、小笠原特有の生物や景観を楽しむことができる。
なお、自然との共生を図るため、全島をキャンプ禁止とするなどのルールが定められている。また、沈水カルスト地形で知られる南島は、自然に及ぼす影響を最小限にするため、一日の上陸者数が制限されている。
外来種と固有種
小笠原では持ち込まれたアカギが増殖して、在来の樹木に置き換わる例が拡大している。また、野生化したヤギが急斜面の植生を食べて裸地化させたり、固有の植物を食害している。
このため、ヤギ(ノヤギ)、グリーンアノール(トカゲの1種)、オオヒキガエル、アカギなどの外来生物について、影響の調整や駆除などの対策が行われている。写真の媒(なこうど)島のノヤギは、平成16年に全頭駆除が完了した。
関連リンク
- 小笠原国立公園 (環境省ホームページ)
小笠原国立公園
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/04 04:59 UTC 版)
小笠原国立公園 Ogasawara National Park | |
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指定区域 | 北緯27度02分16秒 東経142度10分30秒 / 北緯27.03778度 東経142.17500度 |
分類 | 国立公園 |
面積 | 6,629 ha |
指定日 | 1972年10月16日 |
運営者 | 環境省 |
年来園者数 | 2万人(2006年) |
現況 | 世界遺産(自然遺産) |
告示 | 1972年(昭和47年)10月16日環境庁告示第30号 |
事務所 | 関東地方環境事務所 |
事務所所在地 | 〒 330-6018 埼玉県さいたま市中央区新都心11-2 明治安田生命さいたま新都心ビル18F |
公式サイト | 小笠原国立公園(環境省) |
小笠原国立公園(おがさわらこくりつこうえん)は、東京都の小笠原諸島を中心とした国立公園。指定区域総面積6,629 haは日本の国立公園の中で最小[1]であり、なおかつ公園指定範囲は全て小笠原村内にあり、単一行政単位(市町村)内のみで構成される日本唯一の国立公園である。小笠原諸島のうち立ち入りが制限されている硫黄島と南硫黄島を除く全ての島嶼が指定されている。また、孤立島の沖ノ鳥島と南鳥島は含まれない。
沿革
- 1972年10月16日 - 小笠原国立公園として、国立公園に指定される[2]。
- 1975年5月17日 - 南硫黄島が原生自然環境保全地域に指定されたことに伴い公園区域から除外される[3]。
- 2009年11月12日 - 海中公園指定区域追加に加え、希少な生態系の保全対策のため区域が拡大される[4]。
火山
西之島、北硫黄島
関連項目
脚注
- ^ 陸域のみの面積で海中公園区域は含まない。
- ^ 1972年(昭和47年)10月16日環境庁告示第30号「国立公園に関する件」
- ^ 1975年(昭和50年)5月17日環境庁告示第29号「国立公園に関する件」
- ^ 2009年(平成21年)11月12日環境省告示第73号「小笠原国立公園の公園区域を変更する件」
外部リンク
小笠原国立公園と同じ種類の言葉
固有名詞の分類
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