しきさい
しき‐さい【色彩】
色彩
色彩
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/02/19 14:46 UTC 版)
「システィーナ礼拝堂壁画修復」の記事における「色彩」の解説
修復チームは、ジョット、マサッチオ、マソリーノ、フラ・アンジェリコ、ピエロ・デラ・フランチェスカ、ギルランダイオ、カラッチ、ティエポロら、色彩感覚に優れたフレスコ画を描いた画家たちの作品とは違って、修復後のミケランジェロの天井画に多彩な色使いがよみがえることは期待していなかった。フレスコ画は湿った漆喰に顔料を刷り込むという技法であり、その特性上使用できる顔料は限られている。ミケランジェロが描いた祭壇画『最後の審判』で使用されている青色顔料のウルトラマリンが天井画では使用されていないことが、修復チームが天井画には多彩な顔料が使用されていないだろうと判断した一因でもあった。ウルトラマリンは高価な鉱物であるラピスラズリを原料としたもので、フレスコ画では漆喰が完全に乾いてからフレスコ・セッコの技法で使用される顔料である。『最後の審判』で使用されている、円光やローブの飾りを表現する金箔もウルトラマリン同様に漆喰が乾いてから使用される素材だった。ただし、ヴァザーリはその著書で、ミケランジェロの当初予定では天井画の仕上げとしてウルトラマリンと金箔を使用するつもりだったと書いている。そしてヴァザーリはこの予定が実現しなかった理由として、ミケランジェロが足場を再び組み直すのを嫌がったことと、おそらくは金箔と鮮やか過ぎるウルトラマリンが、ミケランジェロが天井画に込めた制作意図を分かりづらくすると考えたためだろうとしている。 修復チームにとって、天井画の色使いに関してもっとも予想外だった技法はミケランジェロが使用した陰影描写だった。ペンデンティヴに並んで描かれている「リビアの巫女」と「預言者ダニエル」がその好例といえる。リビアの巫女が身にまとう黄色の衣服には、濃黄色から淡橙色、暗橙色からほとんど赤色と、さまざまな階調の色彩でグラデーションがつけられていた。ダニエルのローブにはリビアの巫女のような滑らかなグラデーションは施されていない。ローブの黄色の裏地には濃緑色だけが陰色として使用され、薄紫色の衣服には濃赤色が陰色に用いられている。このような玉虫色ともいえる色調の組み合わせは、天井画のさまざまな描写にみられる。たとえば、マタンとともにルネットに描かれている馬は淡緑色と赤紫色の色調で描写されている。 「預言者ダニエル」のように、けばけばしい印象を与えるようになった色使いもある。修復前後のダニエルを比較すると、ミケランジェロがフレスコ・セッコでカーボンブラックを多用していたことと、このカーボンブラックの使用が当初からの計画通りだったことがはっきりと分かる。ダニエルの衣服の鮮やかな赤色は、効果的な陰色として使用されている。このように上層の薄い黒色の顔料層を通して鮮烈な色彩で陰影を表現するという手法は、黒色部分が比較的よく残っている「クマエの巫女」の描写など天井画のいたるところで見ることができる。鮮やかな色彩で明暗を表現するという手法はフレスコでは一般的なものではなく、油彩やテンペラでよく用いられる手法である。ダニエルのローブもクマエの巫女の黄色の衣服も、黒色が除去される修復前のほうが陰影描写が明確で、布のしわやひだの質感も明瞭だった。 天井画全体が暗く汚れていた修復前の状態が、ミケランジェロが意図していたものよりも色あせて単色画のような印象となっていたのは間違いない。しかしながらベックやアルギンボーは、汚れた修復前のフレスコ画のほうが、陰影描写が繊細で輪郭もはっきりしていたと主張している。 マニエリスム期の画家、伝記作家ヴァザーリは、自著『画家・彫刻家・建築家列伝』で、ペンデンティヴに描かれている「預言者ヨナ」が16世紀半ばに完成したと記し、次のように絶賛している。 システィーナ礼拝堂天井画で最後に描かれたヨナ以上に驚嘆と賞賛の的となり、畏怖の念を抱かずにはいられない作品は存在しない。レンガ細工の壁は滑らかなカーヴを描いて丸天井へと前方へと自然に張り出していく。しかし(この張り出していく滑らかなカーヴは)逆方向の後方へと身をよじって描かれたヨナで断ち切られるかのように見える。陰影表現という芸術の持つ力が(建物構造を)凌駕し、天井が引っ込んでいるかのような印象を与えているのである。 — ジョルジョ・ヴァザーリ 『旧約聖書』の『ヨナ書』に登場するキリスト復活の預言者ヨナは、天井画の中でも絵画的、神学的に極めて優れた構成で描かれた作品である。主祭壇上部のペンデンティヴに描かれている「預言者ヨナ」は身体を仰け反らせ、その視線は神へと向けられている。このヨナに表現されている技法はヴァザーリが「短縮遠近法」と呼んだ革新的な技法であり、後世の画家たちに多大な影響を与えた。しかしながらこの重要な作品も修復作業によって、黒色の陰影描写は僅かに画面左側に残る箇所以外、ほとんどが失われてしまった。このために作品の劇的な印象が損なわれ、短縮遠近法の効果も薄くなってしまっている。ヨナを飲み込もうと大きな口を開ける魚や背景の建物建物描写も、修復作業で詳細表現が失われている。
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「色彩」の例文・使い方・用例・文例
- 鮮やかな色彩
- 兄の部屋は色彩が乏しい
- ほんの少し、色彩が鮮やかだ
- 教育から政治的色彩を除く
- 鮮やかな色彩の布をまとった女性たちが水瓶を頭に乗せて家に向かって歩いていた。
- その監督は政治的色彩のある映画で知られている。
- ベンツ社からは最初から、靴の色彩計画が出て来て居ました。
- ベンツ社からは当初から靴の色彩計画が出て来て居ました。
- 私はその絵の色彩が綺麗で壮大で感動しました。
- それは私を感動させる色彩です。
- 私はこの発想と色彩が好きだ。
- 私たちの身の回りには、多くの色彩が存在します。
- 雄のくじゃくは尾の羽毛が色彩豊かである。
- 文体が作家に持つ関係は、色彩が画家に対するのと同じである。
- 俳優、芸術家、音楽家、それに作家は、話し言葉、身振り、色彩、音などを含む色々な形を使うことが出来る。
- 大地の色彩は解き放たれた視界の中で高らかに鳴り響き。
- 全てが鮮やかな色彩に包まれ。
- 色盲のために、色彩の区別ができない人もいる。
- 色彩は目に映るあらゆる物のうちで最も神聖な要素である。
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