Jazzと読書の日々

iPadを筆記具として使う方法を模索します

「アカデミック・ライティング」とは帰納法である

『アカデミック・ライティングの教科書』を読んでから「レベル4」について考えています。

センテンスの機能的な役割。 「解釈」から「テーゼ」に至る間の段階って「抽象化」で良いんだろうか。 どうも、自分が読み間違っている感じがしてきました。

対話分析

ということで、インタビュー記事を構造分析してみることにしました。

ちょうど『アカデミック・ライティング』の阿部先生と読書猿さんが対談してる記事があって、これがうってつけ。 『アカデミック・ライティング』をより深く読み込むことができる。

この対談を素材に「対話のコード進行」を読み取ってみようと思います。

方法論

とりあえず3色ペンでレベルわけしてみます。 「事実」は水色、「解釈」はピンク。 「テーゼ」と思われるところはライムで下線を引きます。

この方法だと「事実」と「解釈」に挟まれた部分は「観察」に、「解釈」と「テーゼ」に挟まれたところは「抽象化」になると想定される。 「事実→観察→解釈→抽象化→テーゼ」と話が展開すると考えられるからです。

さて、本当だろうか。

浮かび上がったもの

実は、阿部先生よりも読書猿さんの方がこのパターンを踏襲している。 この人がロジカルな語り口、つまり「聞き手への伝わりやすさを考慮した話法」を身につけているのがわかります。

まず「テーゼ」を明示してから、それを分解してますよね。 呪術開示してから技を繰り出すのと同じじゃないですか。 きっと効果が倍増するのでしょう。

そして分解の仕方もスモールステップ。 まず「事実」を押さえ、それから自分の「解釈」を示すのにワンクッション置く。 そのワンクッションが「観察」に当たります。 「事実」と「解釈」とをブリッジする一文を挟んでいる。

「観察」は「事実」のパラフレーズです。 「事実」を提示してから、自分の言葉で言い直す。 エビデンスを一度咀嚼し、自分の言語体系に組み込む作業。 それが「観察」。

この「観察」を挟むことで、聞き手の側にも「事実」を追体験する時間が生まれます。 たぶん、「事実」の後にすぐ「解釈」を出すと「事実」が未消化に終わります。 「文選って何?」で頭がフリーズする。 「読書猿さん、博学だなあ」で理解が止まる。

そこを「指南書は役に立つ」と「観察」を付けることで「別に、文選は例として挙げただけだからねッ」とツンデレっぽく読むことができます。 「ここでは、名文を読むことが文章作成の役に立った、という事実をわかってもらえたらOK」というメッセージになってます。

伝えたいのは「でも、それだけだと文章がキメラ状になってしまう」という解釈のほう。 物事にはいい面もあれば、悪い面もある。 二つ良いこと、ないものよ。

ということで、読書猿さんの語りには「でも」「しかし」で繋ぐ「解釈」が続きます。 これが徹底している。 視点が多角的なんだなあ、と思うし、弁証法的とも思う。 起承転結の「転」をレベル3に持ってきます。

これはカントの「批判」に当たるものですね。 阿部先生も『アカデミック・ライティングの教科書』で「否定」と書いていました。 先行研究を整理してから「従来注目されてこなかったこと」「見落とされていたこと」を指摘する。 「反対すること」ではありません。 「新しい物の見方を追加すること」です。 それが「批判」です。

とすると、レベル3を「解釈」と取っていたけど「批判」の方が良いかな。 「私の見方では」と一言つけてみて、しっくり来るならレベル3。 「言い換えると」が合いそうなら、それはパラフレーズのレベル2。 これを指標にすると、レベル2とレベル3の仕分けが上手くできそうに思いました。

レベル4とは何か

このことはレベル4にも応用できます。

レベル2の「観察」は、「事実」と「解釈」を繋ぐためのパラフレーズでした。 ということは、レベル4は「解釈」と「テーゼ」を繋ぐパラフレーズになりそうです。 今までレベル4を「抽象化」と考えていたけど、それは「テーゼ」が「解釈」から導き出される「一般法則」だからでしょう。

「解釈」の段階は、まだ個別的です。 「名文の選集が編まれたころ」や「悪文を訂正する文章論が出たころ」という、具体的なケーススタディを扱っています。

「テーゼ」になると法則定立的です。 「あるパラダイムが現れると、そのパラダイムについていけない人たちが洗い出され、その人たちに対応するパラダイムが次に登場する」というパターンを抽出する。 SVOで書けるかな。 「先行するパラダイムの不備が、次世代のパラダイムを形成する」? そんな感じ。

「テーゼ」は構造やパターンの話になる。 「解釈」では、二項関係の各項目が具体的です。 「何と何」なのかが事実に基づいていて明確。 対して「テーゼ」では、二項関係の「関係」に力点が置かれます。 「何」のところは変数化され、何を持ってきても構わない。 「関係」という関数の部分、「動詞」で表されるところが重要になります。

そう考えると、なるほどレベル4の役割が見えてきました。 具体的な「解釈」がいくつか出てきたところで、それらをパラフレーズする。 「言い換えると」と言いながら「動詞」を取り出す作業がレベル4です。 「テーゼ」を作るための下拵えをしている。

「あれもこれもグロリアの分だぁー」じゃないけど、レベル4を積み重ねると「これも同じですね」とパターンが見えます。 具体例を集めて、汎用性のある構造を抽出する。

これは帰納法か。 そうかそうか、論理学の帰納法を論理的に組み立てたものが「センテンスのレベルわけ」になってますね。 そうか、人文学は帰納法で構成されているのか。

学問の初心者が帰納法を身につけるにはどうすればいいか。 そのためのトレーニングが今まで蔑ろにされてきた。 この本はその点を「批判」して具体的な治療法を提示してるわけですね。

まとめ

いやはや『アカデミック・ライティングの教科書』、なかなか実用的ではないか。