tsujimotterのノートブック

日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート

勘違いしやすい(かもしれない)素数の無限性

前回 は「素数ばかり生成される多項式」についてお話ししました。今回は「素数を無限に生成できる(かもしれない?)多項式」についてのお話です。

それでは、まず以下の問題について考えてみてください。あなたは即答できるでしょうか。

 p = X^2 + 1 \tag{1}

とかける素数  p は無限に存在するか?


そんなの簡単だろ?
YES じゃん。平方剰余じゃん。

って思うかもしれません。(私も一瞬そう思ってしまったのです。)



もしかして、これと勘違いしていませんか?

 p = X^2 + Y^2 \tag{2}

とかける素数  p は無限に存在するか?

あるいはこちらと勘違いしているかもしれません。

 kp = X^2 + 1 \tag{3}

とかける素数  p は無限に存在するか?

どちらも  (1) にそっくりな見た目をしていますが、似て非なる条件です。


実は  (2) と  (3) は同値な条件です。証明は以下のページに載っていますので、今回はやめておきましょう。
tsujimotter.hatenablog.com


さて、式  (3) は変形すると、

 X^2 \equiv -1 \pmod{p}

なので、ルジャンドル記号を使って

 \displaystyle \left(\frac{-1}{p}\right) = 1

と表せます。

平方剰余の相互法則より、

 \displaystyle \left(\frac{-1}{p}\right) = 1 \; \Longleftrightarrow \; p \equiv 1 \pmod{4}

であるので、結局

 p = X^2 + Y^2 \; \Longleftrightarrow \; p \equiv 1 \pmod{4}

となります。これがフェルマーの二平方定理ですね。*1



つまり、 p \equiv 1 \pmod{4} であるような素数  p はすべて式  (2) の形で表せます。

ディリクレの算術級数定理より、 p \equiv 1 \pmod{4} であるような素数  p は無限に存在しますから、式  (2) の形で表せる素数  p は無限に存在するという結論を得ます。


これと冒頭の話は、まったく別ですね。

フェルマーの二平方定理は、 4n+1 型の素数は必ず  X^2 + Y^2 の形で表せるというものです。

 100 までの素数で考えるとこのようになります。

 5 = 2^2 + 1^2
 13 = 3^2 + 2^2
 17 = 4^2 + 1^2
 29 = 5^2 + 1^2
 37 = 6^2 + 1^2
 41 = 5^2 + 4^2
 53 = 7^2 + 2^2
 61 = 6^2 + 5^2
 73 = 8^2 + 3^2
 89 = 8^2 + 5^2
 97 = 9^2 + 3^2

ここで 下線 が引かれているのが、 X^2 + 1 の形をした素数です。 X^2 + 1^2 は  X^2 + Y^2 の形をした式の1つなので、上の例の中に一部そのような例も存在しますが、必ずしもすべてがこの形で現れるわけではないわけです。

いくら、  X^2 + Y^2 の形の素数の無限性が示せたからといって、 X^2 + 1^2 型の素数が無限に存在するかどうかは、わからない、というわけですね。



実際、この  X^2+1 型の素数の無限性 についての問題は「ブニャコフスキー予想」と言って 未解決問題 です。

ブニャコフスキー予想(の系):

 p = X^2 + 1 \tag{1}

とかける素数  p は無限に存在する

正確には、上の予想は 1857 年に示された本来の意味での「ブニャコフスキー予想」の系の1つです。私は以下の Wikipedia で知りました。こちらに詳細な条件が載っています。

Bunyakovsky conjecture - Wikipedia, the free encyclopedia


 X^2 + 1 の他にも、 n を正の整数としたときの「  n 次の円分多項式  \Phi_n(x) の形で表すことのできる素数の無限性」についても、この予想の範疇です。

 n 次の円分多項式とは、 1 の原始  n 乗根  \zeta_n = \exp\left(\frac{2\pi i}{n} \right) を根に持つ最小多項式のことですね。

なぜ「円分」かというと、複素数平面で原点を中心とする半径  1 の円を描くと、  \{\zeta_n, \zeta_n^2, \cdots, \zeta_n^n \} が  n 等分点になっているからです。

さて、この円分多項式  \Phi_n を  n = 1 から順に並べると、こうなります。

 \begin{eqnarray} \Phi_1(X) &=& X - 1 \\
 \Phi_2(X) &=& X + 1 \\
 \Phi_3(X) &=& X^2 + X + 1 \\
 \Phi_4(X) &=& X^2 + 1 \\
 \Phi_5(X) &=& X^4 + X^3 + X^2 + X + 1 \\
 \Phi_6(X) &=& X^2 - X + 1 \\
 \Phi_7(X) &=& X^6 + X^5 + X^4 + X^3 + X^2 + X + 1 \\
 \Phi_8(X) &=& X^4 + 1 \\
 \Phi_9(X) &=& X^6 + X^3 + 1 \\
 \Phi_{10}(X) &=& X^4 - X^3 + X^2 - X + 1 \\
 \Phi_{11}(X) &=& X^{10} + X^{9} + X^{8} + X^{7} + X^6 + X^5 + X^4 + X^3 + X^2 + X + 1 \\
 \Phi_{12}(X) &=& X^4 - X^2 + 1 \end{eqnarray}

 n = 4 の場合が、冒頭の例だったわけですね。

これらはそれぞれ無限に多くの素数を生み出すことが予想されていますが、 n\geq 3 においては、それはまだ証明されていません。


どんな素数があるかは、手計算で確認してみればわかるので、ぜひやってみてください。


それにしても、こんな簡単な(ように見える)ことでも、未解決だったりするんです。ほかにも「双子素数は無数に存在するか?」や「メルセンヌ素数は無数に存在するか?」などは、有名な未解決問題ですね。

むしろ「ある特定の多項式の形をした素数の無限性」については、人類は何ひとつわかっていない と言ってしまってもいいかもしれません。唯一例外的にわかっているのは  aX+b 型の素数の無限性(ディリクレの算術級数定理)ですね。

素数の世界は本当に奥が深いです。

参考:
素数 - Wikipedia


それでは、短いですが今日はこの辺で。

*1:フェルマーのクリスマス定理とも言うそうです。 参考: Fermatのクリスマス定理 - インテジャーズ