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書き物をしていて煮詰まっているという人には、いつもする話があるから、今日はそれを紹介しよう。
レヴィ=ストロースはこんな風に書く。

「私のなかには画家と細工師がおり、たがいに仕事を引き継ぐのです。
カンバスに向うまえにデッサンをする画家のように最初の段階では、まず書物全体の草稿をざっと書くことからはじめます。
そのさい自分に課する唯一の規律は決して中断しないことです。
同じことを繰り返したり、中途半端な文章があったり、なんの意味もない文章がまじっていたりしてもかまいません。
大事なのはただひとつ、とにかくひとつの原稿を産み出すこと。
もしかしたらそれは化物のようなものかもしれませんが、とにかく終わりまで書かれていることが大切なのです。
そうしておいてはじめて私は執筆にとりかかることができます。そしてそれは一種の細工に近い作業なのです。
事実、問題は不出来な文章をきちんと書き直すことではなく、あらゆる種類の抑制が事物の流れを遮らなかったら、最初から自分が言っていたはずのことを見つけることなのです(心中ひそかに私が参照するのはシャトーブリアンとジャン=ジャック・ルソーです)」
いよいよレヴィ=ストロースの推敲がはじまる。
「山のような著作や辞書に囲まれて(辞書を手元においておくのは、未知の単語を発見する楽しみだけということもありますが)、私はまず手はじめに初稿のあちこちを抹殺し、あるいはさまざまなサインペンや色鉛筆を使って行間に加筆したりします(そのために初稿は行間を広くあけてタイプで打つことにしています)。
あらかじめ色を選ぶようなことは決してしません。それはなにか取消しのきかないことになるはずですから」
しかし、この程度では推敲は終わらない。行間という行間に、あらゆる色と種類の筆記具で加筆に加筆が重ねられても、なお続く。
「原稿が解読不能な状態になると、不要な部分を白く塗りたくり、さらに加筆訂正できるようにします。
この操作も不可能になると、切り取って原稿に貼りつける小さな紙切れを使って、書き直すべき部分を書き直せるようにします。
ようするに仕事が仕上がった時には、紙切れが三枚も四枚も重ね貼りされていて、ほとんどある種の画家たちのコラージュに似たものになっているのです」。
(ジャン=ルイ・ド・ランビュール「作家の仕事場--どのように書くか (1)〔R.バルト,M.ビュトール,H.シクスス,J.グラック,ル・クレジオ,M.レーリス,C.レヴィ=ストロースに聞く〕」『海』1978年11月号、中央公論社 ※1)
最初の文字から最後の句点まで、繭をつくる生糸のように、途絶えることも別れることもなく、ただ一本が続いているかのように見える言葉の連なりは、筆がすべる滑らかさどころか平面であることさえ止めるほどに、じつは塗り重ね貼り重ね書き重ねられて作られている。
指先から流れ出るようにして、文章が完成することはまずない。
ごつごつした不格好な断片を、何度も紙に(あるいはテキストエディタに)投げつけ、重ねて叩き付けていくしかないのだ。
書けるだけ、何でもいいから書き付けよう。
書き殴れるだけ殴ったら、何色ものペンの跡が行間から溢れ出るまで書き加えていこう。
そのあとはレヴィ=ストロースのように推敲しよう。
※1 このランビュールのインタビューは、
Rambures, J.-L. . (1978). Comment travaillent les écrivains: [entretiens avec Roland Barthes et al.]. Paris: Flammarion.
からの抄訳。岩崎力によって、原著に取り上げられた25人のうち、日本で知られる12人が選ばれ訳出、『海』1978年11月号-12月号に渡って掲載された。
11月号:ロラン・バルト、ミシェル・ビュトール、エレーヌ・シクスス、ジュリアン・グラック、ジャン=マリ・ギュスターヴ・ル・クレジオ、ミシェル・レーリス、クロード・レヴィ_=ストロース。
12月号:アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ、フランソワーズ・サガン、ナタリー・サロート、フィリップ・ソレルス、ミシェル・トゥルニエ、パトリック・モディアノ、ロベール、パンジェ。
(追記)
コメントで、全訳があることを教えていただいた。
レヴィ=ストロースはこんな風に書く。

「私のなかには画家と細工師がおり、たがいに仕事を引き継ぐのです。
カンバスに向うまえにデッサンをする画家のように最初の段階では、まず書物全体の草稿をざっと書くことからはじめます。
そのさい自分に課する唯一の規律は決して中断しないことです。
同じことを繰り返したり、中途半端な文章があったり、なんの意味もない文章がまじっていたりしてもかまいません。
大事なのはただひとつ、とにかくひとつの原稿を産み出すこと。
もしかしたらそれは化物のようなものかもしれませんが、とにかく終わりまで書かれていることが大切なのです。
そうしておいてはじめて私は執筆にとりかかることができます。そしてそれは一種の細工に近い作業なのです。
事実、問題は不出来な文章をきちんと書き直すことではなく、あらゆる種類の抑制が事物の流れを遮らなかったら、最初から自分が言っていたはずのことを見つけることなのです(心中ひそかに私が参照するのはシャトーブリアンとジャン=ジャック・ルソーです)」
いよいよレヴィ=ストロースの推敲がはじまる。
「山のような著作や辞書に囲まれて(辞書を手元においておくのは、未知の単語を発見する楽しみだけということもありますが)、私はまず手はじめに初稿のあちこちを抹殺し、あるいはさまざまなサインペンや色鉛筆を使って行間に加筆したりします(そのために初稿は行間を広くあけてタイプで打つことにしています)。
あらかじめ色を選ぶようなことは決してしません。それはなにか取消しのきかないことになるはずですから」
しかし、この程度では推敲は終わらない。行間という行間に、あらゆる色と種類の筆記具で加筆に加筆が重ねられても、なお続く。
「原稿が解読不能な状態になると、不要な部分を白く塗りたくり、さらに加筆訂正できるようにします。
この操作も不可能になると、切り取って原稿に貼りつける小さな紙切れを使って、書き直すべき部分を書き直せるようにします。
ようするに仕事が仕上がった時には、紙切れが三枚も四枚も重ね貼りされていて、ほとんどある種の画家たちのコラージュに似たものになっているのです」。
(ジャン=ルイ・ド・ランビュール「作家の仕事場--どのように書くか (1)〔R.バルト,M.ビュトール,H.シクスス,J.グラック,ル・クレジオ,M.レーリス,C.レヴィ=ストロースに聞く〕」『海』1978年11月号、中央公論社 ※1)
最初の文字から最後の句点まで、繭をつくる生糸のように、途絶えることも別れることもなく、ただ一本が続いているかのように見える言葉の連なりは、筆がすべる滑らかさどころか平面であることさえ止めるほどに、じつは塗り重ね貼り重ね書き重ねられて作られている。
指先から流れ出るようにして、文章が完成することはまずない。
ごつごつした不格好な断片を、何度も紙に(あるいはテキストエディタに)投げつけ、重ねて叩き付けていくしかないのだ。
書けるだけ、何でもいいから書き付けよう。
書き殴れるだけ殴ったら、何色ものペンの跡が行間から溢れ出るまで書き加えていこう。
そのあとはレヴィ=ストロースのように推敲しよう。
※1 このランビュールのインタビューは、
Rambures, J.-L. . (1978). Comment travaillent les écrivains: [entretiens avec Roland Barthes et al.]. Paris: Flammarion.
からの抄訳。岩崎力によって、原著に取り上げられた25人のうち、日本で知られる12人が選ばれ訳出、『海』1978年11月号-12月号に渡って掲載された。
11月号:ロラン・バルト、ミシェル・ビュトール、エレーヌ・シクスス、ジュリアン・グラック、ジャン=マリ・ギュスターヴ・ル・クレジオ、ミシェル・レーリス、クロード・レヴィ_=ストロース。
12月号:アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ、フランソワーズ・サガン、ナタリー・サロート、フィリップ・ソレルス、ミシェル・トゥルニエ、パトリック・モディアノ、ロベール、パンジェ。
(追記)
コメントで、全訳があることを教えていただいた。
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中央公論から単行本で出てますよね。
『作家の仕事部屋』
『作家の仕事部屋』
2010/12/22 Wed 14:46 URL [ Edit ]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2017/09/02 Sat 05:11 [ Edit ]
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