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    問いを持たないと、知識はあなたを素通りしていく。
    けれども、知識がないと問いは形をなさず崩れていく。
    問いと知識は、循環的因果性で結ばれている。
    砕いて言えば、鶏と卵の関係にある。

    問いは既に知っているところから、その「外」へと踏み出すところに生まれる。
    知らなければ、問うための足場がない。
    知っているところに留まるならば、問いは得られない。
    人は知と無知(未知)の境界で問う。

    知ることは、知識を増やすが、知と無知の境界も増やす。
    しかし知識の増加に比べると、境界の増加は遅い。
    球体をたとえに使うなら、体積(知識の量)が8倍(=2の3乗)増えるとき、表面積(知と無知の境界)は4倍(=2の2乗)しか増えない。
    知識は問いを減らしはしない。だが、知識ほどには問いは増えない。

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    問うこと自体は難しいことでも、珍しいことでもない。
    知りたがりの動物である人の内には、たくさんの問いが詰まっている。
    しかし、知識に祝福される問いは多くない。

    人が抱く問いの大半は、そもそも答えることができない。
    たとえば、ある時期の子供は、大人に何か言われると「なんで?」と問い返す。
    そうすれば、考える番(ターン)は相手に移ると、学習したのだ。
    けれど、考える機会を相手に譲り渡すことの意味に、その子は気付いていない。
    考える機会を手放し続けた者が行き着く境遇がどのようなものであるかを、まだ知らない。

    「なんで?」という質問の多くには、答えがない。
    しかし、無意味というわけではない。
    これは、質問の素振りのようなものだ。
    子供は、「なんで?」の繰り返しで、質問の間合いのようなものを学ぶ。
    多くを知らなくても、こうして反復練習はできる。
    しかし、やがては「生きたボール」を打つことになる。
    また、そうでなくてはいけない。

    素朴な問いは、他人に向かって放っているうちは、幼稚な問いでしかない。
    自分に振り向けるようになったとき、素朴な問いは根源的なものになる。
    やはり、その多くには答えがない。
    だが、そうした問いを長く自問自答することで、人は答えのない問いの存在を思い知る。
    それは特定の問いに対する答えを見つけることより、ずっと大切なことだ。
    そして人が持ち得る知識の中で、最も古いもののひとつでもある。

    答えのない問いが存在することなんか、少し考えれば分かりそうなものだ。
    いや、考えるまでもなく、発した問いが何度も空を切るのを見ていれば気付くはずだろう。
    しかし「答えてもらえない」ことと「答えがない」ことは違う。
    「答えてもらえない」のは、ただ単に自分の周りが「バカばっかり」なだけかもしれない。
    あなた自身が「気付いてない」だけかもしれない。
    別の「答え」を見つける人もいる。
    たとえば「自分は愛されていない」とか、そういう答えだ。

    最後のタイプの答えは、釣針のように「返し」がついていて逃れにくい。
    「自分からいやな臭いがでてる」と信じる人に「そんなことないよ」と言っても、気を使って嘘をついているのだと思われるだろう。
    反対に「その通り。すごく臭いよ」と言っても、「ああ、やっぱり」と信念を強くしてしまうだろう。
    「人付き合いが下手だ」とか「落ち込みやすい」といった、「私は~だ」というタイプの「答え」はこのタイプに陥ることが少なくない。

    「私は~だ」といったことと、ある問いに答えがあるかどうかは、まるで関係がない。
    傍目に見ていると、こんなことはすぐに分かる。
    しかしこのことを知るには、「自分の在り様」と「世界の在り様」の区別をつける必要がある。
    これは素朴なものの見方の「外」にあるものだ。
    人は、自分が悲しいと、世界自体が悲しく見えてしまうようにできている。
    「ものを知る」ことは、世界が、自分の感じ方とは独立して在ることを、承認するところにはじまる。

    これは放っておいても維持できるような、「自然」なスタンスではない。
    姿勢を保つのに、どうしても努力が必要になる。
    だが、あなたとは違う別の誰かと、知識を分け合うには必要となる。
    手を伸ばして届くその域を越えて、誰かとつながる可能性がこうして開く。

    知るとはつまり、こういうことなのだ。


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