千年にわたる“良好な遺骨”がトスカーナで発掘

コレラ大流行時を含む病と悲劇の記録は医学的にも貴重な手がかり

2015.02.20
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イタリア、ルッカ近郊のバディア・ポッツェヴェリ墓地には、ルネッサンス時代を生きたこの遺骨の人物の他、修道士や村人たちが数世紀にわたり眠っている。(Photograph by Field School Pozzeveri/The Ohio State University/University of Pisa)

 ワイン、緩やかにうねる丘陵、美しい料理。イタリアのトスカーナ地方といえば魅力的な生活の代名詞だ。しかし、かつてはこの地の生活も過酷だった。

 トスカーナ州ルッカ近郊のバディア・ポッツェヴェリ教会墓地で、1000年にわたる病と悲劇の歴史が刻まれた遺骨を考古学者が発掘した。遺骨は、1850年代にこの地方で猛威をふるい、多くの命を奪ったコレラの大流行についても知る手がかりとなりそうだ。

 今回発掘された遺骨からは、骨感染症や虫歯、炭水化物中心の偏った食事など、11世紀から数百年間にわたる、人々の過酷な生活と厳しい健康状態の跡がうかがえる。中でも最も古い区画の1つには1300年代に流行した黒死病の犠牲者が埋葬されている一方、最後に埋葬されたのはコレラの犠牲者だ。

「今回発掘した遺骨は、これまでに見つかった同じ時代のコレラによる死者の遺骨の中で、最も保存状態が良好なものです」オハイオ州立大学の考古学者クラーク・スペンサー・ラーセン氏は15日、カリフォルニア州サンノゼで開催された アメリカ科学振興協会(AAAS) の会議で語った。ラーセン氏は今回の発掘を行った中心メンバーの1人で、同会議で調査結果を報告した。

遺骨からわかること

 これだけの長い時代にわたる遺骨の発掘は、考古学者にとって、埋葬された修道士や村人の生活と死について知る貴重な手がかりとなる。

 ラーセン氏によると、今回発見されたコレラ犠牲者の遺骨は、1855年だけでトスカーナ地方の2万7000人以上が命を落とした世界的な3度目の大流行の際に亡くなったものだという。

 犠牲者は急いで埋葬され、疫病のさらなる蔓延を防ぐためか、遺体には石灰が被せられていた。石灰には遺骨を保護する効果があり、遺骨は驚くほどよく保存されている。

バディア・ポッツェヴェリ教会墓地には1300年代の疫病による死者、1800年代のコレラ犠牲者、そしてルネッサンス時代の人々が埋葬されている。(Photograph by Field School Pozzeveri/The Ohio State University/University of Pisa)

欧州全体の流行の解明も

 1056年に建設された聖ピエトロ・ポッツェヴェリ教会は、中世に商人や英国カンタベリー大聖堂へ向かう巡礼者が通る「フランスからの道(Via Francigena)」に近くて栄えたこの地の修道院の本部でもあった。

 この教会は巡礼者の休憩所だったため、今回発掘された遺骨から、疫病がどのように欧州内に広がったのかが明らかになるかもしれない。

細菌の先手を打つ

 ラーセン氏によると、石灰層の下の土壌には当時の人々のDNAや、体内に生息していた細菌のDNAが残っている可能性がある。コレラを引き起こすコレラ菌もその1つだ。

 研究チームは墓地から採取した土の分析を開始した。ヒトの病気と関連する複数の細菌のDNAが見つかったが、コレラ菌はまだ確認されていない。

 今後、夏の野外調査でさらに土壌の分析を進め、当時流行したコレラ菌のDNAと現在流行しているコレラ菌のDNAを比較する予定だ。その違いから病原体の進化の過程が明らかになれば、さらなる進化の先を読む第1歩になるかもしれない。

文=Erika Engelhaupt / 訳=キーツマン智香

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