大麻の常用者がかかる奇妙な症候群が倍増、合法化の影響か、米国

嘔吐や腹痛などの「カンナビノイド悪阻症候群」、1日に何度も風呂に入りたがる人も

2024.11.18
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大麻の長期常用と関連付けられるカンナビノイド悪阻症候群(CHS)で入院する人の数が、米国で2017年から2021年までに倍増した。なぜCHSを発症しやすい人がいるのかは、まだ解明されていない。(Photograph by Bill Marr, Nat Geo Image Collection)
大麻の長期常用と関連付けられるカンナビノイド悪阻症候群(CHS)で入院する人の数が、米国で2017年から2021年までに倍増した。なぜCHSを発症しやすい人がいるのかは、まだ解明されていない。(Photograph by Bill Marr, Nat Geo Image Collection)
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 繰り返し起こる吐き気、嘔吐、激しい腹痛。そして何度も風呂に入りたがる。こうした胃腸などの異常は、長期にわたる大麻(マリファナ)の常用に関連付けられる「カンナビノイド悪阻(おそ)症候群(CHS)」の典型的な症状だ。

 CHSは、2004年に初めてオーストラリアの医師たちによって報告された。米国では患者数が年間275万人と推定され、その数は増えているという。2024年10月号の医学誌「JAMA」に掲載された一般患者向けの記事によると、米国とカナダではCHS関連で救急外来を訪れる患者の数が2017年から2021年の間に倍増した。

 増加の一因は、嗜好用大麻を合法化する州が増え、手に入りやすくなったことかもしれない。2024年3月に医学誌「Journal of Clinical Gastroenterology」に発表された論文も、この見方を裏付けている。

 2016年に大麻が合法化された米マサチューセッツ州の大病院で、合法化前の2012年と後の2021年を比べたところ、CHSで入院した患者数が合法化後に大幅に増えていたことがわかった。(参考記事:「米〈医療大麻〉28州で合法に、 推進派医師の言い分は」

 要因はもう一つある。「現在入手できる大麻は30年前のものと比べるとはるかに強力になっています」と、米エール大学医学部の精神医学教授で、大麻・カンナビノイド科学センター長を務めるディーパック・シリル・デソウザ氏は話す。

 1960年代、大麻に含まれる向精神成分の「デルタ―9―テトラヒドロカンナビノール(THC)」の濃度は2~4%が普通だったが、最近ではそれが18~35%またはそれ以上にまで増加している。(参考記事:「大麻栽培は「エコでオーガニック」志向へ、米国」

 とはいえ、「なぜ一部の人々だけがCHSを発症しやすいのかはわかっていません」と、デソウザ氏は言う。そこで、この不可解な症状について現在研究で明らかにされていることをまとめてみた。

常用者でも多くの人は発症しない、ではリスク要因は?

 最大のリスク要因は、大麻の大量使用だ。数年間ほぼ毎日、または1日に複数回使用していると、リスクが高まる。いつ発症してもおかしくないが、何十年も使用を続けてから発症する場合もある。(参考記事:「大麻使用者の2割が依存症に、精神症リスクは「コカイン以上」」

 ただし、「毎日大麻を使用していてもほとんどの人はCHSを発症しません」と、カナダ、カルガリー大学で消化器学の臨床教授を務めるクリストファー・N・アンドリューズ氏は言う。発症したとしても、常に症状が続くわけではない。「症状は出たり治まったり、周期的に起こります」と、デソウザ氏も言う。「ずっと続いていたら、その人は大麻をやめざるを得なくなるでしょう」

 2019年6月26日付で医学誌「Neurogastroenterology & Motility」に発表された論文で、研究者が271件の症例を検討したところ、患者の平均年齢は30歳で、69%が男性だったという。また、68%が大麻を毎日使用しており、CHSを発症するまでの大麻の使用平均年数は6.6年だった。

 なぜCHSになりやすい人がいるのかについてデソウザ氏は、人間の体内にある「内因性カンナビノイド系」が関係しているのではないかと考えている。

 内因性カンナビノイド系は、学習と記憶、痛みの知覚、免疫機能など多くの重要な体の機能を調節している。体の中で作られ、大麻に含まれるものとよく似た体内カンナビノイドと呼ばれる物質と、それに反応するカンナビノイド受容体(主に脳と胃腸全体に分布)で成り立っている。

次ページ:投薬や温浴で症状緩和

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