会議、電話、通知、マルチタスク――現代の職場は、リラックスして仕事ができる環境にあるとは言い難い。事実、最近の米国の調査では、米国人の84%が「自身が抱えるメンタルヘルスの問題の少なくともひとつは雇用主に関するものである」と答えている。
燃え尽き症候群やストレスに悩まされる人の数が驚異的に増えつつあるなか、米ジョージタウン大学の教授でベストセラー作家のカル・ニューポート氏は「スピードを落とそう」と呼びかける。自身の新著『Slow Productivity(スローな生産性)』において、なぜ仕事をこなすことの負担がこれほど大きいのか、その理由を明かしている。(参考記事:「ストレス研究最前線 心身への悪影響を和らげるには」)
現代の職場が抱える矛盾、そして、どうすれば「スローな生産性」の原則を生活に取り入れることができるかについて、ニューポート氏に聞いた。
――あなたの著書では、現代の職場で一般に見られる状況を表すうえで「疑似生産性」という言葉を使っていますが、これはどういう意味でしょうか。
我々は「目に見える活動」を、有益な努力を示す指標として使っています。こうしたやり方は、工場や農業部門での生産性の測定方法に由来するものです。工場の場合は生産された車の数、農業であれば耕作地1エーカー(4047平方メートル)当たりのトウモロコシの収穫量を見れば、どの程度の生産性があるかがわかります。
この方法は知識労働に適していませんでした。そこには、微調整して改善できるような、明確に定義された生産システムが存在しないからです。そこで、代わりに擬似的生産性が用いられるようになりました。かつてのように数値や割合で生産性を測ることができないのであれば、活動していないよりは活動しているほうが良いとしておこう、となったわけです。
――オフィスワークはなぜストレスが多いのでしょうか。
この問題をもたらしたのはIT革命です。我々は電子メールやコンピューター、さらにはモバイルコンピューティングやスマートフォンを手に入れました。引き受けられる仕事の量が増えたせいで、突如として擬似的生産性が制御できないほど加速しました。
メールやインスタントメッセージでのやりとり、あちらこちらのデジタル会議に顔を出すなどの行為を通じて、自分が努力している様子を、より詳細に示せるようになりました。これをきっかけとして、今日見られるような燃え尽き症候群危機への転落が始まったのです。(参考記事:「『即レス文化』にのみ込まれて病まないために大切なこと」)
――「退社は5時以降にしろ」と言う上司をどう思われますか。
それは典型的な擬似的生産性です。活動が生産性の指標となっているため、活動が多いことが少ないことよりも良いとされ、活動していなければ疑いの目を向けられます。