コウテイペンギンの繁殖に壊滅的な打撃、南極半島西側で明らかに

「残された時間はありません」と研究者、海氷の減少と関連した初の広域失敗例

2023.08.25
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コウテイペンギンは海氷の上で子育てをする。海氷が割れたときにひなが生き残る可能性は低い。(PHOTOGRAPH BY PAUL NICKLEN, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
コウテイペンギンは海氷の上で子育てをする。海氷が割れたときにひなが生き残る可能性は低い。(PHOTOGRAPH BY PAUL NICKLEN, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
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 学術誌「Nature Communications Earth & Environment」に8月24日付けで発表された論文によると、南極半島の西側のベリングスハウゼン海域で確認されているコウテイペンギンの5つのコロニーうち、4つのコロニーで繁殖が完全に失敗した可能性が高いという。

 原因は海氷の減少だ。衛星画像は、ひなが十分に成長する前に海氷が崩壊してコロニーが消滅したことを明確に示していた。

 南極の周辺だけに生息しているコウテイペンギンは、定着氷(海岸に接して動かない海氷)の上で繁殖し、産卵し、子育てをする。2022年、南極大陸の海氷面積は前年に出たばかりの過去最小記録を更新した。なかでもベリングスハウゼン海では著しく、海氷がすっかりなくなってしまった地域もあった。

 コウテイペンギンは3月下旬に氷の上の繁殖地にやってきて、5月から6月にかけて産卵する。南極の冬の過酷な寒さの中、卵は約2カ月後に孵化する。ひなは、ふわふわの羽毛に覆われている間は氷の上で暮らし、夏の12月から1月にかけて防水性のある羽毛に換羽してから海に入る。

「私たちは、コウテイペンギンが1つのシーズンにこれほどの規模で繁殖に失敗するのを見たことがありません。南極の夏にこの地域の海氷が失われたことで、コロニーから追われたひなが生き残る可能性は非常に低くなりました」と、論文の筆頭著者である英国南極観測局(BAS)のピーター・フレットウェル氏は声明で述べた。

 衛星画像によるモニタリングが始まった2009年以降、南極大陸全域で海氷の急速な減少による繁殖の「壊滅的」な失敗が単発的に起きたことはあったが、広い地域で記録されたのは今回が初めてだ。

 現在のペースで温暖化が進めば、コウテイペンギンのコロニーの8割以上が2100年までに消滅するという予測がある。研究チームは、自分たちの調査結果はこの予測を裏付けるものだと考えている。(参考記事:「コウテイペンギン 氷とともに消える運命」

暗い未来のスナップショット

 2015年まで、南極大陸の海氷面積は増加傾向にあった。しかしその後、南極大陸は45年におよぶ衛星観測記録の中で海氷面積が最小の時期を4年間も経験している。南極大陸ではコウテイペンギンのコロニーが62個確認されているが、2018年から2022年にかけて、そのうちの30%が海氷の部分的または完全な消失の影響を受けている。

 2023年も、状況の改善は見られそうにない。「今年の冬の海氷がたくさん失われ、重要な海流が遅くなり、氷河や棚氷が崩壊しつつある」と、南極と亜南極の研究に40年間従事してきたオーストラリア、ウーロンゴン大学のダナ・M・バーグストロム氏は学術ニュースサイト「ザ・カンバセーション」に8月21日付けで寄稿した。

 1年ごとの海氷の変化の主な理由が地球温暖化にあるのか、それともラニーニャ現象のような季節的な風や気候のパターンにあるのかを判断するのは非常に難しい。だが、モデル研究からは、南極の海氷面積は長期的に減少すると予測されている。

 今回の論文の最終著者であるBASのノーマン・ラトクリフ氏は、コウテイペンギンの繁殖の失敗は「未来の南極でどんなことが起こるのかを教えてくれるスナップショットなのかもしれません」と言う。

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