カラスをはじめ、カケス、カササギなどカラス科の鳥は知能が高いことで知られている。人間の顔を識別し、住宅街をうろついてゴミ箱を漁り、死んだ仲間のために葬式まで出す。(参考記事:「【動画】カラスが難しいごみ箱を開けた」、「カラスが仲間の葬式をするって本当?」)
そして、中にはちゃんと取引ができるカラスもいるらしい。
このたび、公平な取引と不公平な取引をカラスがどれだけ区別できるのかを調べた論文が「Animal Behavior」6月号に発表された。(参考記事:「カラスの高い知能、イソップ話は実話?」)
研究を行ったのは、スウェーデンのルンド大学、オーストリアのウィーン大学、およびその他の機関の研究者らだ。論文の共同執筆者であるヨーグ・マッセン氏は、ウィーン大学の博士研究員で、認知生物学を専門とする。
「ある種の協力的な関係は、カラス科の複雑な社会生活の一部なのです」と、マッセン氏は言う。カラスがどのようにして物事を選択しているかを理解できれば、「知能の進化を研究するうえで役に立ちます」
研究に使われたカラスは、マッセン氏と他の研究者らが自分たちで育てたワタリガラス(Corvus corax)という種だ。飼育されたカラスは人間を恐れないので、訓練しやすい。
パンを差し出すとチーズがもらえる
研究者たちは、9羽のカラスに小さなパンの欠片を与えて、それをもっとおいしいチーズと交換できるということを教え込んだ。第1段階は、「公平な取引」を覚えさせる。トレーナーがケージの片側からパンの欠片を与える。カラスはそれをくわえてケージの反対側へ行くと、そこで別のトレーナーがチーズと交換してくれるというものだ。
第2段階は、「不公平な取引」。カラスは手順通りの行動を取るが、また別の3人目のトレーナーはチーズを渡さずに自分で食べてしまう。
2日後、「公平」なトレーナー、「不公平」なトレーナー、そして第3の中立のトレーナーが並んで待ち構え、実験が行われた。7羽のカラスのうち、6羽が公平なトレーナーを選び、1羽が中立のトレーナーを選んだ。さらに1カ月後、9羽全てで実験すると、7羽が公平なトレーナーを選び、1羽が不公平なトレーナーを、そして最後の1羽は中立のトレーナーを選んだ。(参考記事:「ひもを引いてエサを食べる賢い鳥、定説覆す」)
実験はほぼ毎回、ケージの中にカラスを2羽入れて行われた。1羽は、オブザーバーとしてもう1羽の行動を見ていたのだが、それが自分の行動決定に影響を与えることはないようだった。
今回の実験の範囲内ではないが、マッセン氏は、カラスが公平なトレーナーと不公平なトレーナーを2年間は覚えているだろうと考えている。その根拠は、カラスはケージの仲間を2年間覚えていられるからだという。(参考記事:「【動画】賢い鳥、イソップの難題をあっさり解決」)
野生のカラスはパンとチーズの経済とは無縁だが、今回の研究はカラス科の複雑な社会構造がどのように進化してきたかを理解する手がかりを与えてくれるかもしれない。
「1羽のカラスが別のカラスを助けるなら、長期的な持ちつ持たれつの関係が存在することになります」と、マッセン氏は言う。言い換えるなら、カラスは社会資本を作って、時間が経ってもそれを維持できるということだ。相手の身づくろいをしたり、戦いのときに助けたりする好意的な行動は、確かによい関係にあるカラス同士で行われる。(参考記事:「賢いインコ「ヨウム」、アフリカで激減」)
研究者は次に、そうした行動がカラスの性格の違いによってどこまで変わるのかを調べてみたいと考えている。