新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威を振るい、世界中の人々が自宅生活を余儀なくされている。生活圏が自宅と生活に必要な一部の店だけになった今、大きな意味を持つようになっているのが近所に住む人たちだ。
これまでは仕事場へ急ぎ、次にすることばかり考えていたのが、今では社会的距離を保ちつつ遠くから会釈してくれる人に気づく余裕ができた。シャッターが閉まった店、誰もいない街、春を満喫する鳥たちなど、近所の変化は否応なしに目に入る。他に行くところがなく、見る場所もないのだから。
仕事で世界を飛びまわっていた写真家たちも例外ではない。いや、彼らこそ、これまでにないほど周囲の場所や人々にしっかりと目を向けている。フランスのノルマンディーで暮らすある写真家は、近所の人々の助け合いの様子を写真に収めた。パリの写真家は、社会的距離を保ちながらお酒を楽しむ人々を撮影した。米国の写真家たちは、ニューヨークの肉屋に張り出された悲しいお知らせや、ダラスの裏庭ジムをとらえた。トルコのイスタンブールやインドのデリーの写真家は、バルコニーや屋上に目を向けて初めて、近隣の様子をカメラに収める意味に気づいた。
周辺の人や場所しか見ることができなくなったとき、その見方はどう変わるのか。窓の外の世界は、新型コロナウイルスでどう変わったのか。ナショナル ジオグラフィックと写真家集団マグナム・フォトの世界中の写真家たちが、カメラでとらえたロックダウン下の日常を紹介しよう。
文=RACHEL HARTIGAN SHEA/訳=鈴木和博
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