農林中金、1.2兆円資本増強検討 今期5000億円超赤字へ

見出しがセンセーショナルだから、素人が見ると大げさに論じちゃうやつ。

上記記事は日本の中でも運用資産がばかでかい農林中金が運用ミスで5000億円の赤字となり、1.2兆円の増資をしそうということが報道されている。
この記事を読んだ時にXでもいくつか話題にしていた人もいるが、きちんと金融機関の運用に知識がある人とそうでない人で大きく捉え方が異なったので、これについて正しい認識の仕方をしていきたいと思う。

まず最初に認識しなければいけないのは、基本的に金融機関の運用というのは基本は債券である。
なぜなら、金融機関の運用というのは基本は債券なのかというと、金融機関が取れるリスクの上限が金融当局によって定められているからである。
特に基本的な投資適格債券以外は相当大きいリスクウェイトをかけられることになっており、TLAC・劣後債・REIT・株については投資金額以上のリスクウェイトを求められる。
(その比率もリスク高い順にかなり大きいリスクウェイトをかけられる)
その数値については以下の資料を参考にしてもらいたい。

【参考記事】
https://www.fsa.go.jp/inter/bis/20171208-1/03.pdf
(ちょっと古いので一部はリスクウェイトが変わっているところもある)

最終的に金融機関は自己資本÷(運用資産×リスクウェイト)の数値を計算し、これを一定水準以上にする規制をかけられており、これを守れなかった場合に金融当局が是正勧告をしたり、あまりにも水準がひどい場合はベイルイン(ようはデフォルト)させて株式投資家や債権投資家に損失負担させるのである。

さらに金融機関は違う通貨のリスクを取る場合は、その為替変動リスクもマーケットリスクとして計算しなければいけないので、一般的には外国債券に投資する場合は為替ヘッジを同時にかけて行うのが一般的である。

そのため今回の農林中金の大きな赤字というのは、基本的には為替ヘッジをかけていた外国債券、その中でも米国債と欧州債(欧州債もおそらくフランス国債)がほとんどを占めるものだと思われる。
2021年より手前の金利が低い時期に投資していた米国債・欧州債が大幅に金利上昇してしまった上に逆イールドとなっており、為替ヘッジコストが大幅増加して、為替ヘッジコスト考慮後の利回りが長期債中心に思いっきり逆ザヤ(マイナス利回り)になってしまい、このポジションを損切りすることになったというのが今回の赤字原因である。
特段それ以上でもそれ以下でもないものであり、この赤字をもってリーマンショックの再来が~とかいうのは的外れもいいところである。

ここらへんは日頃金融機関の運用特性を知っていたり観察したりしている人なら容易に想像のつく、あまり難しい事象ではないと思われる。
さらに農中自体がCET1比率が18%あるわけで、今回の措置はどちらかいうとポジション入れ替えるにしても他のポジションまでは損切りせずに違うポジションを取りたいために行った措置と考えるのが妥当で、農中にとってはかすり傷程度の認識で概ね問題ない内容であると思われる。
(とはいえ、この3~4年ぐらいの利益ぶっとばしていることとか、性質上結構リスク取らなきゃいけない運用していることとかは何ともというところではあるが・・・)

ちなみにこういう記事を見た時に、株が最高値になっているのに株をたくさん買っていないのはなぜなのか~とか、円安なのになぜ~とか、CLOが~とか言っているのはバーゼル3規制や金融機関の自己資本規制などを知らない金融機関の運用についての知識が全くない素人であることは歴然としていると思われる。
(新聞のコラム書いてるくせに生保のALMについて全く頓珍漢な話してた人とか・・・)

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