拉致問題と安倍政権のジレンマ/李鍾元
過去の北朝鮮による日本人拉致問題が安倍政権を圧迫している。対北強硬姿勢が政治的資産だった安倍首相としては、逆説的で皮肉な状況だ。見方を変えれば、必然的だと言わざるをえない現象でもある。冷戦初期のアメリカの戦略家であり、外交官だったジョージ・ケナンは、トルーマン・ドクトリンに反対し、“強硬論のブーメラン現象”を警告した。ギリシャとトルコという特定地域への関与を“自由と抑圧の世界史的闘争”という図式の善悪二分法的な論理で正当化すれば、世論の硬直化を招き、国益に立脚した柔軟な外交が制約されるという憂慮だった。実際にその後、マッカーシズムという冷戦ヒステリーがアメリカを襲い、対中政策を含めて消耗的な冷戦対決路線に突き進むことになった。
六カ国協議が予想外の進展を見せた直後、安倍首相の発言にも微妙な変化が表れはじめた。自身の名前で毎週発行している2月15日付のメール・マガジンで、安倍首相は「日本は、国際社会と協力し、北朝鮮に圧力をかけてきました。これが対話へと移行していくことを私は望んでいます」と“対話路線”への転換を示唆するような文章を掲載し、注目を集めた。20日には首相官邸で拉致被害者家族および支援団体代表と面談したのに続き、25日には首相就任後初めて、帰国した拉致被害者5人を新潟まで訪れて会うという熱意を見せた。もちろん、拉致問題の強硬姿勢を誇示する政治的パフォーマンスという性格もないわけではない。しかし一方では、これら一連の面談で六カ国協議の意味を説明し、これからの日朝交渉を行う方針に理解を求めるための政治作業だという観測が多い。
実際に拉致問題に対する日本社会の強硬世論は、安倍政権にとっても大きな負担だ。安倍首相の支持率は下落し続けているが、唯一、拉致問題に対する強硬姿勢は依然として強く支持されている。2月中旬に行われた『朝日新聞』の世論調査では、「支持しない」が40%で「支持する」の37%を超えたが、「拉致問題が前進しなければ、日本は北朝鮮へのエネルギー支援をしない」という安倍首相の決定については81%がこれを「評価する」と答えた。安倍首相自身を含めて政府関係者の微妙な姿勢変化については、拉致問題関連グループからは警戒する声があげられもした。硬直した世論の雰囲気を背景にしながら、従来の強硬方針をどのように転換し、拉致問題に一定の“進展”を引き出すことができるかは、まだ明確な展望は提示できないでいる。
来週に予定されている米朝交渉に、日朝交渉を連携する方向で日本は対米“圧力”に全力を注いでいる。拉致問題に目新しい進展がない状況で、アメリカが北朝鮮に対するテロ支援国指定解除措置をとった場合、日本の立場は決定的に弱まるためだ。しかし日本のこのような背水の陣が、対北交渉論に大きく傾きはじめたアメリカを引き止めることができるのかは不透明だ。
これから数ヶ月間にわたる六カ国協議の動き、その中での日朝交渉、そして拉致問題がどのような様相を見せるのかが、7月の参議院選挙を控えた安倍政権の行き先を左右する大きな要素になることは明らかだ。六カ国協議の“初期段階措置”が何らの成果も見出せないままこう着状態に陥れば、“強硬派”安倍政権は再び“北風”に乗って起死回生のチャンスを得ることになる。小泉首相のような電撃的な日朝交渉が実現すれば、この場合も重要な成果として誇示することができるだろう。選挙の季節に入り、韓米日のすべてが対北関係の行方が国内政治と直結する状況を迎えている。
李鍾元/立教大学教授・国際政治
2月27日のハンギョレ新聞に掲載されていた李鍾元教授のコラムです。
最後の段落は「どっちに転がっても安倍ちゃん有利」な状況ということなのでしょうか。それにしても「こう着状態→強硬路線がブイブイ」というのは、ますます日本を“痛い国”に追い込むだけでは・・・。あああ~、やめてェ~。