坂田『ミジンコ大全』:名著、快著。ミニアルバムつきでお買い得!

私説 ミジンコ大全

私説 ミジンコ大全

すげえ。あの山下洋輔トリオの(なんて言う必要もないとは思うが)サックス吹き、坂田明が書いたミジンコのすべて。これは朝日新聞の候補本一覧に入っていたのを見落としてかっさらわれて(といっても、希望を出しても取れなかっただろうというのが慰めではある。W田さんが出席して花丸つけていたというから)、非常に悔しかったんだが、実物を見てなおさらその思いを強くした。

ミジンコを見つけるところから、その飼育、おもしろさ、多様さ、繁殖方法、重要性まで、実に詳しい。その観察記、そして生物スケッチの難しさ(といいつつ著者のスケッチ多数)、そして顕微鏡写真まで坂田明自身がやっている。スゲー。

読んで見ると、ぼくが知らなかっただけでかなり昔からこの人はミジンコに入れ込んでいて本も出していたんですねー。お見それいたしました。本書の一部は、その前の本『ミジンコ道楽』からの再録。それに研究者三名との対談もくっつけて、さらには坂田明のジャズアルバム『海』CDまでついて、とにかくお買い得。対談はもちろん、バカな芸能人対談などではなく、ちゃんと専門的な話にもついていけるし、また地球温暖化とかで研究者側が不見識なことを言い出すと坂田明がそれを引き戻すという、まこと見事な対談ぶり。

あとがきの反文明的な物言いに少し鼻白む面もあるし、また人口増加って減速してるので坂田明が心配してるみたいなことにはならん。ついでに、人間は人間の都合で生きているけれど、ミジンコはミジンコの都合で生きているし、ウシはウシの都合で生きている。それでこれであれやこれや、とは思う。が、それに安易に流されてはいないし、おもしろいポイントはついているので(ちなみに坂田明はハドロン加速器にも入ったことがある! 許せん!)考えるヒントにはなる。いろいろおもしろい本なので、是非是非。



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山形浩生の「経済のトリセツ」 by 山形浩生 Hiroo Yamagata is licensed under a Creative Commons 表示 - 継承 3.0 非移植 License.

ドレズナー『ゾンビ襲来』:ゾンビ相手の外交理論、人間にも通用するか?

ゾンビ襲来: 国際政治理論で、その日に備える

ゾンビ襲来: 国際政治理論で、その日に備える

従来の人間ゾンビ関係は、殺るか殺られる(食われる)かの単調な理解を超えるものではなかった。本書は既存ゾンビ資料の徹底的な分析からくる深い知見をもとに、深みのある人間ゾンビ関係理解に先鞭をつけた快著だ。リアリズム、リベラリズム、ネオコン、社会的構成主義など、国際関係論の各種立場を使うことで、ゾンビ襲来への対処法は驚くほど明確になる。人間じゃないし遠慮なく蹂躙しろという立場、生死を問わずそこにいるという事実を重視する立場等々。そしてその分析が逆に、それぞれの理論の特徴やゆがみをも浮き彫りにしてくれるという余録もある。
むろん、各種立場のどれを採用するかはあなた次第。だがゾンビ襲来の日に備え、物理的な武装に加え本書で理論武装もしておけば、対ゾンビ交渉も実り多いものとなろう。さらに知的遊戯として、各種枠組みをゾンビならぬ人間に適用してみるのも高度な読者には一興。この実用性と遊び心の共存も本書の魅力だ。(2013/1/13掲載、朝日新聞サイト)

コメント

せっかく著者がまじめくさったおふざけで書いているんだから、書評もそれに応えねばなりますまいと思って、400 字で気合いを入れて書いたんだが、あんまり喜んでもらえなかったようで残念。



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