知っておきたい今井むつみさんの認知科学の広くて深い世界を、体系的に学べるように、えりすぐってお届けしていきます。今週は、今井むつみさんが監修・解説を務める『 きょう、ゴリラをうえたよ 愉快で深いこどものいいまちがい集 』(水野太貴・文、今井むつみ・監修・解説、KADOKAWA)からの抜粋です。3回目は、本書の著者で「ゆる言語学ラジオ」の話し手を務める水野太貴さんの「こどものいいまちがい」3選です。
各国の言語には、共通する発想がある?
「かたい!!!」
(2歳)
お菓子の袋が開かないとき、この子は「かたい」と親に言って、代わりに開けてもらっていたようです。しばらくすると、ドアが開けられないときや、服を上手に着られないときも「かたい」と言うようになったんだとか。
さて、「言いがたい」みたいに「かたい」は「難しい」という意味で使うこともありますよね。これは、「堅い」と同語源のようです。つまり、この子は「難しい」と言いたくて「かたい」と言っていたのかもしれないのです。
さらに驚くことに、英語を見てみると、「難しい」を指すhardは、「堅い」という意味も持ちます。弾力のあるグミのことを「ハードグミ」なんて言いますよね? つまりこの現象は日英で共通しているんです。
「行く」と「来る」の違い、あなたは説明できますか?
(3歳)
なんだかヘンテコな文ですが、でも違和感の正体を説明しようと思うと苦労する人も多いのでは? そう、実は「行く」と「来る」の違いは難しいんです。
どちらも移動を指してはいるんですが、ポイントは「方向性」。自分から見て遠くに移動するなら「行く」、近づくなら「来る」と使い分けているんです。なので、「(自分が)ともだちの家に来る」はおかしく感じるわけです。
ところが、ややこしいことに、方言によっては使われ方がビミョーに異なります。例えば福岡の方言なら、「今からそっち来るけん」は自然な文。つまり、福岡の感覚ならこの子の発言も全然アリなのです。英語もそうですね。"I'm going."より"I'm coming."の方が自然です。
ことばと性別 こどもの学びとは
(5歳5か月)
いったいどういうこと? そのヒントは上の囲みの中にあります。よーく見てみてくださいね。
答えは「娘」。この反対は「息子」ですが、ひらがなに直すと「むすこ⇔むすめ」と対応関係になっています。この対立は「おとこ⇔おとめ」、「ひこ(彦。美しい男の子)⇔ひめ」などにも見られます。おそらくこの子はこうしたことばを覚えたからこそ、ありの女の子を「ありんめ」と呼んだのでしょう。
なお、言語によっては名詞に性別があるものも。例えばイタリア語なら、語尾がoなら男性名詞、aなら女性名詞です。単語の語尾で性を区別する……「ありんこ/ありんめ」の発想は、実は遠い国の言語の文法に似ているんです。