あなたは質問が上手ですか? 新刊『みんなが読みたがる文章』(ナムグン・ヨンフン著、松原佳澄訳)では、いい文章のためには質問力が大切だといいます。文章の前には思考が必要ですが、その思考をつくるのが質問力なのです。抜粋してご紹介します。
あなたは質問に自信がありますか?
「質問のある方? 誰もいないですか?」(No, no takers, no takers)
応答ひとつありませんでした。会場内を見まわしたオバマ大統領は小さくため息をつきました。そうして質問の機会は中国の記者に移りました。
何のことでしょうか? これは2010年のG20閉幕式での出来事です。開催国の仕事をやり遂げた韓国のために、当時アメリカ大統領だったオバマは、韓国の記者たちに質問の機会をくれたのです。しかし、挙手した記者はひとりもいませんでした。
世界の大統領ともいえるアメリカ大統領に直接質問できるなんて、人生で一度あるかないかの大チャンスなのに、なぜ誰も質問しなかったのでしょうか? オバマの演説が完璧だったからでしょうか? それとも、本当に質問することがなかったのでしょうか?
2つのことが考えられます。
(1)質問の仕方を教わってこなかった
(2)質問を通して思考の種をつくり出せなかった
考えていれば、質問ができる
文章を書くための話なのに、急に質問の話が出てきて不思議に思うかもしれません。なぜ質問の話をしたのでしょうか。
文章を書けないいちばんの理由は、自分の考えがないせいであり、自分の考えを練って育てたものが質問になるからです。つまり、質問力が文章を書く実力なのです。さきほど説明した通り、質問は思考をつくり、練り上げます。
練り上げられた思考は文章のネタです。書くときになって考えるのではなく、Think Bank(思考の銀行)にあらかじめ保管しておいて、必要なときに取り出しましょう。
異なる思考であっても、保管されているほかの思考と融合して、利子のようにさらに別の思考を生み出します。少し毛色の異なる作品でもすらすらと書けるようになるでしょう。Think Bankは金利が高い銀行なのです。
韓国最高の知性、李御寧(イ・オリョン)教授の『「ふろしき」で読む日韓文化―アジアから発信する新しい文明』という本があります。これは、1冊通してふろしきに関する話です。
「なぜふろしきなのか?」という問いから、韓国文化、ポストモダニズムまで、ふろしきのように融通が利き、変化に富んだ人材が新しい時代で生き残るのだ、と締めくくっています。そして、その始まりはThink Bankにあった「なぜふろしきなのか?」です。つまり、小さな問いが始まりだったのです。
読書で種をつくろう
では、どのように問いをつくるのでしょうか?
そのためには、多様な講義を聞き、読書をすることです。自分が当然だと考えていたことが砕け、踏み出してゆく痛みを感じなければなりません。『文明の衝突』や『文明の共存』を読んで、イスラムとキリスト教文明の共存を知り、『文明崩壊』を読んで、「ルワンダ虐殺」が民族浄化ではなく土地を持たない彼らの憤怒による虐殺であったことを知りました。
汚れた原石が削られ整えられて輝く宝石となるように、漠然とした多くの思考は読書という活動によって削られ、具体的な問いへと整えられていきます。思考の断片は宝石のかけらとは違い、また別の思考の種となります。そして、思考の種は他の問いとして成長していきます。
「知らないことは尋ねよう、疑問を持って尋ねよう」これらが問いの種となります。多くの問いが生まれたら、読書や講義で問いの答えを探しましょう。この過程をくり返して自問自答しながら思考を整理します。
ナムグン・ヨンフン著、松原佳澄訳、日経BP、1760円(税込み)