2024年は能登半島地震から始まり、マイナス金利の解除、日経平均株価の過去最高値更新、パリオリンピック・パラリンピック、岸田首相退陣から石破政権誕生、そして米大統領選挙でのトランプ氏勝利と、波乱に満ちた1年でした。2025年、そして次の10年はどうなるのか。これからの日本と世界を先取りするために読んでおきたい「日経の本」を、書籍部門の部長を務める赤木裕介が紹介します。
経済記者、専門誌編集長の視点を知る
最初にご紹介するのは、政治、経済、産業と企業の動向、国際情勢など22の論点について、日本経済新聞のベテラン記者が予測を示す『 これからの日本の論点2025 日経大予測 』です。
中国・ロシア・北朝鮮の「枢軸」が国際秩序を壊し、第3次世界大戦に向かうのか。産業構造を変える「ティア0.5」とはどのような存在か。34年ぶりに最高値を更新した日経平均株価は、さらに上昇するのか。団塊の世代が後期高齢者となる「2025年問題」を迎えて日本の社会保障はどうなるのか。政治改革は進むのか。各社が独自のAI「カイシャ脳」をもつ時代の競争力とは。半導体をめぐる米中テクノ冷戦、そして米中分断のゆくえは……。
日経を代表するコメンテーターや編集委員が、様々な切り口で2025年を先取りします。日本と世界の見え方が変わる1冊です。
急進化するテクノロジーを抜きにして、これからの社会や産業を語ることはできません。『 日経テクノロジー展望2025 世界を変える100の技術 』は、日経BPの専門誌編集長、ラボ所長50人が、これからの成長が期待できる100の技術を厳選して紹介します。
本書で掲載されているビジネスパーソン約600人による「2030年のテクノロジー期待度ランキング」を見ると、1位が完全自動運転、2位が介護ロボット、3位が産業メタバース、4位が核融合、5位が建設ロボットとなっています。この他にもアルツハイマー病の治療薬として期待されるレカネマブ、折り曲げ可能なペロブスカイト太陽電池、AIで作った偽の音声や映像を探知するディープフェイク対策など、今後主役となるであろう技術をビジュアルに解説します。
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トップコンサルはここを見ている
翌年の経営・ビジネスを考えるために重要な変化を、世界有数の戦略コンサルファームであるボストン コンサルティング グループのコンサルタントたちが解説する、好評書籍の最新版が『 BCGが読む経営の論点2025 』です。
中核産業である半導体において、日本はかつての輝きを取り戻し、世界での存在感を示せるのか。生成AIからより高い効果を引き出すために何をすべきか。2040年まで続く自動車産業の構造変化、そのシナリオはどのようなものか。2025年も続く物流問題に対処するために、日本企業は何をすべきなのか。値上げが一巡した今こそ必要なプライシング能力とはどのようなものか。
今後10年の持続的な成長を実現するために、ビジネスリーダーが2025年から考えておくべき課題を、グローバルの知見を踏まえて提示します。
同じくグローバルに展開する戦略コンサルティングファームのA.T.カーニーのコンサルタントたちが、産業ごとに重要な経営課題を解説するのが『 A.T. カーニー 業界別 経営アジェンダ 2025 』です。
自動車、エネルギー、防衛、生成AI、量子コンピュータ、銀行、不動産、メディア・コンテンツ、小売など15の業界について、データを用いながら分析。それぞれの産業で日本企業がとるべき戦略や経営課題を提示します。
さらに、各業界を横断するテーマとして、企業価値向上、M&A、サプライチェーン、サステナビリティの4つを取り上げています。いずれのテーマについても、先端動向を分析しながら、経営層が考えておくべき論点を明らかにしていきます。競合他社に先んじるために欠かせない1冊です。
■もっと知りたい>>『A.T. カーニー 業界別 経営アジェンダ 2025』関連記事
世界経済と相場のこれから
2024年、新NISA (少額投資非課税制度)のスタートで盛り上がりを見せた日本の株式市場は、その後乱高下に見舞われました。日経平均株価がついにバブルを超え、3月に4万円という史上最高値を突破。かと思うと、7月末の日銀の追加利上げを受けた「植田(日銀総裁)ショック」、9月末の自民党総裁選の結果を受けた「石破ショック」という2度の急落にも見舞われています。
先日の米大統領選挙の結果を受けて、相場はどう動くのか。金利上昇や為替の動きはどれくらいのインパクトなのか。『 株式投資2025 波乱必至のマーケットを緊急点検(日経プレミアシリーズ) 』では、株式市場の世界を40年にわたって取材してきたベテラン記者が、マーケットで起きている地殻変動を解説します。等身大の金融・資本市場を理解し、資産形成を行うために必読の1冊です。
日本経済の先行きを考えるうえで、世界経済の動向を理解することは欠かせません。ただ、その背景を理解し、どのような影響があるのかを読み解くのは、一筋縄ではいきません。『 この一冊でわかる世界経済の新常識2025 』は、大和総研のエコノミストたちが世界経済を理解するための基礎知識を分かりやすく解説。そうした知識を基にして、世界と日本のこれからを様々な角度から分析します。
米新政権発足で風向きは変わるのか。欧州や中国に潜む経済リスクとは。世界経済全体が「流動化」するなかで、何に警戒すべきなのか。新興国の成長は加速するのか。これからの日本経済の姿とは。こうしたビジネスパーソンが押さえておくべきポイントを網羅します。
不安定化する世界を読み解く
けんすう(古川健介)さんが「ここ数年で読んだ『未来予測系』の本で一番おもしろかった」と絶賛してくださったのが『 2050年の世界 見えない未来の考え方 』。英経済紙のコメンテーター、ヘイミシュ・マクレイ氏が、30年後の日本と世界について、ファクトに基づいて大胆で前向きなシナリオを描きます。
「人口動態」「資源と環境」「貿易と金融」「テクノロジーの進化」「政府・統治の変化」という、世界を変える5つの大きな力について分かりやすく解説。さらにアメリカ、ドイツ、中国、インド、アフリカなど、国や地域別に何が起こるかを予見します。未来予測というととかく日本にとってネガティブなものになりがちですが、本書はこれからの時代を生きる若い人たちにポジティブなメッセージを送ってくれます。
続いて、足元の世界情勢を理解するための1冊です。『 アフター2024 米中最後の攻防 』は日本経済新聞ワシントン支局長の大越匡洋氏と中国総局長の桃井裕理氏が、米中の今を切り取ります。「往復書簡」形式で、お互いに米国・中国からのリポートをやり取りしたユニークな構成です。2023年末刊行の書籍ですが、現地特派員がその目と足でじかに得た情報は非常に貴重です。
米国の分断はなぜ起こり、何度も罪に問われたトランプ氏を熱狂的に支持する層は何を求めているのか。2027年とも噂される台湾有事はあるのか。「老いる中国」で今、何が起きているのか。3期目の習近平政権は、中国内ではどう受け止められているのか。様々な視点から、米中対立の姿を立体的に描き出します。
テクノロジーの光と影
2024年のノーベル物理学賞、化学賞は、いずれも生成AIが深く関わるものでした。その影響力の広がりは、多くの人々に驚きをもって迎えられました。物理学賞を受賞したジェフリー・ヒントン氏とともにグーグルのAI研究に携わったムスタファ・スレイマン氏が、テクノロジーの急進展に警鐘を鳴らすのが『 THE COMING WAVE AIを封じ込めよ DeepMind創業者の警告 』です。
AI、ロボット工学、合成生物学、核融合、量子コンピュータ、DNAプリンター、自律型致死兵器、人工ウイルス。こうした革新的なテクノロジーが組み合わさると、開発者でも予想しなかった大惨事を引き起こすと警告します。人類がこうしたテクノロジーの「封じ込め」を実現するために今、何をしなければならないのか提言します。
なお、本書からの抜粋記事「ノーベル賞を受賞したAI研究は、世界を飲み込みつつある」「ノーベル賞受賞のAlphaFold2は、合成生命の時代を切り開いた」も、多くの方に読まれました。
■もっと知りたい>>『THE COMING WAVE AIを封じ込めよ DeepMind創業者の警告』関連記事
同様にテクノロジーの光と影を描き出すのが『 テクノ新世 技術は神を超えるか 』。日本経済新聞の好評連載をまとめたものです。クローン技術が亡くなったペットとの再会を可能にし、ロボットは人手不足を解消してくれます。一方、進化するテクノロジーは仕事を奪い、生態系を変え、気候崩壊を導き、ロボット兵器やサイバー攻撃の道具を生み出します。
本書では、日経記者による現場取材と世界的知性へのインタビューから、テクノロジーの今とこれからを描き出します。円城塔さん、津村記久子さんという2人の人気作家によるコラボ短編小説も収録。「人新世」ならぬ「テクノ新世」の先に何があるのか。未来の社会を読み解くために必須の1冊です。
分からないことはすぐに検索でき、好きなコンテンツをいつでもダウンロードできる。どこにいてもほしい商品をネットで購入し、売ることもできる。一見快適な「インターネット革命」の進行に身を任せるうちに、いつのまにか人類は、ネット企業にデータや利益を一方的に吸い上げられる原材料と化している。こうした巧妙な支配の仕組みを、一流の経営学者が解き明かすのが『 原材料化する人類 ネットビジネス支配のカラクリ 』です。
我々は自ら進んで、そして知らないうちにIT事業者にリソースを提供する「幸せな原材料階級」になりかねない、という指摘には、思わず背筋が寒くなります。フィルターバブル、エコーチェンバー、脳内に直接アクセスするかのような認知戦など、今起こっている問題の本質を丁寧に描き出します。これからの時代を生きる我々にとって、見過ごすことのできない警告の書です。
『これからの日本の論点』の執筆者の1人である日経の秋田浩之コメンテーターは、今の世界は第2次世界大戦直前の1939年ごろの状況に似た不穏な状況となっている、と語っています。何が起こってもおかしくない時代だからこそ、ここでご紹介した「予測本」を通じて自分なりの見通しを立てる力を養ってください。