自分の親との関係を見つめ直すことの必要性を丁寧に説き、世界200万部のベストセラーとなった『子どもとの関係が変わる自分の親に読んでほしかった本』(フィリッパ・ペリー著/高山真由美訳/日本経済新聞出版)は、現代の新しい育児書として、世界中の親たちの共感を呼んでいます。今回は、子どもの言動が引き金となって生じる親の怒りや不安の原因と、そうした感情への正しい向き合い方について、同書の抜粋・再構成を基に考えます。

自分はどのように育てられたのか

 子どもが必要とするものを挙げてみましょう。温情、受容、身体的な接触、あなたが側にいること、限りない愛情、理解、様々な年代の人々と遊ぶこと、ほっとする体験、そしてあなたからの多大な関心と、あなたの時間をたくさん。なんだ、それを与えればいいなら簡単だ、と思うでしょうか?

 ところがそうはいきません。必ず邪魔が入るからです。環境、児童保護、金銭、学校、仕事、多忙で時間が足りないことなど、あなたの人生に邪魔になる要因があるかもしれません。

 しかし、今挙げた何よりも邪魔になるものがあります。それは私たち自身が子どもの頃に与えられた体験です。自分がどのように育てられたか、自分が何を受け継いだかをきちんと見つめないと、過去が私たちを攻撃します。

 ふと、こんな台詞(せりふ)を口にしたことはないでしょうか。「やだ、昔、母さんが言ってたのと同じことを言っちゃった」。もちろん、それで子どもが、求められ、愛され、安全に守られていると感じられる言葉ならかまいません。しかしたいていは、その逆です。

 とりわけ邪魔になるのは、子どもへのいら立ち、子どもへの期待、子どもについての不安です。私たちは所詮、何千年も昔から連綿と続く鎖のなかの1つの輪にすぎないのです。

 しかし、あなたは自分の「輪」の形をつくり直すことができます。そうすることで、あなたの子どもやそのまた子どもの人生がより良いものになります。これは今すぐ始められます。自分が教えられてきたことを全部伝える必要はありません。役に立たなかったことは捨てればいいのです。

自分がどのように育てられたか、自分が何を受け継いだかをきちんと見つめないと、過去が私たちを攻撃します(maxximmm/stock.adobe.com)
自分がどのように育てられたか、自分が何を受け継いだかをきちんと見つめないと、過去が私たちを攻撃します(maxximmm/stock.adobe.com)
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 あなたが親であるなら、あるいはこれから親になろうとしているなら、自分の子ども時代を詰め込んだ箱を開いて、その中身をよく知っておきましょう。自分にどんなことがあったか、当時それをどう感じたか、今はそれをどう感じているか、分析するのです。その荷ほどきが終わり、中身を全部じっくり吟味したあとは、必要なものだけを箱に戻します。

 あなたが成長してきた過程で家族と実りある関係が築けているなら、前向きな関係をつくり出す未来の設計図をすでに手にしているも同然です。それを使って、今度はあなたが家族や社会に対してプラスの貢献をする番です。そういう人なら、自分の子ども時代を検証するのもそんなにつらくはないでしょう。

 そうでない人は、子どもの頃を振り返ったときに、不快に思うかもしれません。しかしその不快感をきちんと自覚する必要があるのです。無意識のうちに同じものを子どもに手渡してしまわないために。

 私たちが受け取ってきたものの多くは、実は意識の外にあります。そのせいで、子どもの行動への反応が単に今ここで起こっているものなのか、それとも自分自身の過去に根差しているものなのか、分かりづらいことがあります。

感情的にタイムスリップすることも

 テイから聞いた話が私の言いたいことをうまく説明しています。
 テイは愛情たっぷりの母親で、心理療法士の教育を担当する上級心理療法士です。彼女の2つの役割をあえて紹介するのは、物事をきちんと自覚できる善意ある人でも、感情的にタイムスリップすることがあると示したかったからです。

 気がつけば、今ここで起こっている物事ではなく、自分自身の過去に反応していたということは誰にでもあるのです。この逸話は、もうすぐ7歳になるテイの娘のエミリーが公園でジャングルジムに上って身動きが取れなくなり、助けてくれなきゃ降りられないと母親のテイに向かって叫んだところから始まります。

***

 私が娘に下りなさいと言って、娘ができないと答えると、突然猛烈に腹が立ちました。娘はふざけているだけで、本当は1人で簡単に下りられると思ったのです。そこで私は「今すぐ下りなさい!」と怒鳴りました。結局、娘は1人で下りました。それから私と手をつなごうとしてきたのですが、私はまだ腹が立っていたので拒絶し、娘は大泣きしました。

 帰宅して一緒にくつろいでいると、娘も落ち着き、私は先ほどの出来事を「まったく、子どもというのはひどく厄介になることもあるものだ」といった調子で書き留めました。

 1週間後、私たちは動物園に出かけ、そこにもジャングルジムがありました。それを見ると、私は少し罪悪感を覚えました。娘のほうも明らかに先週の出来事を思い出したようで、恐る恐る私のほうを見上げています。

 私は娘に「これで遊びたいの?」と尋ねました。今度はベンチに座ってスマホをいじるのではなく、ジャングルジムの側に立って娘を見ていました。娘はしばらく上って行き詰まると、助けを求めて手を差し伸べてきました。私は前回よりも励ますような言葉を口にしました。「足をそこに乗せて、反対の足をそっちに乗せて。それであそこをつかめば、1人でできるでしょう」

 実際、できました。地面に降り立つと、娘は「どうして前のときはそうやって助けてくれなかったの?」と言いました。

娘は「どうして前のときはそうやって助けてくれなかったの?」と言いました(ziggy/stock.adobe.com)
娘は「どうして前のときはそうやって助けてくれなかったの?」と言いました(ziggy/stock.adobe.com)
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 私は考えてからこう答えました。「私が小さかったとき、おばあちゃんは私を絶対に1人で歩かせなかったし、いつも“気をつけて”とばかり言っていた。そのせいで私は1人じゃなんにもできないんだって思ったし、結局、ぜんぜん自信のない子になった。同じことがあなたに起こってほしくないと思って、だから先週ジャングルジムから下ろしてって頼まれたとき、助けたくなかったのよ。私があなたの年だったとき、自力で下りるのを許されなかったことを思い出したの。それで怒りが湧いてきて、あなたに八つ当たりしちゃった」

 娘は私を見上げてこう言いました。「そうだったんだ、ママはあたしのことなんて、どうでもいいのかと思った」

 「まさか、そんなわけないでしょう。だけどあのときは、自分が腹を立てている相手があなたじゃなくておばあちゃんなんだって、分からなかったの。ごめんね」

***

子どもがしたことに怒りが湧いてきたら

 テイのように、感情的な反応の引き金は、今目の前で起こっている物事だけでなく、自分の過去のなかにもあると考えるべきなのです。そうしないと、反射的な判断や思い込みの罠(わな)に簡単にはまりこんでしまいます。

 子どもがしたことや要求してきたことに対して怒りを感じたら、あるいは恨み、不満、嫉妬、嫌悪、混乱、いら立ち、恐怖、不安などの厄介な感情が湧いてきたら、それを警告と捉えるといいでしょう。子どもが悪いことをしているという警告ではなく、あなた自身のスイッチが押されたという警告です。

 子どもにまつわることであなたが怒りを感じたり、過度に感情的なほかの反応が起こったりするのは、自分が子どもと同じ年齢だったときに抱いた感情から自分を守るための手段だからです。

 私たちは、子どもの行動が過去の自分の失望、憧れ、孤独、嫉妬、欲求の引き金となるのを無意識のうちに恐れてしまう結果、子どもの感情に寄り添うのではなく、怒ったり、ストレスをためたり、パニックに陥ったりしてしまうのです。

世界46カ国200万部のベストセラー

「心を揺さぶられた」「涙なしで読めない」「子育て全般が変わった」……。世界中から共感の声、続々! 自分の親との関係を見つめ直し、感情を受け止めれば見えてくる子どもが幸せになるための心がけ。

フィリッパ・ペリー著/高山真由美訳/日本経済新聞出版/2420円(税込み)