多様性という言葉を耳にする機会は、この数十年で格段に増えた。「ダイバーシティ&インクルージョン」などの標語が企業や教育現場で掲げられ、違いを尊重し合う社会の重要性が語られている。しかし、その「多様性」とは一体何を意味しているのだろうか。私はここで、多様性という概念を「大きい多様性」と「小さい多様性」の二つに分けて考えてみたい。 「大きい多様性」とは、人種、性別、母国、母語、宗教など、視覚的・制度的に明確な違いを指す。つまり、集団を構成する属性が多様であることを意味している。一方で、「小さい多様性」とは、同じ属性の中にある微細な違い——性格、認知の仕方、感情の傾向、身体的特徴のばらつきといった、目には見えにくい差異のことを指す。 多くの場面で「多様性」が語られるとき、その焦点は往々にして「大きい多様性」に当てられる。これはある意味で当然とも言える。制度的な排除や偏見にさらされてきた人々を守る