「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
SOTC719
レッド・ラギッド・ロード 20
ラモンの話、第20話。
ライアン時代のトラウマ。
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20.
天狐の唐突な依頼に対し、ラモンの口から出てきたのは――。
「嫌です」
自分でも耳を疑うような、否定の言葉だった。そして天狐にとってもこのラモンの反応は意外だったらしく、彼女の薄い三白眼が、珍しく大きめに開く。
「なんでだ? 何が気にいらない? 報酬はもちろん払うぜ? まず勝敗に関わらず前金で500万エル、実際に勝てば獲得した賞金と賭金の50%だ。破格も破格、大破格の条件だぜ」
「報酬は確かに喉から手が出るくらい美味しいとは思いますが、でもレースだけは絶対に絶対に絶対に嫌です」
折角の依頼を、ラモンは自分でも不思議に思うほど、激しく拒絶した。
「お前さん、元レーサーだかラリーストだっつってたじゃねーか。まさかフカしてたんじゃねーだろーな?」
「う、ウソじゃないです。……いやもうウソでいいです。僕はパチモノラリーストですよ」
「そんな言い方するヤツがウソなワケあるかよ。レースにトラウマでもあんのか?」
「そう思ってくれていいですから、もうこの話終わりで」
きびすを返しかけたラモンの手をつかみ、天狐は「終わってねーよ」と続けた。
「なんでソコまで嫌がる? レース関係で嫌な目に遭ったのか?」
「そんなとこです」
「聞かせろ」
ずけずけと迫ってくる天狐に、ラモンはたじたじになりながらも答える。
「競技中にちょっと、事故やっちゃいまして」
「ラリーなんだからクルマ吹っ飛んだり突っ込んだりは日常茶飯事だろ。クルマもドライバーも完璧に潰れるくらいか?」
「いやまあ、事故自体はそれほどじゃなかったんですよ。僕もコドラも無事でしたし。ただ、そのせいで入賞逃しちゃって、『お前のせいだ』ってことでボコボコにされまして」
「そりゃひでー話だな。だがお前さん、今でも腕利きって話だろ? だのに全責任負わされても仕方ねーってくらいの下手打ったってのか?」
「……正直言うと半分くらい、いや、8割くらいは責任転嫁だろって思ってますね」
長年心の中で渦巻いていた思いを――これだけ詰め寄られたからか、それとも聞いてくれる人間がようやく現れたからか――ここに至ってようやく、ラモンは打ち明けた。
「監督、マジで殺す気だったみたいです」
ラモンは帽子を脱ぎ、天狐に頭の傷跡を見せた。
「確かにコレは殺す気満々だな。入院モノだろ。よく生きてたな」
「ええ。で、僕が気を失った後、騒ぎに気付いた人が通報したらしくて、監督は殺人未遂で現行犯逮捕。僕は結局、半年近く入院しました。生きてるのが奇跡だって言われました。それで病院から……」
そこまで説明して、ラモンの脳裏に弟クルトの、自分を憎々しげに罵倒し、家から追い出した時に浮かべていた形相が浮かんだが――。
「……帰ってきたところで、監督の家族から疫病神だとか死神だとか、目一杯罵られましたし、街から追い出されましたよ。死にそうな目に遭ったのは僕だってのに」
どうしても家族を罵る気にはなれず、ラモンはほんの少し、事実を曲げて伝えた。
「だから僕は、もうレースなんか関わってやるもんかって誓ったんですよ。この傷にかけて」
「なるほどな。……そんなら今回の話は、トラウマ払拭のいい機会だと思うぜ」
天狐はニヤッと笑い、こう言い放った。
「オレが関わる話だ。である以上、最大限のサポートは約束する。その代わり『カネがなくて』だの『時間がなくて』だの、言い訳できる余地は一つだって残さねー。そうしてマジで自分一人だけに全責任があるって状況に置かれたお前さんが掛け値なし、100%、全身全霊の実力発揮して――ソレでどんな結果が出せるのか。いっぺん試してみてーとは思わねーか?」
「……!」
あまりにも自信たっぷりな天狐の言葉に、ラモンの心が揺れた。
「僕の……僕の全力で……か」
「誰にも言い訳させねーしお前さんも言い訳できねー。その上で、本当にお前さんがやれると思うなら請けろ。無理だと思うんなら、もうこの話はおしまいでいい」
この言葉に、今まで散々逃げ口上を重ね、あらゆるチャンスに言い訳を立て並べてあきらめてきたラモンは、逡巡する。
(ずっと思ってたことじゃないか。クルマがまともなら、チームがまともならって、何度も思ってた。だけどそれが実現不可能だと思ってたから、あきらめてた。……でも相手がテンコちゃんだぞ? この人がすごいクルマ用意するって言ったら、マジで用意して見せるだろう。テンコちゃんの用意するスタッフなら、意味不明にキレて暴れたりするような人間でもないはずだ。願ってた通りじゃないか。
そこまでお膳立てされて、まだ僕は断ろうとするのか? なんでだよ? ここまで言われて断ったら、もうそれ、僕に不安要素があるって言ってるようなもんじゃないか。……あってたまるかよ。僕には不安要素なんか無い。無いと証明してやる)
この瞬間、ラモンの決意は固まった。
「……そんなこと言われて、請けないわけないじゃないですか。不肖ラモン・ミリアン、あんたの依頼をお請けします」
「よろしくな」
二人はがっちりと握手を交わし、契約が成立された。
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天狐の唐突な依頼に対し、ラモンの口から出てきたのは――。
「嫌です」
自分でも耳を疑うような、否定の言葉だった。そして天狐にとってもこのラモンの反応は意外だったらしく、彼女の薄い三白眼が、珍しく大きめに開く。
「なんでだ? 何が気にいらない? 報酬はもちろん払うぜ? まず勝敗に関わらず前金で500万エル、実際に勝てば獲得した賞金と賭金の50%だ。破格も破格、大破格の条件だぜ」
「報酬は確かに喉から手が出るくらい美味しいとは思いますが、でもレースだけは絶対に絶対に絶対に嫌です」
折角の依頼を、ラモンは自分でも不思議に思うほど、激しく拒絶した。
「お前さん、元レーサーだかラリーストだっつってたじゃねーか。まさかフカしてたんじゃねーだろーな?」
「う、ウソじゃないです。……いやもうウソでいいです。僕はパチモノラリーストですよ」
「そんな言い方するヤツがウソなワケあるかよ。レースにトラウマでもあんのか?」
「そう思ってくれていいですから、もうこの話終わりで」
きびすを返しかけたラモンの手をつかみ、天狐は「終わってねーよ」と続けた。
「なんでソコまで嫌がる? レース関係で嫌な目に遭ったのか?」
「そんなとこです」
「聞かせろ」
ずけずけと迫ってくる天狐に、ラモンはたじたじになりながらも答える。
「競技中にちょっと、事故やっちゃいまして」
「ラリーなんだからクルマ吹っ飛んだり突っ込んだりは日常茶飯事だろ。クルマもドライバーも完璧に潰れるくらいか?」
「いやまあ、事故自体はそれほどじゃなかったんですよ。僕もコドラも無事でしたし。ただ、そのせいで入賞逃しちゃって、『お前のせいだ』ってことでボコボコにされまして」
「そりゃひでー話だな。だがお前さん、今でも腕利きって話だろ? だのに全責任負わされても仕方ねーってくらいの下手打ったってのか?」
「……正直言うと半分くらい、いや、8割くらいは責任転嫁だろって思ってますね」
長年心の中で渦巻いていた思いを――これだけ詰め寄られたからか、それとも聞いてくれる人間がようやく現れたからか――ここに至ってようやく、ラモンは打ち明けた。
「監督、マジで殺す気だったみたいです」
ラモンは帽子を脱ぎ、天狐に頭の傷跡を見せた。
「確かにコレは殺す気満々だな。入院モノだろ。よく生きてたな」
「ええ。で、僕が気を失った後、騒ぎに気付いた人が通報したらしくて、監督は殺人未遂で現行犯逮捕。僕は結局、半年近く入院しました。生きてるのが奇跡だって言われました。それで病院から……」
そこまで説明して、ラモンの脳裏に弟クルトの、自分を憎々しげに罵倒し、家から追い出した時に浮かべていた形相が浮かんだが――。
「……帰ってきたところで、監督の家族から疫病神だとか死神だとか、目一杯罵られましたし、街から追い出されましたよ。死にそうな目に遭ったのは僕だってのに」
どうしても家族を罵る気にはなれず、ラモンはほんの少し、事実を曲げて伝えた。
「だから僕は、もうレースなんか関わってやるもんかって誓ったんですよ。この傷にかけて」
「なるほどな。……そんなら今回の話は、トラウマ払拭のいい機会だと思うぜ」
天狐はニヤッと笑い、こう言い放った。
「オレが関わる話だ。である以上、最大限のサポートは約束する。その代わり『カネがなくて』だの『時間がなくて』だの、言い訳できる余地は一つだって残さねー。そうしてマジで自分一人だけに全責任があるって状況に置かれたお前さんが掛け値なし、100%、全身全霊の実力発揮して――ソレでどんな結果が出せるのか。いっぺん試してみてーとは思わねーか?」
「……!」
あまりにも自信たっぷりな天狐の言葉に、ラモンの心が揺れた。
「僕の……僕の全力で……か」
「誰にも言い訳させねーしお前さんも言い訳できねー。その上で、本当にお前さんがやれると思うなら請けろ。無理だと思うんなら、もうこの話はおしまいでいい」
この言葉に、今まで散々逃げ口上を重ね、あらゆるチャンスに言い訳を立て並べてあきらめてきたラモンは、逡巡する。
(ずっと思ってたことじゃないか。クルマがまともなら、チームがまともならって、何度も思ってた。だけどそれが実現不可能だと思ってたから、あきらめてた。……でも相手がテンコちゃんだぞ? この人がすごいクルマ用意するって言ったら、マジで用意して見せるだろう。テンコちゃんの用意するスタッフなら、意味不明にキレて暴れたりするような人間でもないはずだ。願ってた通りじゃないか。
そこまでお膳立てされて、まだ僕は断ろうとするのか? なんでだよ? ここまで言われて断ったら、もうそれ、僕に不安要素があるって言ってるようなもんじゃないか。……あってたまるかよ。僕には不安要素なんか無い。無いと証明してやる)
この瞬間、ラモンの決意は固まった。
「……そんなこと言われて、請けないわけないじゃないですか。不肖ラモン・ミリアン、あんたの依頼をお請けします」
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